応用生態工学
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15 巻, 2 号
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原著論文
  • 永山 滋也, 根岸 淳二郎, 久米 学, 佐川 志朗, 塚原 幸治, 三輪 芳明, 萱場 祐一
    2012 年 15 巻 2 号 p. 147-160
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    氾濫原に依存した生活史を持つ魚類にとって農業用の水路は代替の生息場として機能している.それゆえ,季節や生活史段階に応じた魚類の水路利用や生息場特性を把握しておくことは,保全上重要である.そこで,本研究では,岐阜県関市の 4 地域において,灌漑期 2 期 (6 月,8 月) と非灌漑期 2 期 (9 月,2 月) にわたり,水涸れしない農業用の水路を対象として調査を行った.全調査期にわたる総採捕個体数に占める割合が 5 %以上であった魚類を優占種と定義したところ,6 種が該当した.これらの体長頻度分布および個体数の季節変化から,水路はアブラボテ,カワムツ属,ドジョウ,ヨシノボリ類の稚魚期における成育場,それ以外の生活史段階を含む冬季の生息場 (越冬場) として利用されていることが示唆された.また,生活史段階を特定できなかったが,シマドジョウ類の成育場および冬季の生息場として,さらに,当歳魚を含む小型個体 (39 mm 以下) のオイカワの成育場および冬季の生息場として水路が利用されていることが示唆された.水路底が土砂の水路 (土砂区間) では,コンクリートの水路 (コンクリート区間) よりも,8 月を除く 3 調査期において魚類の総生息密度は有意に高く,種多様度は冬季においてのみ有意に高かった.また,水深,砂割合,小礫割合も,全調査期において土砂区間の方が有意に高かった.魚類の生息密度に影響を与える物理環境として,温暖な時期 (6 月,8 月,9 月) ついては,優占 種 6 種中 4 種に対して水路底の土砂 (シルト割合,砂割合,小礫割合) が検出され,それぞれ生息密度と正の関係を示した.土砂は魚類の生息場や産卵場の基質,餌資源の生息場基質となることから,水路底に土砂を持つ土砂区間はコンクリート区間より適した生息場であったと考えられる.寒冷な冬季 (2 月) になると生息場のシフトが見られ,4 魚種についてカバー率,1 魚種について水深が重要な物理環境として選ばれ,それぞれ生息密度と正の関係を示した.カバー率は,土砂区間に含まれる素掘りの土羽水路の区間で高く (25. 4%) ,コンクリート区間 (1. 2%) や柵渠 (6. 0%) では低かった.また,水深も土砂区間の方が大きかった.このことから,カバーや大きな水深 158 応用生態工学15 (2) , 2012 が魚類の冬季生息場として適しており,それが担保された土砂区間で魚類の生息密度や多様度が高くなったと考えられる.加えて,アブラボテの生息量は産卵期以外も含む 3 調査期において二枚貝の生息量と密接な正の関係にあることが示された.以上のことから,灌漑期と非灌漑期を通した魚類生息場として農業用の水路を捉える場合,水路底の土砂やカバーがセットで水路に存在することが必要であると結論される.このような水路としては,素掘りの土羽水路が理想的ではあるが,少なくとも柵渠 (側岸だけコンクリートや板で固定) とすることが望ましい.柵渠においても水際部の植生やえぐれによるカバーを確保するためには,土砂の堆積や維持に関わる水理条件を整えると同時に,堆積を許容する設計が必要である.
  • 高木 基裕, 関家 一平, 柴川 涼平, 清水 孝昭, 川西 亮太, 井上 幹生
    2012 年 15 巻 2 号 p. 161-170
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    河川人工構造物は,水生生物個体群の分断化を引き起こす.本研究では,貯水ダムが設置されている愛媛県の加茂川と中山川においてヨシノボリ類の遺伝的集団構造の解析および回遊履歴の判定を行い,ダムによる分断の程度を評価することを目的とした.加茂川および中山川の 6 地点からシマヨシノボリ,オオヨシノボリ,トウヨシノボリ,カワヨシノボリを 20~39 個体採集し,各個体の胸鰭から DNA を抽出した.マイクロサテライト領域の増幅には Rhi-5*, -7*, -11* の3 種のマーカー座を用い,アリルサイズを決定し遺伝的解析に用いた.耳石による回遊履歴の判定は加茂川の黒瀬ダム上流域の中奥,黒瀬ダム下流域の大久保,中山川下流域の大頭堰からそれぞれシマヨシノボリを 1 から 2 個体の耳石を採取し,Sr/Ca 濃度を測定した.遺伝的多様性を示すヘテロ接合体率 (期待値) の平均値は,シマヨシノボリ (0. 900~0. 921) で最も高く,続いてオオヨシノボリ (0. 869, 0. 889),トウヨシノボリ (0. 7779 の順となり,カワヨシノボリ (0. 192~0. 271) で最も低く,種により遺伝的多様度に違いが見られた.各個体群間の遺伝的分化を示す異質性検定では,種間で有意差が見られた.耳石 Sr/Ca 解析により,加茂川の黒瀬ダム上流のシマヨシノボリ個体群の陸封化が確認されたが,遺伝的異質性検定では,黒瀬ダムの上流域と下流域のシマヨシノボリ個体群において有意な差は見られなかった.また,中山川のカワヨシノボリでも中山川逆調整池堰堤の上流域と下流域の個体群において有意な差が見られなかった.
