応用生態工学
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5 巻, 2 号
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  • 高橋 和也, 林 靖子, 中村 太士, 辻 珠希, 土屋 進, 今泉 浩史
    2003 年 5 巻 2 号 p. 139-167
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/12/02
    ジャーナル フリー
    これまでに国内外で実施されてきた水辺林の生態学的機能と保全・整備のための基準幅に関する研究事例や,すでにある基準幅の考え方をレビューし,水辺域および水辺林がもつ生態学的機能を総括するとともに,期待する機能に応じた緩衝林帯の適正幅を提示することを本論の目的とした.
    研究事例によって緩衝林帯の適正幅にはバラツキがあったが,我が国の地形や植生を考慮して,研究者によって支持されている適正幅にもとづき,水辺緩衝林帯の適正幅を提示した.
    日射遮断効果,落葉リター等有機物供給,倒木供給機能は,水系次数3次までの上流域で重要な水辺林の機能であり,30m程度までの幅が適正幅と考えられた.また,微細砂の捕捉機能については,水辺林地形面の斜度や地表面粗度,土壌の種類によって効果が異なることから,一定値を保全幅として決定することは困難であると考えられた.栄養塩の除去機能に関しては,土地利用が進んでおり畑地等栄養塩の供給源が隣接する水系次数の大きい平野部でより重要な機能と考えられ,10~20m程度の緩衝林帯が必要であると考えられた.魚類等の保護に対しては,30m程度の緩衝林帯を推薦する研究が多かったが,これらは主に山地渓流魚を対象とするものである.水辺林のハビタットやコリドーとしての役割については,対象生物によって大きく異なり,対象生物ごとに水辺林の幅を個々に検討する必要がある.レビューの結果では,両生類,爬虫類,哺乳類では最大で100m程度の幅の水辺林が,鳥類では最大で200m程度の幅の水辺林が必要であると考えられた.微気象保全については研究途上であり,明確な目安を提示するに至らなかった.
    今後は幅の議論のみならず,流程に沿った河川縦断方向,さらに水系網の視点から水辺林保全・整備の考え方が構築されていくことが期待される.
  • 神宮字 寛, 森 誠一, 柴田 直子
    2003 年 5 巻 2 号 p. 169-177
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    秋田県の農業用水路を対象に,維持管理作業がイバラトミヨ雄物型の営巣場所の環境条件に与える影響を調査し,営巣場所保全のための維持管理方法を検討した.維持管理作業を5月の上旬に1回実施した1999年と5月~8月まで月1回実施した2000年とで比較した結果,1999年に形成された総営巣数が36個であったのに対して,2000年は14個と大きく減少した。維持管理回数の多い条件下では,営巣場所の水位低下,流速増加,営巣の支柱となる水生植物が限定されるなど営巣場所の環境条件が変化した.以上のことから,営巣場所の保全と水路の流下能力を維持するための条件的管理方法として,保全区域を設定した維持管理方法を提示した.保全区域は,繁殖の想定される植生帯を有する50~60m区間および50~72m区間の右岸側のセキショウ群落帯とする.
  • 高橋 一秋, 紙谷 智彦
    2003 年 5 巻 2 号 p. 179-188
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    道路沿いの盛土法面に緑化木として植栽された鳥散布植物が,鳥散布植物の移住を促進させるかどうかについて検討した.結実季節の異なる鳥散布植物や風散布植物の樹冠下と緑化木が植栽されていない草地に散布される鳥散布種子や出現する鳥散布植物の構成を比較した,対象とした緑化木は,鳥散布植物として初夏に液果を着けるソメイヨシノ(9個体)と秋から冬にかけて液果を着けるナナカマド(10個体),風散布植物としてクロマツ(10個体)とした.一方,緑化木が植栽されていない対照区は,ススキ草地(10ヵ所)とした.鳥散布種子の調査は,各調査木の樹冠下とススキ草地の10ヵ所にシードトラップ(1.5m2,0.86mmメッシュ)を1個ずつ設置し,夏期(30日間)と秋冬期(150日間)に行った.また,植生調査は,各シードトラップに隣接して調査枠(lm2)を4個ずつ設置し,晩夏に行った.
    シードトラップに捕捉された鳥散布種子の種数および個数は,ススキ草地よりも緑化木の樹冠下で有意に多かった.同じ緑化木であっても,クロマツの樹冠下よりもソメイヨシノとナナカマドの樹冠下で有意に多かった.緑化木の樹冠下に落下した鳥散布種子の結実季節は,その緑化木の結実季節と有意な重なりを示した.また,植生調査枠に出現した鳥散布植物についても,鳥散布種子の場合と同様な結果を示した,
    したがって,鳥散布植物の緑化木は,特に,その緑化木と結実季節が重なる鳥散布植物の移住を促進させることが明らかになった.すなわち,緑化のために植栽された鳥散布植物は,鳥類にとって魅力的な植物であり,自然植生の復元を促進させる植生誘導木の役割を果たしていた.
