わが国のバレイショ主産地である北海道では,加工用バレイショの作付面積と生産量が増加している.黒ボク土が広く分布する普通畑では,作物の初期生育促進に関与するリン酸肥沃度は重要な意義を持つとされてきたが,作土にリン酸が多量に蓄積して有効態リン酸が増えた現状において,リン酸減肥を検証した報告は少ない.そこで,北海道の加工用バレイショ栽培地域の生産者圃場を対象にリン酸の減肥試験や施用量試験を行い,リン酸減肥の可能性を検証した.十勝地域と上川地域の生産者圃場において,リン酸肥料の施用量を施肥標準の半分とする試験,施用量を0~250 kg-P2O5 ha−1の範囲で変える試験を行った.また,帯広畜産大学試験圃場において,リン酸肥料の施用量を半減する実規模栽培試験を行った.地域や年度にかかわらずリン酸50%減肥区で標準区と同等の収量が得られた.施用量試験では,リン酸肥料の施用量の削減が加工用バレイショの収量に影響を及ぼさず,施肥標準を超える施肥では有意差はないものの収量低下が懸念された.収量レベルやリン肥沃度を維持するためには,50~100 kg-P2O5 ha−1程度のリン酸施肥を継続することが望ましい.実規模試験においても,施肥率50%の減肥区で標準区と同等の収量が得られた.北海道のバレイショ栽培ではリン酸の減肥が必要であり,とくに従来から言われている黒ボク土普通畑のリン酸欠乏はすでに過去のものである.
放置竹林の拡大は鳥獣による農作物被害の原因となるため,竹資材(竹粉)の利活用による放置竹林の積極的な管理や再生が期待されている.近年徐々に栽培が普及している水稲品種「ゆうだい21」は苗が徒長しやすい性質を持ち,C/N比の高い竹粉を育苗培土に混合して減肥すれば,苗の徒長抑制効果が期待できる.そこで本研究は,育苗培土への竹粉混和が苗の生育と移植後の水稲生育および収量に及ぼす影響を解明し,育苗資材としての竹粉の有効性を検証することを目的とした.慣行・有機育苗における効果を比較するため,市販培土と森林次表層土の2種類の培土を用いて竹粉の混合割合を変えた処理区(0, 30, 60%)を作成し,竹粉混和培土の理化学性を分析するとともに,苗の生育および移植後の水稲生育・収量を調査した.育苗培土への竹粉混和には,(1)慣行育苗における窒素の減肥による苗の徒長抑制,(2)マット強度の向上,(3)苗箱の軽量化の主に3つの効果があることを解明した.一方,竹粉混和割合が高い処理区では,出芽ムラの拡大,葉色の低下などがみられた.移植後の水稲収量について,慣行育苗の本田試験区では,有意ではなかったものの竹粉添加量の増加に伴い低下傾向がみられたが,有機育苗の試験区では収量に対する竹粉の影響に有意差はみられなかった.以上より,育苗培土に対する竹粉の混和割合は30%が適切であると結論付けた.
泥炭土における草地更新時の播種前雑草茎葉散布処理(グリホサート系除草剤による,以下,播種床処理)は薬害のおそれからこれまで推奨されていなかったが,その適用が可能な土壌条件をポット試験で明らかにし,現地において播種床処理の適用性と効果を実証した.ポット試験の結果からは過湿によって薬害程度が大きくなることはなく,土壌から強熱減量分を差し引いた土砂含量が0.55 kg kg−1以上であれば,薬害による定着個体数の低下が10%以下であることが示された.播種床処理の適用性を調査した土砂含量0.54~0.76 kg kg−1の5圃場では,越冬前チモシー個体数への薬害は認められず,翌春のチモシー被度,1番草のチモシー割合もそれぞれ75~90%,88~93%と高かったため,播種床処理はこれらの圃場でも適用できると考えられた.播種床処理の効果を調査した2圃場では,播種床処理した区で牧草の越冬前茎数が十分確保され翌春の雑草被度も9~19%と低く,播種床処理の効果が実証された.以上のことから,泥炭土において表土に無機質土壌が存在し,その土砂含量が0.55 kg kg−1以上である場合は,播種床処理が適用できる.
水田輪作地帯における排水性・保水性に関連する土壌の乾湿は,畑利用時の圃場管理・栽培管理における一つの重要な情報と考えられる.約500 haの水田地帯を対象に,植物被覆率の低い2月の,土壌水分が異なる3時期の航空機リモートセンシングデータ(航空画像)を解析し,圃場の乾湿を相対的に5段階区分した.対象地は,国土調査において大谷川と小貝川が蛇行と流路変更を繰り返した(茨城県,1986)とされる小貝川低地にあり,隣接する圃場間,または1筆圃場内においても排水性・保水性の良否が大きく異なると推定された.乾湿区分結果を基に現地調査を実施した結果,浅礫層の存在と,緻密で透水性の低い耕盤やかつて黒泥に分類されたと考えられる下層土の存在が確認され,下層の透水性・保水性の違いが乾湿区分に反映されていると考えられた.また,航空画像の解析による乾湿区分結果と生産者の作付け経験に基づく達観評価を比較すると概ね一致する傾向が認められ,データ解析により得られた情報を生産現場で利用できる可能性が示唆された.一方,圃場利用別(水稲あと,大豆あと,麦作付中)に解析すると,水稲あとの圃場は大豆あと及び麦作付け中の圃場より一致率が低く,生産者による達観評価に比べて乾燥側に区分された.これは,対象地域において,航空画像を取得した2月時点では水稲作付け後の裸地圃場で表面の残渣量が多いこと,砕土率が低いことが要因と考えられた.