化学肥料の削減や土壌炭素の蓄積のために,堆肥の施用が奨励されている.土壌に施用された有機物の分解速度は,土壌中の無機成分との吸着形態に影響を受ける.そこで,堆肥の分解速度と土壌への吸着形態の関係を明らかにするために,以下の実験を行なった.日本の代表的な3 つの土壌(黄色土,灰色低地土,黒ボク土)に15N標識牛ふん堆肥を混合し,これをガラス繊維濾紙に包埋し,圃場に埋設した.埋設後,3種類の溶液(KCl溶液,リン酸緩衝液,NaOH 溶液)を用いて逐次抽出を行い,堆肥由来有機物の形態変化を3年間追跡した.その結果,KCl抽出性およびリン酸緩衝液抽出性の堆肥由来有機物は平均半減期2.2年で,NaOH 抽出残さは平均半減期5.3年で減少した.一方,NaOH 抽出性の堆肥由来有機物量は3土壌とも約0.25g-N kg−1程度であり,3年間抽出量が変化することが無かった.この有機物は,土壌に添加後に粘土鉱物や非晶質物に吸着することによって,難分解性を獲得したと考えられる.さらに,土壌全体としての難分解性有機物増加量は,3年間で炭素約1 g-C kg−1,窒素約0.1 g-N kg−1(添加堆肥の9%以下)に過ぎなかった.これらの結果から,堆肥施用のみによる難分解性有機物の蓄積は期待できないと考えられた.農耕地に多くの難分解性有機物を蓄積させるには,有機物の吸着サイトを増やす必要があり,非晶質物等の添加が必要である.
本研究では,日本の食飼料供給システムとその中の畜産業における窒素(N)フローの実態(1975~2015年)を,家畜のN排泄量原単位は使わず物流データに基づき算定し,当システムと畜産業を対象に窒素利用効率(NUE=生産物N/飼料・材料N)や農地を含む国内環境への排出N(=N収支)を求めた.この40年間,当システムのNUEは低下し(44.2%→40.5%),排出N(1.22~1.71 Tg-N y−1)の半分近くは畜産業由来だった.畜産業のNUEは低いが育種や給餌法の改良により上昇し(15.1%→17.4%),主な畜種別では,採卵鶏・ブロイラー・乳牛は向上,豚は横這い,肉牛のみが低下した.畜産業からの排出Nの90%前後は家畜飼養中に生じ,1990年以降,温室効果ガスインベントリ報告書の糞尿Nより0.08~0.10 Tg-N y−1大きくほぼ並行して減少した(0.76→0.60 Tg-N y−1).両者の差は主に飼料ロスNと考えられ,その発生率(10%前後)は食品ロスN発生率と同程度だった.屠畜体の内臓等可食副生物の食用は畜肉NUEの向上に有効だったが,消費者ニーズと生産効率を最優先する経営は家畜体の負担を増大させ,高い死廃率や内臓等廃棄率,抗生物質多用による薬剤耐性菌増大,遺伝的系統の画一化等を招き,リスク集中型管理を生んでいる.農地を含む環境へのN負荷削減には畜産業NUEの向上が不可欠であり,消費者理解の下,動物福祉に配慮した健康的な家畜飼養を進める必要がある.