応用生態工学
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13 巻, 1 号
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原著論文
  • 張 裕平, 長谷川 和義, 志田 祐一郎
    2010 年13 巻1 号 p. 1-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    ・北海道の群別川において,底生無脊椎動物の生息場所選択性について,水理学的視点での新たなスケール区分を用いた調査・解析を行った.
    ・調査箇所を,目視により,射流部,常流部,跳水部のいずれかに判別し,それぞれの部分に存在する礫に付着する底生無脊椎動物の個体数,流速及び礫の表面の形状を測定・記録した.
    ・40%以上の礫で確認できた8種について解析したところ,6種の個体数は水理学的な流れ区分の変数と関係があり,4種の個体数は流速と関係があった.
    ・多くの種の個体数は礫表面の環境条件よりも水理学流れ区分を用いた方がより良く説明された.
    ・以上の結果から,水理学的な流れ区分スケールは底生無脊椎動物の生息場所選択性の把握に有用であることが示された.
  • ―河川生物群集による診断結果の検証―
    樋村 正雄, 西 浩司, 中村 太士, 川口 究, 鳥居 高明, 竹内 洋子, 西川 正敏, 五道 仁実, 楯 慎一郎, 黒崎 靖介, 村上 ...
    2010 年13 巻1 号 p. 9-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    本研究では, 標津川中流部におけるリファレンスからの乖離度を用いた物理環境による河川環境診断 (RHS-M)結果の妥当性を, 河川生物の生息状況から検証した. 北海道東部を流れる標津川中流部の16サイトで魚類, 底生動物, 陸上植物, 鳥類の定量調査を実施した. 生物の調査結果は, 1) 原始標津川中流部における典型的な種群の出現状況, 2) 各サイトの生物群集の組成の2つの視点で, 河川環境診断結果との関係を解析した. 生物群集の組成は, 各生物群について16サイトにおける出現状況を除歪対応分析により序列化することで解析した. 魚類, 陸上植物の典型的な種群の生息量は, 河川環境診断において良好と判断されたサイトで多く, 悪化していると判断されたサイトでは少ない傾向がみられた. 魚類, 底生動物, 陸上植物群集では, 序列化第1軸が人為改変によって生じる群集変化を示しており, リファレンスからの乖離度および多くの物理環境変数と相関関係がみられた. 鳥類群集では序列化軸とリファレンスからの乖離度に関係はみられず, 相関関係がみられる物理環境変数もほとんど無かった. これらの結果から, 乖離度による河川環境診断結果は生物の出現状況や群集の組成と概ね対応しており, 乖離度は河川の総合的な環境診断に有効な指標であると考えられる.
  • 山田 佳裕, 中島 沙知
    2010 年13 巻1 号 p. 25-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    吉野川の物質循環に及ぼすダムや流域の人間活動の影響を明らかにするため, 河川水, 河床堆積物を採取し, 生元素量, 炭素・窒素安定同位体比を測定した. 得られた主な結果をまとめると,
    (1) 吉野川本流のダムをはさんだ上下流で水質に大きな変化はなかった. 一方で, 流域における人間活動が増加する中下流で窒素濃度の増加がみられた.
    (2) ダム湖内では陸上高等植物が堆積し, その直下流では藻類による一次生産が活発に起こっていることが明らかになった. ダム直下における一次生産の増加は局所的な現象で, 河川全体に及ぼす影響は小さいと考えられた.
    (3) 連続したダム群によってほとんどの水がせき止められている支流の銅山川下流では, δ13C・δ15N が最も高く, 河床における富栄養化とそれに伴う明瞭な酸化還元境界が形成されていることが考えられた. このことより, 今後の富栄養化による河床の貧酸素層の拡大が懸念された.
    (4) 吉野川中下流において, 河川水中のTN濃度, NO3--N濃度の上昇と河床堆積物中のδ15Nの上昇がみられたことから, 河川水中の窒素濃度の増加要因は, 集水域からの人間活動による窒素負荷が主たるものであると考えられた. 吉野川下流においては, 河川水中の窒素濃度の増加はみられたが, 堆積物中の有機物濃度の増加はみられなかったことから, 流域の人間活動による負荷が河川に蓄積していないことがわかった. しかし, δ15Nが高いことから考えて, 現在の吉野川への負荷は生態系の浄化能力が機能する環境容量の限界にあると考えられた.
    最後に, δ13C, δ15Nを用いた手法は河川の物質の起源や循環のプロセスを解析することが可能なことから, 河川とその流域の管理保全に必要な「人間活動の影響」を見積もるために有効であることがわかった.
