鹿児島県大隅半島のほぼ中央に位置する笠野原と鹿屋原の両シラス台地では,農畜産業に起因する窒素負荷の影響が懸念されるなか,1980年代から地下水硝酸性窒素濃度の上昇の問題が顕在化した.本研究では,両台地における湧水・地下水と河川水の水質ならびに農畜産系の窒素発生負荷の長期的な動向を整理し,農畜産業による水環境への影響について検討した.その結果,両台地周縁の湧水の硝酸性窒素濃度は,台地における養豚業からの窒素発生負荷量の増加とともに顕著に上昇し,2000年から2010年代半ばにかけてピークを迎えた.2010年代後半以降,鹿屋原台地の代表的湧水では硝酸性窒素濃度が12.4 mg L−1から5.8 mg L−1へと急速に低下し,笠野原台地においても低下傾向が確認された.近年の硝酸性窒素濃度の急速な低下は,1999年の家畜排せつ物法の制定に基づいて2001年前後に行われた養豚ふん尿の素掘り貯留処理の廃止による窒素負荷の削減効果が大きいと考えられた.農畜産系の大きな環境負荷により地下水硝酸性窒素汚染が深刻化した大規模な畑台地地域においても,農業環境対策の着実な実施によって,水環境を確実に改善できることが示された.
砕土率の確保は,畑作物における出芽・苗立ちの安定化や土壌処理型除草剤の効果を高めるために重要な栽培管理である.砕土率の目安は70%以上とされているが,その測定には労力と時間を要するため現場で砕土率の診断をすることは難しい.そのため,簡易な診断方法の開発が求められており,本研究では画像中の土塊数及び土塊サイズから砕土率を推定する方法を検討した.画像中の長辺が5 cm以上10 cm未満の土塊数と10 cm以上の土塊数から算出した表面土塊程度と砕土率の関係を解析した結果,決定係数R2が0.83(p<0.001)の直線回帰式が得られ,RMSE=2.98%の精度で表面土塊程度から砕土率を推定できる可能性が示された.さらに,表面土塊程度を推定するための画像分類モデルを深層学習のアルゴリズムの1つである畳み込みニューラルネットワークを用いて構築した.構築した画像分類モデルは表面土塊程度が低く砕土率が高い画像ほど分類の正解率が高かった.また,画像分類における注目箇所をGrad-CAM手法で可視化したところ,土塊そのものではなく土塊の周辺部に注目して分類していることが明らかになった.以上より,本研究の画像分類モデルを活用することで,砕土率の目安である70%を満たしているかどうかを画像から簡易に診断できる可能性が示された.
岐阜県飛騨地域の水稲主要品種「コシヒカリ」の良好な品質や食味と安定生産の両立に向けて,湿潤土湛水培養による窒素無機化量を加味した適正な施肥窒素量の算出方法を構築した.適正な施肥窒素量を算出するための指標には窒素吸収量を用い,玄米収量および玄米タンパク質含量との関係から,飛騨地域の「コシヒカリ」の成熟期における理想的な窒素吸収量を80~85 kg ha−1と設定した.水田作土からの窒素供給量(作土N)の指標には湿潤土30°C10週間湛水培養による窒素無機化量(湿10 w)を用いた.これにより求めた作土Nを基肥による施肥窒素量(基肥N)に加えた窒素供給量と幼穂形成期(幼形期)における窒素吸収量との間には一定の関係性が見られ,幼形期の窒素吸収量に応じて適正な窒素供給量が推定可能であった.さらに重回帰分析により合理的な推定式を作成し,幼形期における窒素吸収量と湿10 wに応じた適正な基肥Nの推定式を構築した.一方,幼形期以降の窒素吸収量は穂肥による施肥窒素量(穂肥N)の影響が強く,穂肥Nと幼形期以降の窒素吸収量との関係を基に,幼形期以降に必要な窒素吸収量から適正な穂肥Nを推定する手法を構築した.過剰な窒素施肥による倒伏の危険性を考慮し,窒素吸収量は幼形期までに50 kg ha−1,幼形期以降に30~35 kg ha−1とすることが適当と考えられた.