応用生態工学
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17 巻, 2 号
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原著論文
  • 小西 繭, 田崎 伸一, 高田 啓介, 井口 恵一朗
    2015 年 17 巻 2 号 p. 55-66
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
    里山の自然は,人為の介入によって培われてきた二次的な自然であり,それを保全するためには,適正な人間の働きかけが不可欠である.小型コイ科魚類シナイモツゴPseudorasbora pumila は,里山のため池でしか見ることのできない絶滅危惧種(IA 類)である.本研究では,シナイモツゴ生息地のある長野県の里山において,地域住民 549 世帯に対しアンケート調査を実施し,「シナイモツゴの生息する里山」の価値を仮想市場法により評価するともに,地域住民の里山保全に対する価値観に影響を及ぼす要因について考察した.仮想の寄付に対して賛成の意向を示す回答者は,反対を大きく上回り,保全キーワードの認知度が高い回答者ほど,シナイモツゴの生息するため池に対して高い価値を見出した.地域住民はため池に対し農業用水としての従来の直接的な利用価値だけではなく,シナイモツゴの生息地保全に通ずる存在価値や遺産価値を見出していることが強く示唆された.一方,500 近くあるため池の 4 割以上がすでに放棄されていると推定され,ため池のある環境を次世代に残したいという気持ちを強く心に抱きながらも,遺棄せざるを得ない厳しい現状のあることが浮き彫りとなった.里山の多様な生態系サービスならびに中山間地が荒廃していく現状について一般市民と問題意識を共有する主流化は,地域の枠組みを超えて里山の生き物の保全を推進するうえで,今後一層重要な課題になっていくと考えられる.
総説
  • ~自然堤防帯を例として~
    永山 滋也, 原田 守啓, 萱場 祐一
    2015 年 17 巻 2 号 p. 67-
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
    日本の平野部を流れる大河川では,治水目的の事業メニューの一つとして,高水敷の掘削が多く計画・実施されている.高水敷掘削は,洪水攪乱を受け易い低い土地を造成することから氾濫原環境の保全・再生と親和性が高い.本論では,高水敷掘削による氾濫原環境の保全・再生を進める上で重要な視座を得ることを目的とし,自然堤防帯(セグメント 2)に着目して,原生的氾濫原と河道内氾濫原(堤外地における氾濫原)を定義した上で,それらの構造と変遷,洪水攪乱に関連する 3 つの項目(冠水頻度,作用外力,土砂の堆積速度)について知見の整理と比較を行った.また,それを基に,高水敷掘削を手段とした河道内氾濫原の保全・再生に資する一つの管理手法を提案した.
     広大な後背湿地と自然堤防から成る原生的氾濫原は,連続堤の整備と土地利用の進展につれて,氾濫原としての機能を失った.そうした中,わずかながら“氾濫原的な環境”を残すことになったのが,堤外地に存在する河道内氾濫原であった.河道内氾濫原は,1970 年代以降,裸地状の砂州が維持されるほど頻繁に冠水や攪乱が生じていた動的なシステムから,澪筋が固定され樹林への遷移を許すほど安定的なシステムへと変容したことが,木曽川の事例から理解された.
     本川からの比高が拡大した高水敷を掘削する行為は,冠水頻度の面では,原生的氾濫原と同程度かそれ以上の状態に戻す操作であるが,そこに生じる作用外力と土砂の堆積速度は,原生的氾濫原のそれらよりはるかに大きい状況を創り出すと考えられた.つまり,原生的氾濫原が物理的に安定しているのとは対照的に,高水敷掘削によって再生・創出される河道内氾濫原は,地形変化に伴う環境の遷移が極めて速く,不安定な場であり,長期間の維持は困難であることが理解された.そこで,ゾーニングや森林管理における伐採回帰年の考え方を適用した循環的な管理手法を提案した.