  • 加藤 和弘, 一ノ瀬 友博, 高橋 俊守
    2003 年 5 巻 2 号 p. 189-201
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    多摩川中流部の水辺における鳥相及び植生の調査結果を「分類樹木」の手法により分析し,その有効性を検討した.分類樹木は,機能的には判別分析に相当するが,本研究において得られた判別精度は,両者でほぼ同等であった.一方,分類樹木は,Yes-No型の条件判断を繰り返すことで最終的な判別に至るという,わかりやすい構造を持っており,判別分析に比べてより広範囲に応用可能であると考えられた.また,説明変数問に交互作用がある場合にも有効な手法であることが確認された.結論として,ランドスケープ計画においては判別分析に比べて分類樹木が利用しやすく,今後広く利用され得る手法であると言える.
  • 角野 康郎
    2003 年 5 巻 2 号 p. 203-204
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
  • 池内 幸司, 金尾 健司
    2003 年 5 巻 2 号 p. 205-216
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    頻発する水害に効率的に対応するために,河道の直線化,定規断面化,河道の固定化,コンクリート護岸の整備等が進められ,治水上の観点からは一定の効果は上がったものの,その代償として河川環境や景観に大きな影響を与えてきた.このような状況に対して,1981年の河川審議会の答申において,治水,利水,河川環境が全体として調和がとれるよう河川環境管理を行うことの重要性が謳われた.1990年には,「多自然型川づくり」の推進について通達が出され,「河川が本来有している生物の良好な成育環境に配慮し,あわせて美しい自然景観を保全あるいは創出」する「多自然型川づくり」がパイロット的に実施され,全国各地で様々な試みがなされた.1997年には,河川法が改正され,法の目的に「河川環境の整備と保全」が位置付けられた.これを受けて,「多自然型川づくり」の本格的な実施,各種基準の改定,自然共生研究センターの設立など,河川環境の保全・復元に関する施策がより一層積極的に推進されている.
    これまで行われてきた多自然型川づくりの事例は,河岸域の保全・復元,限られた区間の河道形態の保全・復元,河畔林の保全・復元,地先の河川改修工事を行う際の環境影響の軽減など,河道の限られた部分に視点を置いた事例が非常に多かった.河川全体の自然環境保全の視点から策定された河川計画の先駆的な事例(北川(宮崎県),乙川(愛知県))を紹介した.
    既往の人為的な影響で損なわれてしまった河川・湖沼・湿地等の自然環境を再生することを主目的とした自然再生事業(2002年度制度創設)の考え方とその内容について述べた.
    多自然型川づくりの果たしてきた役割について考察を行うとともに,河川環境の保全・復元に関する今後の課題について論じた.
  • 中村 太士
    2003 年 5 巻 2 号 p. 217-232
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    河川・湿地生態系は,森林(植物群集)と河川の相互作用系,上流から下流に向けての土砂・有機物・栄養塩・熱エネルギーの流れ,洪水(土石流)攪乱や氾濫原によって特徴付けられる独特な生態系であり,自然復元にあたってはこれらの特徴を回復・維持することに主眼がおかれなければならない.現在,日本の河川・湿地生態系では,こうしたプロセスの分断と水域・陸域の生態系の分離が顕著である.
    復元(restoration)は「人為的攪乱以前の環境に戻すこと」として定義されるが,修復(rehabilitation)は「人為的影響が強く元に戻すことが不可能な場合,重要な機能と生息場環境を提供する自律した生態系をめざして改良すること」として定義される.日本の場合,土地利用的制約から後者を適用した方が良い場合が多い.自然復元計画における事前調査では,過去50年程度のデータをできるかぎり流域レベルで収集し,生態系の劣化をもたらしている要因を明らかにすることが重要である.
    自然再生事業に対しては,目的→目標→実施→評価(モニタリング)の手順を公開で進めることが必ず要求される.目標としては,周辺域で再生区の自然環境に等しく,未だ人為的影響を受けていない地域を選出することが望ましい.しかしこうした地域が存在しない場合,過去の空中写真や資料から目標像を描く以外方法はなく,北海道では1960年頃の景観が目標像となる可能性が高い.モニタリングによる評価方法としては,できる限りくり返しを持ったBefore(事前)-After(事後)-Reference(標準区)-Control(対象区)-Impact(再生区)(BARCI)で実施することが望ましい.復元計画でまず考えなければならないことは,事前調査で明らかになった生態系の劣化を進めている制御・制限要因を取り除くことであり,回復力のある生態系はこれだけで元に戻ることができる.人間が積極的にかかわって工事を実施し自然にもどそうとする行為は,最終的な手段である.
    釧路湿原の保全計画では,水辺林・土砂調整地による流域負荷量の軽減,ならびに蛇行氾濫原・湿地の復元などが計画されている.現在,湛水実験によるハンノキ林の制御,湿原再生のためのBARCIの実施,さらにデータベースの構築とWebによる公開をめざしている.標津川では蛇行河川ならびに氾濫原再生をめざして,過去のデータの収集と目標像の設定を行った.現在は,河跡湖を一部本川と連結する実験を行っており,河床変動,栄養段階,魚類,植生,水質,地下水などの観点から蛇行流路復元の効果が明らかになると思われる.
