茶の水耕栽培において, 日射量や昼夜の温度差が品質や生長に与える影響について, 茶中の遊離アミノ酸含量, 葉の光合成速度, 新芽の伸長度および新葉の呼吸速度の観点から検討した.本論文の要点は以下のとおりである.
(1) 80%遮光区では, 新芽の葉および茎においてテアニンやアルギニン, グルタミンなどの遊離アミノ酸含量が顕著に増加し, 葉で約4倍~6.5倍, 茎で約15倍~6.5倍の値であった.この増加率は葉においてより顕著であった.また, 根でもテアニンやアルギニン, ヒスチジンなどが増加する傾向を示したが, 葉や茎に比べてわずかであった.いっぽう, 60%および25%遮光区ではどの部位でも遮光による遊離アミノ酸の増加はほとんどみられなかった.
(2) カフェイン含量は80%遮光区では新芽の葉で約1.8倍, 茎で約1.5倍増加した.
(3) 80%遮光区では, 新芽部分の全遊離アミノ酸含量は無遮光区に比べて約3倍増加した.いっぽう, 60%および25%遮光区では遮光の有無による差はみられなかった.
(4) 茶新葉での見かけの最大光合成速度は約85mgCO
2dm
-2h
-1と成葉の約3.5倍であった.また, 新葉での飽和光合成光強度は約800μmol m
-2s
-1と, これも成葉の約2.7倍であった.このように新葉と成葉では光利用効率に大きな差がみられた.
(5) 新芽の伸長は昼夜の温度差が大きいほど促進されることが明らかとなった.また, 昼夜の温度差が茶中の遊離アミノ酸含量に与える影響を検討したところ, 温度差が11℃の場合, 新芽の葉ではテアニンやグルタミンの含量が約2倍増加した.また, 茎でもこれらの遊離アミノ酸含量は1.5倍程度増加していた.
(6) 昼夜の温度差を変化させてもカフェイン含量には差はみられなかった.
(7) 昼夜の温度差が11℃の場合には, 新芽部分の全遊離アミノ酸含量は温度差5℃および1℃に比べて約1.5倍増加していた.なお, 温度差が5℃と1℃とでは両者の全遊離アミノ酸含量に差はみられなかった.
(8) 茶新葉の呼吸速度は夜間温度が高くなるほど増大し, 25℃では15℃の場合の約3倍であった.このように夜温が低いほど茶樹の代謝速度が抑えられ, このことも, 夜温が低いほど新芽の伸長度が大きく, また, 遊離アミノ酸含量も高くなる一因と考えられる.最後に, 本研究を進めるに際し茶樹の提供をいただいた埼玉県茶業試験場岡野信雄部長, 水耕栽培法についてご指導いただいた静岡大学小西茂毅教授, (株) 宇治園中川米秋工場長に深く感謝申し上げます.
また, 水耕栽培茶の管理でお世話になった川西春義氏および北電興業 (株) 菅原彰敏氏に感謝致します.
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