短報
  • 神谷 宏, 大城 等, 嵯峨 友樹, 佐藤 紗知子, 野尻 由香里, 岸 真司, 藤原 敦夫, 神門 利之, 管原 庄吾, 井上 徹教, 山 ...
    2015 年 17 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
     日本の浅い 9 湖沼において滞留時間が内部生産に与える影響について解析を行った.クロロフィルa濃度と COD 濃度との分布から得られた回帰式を用い,クロロフィルa濃度が検出限界未満になるときの COD 濃度の値を外部負荷 COD とした.そして,外部負荷 COD から COD 濃度から引いたものを内部生産 COD(ΔCOD)と定義した.
    その結果,単位全リン(TP)あたりのΔCOD(ΔCOD/TP)と滞留時間とは,
    ΔCOD/TP
    =36.0 log(滞留時間(day))-23.5(R2=0.78, p<0.001)
    で表された.ただし,直近のデータを用いた霞ヶ浦についてはこの式からはずれた.その原因として,霞ヶ浦では濁度の増加によりΔCOD/TP 自体が減少していた.単位全窒素(TN)あたりのΔCOD(ΔCOD/TN)と滞留時間との関係は TP に比べて相関係数は低かった(R2=0.45).以上より,浅い湖沼において,内部生産 COD は滞留時間と TP 濃度との影響を受けていることが明らかとなった.
  • 福田 竜也, 健太郎 野崎, 山田 佳裕
    2015 年 17 巻 2 号 p. 89-99
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
    1. はじめに
     水資源に乏しい香川県では,河川水中のクロロフィルa 濃度が非常に高く,植物プランクトンによる有機物汚濁が深刻である.持続的な水利用のためには,植物プランクトンによる水質汚濁のメカニズムの解明が必要になる.本研究では香川県の主要河川の新川流域での植物プランクトンの空間的分布を明らかにし,その動態を解析した.
    2. 調査方法
     新川とその流域にあるため池に定点を設け,2010 年 10 月23 日,2011 年7 月16 日に水を採取し,光学顕微鏡により植物プランクトンの細胞数を計測した.
    3. 結果と考察
     2010 年10 月における新川の植物プランクトン細胞数は,上流では低く,様々な植物プランクトンが見られた.流域のため池密度が大きくなる中下流で著しく増加した.また,僅かな種類の植物プランクトンが 50%以上を占めた.7 月も同様に中下流で細胞数が上昇したが 10 月より少なかった.中下流の種組成は,いずれの調査日でも,Pseudanabaena sp. や Microcystis sp.,Anabaena spiroides のような富栄養湖で増殖する種が多くを占めていた.新川中下流域のため池は δ18O が高く,植物プランクトン濃度も高い.河川の植物プランクトンの組成は良く似ていることから,新川中下流では流域の富栄養化したため池の水が水源となっており,植物プランクトンがため池から河川に流入していると考えられる.灌漑期の 7 月は,灌漑用水の量,降水量ともに多くなる.河川中下流に有機物濃度の低い水が多く供給され相対的にため池の影響が小さくなることから,河川水の細胞数は低く抑えられると考えられる.
レポート
意見
  • 松井 明
    2014 年 17 巻 2 号 p. 105-108
    発行日: 2015/02/28
    公開日: 2015/03/20
    ジャーナル フリー
    我が国の社会資本整備について,①研究成果が実社会に活かされていない,②事後評価されていないという現状がある.これらを解決するために,(1)行政の人数を増やす,(2)行政が学会に参加したり,論文を発表したりすることで評価される仕組みをつくる,(3)学会が中心となって地域住民の環境への関心を高める,(4)予算を複数年度(事業前・事業中・事業後)にまたがって要求できるようにする,(5)事後評価し,フィードバックする仕組みをつくることを提案した.市民,行政および学会が双方向で協働し,かつ順応的管理をすることによって,将来の世代のために持続可能で,豊かな,安心して暮らせるまちづくりをしていかなければならない.
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