  • 熊澤 一正, 大杉 奉功, 西田 守一, 浅見 和弘, 鎌田 健太郎, 沖津 二朗, 中井 克樹, 五十嵐 崇博, 船橋 昇治, 岩見 洋一 ...
    2012 年 15 巻 2 号 p. 171-185
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    福島県阿武隈川水系三春ダムの蛇沢川前貯水池において,岸に平行して定置網を設置し,人為的に水位低下させることで魚類を網内に集結させて魚類を捕獲した.フィールドとした三春ダムは制限水位方式のダムであり,非洪水期 (10 月 11 日 ~ 6 月 10 日) から洪水期 (6 月 11 日 ~ 10 月 10 日) にかけて,貯水位を 8 m 低下させる運用をしている.捕獲試験は,2007 年 ~ 2011 年に実施した.捕獲した魚類のうち,外来魚のオオクチバスとブルーギルは回収し,それ以外の在来魚等は再放流した.オオクチバスの大型個体は,前貯水池と本貯水池の連結部 (幅 5 m) で多く捕獲でき,これは繁殖のために遊泳している個体と考えられた.一方,ブルーギルはこの時期は遊泳せず,浅い場所に集まっていた.水位低下を利用した定置網での捕獲の結果,オオクチバスと 2 歳魚以上のブルーギルは年々減少し,ギンブナをはじめとする在来魚等は増加傾向であった.在来魚等の若い個体が継続的に生産・維持されることが水域の魚類群集のバランスを保つ上で重要である.蛇沢川前貯水池では,2010 年以降,貯水池内で繁殖したギンブナ,コイの若い個体が顕著に増加しており,捕獲による駆除の効果と考えられる.
事例研究
  • 棗田 孝晴, 瀬谷 政貴
    2012 年 15 巻 2 号 p. 187-195
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    利根川河口堰よりも下流域 (千葉県銚子市) で利根川に流入する 2 つの感潮河川 (高田川, 忍川) の最下流部に設置された堰の上・下区間において, 2010 年夏期 (7 ~ 8月) と秋期 (10 月) に魚類相調査をおこなった.両河川からは計 15 種類 226 個体の魚類が採集され,うち 10 種 (66. 7%) が通し回遊魚であった.堰の落差が比較的小さい (50 cm) 高田川では,堰の上・下区間とも通し回遊魚が確認されたのに対して,二段の落差 (55 cm + 130 cm) を持つ忍川の堰の上流区間では通し回遊魚が全く確認されず,堰の上・下区間での魚類相の類似度は著しく低かった.忍川の堰の上・下区間の物理環境が類似していることから,同川では落差の大きい堰がもたらす通し回遊魚の上流への移動阻害が,魚類相に大きな相違をもたらしていることが示された.感潮河川に設置された堰の改善策として,高水位時に通し回遊魚の堰の通過を可能にする,小規模魚道や石組みなどの設置による落差への軽減措置が,海域と淡水域との連続性を保つうえで有効であると考えられた.
  • 高橋 勇夫, 谷口 順彦
    2012 年 15 巻 2 号 p. 197-206
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    四万十川の佐賀取水堰下流の減水区間において,河床型を早瀬,平瀬,淵,トロ A 級,トロ B 級の 5 つに区分し,5 段階の流量別に河床型別水面面積を測量した.さらに,水面面積と河床型の構成の変化と,それによって起きるアユの生息数,生息密度の変化から妥当な維持流量を検討した.流量の増加に伴い,アユの生息密度が低い河床型であるトロ B 級は縮小し,生息密度がより高い平瀬,早瀬やトロ A 級が拡大した.しかし,0. 7~0. 9 m3/s/100 km2を超えると河床型の構成に大きな変化が見られなくなった.アユの平均生息密度も比流量 0. 7~0. 9 m3/s/100 km2を超えるとあまり増えなくなった..流量がほとんどない状態から河床型の構成が本来のもの (平水流量程度) に近くなるまでの間は,水面面積の拡大だけでなく,アユに不適な河床型の構成から好適な構成へと質的な変化 (例えばトロ B 級→平瀬やトロ A,平瀬→早瀬) があわせて起きるために,平均密度が大きく増大する.これに対して,河床型の構成が本来のものに近くなった後は,水面面積の拡大が生息数を増やす主要因となるため,平均生息密度はほぼ一定の値を取るようになる.アユの生息環境を改善するにあたって,効率あるいは発電と生息場の保全のバランスという観点からは,平均密度の増大が鈍化し始める流量を維持流量とすることで妥協点を見出すことができた.今回実施した検討方法では,水面面積の拡大と河床型の構成の変化という 2 点から,魚類の生息場としての河川を面的に評価できたという点で意義が大きい.さらにアユの生息数や生息密度を計算することで,生息場の質の改善をも評価することができた.また,流量の増加に伴う河川の変化をアユの生息数および平均密度に反映し,維持流量の評価に用いたことは,専門家だけでなく一般の理解が深まる情報となることが期待される.
