本研究では化成肥料のみを,また,牛ふん堆肥あるいは豚ぷん堆肥のみを2段階量(標準量およびその3倍量(以下,多量)),15年間(29回)連用した近畿中国四国農業研究センターの畑土壌中のカリウム,マンガン,鉄,銅および亜鉛について,全量濃度をフッ化水素酸分解法,存在形態を定本ら(1994)の逐次抽出法を用いて測定した.また,0.1M塩酸抽出法がどのような存在形態のものを抽出しているかを明らかにした.(1)化成標準量区に比較した全量濃度について,もともと土壌中に多量に含まれるカリウム,鉄は家畜ふん堆肥施用によっても殆ど変わらず,マンガンは高まる傾向を示した.銅は牛ふん堆肥では大きな変化はないが,豚ぷん堆肥で高まり,特に多量区は顕著であった.亜鉛は牛ふん堆肥標準量区では大きな変化がなかったが,牛ふん堆肥多量区と豚ぷん堆肥の両施用量区では顕著に高くなり,特に,豚ぷん堆肥多量区では200mg kg^<-1>を越えた.(2)存在形態について,化成標準量区のカリウムは大部分が結晶態であり,交換態(水溶態を含む),無機態,有機態,吸蔵態はきわめて少ない.しかし,家畜ふん堆肥区では化成標準量区に比べて結晶態以外の4つの形態の割合が高くなった.マンガンはカリウムや鉄に比べて有機態の割合が吸蔵態や結晶態と同等に多いという特徴がみられた.化成標準量区と比較して,家畜ふん堆肥区では交換態の割合が顕著に低く,無機態の割合が大きく,牛ふん堆肥区では吸蔵態の,また,牛ふん堆肥多量区と豚ぷん堆肥区では結晶態の割合が低かった.鉄は吸蔵態と結晶態が大部分を占め交換態,無機態,有機態を合わせても0.3%以下であった.そのわずかな部分で化成標準量区に比べ,家畜ふん堆肥区では交換態および無機態の割合が低く,有機態の割合が高かった.また,牛ふん堆肥標準量区では吸蔵態の割合が低かった.銅は家畜ふん堆肥を施用していない土壌では吸蔵態,結晶態が多くを占め,交換態,無機態および有機態を合わせても8.7%であった.家畜ふん堆肥施用区では化成標準量区に比較し有機態の割合が大きく,交換態や無機態の割合が小さかった.亜鉛は結晶態の割合が銅と同様に最も大きいが,銅に比べて吸蔵態や有機態の割合が小さかった.家畜ふん堆肥の施用区では化成標準量区に比べて無機態の割合が顕著に大きく,銅における無機態の割合の高くないことと対照的であった.(3)0.1M塩酸抽出量と存在形態別濃度の量的比較では化成標準量区のカリウムは希塩酸ではわずかに1.6%しか抽出されなかったが,家畜ふん堆肥施用区ではこの割合が大きかった.また,どの処理区においても希塩酸は交換態,無機態に相当する量を抽出できたが,有機態に相当する部分は抽出しなかった.マンガンは希塩酸によって6.6%が抽出され,牛ふん堆肥多量区では18.8%と高いが,有機態の部分は抽出されず交換態と無機態に相当する量が抽出された.鉄は化成標準量区で全体の0.30%のみが希塩酸に抽出された.抽出される量はわずかであったが,それでも牛ふん堆肥多量区をのぞき交換態,無機態,有機態の合量以上に相当した.銅は化成標準量区や牛ふん堆肥標準量区では交換態,無機態および有機態の合量に相当する部分が希塩酸で抽出されたが,家畜ふん堆肥の施用により有機態の割合が高まった牛ふん堆肥多量区および豚ぷん堆肥区の土壌では有機態の部分は一部しか抽出されなかった.亜鉛も銅と同様に化成標準量区では希塩酸による抽出率は低かったが,家畜ふん堆肥区での,より亜鉛濃度の高くなった土壌では希塩酸で抽出されやすく,豚ぷん堆肥多量区では全亜鉛の37.7%が抽出された.また,家畜ふん堆肥施用区の亜鉛は交換態,無機態,有機態の合量を上回る量が希塩酸で抽出され,銅とは対照的であった.
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