事例研究
  • 埼玉県・神流川の下久保ダム下流区間での事例
    中嶋 崇志, 山下 雄二, 金山 明広
    2010 年13 巻1 号 p. 37-47
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    国内の河川生態系に関する全国的な調査においては, 河川環境に生息する動植物に関する詳細なデータが採取されている. しかしながら, ハビタットの評価に関する手法は未だ確立されていない. 本論は埼玉県, 神流川流域の下久保ダム下流区間の約10kmを対象とし, イギリスで開発されたRiver Habitat Survey (RHS) 及びそのスコアリングシステムであるHabitat Quality Assessment (HQA) を用いて, 河川環境の評価を行った. 調査対象区間は下久保ダム直下を調査始点 (0.0km) とし, その下流側10km の区間とした. 下久保ダムの下流約2km の範囲には, 国指定名勝・天然記念物に指定されている三波石峡がある. RHS による調査により三波石峡区間には希少な環境要素を多く含むことが明らかとなった. HQA による得点の平均値は42点, 最小は33点 (9.5-10km), 最大は54点 (2.0-2.5km) であった. HQA 得点で上位20%に含まれるサイトは, 2.0~2.5km, 2.5~3.0km, 7.0~7.5km, 8.5~9.0kmの4サイトであり, これらを環境保全サイトと評価することができた. RHSにより天然記念物に指定されている場所を希少サイトとして特定することはできたが, それらにおけるHQA得点はさほど高くはなく, 上位20%の環境保全サイトにはふくまれなかった.
  • 田頭 直樹, 佐伯 緑, 園田 陽一, 千田 庸哉, 松江 正彦
    2010 年13 巻1 号 p. 49-60
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    生態系に係る典型性の定量的評価を目標とし, これまで環境影響評価で軽視されてきた普通種のタヌキNyctereutes procyonoides を対象に, 生息適地モデルの開発と, ダム事業による生息地変化およびタヌキへの影響を予測した. モデルの構築には, テレメトリー追跡データから移動速度に着目した滞在型行動圏を抽出し, 地形分類と植生分類から成る生息地基盤データを説明変数とした多変量解析等の統計学的手法を用いた. 供用後の影響予測には, 湛水する範囲を非生息域に変換してモデルを適用した. その結果, 生息適地の面積の減少に加え, 生息適地の断片化が著しいことが明らかとなった. 本研究の成果から, ダムによる環境影響評価は, 湛水域と, 植生や地形とそれらの連続性についても言及する必要があることが示唆された. また, 生息適地モデルによる予測結果は, 影響の大きい場所や断片化を定量的・視覚的に把握することができ, 効果的な保全対策の立案へ寄与するものと考えられる.
  • 山下 奉海, 河口 洋一, 谷口 義則, 鹿野 雄一, 石間 妙子, 大石 麻美, 田中 亘, 斉藤 慶, 関島 恒夫, 島谷 幸宏
    2010 年13 巻1 号 p. 61-76
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    新潟県佐渡島を流れる天王川では, 水生生物の自由な移動経路を再生するため, 2つの農業用取水堰に対する落差の解消, 魚道の設置といった環境修復が実施された. 本研究では, この堰改良の効果を, 改良堰上下流の魚類分布, 移動状況, 生息地の物理環境を改良前後で比較することにより検証した. 物理環境調査の結果, 堰上下流で水深, 流速, 底質粗度には改良前後の差がなく, 堰の改良によって魚類の生息環境に変化が生じなかった. 魚類相調査では, 堰の改良後に上流側でアユカケを1個体確認したことから, 限定的ではあるが堰改良の効果があったものと考えられる. 一方で, 改良前後の魚類群集の密度, 現存量, 多様度指数の比較では, 堰改良後にこれらの増加は認められなかった. また, PITタグを用いた標識個体の移動状況の比較においても, 堰改良後に堰上流への遡上率は増加しなかった. 以上より, 天王川においての取水堰改良効果を総括すると, 堰の改良後1年間ではアユカケ1個体が確認されたものの, 改良によって魚類密度や現存量, 堰遡上個体数が増加することはなく, その効果は非常に限定的であったといえる. 明瞭な効果が見られなかった理由としては, 1. 改良を行った堰は, 改良後も依然として魚類移動の阻害要因となっている, 2. 堰上下流の魚類生息環境が変わらなかったことで魚類の応答が見られなかった, 3. 堰改良により上流側に魚類が侵入, 定着するには, より長い時間を必要とする, といったことが考えられるが, 本研究では, 理由の特定には至らなかった. 今後, 同地では, 明確な目標設定のもと, 堰の再改良や上下流の魚類生息環境の創出といった順応的管理を行っていく必要があると考えられる.
短報
  • マイクロサテライト多型解析に基づく推定
    加藤 幹男, 真鍋 由紀, 四反田 武志, 安部倉 完, 竹門 康弘, 長澤 哲也, 谷田 一三
    2010 年13 巻1 号 p. 77-82
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/02
    ジャーナル フリー
    深泥池水生生物研究会が行っている外来魚駆除事業の継続的実施によって, 深泥池における2005年のブルーギルの個体数は駆除事業開始時の1998年に比べておよそ10分の1まで減少した. この人為的な個体群抑制が, 深泥池ブルーギル個体群の遺伝的構造に及ぼす効果を見積もるために, マイクロサテライト座位BG6Xの多型 (CA繰返し数多型) を指標として, その対立遺伝子構成を2006年の試料と2007年の試料とを用いて比較解析した. その結果, 2007年の試料では, 遺伝子型頻度がハーディー・ワインバーグ平衡からずれていた. さらに, 集団内対立遺伝子数の期待値 (Allelic richness) は, 2006年から2007年にかけて顕著な減少傾向を示した. これらのことは, 試料個体が生まれたと推定される期間に行われた産卵床の破壊が, 個体群の繁殖阻止に加えて対立遺伝子構成にも大きく影響を及ぼしていることを示唆する.
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