竹中大工道具館研究紀要
Online ISSN : 2436-1453
Print ISSN : 0915-3683
3 巻
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 土屋 安見, 石村 具美
    1991 年 3 巻 p. 1-16
    発行日: 1991年
    公開日: 2022/01/31
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    15世紀初め頃に大陸から伝来したと推定されている枠付きの製材用縦挽鋸「大鋸」が、14世紀初頭の作とされる地獄絵、極楽寺蔵『六道絵』に描かれているとの情報を得て、この度、調査を行った。『六道絵』は、兵庫県立歴史博物館の総合調査で発見され、昭和61年(1986)に重要文化財の指定を受けている。 伝世品や他の絵画資料中の大鋸との比較検討及び他の地獄絵に描かれた鋸の調査から、以下のことがいえる。 (1)地獄の鬼の責め道具として、本来の木工以外の用途に描かれた地獄絵といえども、多くの場合その時代の鋸の形を反映している。 (2)人間を挽き切ることを主眼に描かれた地獄絵の鋸の中でも、『六道絵』の大鋸は、明確に製材法を描いている点で特異な存在である。 (3)しかも、その形状及び作業法の描写は正確で、かっリアリティを持っている。 (4) 『六道絵』の大鋸は、1 4世紀初頭に大鋸が伝来していた可能性を示す現在唯一の資料として大きな意味を持つものである。 (5) 『六道絵』と近い時期に描かれた他の地獄絵の中に、棒状の把手がついた大鋸が描かれており、これは横挽用の大鋸である可能性を持つ。しかし、地獄絵は先行する中国の図柄を参考に描かれることもあり、中国の資料との関連性など、今後さらに調査されねばならない課題も多い。
  • 渡邉 晶
    1991 年 3 巻 p. 17-56
    発行日: 1991年
    公開日: 2022/01/31
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    1943年に労働科学研究所の行った調査によれば、一人前の大工が本格的な仕事で使う道具は179点、そのうち槌は4種類9点であった。これが近・現代における建築用の槌の標準編成である。 本稿は、近・現代の槌の構成を出発点にして、その前の時代である近世における建築用の槌の構成を明らかにしようとしたものである。近世の実物、文献、絵画等の諸資料を調査した結果、次のように要約することができる。 (1) 近世の建築木工事に用いる槌の種類としては、少なくとも「カナツチ」、「サイツチ」(「木槌」)、「アヒノツチ」(「カケヤ」)の3種類があった。 (2) 近世の建築木工槌の用途は、片手使い木製槌がノミ叩き用、片手使い鉄製槌が釘打ち用、大型木製槌が部材組み立て用であった。 (3) 近世の片手使い鉄製槌の形状には、両小口が方形で大小の差があるもの、両小口に大小の差があり大きな小口が円形のもの、両小口が同じ大きさで円形のもの等があった。 (4) 近世の片手使い木製槌の形状は、両小口が同じ大きさであるが、八角形のものと円形のものとがあった。 (5) 近世の大型木製槌の形状は、両小口が同じ大きさであるが、円形のもの、楕円形に近い長方形のもの、八角形のものがあった。 (6) 18世紀後半から19世紀にかけて、ノミ叩き用の槌が木製から鉄製に移行したと考えられる。
  • 星野 欣也, 平澤 一雄, 渡邉 晶, 土屋 安見
    1991 年 3 巻 p. 57-61
    発行日: 1991年
    公開日: 2022/01/31
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    “木の葉型鋸”の適正鋸歯角度を設定するための、前回の実験では、設定したナゲシ角の上限に最高判定比が現れたため、適正鋸歯角度を指定することができなかった。そこで今回は、さらにナゲシ角の大きな個体を用意して、再び実験を行った。 (1) 供試鋸は、厚さ1.3cmの鋸用鋼板を用い、歯道の中央部150mmの間に頂角55°の二等辺三角形の鋸歯を刻んだ、ナゲシ角30°、35°、40°、45°、の4点の実験用鋸を用意した。 (2) 供試材は、断面4.5cmx 1O.5cmの檜材を使用した。 (3) 6名のパネルが、一対比較法による切れ味の比較テストをおこない、優劣を判定した。 (4) 実験結果を計数処理した結果、4点の鋸の切れ味に有意差は認められなかったが、最も評価が高かったのは、ナゲシ角40° (実測値=38.31°) の個体であった。 (5) 今回採用したような鋸歯形式に対しては、被加工材が中間材(実験では終始檜材を使用)の場合、鋸歯のナゲシ角の最適値はおおむね35°-40°の間に存在すると考えられる。
  • 沖本 弘
    1991 年 3 巻 p. 62-76
    発行日: 1991年
    公開日: 2022/01/31
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    良い道具の条件の一つは刃先が鋭くでき、鋭い刃先が長く保持できることである。このため、刃先には硬くかつ粘りのある性質が必要とされている。材料には高炭素鋼や合金鋼が使われる。これらの鋼では、硬くて脆い炭化物が不規則で分布すると刃こぼれの原因になるため、炭化物の微細化、球状化の熱処理技術を必要としている。 日本の鉋刃は薄い鋼を極軟鋼や練鉄に鍛接しなければならないため、刃物鍛冶は良い刃先の組織にする熱処理に工夫を重ねている。 道具刃物の刃先の理想的な組織にいたる各工程での組織変化に関してはあまり知られていない。良い道具の判断材料を得るために、研究熱心な鉋鍛冶の協力を得て、青紙1号という鋼を用いて熱処理工程ごとの組織変化を観察した。 一般に、高炭素鋼の炭化物の球状化は焼なましによって達成できるが、取り上げた、鉋刃の製造工程においては焼なまし以前の工程である熱間での成形・鍛錬といった工程で球状化がかなり促進されていることがわかり、刃物鍛冶仲間でいわれる「火造り」の重要性が理解できた。
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