農耕地土壌の窒素形態について評価することは,農業および環境両面で重要な役割を持つ窒素の挙動を理解する上で極めて有用である.そこで本研究では,日本で長年実施されてきた連用試験の水田土壌に対して窒素の形態別定量法を適用し,土壌窒素形態に及ぼす施肥管理の長期的影響を明らかにすることを目的とした.京都府農業総合研究所(現京都府農林水産技術センター農林センター,亀岡市)において,1975年以来連用試験を続けている水田圃場より,2008年4月に表層土を採取した.土壌は低地水田土で処理区は無窒素区(K1)・化学肥料区(K2)・稲わら区(K3)・稲わらケイカル区(K4)・牛糞区(K5)の5処理であった.各試料(風乾土)に対し,全窒素は乾式燃焼法で,無機可溶態は2MKCl抽出法で,有機可給態は長期培養法(圃場容水量,30℃で最大14週間)で,無機固定態はSilva and Bremner法により求め,有機安定態は全窒素より先の3形態を差引いて求めた.全窒素量はK1からK5でそれぞれ1.32, 1.45, 1.71, 1.92, 3.57g kg^<-1>であり,有機物施用により顕著に高まった.形態別では,無機可溶態は3.4〜5.4mg kg^<-1>(全窒素の0.2%)で処理の影響は見られなかった.有機可給態はK1からK5でそれぞれ55.7, 68.0, 87.4, 83.8, 163.3mg kg^<-1>(同4.2〜5.1%)となり,化学肥料・有機物いずれの効果も確認された.また,1/15Mリン酸緩衝抽出液の有機態窒素および420nmでの吸光度と本法の有機可給態窒素に,有意な正の相関が認められた.一方,無機固定態はK1からK5でそれぞれ96.6, 93.8, 111.2, 105.0, 111.2mg kg^<-1>(同3.1〜7.3%)となり,有機物施用に伴う粘土鉱物中の固定態Nの増加が認められた.以上の結果,形態別定量法によって,施肥管理の土壌窒素への各種影響を適切に評価できることが示された.さらに,水田における窒素収支を処理区ごとに算出すると,K1からK5で-67〜222kg-N ha^<-1>y^<-1>となり,土壌窒素の増減および有機可給態窒素の現状とかなりよい対応を示した.
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