  • 岩崎 雄一, 秋田 鉄也, 加茂 将史
    2012 年 15 巻 2 号 p. 207-212
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    外来種管理において,実施する対策が対象生物種の個体数低減または根絶にどの程度有効かについての情報を得ることは有用である.本研究では,全国各地で生息が確認されている外来魚であるブルーギルを対象に,米国 Hyco 湖で構築された個体群モデルを利用して,卵,未成魚,成魚の駆除割合がブルーギルの平衡個体数に及ぼす影響を評価した.卵,未成魚,成魚の駆除を個別に行った場合に平衡個体数を 1 未満にするには,84~92%の高い駆除割合が必要であった.他方,卵の駆除割合が一定の条件下において成魚または未成魚の駆除を加えることで,個別に駆除対策を実施するよりも少ない駆除割合で根絶に導くことができることが示された.さらに,卵及び成魚の個別駆除については,それぞれ約 80%,60% 未満の駆除割合までは平衡個体数が増加し,それを超えると個体数が減少するという一山型の応答を示した.これは,当該個体群モデルにおいて産卵数と 0 歳魚の関係にリッカー型の密度効果を仮定しているためである.したがって,実際の管理においてブルーギル個体群の動態に作用する密度効果の影響を把握・推定することも重要であると考えられる.以上の結果が日本における現実の駆除事例にどの程度適用できるかは留意が必要であるが,個体群モデルを用いることで複数の駆除対策の効果を予測・比較することができ,より効果的な対策の選択を支援することが可能になるだろう.
  • 藤本 泰文, 久保田 龍二, 進東 健太郎, 高橋 清孝
    2012 年 15 巻 2 号 p. 213-219
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    オオクチバスとブルーギルは,日本各地に移殖された外来魚で,ため池はその主要な生息場所となっている.本研究では,オオクチバスおよびブルーギルのため池からの用排水路を通じた移出状況を調査した.私たちは宮城県北部に位置する照越ため池の用水路と排水路に,ため池から流出した魚類を捕獲するトラップを設置した.4 月下旬から 7 月下旬の調査期間中,これらの外来魚は用水路と排水路の両方から何回も流出しており,その流出のタイミングは,それぞれの水路の通水期間に限られていた.体長 125 mm の成魚のブルーギルも流出していた.ため池の魚類生息数を池干しによって調査した結果,ため池に生息する外来魚のうち,オオクチバスは 4. 0%,ブルーギルは 7. 1%が流出していたことが示された.外来魚の流出は繰り返し生じ,生息個体数の数%が流出していたことから,外来魚の流出は稀な現象ではなく一般的な現象である可能性が高い.この結果は,ため池が下流域への外来魚供給源となっていることを示す.周辺地域への被害拡大を防ぐためにも,ため池の外来魚の駆除は重要だと言える.
  • 山室 真澄, 神谷 宏, 石飛 裕
    2012 年 15 巻 2 号 p. 221-231
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    対象水域の地形や構造などが大規模公共工事によって変化している場合,工事以前の状態に戻すことが自然再生にとって不可欠と主張されることが多い.しかし,当該工事から数十年経る間に生じた工事以外の要素も自然環境を改変していることから,地形や構造を戻すことで環境が戻るとは限らない.島根県と鳥取県に位置する中海は,干拓目的で本庄工区と呼ばれる水域が堤防で囲まれ,また中海本湖への海水の出入りは中浦水門を通じる工事が行われた.この堤防の開削は中海を元の状態に戻すことになり本庄工区と中海本湖の貧酸素化を緩和するとの見解と,開削は本庄工区の貧酸素化を強化するとの見解が対立したが,前者の見解を支持するシミュレーション結果が地域住民の気運に合致していたため,事業主体者は開削に踏み切った.本研究の結果により,開削によって本庄工区の貧酸素化は強化したことが確認された.また中海本湖の貧酸素化は工事以前から生じていたことが既報により確認できた.これにより,工事以前の状態に戻すことは必ずしも自然環境の再生につながらず,科学的な根拠に基づかない「分かりやすい主張」には慎重に対処すべきであることが示された.開削によって本庄工区や中海本湖の貧酸素化が緩和するとの自然科学の原理に反し,過去の記録とも矛盾したシミュレーション結果を提示するに至った過程の検証が望まれる.
