応用生態工学
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16 巻, 2 号
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原著論文
  • 尾田 昌紀
    2014 年 16 巻 2 号 p. 65-76
    発行日: 2014/03/30
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    近年では生態系をベースとする資源管理が求められるようになった.琵琶湖の固有種であり水産重要種であるビワマスは明治時代から栽培漁業の対象とされ種苗放流が行われてきた.ビワマスにおいて生態系をベースとした資源管理に資する基礎的知見を得るために,琵琶湖北西部に流入する知内川においてビワマスの産卵生態と稚魚の浮上に関する研究を行い,近縁種のサクラマスとの比較を行った.ビワマスの産卵期はサクラマスやその亜種であるサツキマスよりやや遅く,10 月~12 月までの 2 カ月間におよび産卵盛期は 11 月であった.地球温暖化に伴う河川水温上昇の影響を考慮すると,高水温の影響を受けやすい 10 月の産卵群よりも 12 月の晩期産卵群を保護するほうが資源保護上有益であると考えらる.ビワマス稚魚の浮上時期は,1 ~ 5 月まで長期間続き,浮上期間が短期間に集中するサクラマスとは異なる特性を示した.1970 年代や 1980 年代の知見と比べると,2010 年代のビワマス稚魚の浮上時期が早くなっており地球温暖化による河川水温上昇の影響と考えられる.ビワマスの産卵床の内部構造調査を行ったところ,2010 年の知内川のビワマス雌親魚は,少卵数の小さな産卵床を複数造成していることが推定された.これは流量変動による産卵床破壊の危険性や環境不適応による埋没卵の死滅の危険性を分散させるための戦術と考えられる.ビワマスの産卵環境はサクラマスのこれまでの知見の範囲内であり,サクラマスと類似した環境を産卵場として選択しているものと考えられる.
事例研究
  • ―14年にわたるモニタリングと将来予測―
    加藤 絵里子, 浅見 和弘, 竹本 麻理子, 沖津 二朗, 中沢 重一, 松田 裕之
    2014 年 16 巻 2 号 p. 77-89
    発行日: 2014/03/30
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    福島県阿武隈川水系大滝根川に建設された三春ダムでは, 貯水予定区域内にフクジュソウが自生しており, 冠水の影響を受けることが明らかであった. そのため, 冠水前に, 一部を自生地に残し, 残りを保全措置として冠水しない 4 地点に分けて移植した. 本研究では, 試験湛水前の 1996 年から 2009 年までの 14 年間, フクジュソウの個体群を追跡した. 自生地では試験湛水後, 個体数は増加傾向にあり, 開花個体 (F), 結実個体, 芽生え (S), 幼植物 (J1~J4) も存在していた. 移植地 4 地点のうち造成地は, 移植後, 大幅に個体数が増加し, 生育している面積も拡大傾向であった. 残り 3 地点のうち自生地と同様の落葉樹林下の 2 地点は, 移植後 14 年を経た 2009 年段階で, 開花個体 (F), 結実個体, 芽生え (S), 幼植物 (J1~J4) も生育していたが, 開花個体 (F) 数に着目すると減少傾向であった. 自生地とは立地環境が異なり, 生育に不適と考えられた 1 地点では, 個体数は減少し, 2006 年以降開花が見られない状態であった. 生活史ステージごとに収集したデータを元に, 50 年間のフクジュソウ個体群存続確率を予測した. その結果, 自生地および造成地は長期的に個体群が維持されると予測された. 自生地と同様の落葉樹林下の 2 地点は 15~17 年は維持され, 生育に不適な地点は約 6 年で消失すると算出された. 2009 年のフクジュソウ開花・結実個体数は, 移植時より多い個体数までに回復し, 生育している面積も湛水前の自生地より広くなっている. 今後も少なくとも 2 地点では長期にわたり存続が可能であり, 移植により個体群は維持できると考えられる.
