応用生態工学
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20 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 神谷 宏, 江角 敏明, 加藤 季晋, 勢村 均, 管原 庄吾, 田林 雄, 山室 真澄
    2018 年20 巻2 号 p. 167-177
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー

    宍道湖は,湖沼水質保全特別措置法の指定湖沼となっている汽水湖である.宍道湖では湖へ流入する汚濁負荷は減少しているが,湖水の化学的酸素要求量(COD)は増加している.この原因を明らかにするため,我々は COD に影響を与える可能性がある環境因子を用いて重回帰分析を行った.その結果,二枚貝ヤマトシジミ(Corbicula japonica)の漁獲による系外への COD 除去量の減少が宍道湖の水質改善の妨げになっていることが明らかとなった.これまで指定湖沼の水質改善は,栄養塩流入負荷の削減によって達成されると考えられてきた.湖沼水質の効果的な管理・保全を行う上で,生物を通じた物質循環が湖沼水質に与える影響を考慮することが不可欠であることが示された.

  • 永山 滋也, 塚原 幸治, 萱場 祐一
    2018 年20 巻2 号 p. 179-193
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー

    土地区画整理事業に向けた流水生イシガイ類の一時的な移植場所と移植時期を検討するために,4 つの移植場所において試験的に流水生イシガイ類 3 種(カタハガイ,オバエボシガイ,マツカサガイ)の移植を行い,移植後約 2 年間の成長,生残,消失を調べた.ため池の移植個体は成長量が大きく,生残率は高く,消失率は低かったことから,ため池は移植場所として最も有効であると考えられた.支線水路の移植個体は,成長量が大きく生残率は高かったが,消失率も高かったことから,流出防止策を講じたうえで移植を行うことが望ましいと考えられた.幹線水路では,移植個体の成長量は小さく,消失率は低いものの生残率が低かったことから,移植場所として不適であると考えられた.しかし,主な死亡要因が流量管理に関連した干上がりだった可能性があることから,適切な管理体制があれば移植場所として活用できると考えられた.イシガイ類は暖かい時期(5 ~10 月)によく成長したが,死亡数も増大した.また,消失数の増大は台風の時期(8 ~10 月)と 3 月の突発的な豪雨時の流出によるものと考えられた.そのため,移植は死亡と流出リスクの低い冬季に行うことが望ましいと考えられた.以上の結果に基づき,移植場所の選定および移植方法について一般的な活用に向けた提言を行った.

事例研究
  • 丹羽  英之, 谷口 直哉
    2018 年20 巻2 号 p. 195-203
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー
    ノウルシは増水により攪乱される立地に生育する植物で準絶滅危惧種である.地上部が見られるのが 3 ~6 月であり,生育していることを知られないまま人為改変により生育地が消失している可能性がある.本研究では,UAV を用いることで,地上部が見られる期間が限られるノウルシの分布と,分布に影響を与えると予測される環境要因を効率的に把握することを試みた.複数時期の撮影画像から,ノウルシの判読適期が 4 月中旬であること,画像判読だけで 82.8%のノウルシのパッチが判読できることを示し,本梅川におけるノウルシの分布を明らかにした.また,年最大水位直後に撮影した画像から年最大水位の痕跡を判読するとともに,11 時期の撮影画像の判読によりノウルシ生育箇所の草刈りの範囲と時期を把握した.多年生植物であるノウルシと環境要因の分析には経年的なデータ取得が必要であるが,継続的に調査できる方法を提示することができた。
  • 斎藤 昌幸, 土屋 一彬, 倉島 治, 伊藤 元己
    2018 年20 巻2 号 p. 205-212
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー

    本研究では,人口密度と都市的土地利用割合の関係が都道府県によって異なるのかどうかを3 次メッシュ単位で解析した.まず,既存の人口密度と土地利用による基準値を用いて都市メッシュ数を算出したところ,多くの都府県で都市的土地利用より人口密度による基準で都市メッシュ数がやや多くなる傾向にあったが,北海道では人口密度による基準値のほうで都市メッシュ数が少なかった.都道府県ごとに人口密度と都市的土地利用割合のピアソンの相関係数を算出したところ,平均 0.82 という高い値が得られたが,北海道や岩手県では 0.6 前後という比較的低い値が得られた.このような違いが木本種数の予測モデルに影響を及ぼすのか関東地方と北海道を事例に解析したところ,関東地方においては人口密度が有意な変数として推定されたが,北海道においては関東地方と反対の結果が得られた.都市化の指標として人口密度や都市的土地利用割合を用いる際には,それぞれの指標には高い相関があるものの,その関係に地域差が存在することを認識する必要があるだろう.

短報
  • 久保田 由香, 門脇 勇樹, 佐貫 方城, 中田 和義
    2018 年20 巻2 号 p. 213-219
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/05/11
    ジャーナル フリー

    農業水路における環境配慮区間内での魚類の移動および有効性について検討することを目的とし,複数の環境配慮工法が施工され,非灌漑期においても水涸れしない岡山県総社市の農業水路に 5 ヵ所の調査地点を設定し,調査を実施した.この調査では,2014 年 7 月から 2015 年 12 月にかけて計 6 回,主要生息魚種のフナ属・アブラボテ・カネヒラ・ヌマムツ・ドジョウ・ドンコの 6 種を対象とした標識魚の追跡を実施した.その結果,計 133 個体の標識個体が再捕獲され,そのうち 114 個体は環境配慮区間の同一地点内で捕獲された.すなわち,長期間に及び環境配慮区間の同一地点に留まる個体が多数認められた.このことから,調査水路に施工された環境配慮工法は,魚類に対して好適かつ恒常的な生息場を提供していると考えられた.したがって,非灌漑期でも通水があり水深が低下しない水路では,有効な保全工法を伴う区間が確保されていれば,魚類の恒常的な生息場として有効に機能すると思われた.

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