1943年に労働科学研究所の行った調査によれば、一人前の大工が本格的な仕事で使う道具は179点、そのうち鉋は18種類42点であった。これが、近・現代における建築用の鉋の標準編成である。
では、近世の建築用の鉋にはどういう種類があったのだろうか。近世の諸資料を調査した結果、次のように要約することができる。
(1) 近世の建築用の鉋は、平面切削用、溝切削用、曲面切削用、面取切削用、台調整用に分類でき、少なくとも12種類26点のものが使用されていた。
(2) 平面切削用の標準的な形状の鉋は、鉋身が一枚刃で、鉋台に押溝(おさえみぞ)で固定されていた。
(3) 標準的な形状の鉋台の長さは、7寸から9寸ぐらいまでであった。
(4) 「麁・あら」 「中」 「上」の切削工程があり、「上鉋」の刃口空は、「髪毛のごとく」わずかであった。
(5) 絵画資料などにより、少なくとも17世紀以降は台鉋を引いて使っていた。
(6) 絵画資料を見た限りでは、削り台を用いて立った姿勢で作業をするようになったのは、19世紀初め以降であった。
(7) 17世紀後半から18世紀初めにかけて、鉋切削機構の精密化があったと推定した。
(8) 絵画と文献記述によって、17世紀後半までヤリカンナと鉋との併用期があり、18世紀以降、鉋が仕上げ切削の主役になったと推定した。
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