1) キイロショウジョウバエ (
Drosophila melanogaster) の甲府, 勝沼 (山梨県) の自然集団から採集したハエのF
2約1, 006匹ずつから2集団をつくり, 1集団 (F集団) はコイトトロン内において温度が20~30℃, 1日2回周期で規則正しく変動する環境 (f-環境) で, また, 他の1集団 (C集団) は飼育室において25℃一定の環境 (c-環境) で約2年間連続的に飼育した.実験に使用したハエは無作意的にこれらの集団から抽出したものである.
2) C集団から抽出したハエをC-境に (C-c群) およびf-環境に (C-f群) , また同時にF集団から抽出したハエをf-環境に (F-f群) およびc-環境に (F-c群) おいて, とくに♀の寿命 (実験I) , 産卵力 (実験II, III) , 羽化率 (実験IV, V, VI) を分析し, たがいに比較した.
3) 寿命はF-f群の♀が平均31.3日でもっとも長く, C-c群の♀は平均29.0日で, 恒温環境は変温環境よりもハエの寿命を短くしたが, F-c群の♀の寿命は平均25.7日と有意に短くなった.
4) 産卵力と寿命は密接な関係にある量的形質で, 恒温環境のハエは変温環境のハエよりも平均寿命は短いが, 平均産卵数は多かった.とくに若い♀ (羽化後10日まで) のC-c群がC-f群よりも産卵数が有意に多く, また, 40日間の総産卵数において寿命が非常に短くなったF-c群の産卵数が他の群よりも少なくなった.
5) 羽化率 (成生/卵) は羽化後10日までの♀においては, いずれの群も90%以上で群間に差異を認めることはできなかったが, ♀のageが15日, 20日と進むとC-c群の羽化率がもっとも速く減じ, age20日の♀が産んだ卵の羽化率は61~67%になった.F-f群のage20日の♀が産んだ卵はそれよりも約10%高く71~81%で, 他のC-f, F-cの2群はほぼ中間の羽化率を示した.
6) 寿命, 産卵力, 羽化率は適応度の重要な構成要素であり, また, 多数の遺伝子が関与する量的形質と考えられる.各群のこれらの形質における分散を求め, たがいに比較した結果, 変温環境, 恒温環境のそれぞれに適応するハエがもつhomeostatic gene systemは明らかに異なるものであって, また, そのhomeostasisの程度にも差のあることがわかった.とくに, 変温環境に適応したgene systemが急に恒温環境に移されたときに非常に不安定な形質発現をすることについて考察した.
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