  • 藤原 結花, 内田 有紀, 川西 亮太, 井上 幹生
    2014 年 16 巻 2 号 p. 91-105
    発行日: 2014/03/30
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    愛媛県の重信川中流域に点在する灌漑用湧水池の魚類群集を,約 10 年を隔てた 2 時期 (1998-1999 年と 2008 年) 間で比較し,護岸改修工事やオオクチバスの定着が魚類群集にどのような変化をもたらしたかについて検討した.調査地である 11 の湧水池のうち 2 つが 2000 年以降に護岸改修 (素堀りから石積み護岸への改修) が施されたもので (改修湧水池), 別の 1 つは 1999 年においてオオクチバスの定着が確認されていたものである (バス湧水池). 出現種数,種構成,種毎の生息密度,および岸部の状態,底質,カバーといった環境要素を比較した結果,バス湧水池では,オオクチバス以外の種が激減するという大きな変化が認められた.このような顕著な変化はバス湧水池に特有のものであり,また,その 10 年間で環境要素に際立った違いは認められなかったことから,バス湧水池で見られた他魚種の激減は,オオクチバスによるものと考えられた.一方,改修湧水池では,改修工事に伴う大きな環境変化が示されたものの,魚類群集には顕著な違いは認められなかった.1 つの改修湧水池では種数は減少したが,もう一方の改修湧水池では増加していた.また,両改修湧水池で生息種の入れ替わりや生息密度の増減が認められたものの,そのような変動は他の非改修湧水池で見られた変動と同程度であった.それぞれの湧水池における各魚種の増減を総じて見た場合,生息密度が増加した例が 32 に対して減少したのは 56 例であり,全体的には減少傾向にあった.この減少傾向は,2008 年におこった水位低下による一時的な減少を含む可能性があるが,ヤリタナゴとタモロコの減少傾向については注意を払う必要があると思われた.これら 2 種は,以前生息していた湧水池の全て (ヤリタナゴ 6 池,タモロコ 2 池) から消失しており,これらの分布域や個体群サイズの縮小が示唆された.また,このことが氾濫原水域や農業水系網全体の劣化を示唆する可能性があることを指摘した.
  • 西田 守一, 浅見 和弘, 荒井 秋晴
    2014 年 16 巻 2 号 p. 107-117
    発行日: 2014/03/30
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    制限水位方式により運用されている三春ダム貯水池湖岸において,貯水池の水位低下により洪水期のみに出現する水位変動域の小型哺乳類による利用を明らかにした.水位変動域と通年陸域において捕獲・再捕獲調査を行った結果,208 個体のアカネズミと 2 個体のヒミズが捕獲された.水位変動域において,アカネズミは貯水池の水位低下直後の植生が乏しい (植被率 25%未満) 時期でも捕獲され,植被率の増加に伴い捕獲率は増加した.また,水位変動域で捕獲,再捕獲された個体が確認されたことから,水位変動域の利用は一時的なものではないと考えられる.アカネズミ捕獲率は,水位変動域と通年陸域で大きな差はなかったことから,水位変動域はアカネズミの生息地として機能すると考えられる.
  • 棗田 孝晴, 大木 智矢
    2014 年 16 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 2014/03/30
    公開日: 2014/04/18
    ジャーナル フリー
    千葉県北東部の谷津田で,トウキョウサンショウオ (Hynobius tokyoensis) の産卵場の分布と産卵場の周辺環境に関する調査を 2012 年に行った.3 月中旬から 4 月下旬にかけて 50 か所の産卵場が確認された.産卵場ごとの発見卵嚢数は 1 ~ 52 個の範囲 (平均 9.4 個) で,卵嚢数 10 個未満の少規模産卵場が全体の 70%以上を占めていた.産卵後の成体の再上陸および幼生の成長・変態後の上陸に関係すると考えられる水路幅,水深,堆積物深さ,斜面林距離,水路岸の勾配及び産卵場の面積の 6 変数を基にした一般化線形モデルの解析結果から,斜面林距離が本種の卵嚢数に有意な負の影響を及ぼすことが示された.変態後の幼体及び成体の通常の生息場所である斜面林と産卵場である水場との間の空間的な連続性を微視的スケールで保持することが,本種の個体群を存続させる上で重要と考えられた.
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