本研究では,交換性カリウム(Ex-K)低下時に玄米への放射性セシウム(Cs)移行係数が高まる懸念のある圃場を見分ける土壌指標として,交換性放射性Csと非交換性K(Nex-K)に着目し,両特性値の性質を比較した.まず,福島県内水田152地点のデータセットを用い,玄米への137Cs移行係数とEx-K, 交換性137Cs(Ex-137Cs)割合(Ex-137Cs濃度/土壌137Cs濃度の百分率),Nex-K(熱硝酸抽出法)との関係を解析した.いずれの土壌指標も137Cs移行係数と有意な相関を示したが,Ex-Kの影響を排除した偏順位相関係数(ρEK)で137Cs移行係数との相関性を比べると,Ex-137Cs割合(ρEK=0.65)のほうがNex-K(ρEK=−0.50)より強かった.この解析では,両特性値の間に有意な相関(ρ=−0.47)が認められた.そこで両特性値の効果を区別するために,この相関から値が逸脱していた水田19圃場の土壌を用い,水稲の幼植物栽培試験を行った.栽培の前後で,Ex-137Cs割合は土壌により大きく変動(半減~42倍増)したが,Nex-Kの変化は平均8%減と小さかった.地上部への137Cs移行係数に対する相関は,栽培後のEx-137Cs割合のみが有意(ρEK=0.51)だった.水稲への放射性Cs移行係数との相関性(ρEK)は交換性放射性Cs割合のほうが高いが,分析値が変動しにくいという面ではNex-Kのほうに土壌指標としての利点があり,現場利用の際は,この違いを理解して場面に応じて使い分けるべきと結論づけた.