本研究ではコムギ・ダイズを組み入れた3か年の田畑輪換体系(コムギ・ダイズ–水稲–水稲の3年4作)を通して,水稲では中干し期間の延長,コムギ・ダイズでは被覆肥料の活用の緩和策による温室効果ガス排出量削減効果を評価した.
その結果,調査3か年の田畑輪換体系を通したCO2eq積算排出量を,緩和策の導入により,慣行と同水準の収量を確保しつつ,有意に削減できた.調査3か年のCO2eq積算排出量の削減率は30~50%の範囲にあり,平均36%であった.
田畑輪換体系のダイズ跡水稲作(復元田1年目)および次作水稲作(復元田2年目)では,中干し期間の1週間延長(中干し期間:2週間以上)により,中干し後のCH4フラックスのピーク上昇が2か年ともに抑制された.特にダイズ跡水稲作では,中干し期間の延長により,CH4積算排出量が慣行より有意に少なくなった.
また,コムギ・ダイズ作での被覆肥料の活用により,基肥施用直後の顕著なN2Oフラックスのピーク上昇が抑制され,N2O積算排出量は慣行より有意に少なくなった.
沖縄県で基幹作物として栽培されているサトウキビは,イネ科植物の有用元素であるケイ素(Si)の適切な管理による生育や収量の向上が期待される.しかし,沖縄県に存在する多様な土壌のケイ酸可給度に関する知見は未だ限られている.そこで本研究では,沖縄県全域の土壌試料の可給態ケイ酸を定量評価するとともに,その規定要因を解明することを目的とした.
沖縄県全域のサトウキビ畑の表層土合計120点(国頭マージ35点,島尻マージ50点,ジャーガル25点,大東マージ10点)を供試した.可給態ケイ酸は,pH 6.2リン酸緩衝液法で抽出し,塩酸モリブデン酸法により測定した.また,pH, 有機炭素,DCBおよび酸性シュウ酸塩溶解法によるFe, Al, Si濃度などを測定した.
沖縄県の主要な4種類の土壌試料の可給態ケイ酸の平均値(mg SiO2 kg−1)は,ジャーガル584>島尻マージ398>大東マージ263>国頭マージ148の順となり,国頭マージと大東マージを中心に沖縄県全体の約半分の土壌がケイ酸欠乏であると推測された.また,可給態ケイ酸は,pH, 非晶質遊離酸化鉄,有機炭素などと有意な正の,砂含量と有意な負の相関を示した(p<0.01).さらに,可給態ケイ酸を目的変数,上記理化学性を説明変数として重回帰分析を行ったところ,pHと非晶質鉄酸化物および有機炭素によって全変動の78%を説明できた.
北海道におけるホールクロップサイレージ用トウモロコシに対して,各圃場の収量水準と土壌の窒素肥沃度から判定される窒素施肥量の推奨値を検討するため,気象条件や土壌型が異なる道内4地域で実施された栽培試験の結果を解析した.
乾物収量や窒素吸収量に地域間差が認められたが,乾物収量あたりの窒素吸収量に地域間差は認められなかったことから,地域によらず収量水準に対応した目標窒素吸収量を設定できると判断した.また,土壌の窒素肥沃度評価指標として熱水抽出性窒素の適用が可能と考えられた.
各処理区の窒素吸収量を目的変数とした重回帰分析の結果,総窒素施肥量および熱水抽出性窒素含量の2要因を説明変数とした場合の予測精度は低かったが,各圃場のポテンシャル収量(窒素用量試験での最大乾物収量)を説明変数に加えることで予測精度は向上した.これは,施肥窒素利用率が窒素以外の要因で制限される収量水準の影響を受けることが理由と考えられた.各処理区の乾物収量は,上記の重回帰式から求めた窒素吸収量を説明変数とする一次回帰式で表すことができた.これら2式に,任意の乾物収量(目標収量)および熱水抽出性窒素含量を代入することにより総窒素施肥量を算出することができる.
以上,各圃場で達成可能な収量水準の設定と土壌の熱水抽出性窒素含量を評価することにより,トウモロコシ栽培における窒素施肥の適正化を推進することができる.
