本研究の目的は初診時の矯正患者における審美障害と生理的・病理的障害の実態を詳しく調べること、そして生理的・病理的障害と不正咬合の形態的特徴との関連を調べることであった。調査対象は当院を受診した矯正患者123人(男性44人,女性79人)とした。初診時平均年齢は12.8歳(範囲:6歳〜47歳)であった。患者の審美障害や生理的・病理的障害は初診時に患者あるいは保護者が記載した質問用紙および歯科医師が記載した診査内容を用いて調べた。不正咬合の形態的特徴としてオーバーバイト(OB)、オーバージェット(OJ)、ANB角(ANB)、上顎および下顎のArch length discrepancy (uALD, lALD)の5つの計測項目を用いた。今回の研究結果から、矯正患者の来院動機は審美障害がもっとも多く、診査結果では審美障害を持っていた者が111人(90.2%)、生理的・病理的障害を持っていた者が98人(79.7%)であった。生理的・病理的障害の内訳は食片圧入・歯磨き障害(59.6%)、咀しゃく障害(47.2%)、外傷(39.0%)、発音障害(36.6%)、口唇閉鎖困難・口呼吸(24.4%)であった。これら5つの生理的・病理的障害と形態計測項目との関連を調べた結果から、食片圧入・歯磨き障害ではuALDとlALD、咀しゃく障害ではOBとOJ、外傷ではOJ、発音障害ではuALD、口唇閉鎖困難・口呼吸ではOJとANBに有意差が認められた。不正咬合を有する矯正患者の多くは審美障害と生理的・病理的障害との両方を持っていた。そして、それら障害と不正咬合の形態的特徴とには関連が認められた。
抄録全体を表示