特集:わが国における天然記念物4 魚種の応用生態工学的保全の現状—ECE 的アプローチの評価と今後
序文
意見
事例研究
  • 阿部 司
    2012 年 15 巻 2 号 p. 243-248
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    Japanese kissing loach Parabotia curta (Cypriniformes, Botiidae) is one of the most endangered freshwater fishes in Japan. This species inhabits in a narrow region of western Honshu Island. The loach inhabits rivers and irrigation channels with gravel substrates hiding in crevices or holes, and spawns for a few days in the early rainy season at temporarily submerged, flooded grounds, which were originally very common lowland environments in monsoon Asia. However, recent artificial environmental changes, especially river improvements and farm land consolidation, have destroyed such environments and resulted in many local population extinction. Volunteers and Japanese/local governments are performing restoration and maintenance of artificial floodplains for the spawning as well as surveillance of poaching, but this loach is still critically endangered with some serious problems. In the agricultural area which has many restrictions, conservation techniques cannot be fully put to practical use. Although the technique of the ecology and civil engineering is effective for the restoration of floodplain environment and improvement of habitat, the sociological approach is crucial to utilize the technique in the local community.
  • — ミヤコタナゴ稚魚の生息環境評価と環境改善
    綱川 孝俊, 酒井 忠幸, 吉田 豊, 久保田 仁志, 佐川 志朗
    2012 年 15 巻 2 号 p. 249-255
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    国の天然記念物ミヤコタナゴの自然生息地において,ミヤコタナゴ稚魚の生息環境を調査した.生息環境条件を明らかにするために,一般化線形混合モデル (GLMM) を用いたモデル選択を行った結果,流速,水中カバーの有無,二枚貝に産み付けられていたミヤコタナゴの卵数の 3 つの説明変数を含むモデルがベストモデルとして選択された.流速は負の,水中カバーおよび卵数は正の回帰係数を示したことから,稚魚は流速が遅く,水中カバーがあり,卵数の多いところに生息していると考えられた.このモデルに基づいて生息地における稚魚の生息確率を予測したところ,水路上流部で生息確率が低いことが明らかとなった.そこで,上流部で稚魚の個体数増大を図るため,稚魚の生息環境条件に基づいて,水路底の掘削,杭の設置,二枚貝の放流による環境改善を実施した.環境改善の効果を検証するため稚魚の定位状況を調査したところ,稚魚観察数の合計は環境改善を行った調査区で 99 個体,環境改善を行わなかった調査区で 41 個体であった.稚魚数の約 71 %が環境改善区で確認されたことから,本研究で実施した環境改善によって,ミヤコタナゴ稚魚にとって生息可能な環境を増加させることができたものと考えられる.環境改善区で観察された稚魚が,その後も上流部で定着・繁殖することで,生息地全体の個体数の増大につながることが期待される.本研究で実施した生息環境条件の解析と構築されたモデルは,他のミヤコタナゴ生息地における生息環境の維持・復元を図る際にも,活用することが可能であろう.
  • : 保全のための基礎的知見として
    一柳 英隆, 渡辺 勝敏, 森 誠一
    2012 年 15 巻 2 号 p. 257-267
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/24
    ジャーナル フリー
    天然記念物の純淡水魚ネコギギに関して,一つの事業で行われた生息環境に関するマルチスケールでの調査と個体群の構造や変動に関する調査の結果概要を紹介した.河川スケールでは河川規模に応じた適切な勾配の場所,淵スケールでは流速が遅く,間隙が多い大きな淵,微細スケールでは流れが遅い場所に奥行きがある間隙が存在する場所で,ネコギギが確認される確率が高かった.個体数変動は流域内で同調的であるが地域によって変動の大きさが異なっており,相対的に河川規模が小さな場所と比べて,中程度の場所で大きかった.この個体数変動の大きさは,生息環境である大きな間隙の安定性と関係している可能性があった.ネコギギの保全には,まず,大きな淵内の流速が遅い場所に安定的な間隙を作ることが必要であると考えられる.さらに淵の個体群動態の特性を考慮して連結性を重視したり,淵の大きさを重視したりするなどの判断も必要になる.ネコギギに関しては,保全の基礎的な情報としての生態学的な知見はかなり蓄積されてきている.今からは,水理工学的・個体群生態学的検討を連結して進めつつ,現場での保全や復元行為を進めていくことに力点を置く段階にあると思われる.
特集:水田・水路生態系における魚類研究の現状と課題
序文
総説
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