食料生産~消費過程(フードチェーン)における環境中への反応性窒素(Nr)排出削減対策は,生産者対象の窒素利用効率(NUE)向上やNr再利用だけでなく,消費者の食生活改善も併せて総合的に進める必要がある.1960~2015年を対象に,国の統計値等に基づき,日本の消費者の食べ過ぎNr, 食品ロスNr, 排出Nr(食のNフットプリント)の実態及び削減可能量を示すと共に,2095年までの総人口減少,少子高齢化及び農地面積減少を考慮し,国連の持続可能な開発目標12に沿って食べ過ぎNr・食品ロスNr発生率を半減期15年とした場合の排出Nrと食料自給率(SSR)を予測した.食品ロスNrは,60年代に急増した食べ過ぎNrが最大かつ一定となった70年代後半から増大した.食生活改善策は,量的には食べ過ぎ・食品ロス削減が健康維持や環境保全(排出Nrを最大33%削減),食料安全保障(2050年の食料SSRが60%)に有効だが,実現には数十年以上かかること,質的には畜産物主体から70年頃の豆類・魚介類主体の食事への回帰が有効(排出Nrを19%削減)であり,量的・質的改善策の同時適用で排出Nrを最大46%削減可能と計算された.また,排出Nrの約40%は食料輸入元の国々で発生し,食料生産の海外依存度増加が結果的に低NUEの食料需給体系をもたらしていた.以上の知見をN循環の駆動力である消費者と共有することがNr排出削減のために最も重要である.
土層改良による排水性の改善がN2O発生に及ぼす影響を検討するため,局所的な排水不良地を有するコムギほ場の排水良好区域に排水良好区,排水不良区域に排水不良区の2試験区を設けて1年間調査した.コムギ収穫後,排水不良区にカットソイラを用いた土層改良を施して土層改良区とし,無処理の排水良好区と共に1年間調査した.土層改良前後でN2Oフラックス,深度0–20 cmのWFPSや硝酸態窒素を測定し,土層改良後のコムギ収量を調査した.土層改良前は,消雪直後や降雨後に排水不良区のWFPSが排水良好区と同等か,上回っていたのに対して,改良後は多雨時に土層改良区が排水良好区を下回った.さらに,土層改良区の収量は5.8 Mg ha−1と,排水良好区(6.0 Mg ha−1)と同水準だった.1作目の期間中,排水不良区のN2O発生量は3.70 kg N ha−1と,排水良好区(1.58 kg N ha−1)の2倍以上だった.一方,2作目の期間におけるN2O発生量は,排水良好区が1.17 kg N ha−1,土層改良区が1.33 kg N ha−1と,両区の差が10%程度に留まったため,土層改良によるN2O発生量の低減が示唆された.以上の結果から,今回施工した土層改良は土壌水分環境の改善に寄与したと推察された.また,土層改良前後におけるN2O発生量の低減は,排水性向上による脱窒抑制に起因すると考えられた.
粘土集積赤黄色土11断面,粘土集積石灰性暗赤色土5断面および粘土集積酸性暗赤色土4断面を用いて,WRB 2006およびWRB 2014のRSGへ読み替えを行ったところ,WRB 2006でAlisolsに分類された7断面のうち,2断面のBt層がEBS≧50%を示し,WRB 2014ではLuvisolsやLixisolsに移行した.また,6断面についてArgic horizonの基準の見直しやキーアウト順の変更に伴うRSG名の変更が生じた.既存データによる分類キーへの代替可能性については,y1と交換性Alの間に有意な正の相関関係が認められたことから,y1から交換性Alを推定し,ECECを算出できることが明らかとなった.また,pH(KCl)が4.4以上の場合,交換性Alをtraceあるいは0とみなしECECとEBSを算出可能であるが,pH(KCl)が4.4未満であれば,交換性Alを実測あるいは考慮する必要がある.さらに,BSとEBSの間に有意な正の相関関係が認められたことから,包括1次試案からWRB 2014への読み替えの際に利用できる可能性が示唆された.今後,y1と交換性Alの関係あるいはBSとEBSの関係について,データを集積し,わが国の粘土集積赤黄色土および類縁土壌への適用の可能性を検討する必要がある.