  • 島谷 幸宏
    2003 年 5 巻 2 号 p. 233-240
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    多摩川永田地区では2001年から2002年にかけて河原の再生に注目した河道修復が国土交通省関東地方整備局京浜工事事務所で行なわれた.本文では,修復にいたる経緯,修復目標の設定,修復の方法について述べ,考察を行なった.
    1995年に河川生態学術研究会多摩川グループが発足し,永田地区を対象とする研究が開始された。近年,永田地区では砂利掘削などにより河道形状が変化し,河原が減少し,カワラノギクに代表される河原に依存する生物が絶滅の危機に瀕していること,かわって外来種であるハリエンジュが増加していることなどが明らかとされた.1998年,多摩川グループが行なっている市民向けの発表会で,ハリエンジュの伐採は可能かということが討論された.それを契機に,京浜工事事務所は,植生管理基本検討会を設け,討論の結果ハリエンジュを伐採し,河道修復を行なうこととなった.
    河道修復は2段階で行なわれることになり,第1ステップとして絶滅の危機に瀕しているカワラノギクを代表とする河原の生物の保全を目標とし,次の段階で,扇状地河川特有の微地形に起因する環境を目標とすることとなった.
    具体的な修復方法は,51.7km~52.4kmの右岸側の,高水敷上のハリエンジュを伐採し,表土を剥ぎ取り,掘削を行い,低水路を拡幅し礫河原を造成し,永田地区の直上流の河床に砂利を敷き詰め土砂供給を行なう。透かし礫層の造成方法,造成された面の水面からの比高は,数通りのものが実験的に与えられた。
    永田地区の河道修復は水系全体のシステムの修復ではなく,永田地区を対象とした,部分的な動的システムの修復であり,社会の変化を考えたとき,多摩川では部分修復が現実的であることを考察した.また,永田地区では,人間が与えたインパクトを取り除いただけでは,自立的な修復は望めず,人間が何らかの形で関与しながら河原を維持することが現実的であることを考察した.
  • 鈴木 信広, 宇多 高明, 島谷 幸宏, 宮本 高行, 大塚 康司, 小林 一士, 日下部 千津子, 加藤 憲一, 平山 禎之, 風間 崇宏 ...
    2003 年 5 巻 2 号 p. 241-255
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    本論文では,護岸前面に河道内の浚渫土砂を投入し,風波等自然の力によって干潟を形成させ,水制によって形成された干潟の安定化を図るという手法で干潟の復元を行い,養浜変形・生物調査の追跡調査によりその評価を試みた.
    養浜地形の追跡調査の結果,城南地区では,土砂投入後,河口方向からの入射波によって生じた沿岸漂砂によると考えられる養浜土砂の上流向きの移動が見られた.城南地区の上流端にはヨシ帯が存在するが,このヨシ帯が水制と同様な土砂移動阻止機能を発揮した結果,移動土砂はその周辺に堆積したと考えられる.
    一方,白鶏地区では養浜砂の粒径が城南地区と比較して相対的に細粒であったために初期状態において沖向きの土砂移動が顕著に生じ,冬季の風浪によって下流方向への移動が生じたと考えられる.しかしこの場合,水制によって土砂移動がかなり阻止され,流出しにくい物理環境が再生されたと考えられる.
    干潟が安定するまでには約2年間を要したが,河岸線近傍に安定した砂浜が復活し,平均潮位~平均干潮位の間で生物活動が活発な潮間帯の面積(干潟)を広げることができた.造成した干潟では,物理的条件の違いによって様々な粒径の底質となり,その底質に応じた底生生物が生息、していることが確認できた,細砂が卓越している場所ではコメツキガニが多く見られ,シルト・粘土が卓越している箇所では,イトゴカイやソトオリガイなどが確認でき,特に平均潮位(T.P.±0.0m)より低い地盤高(T.P.-1.2m~T.P.±0.0m)を生息域とするゴカイ・ヤマトシジミ・コメツキガニが確認できた.
    以上のように,主に干潟に生息していたと考えられる種に注目したが,ヨシを除いては生息が確認され,干潟としての役割をおおむね果たしていると考えられる.
    「なぎさプラン」を実施したことにより,(1)水制によって土砂が流出しにくい物理的環境を再生できたこと.(2)外力条件(波・風等)によって底質が異なり,その底質と地盤高に適応している底生生物と魚類が生息するようになり,かつて干潟で確認できた種の出現が確認された.以上より,なぎさプランは当初の目的をほぼ達成したと考えられる.しかし,再生された干潟のさらに長期的な安定性,洪水時の安定性,さらにはヨシ原の再生などのより長期的な問題については今後の課題である.
  • 萱場 祐一
    2003 年 5 巻 2 号 p. 257-263
    発行日: 2003/02/28
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    本報では自然共生研究センターにおける研究活動の取り組みを紹介し,実験河川で実施した魚類の生息とハビタットに関する研究を事例研究として報告した.ここでは,河道を横断方向に流水域と水際域に区分し,流水域においては早瀬,淵,平瀬,とろの4つに,水際域においては植生の有無の2つにハビタットを分類した.これらの組み合わせによりハビタットを類型化し,実験河川内の魚類の生息量との関係を分析した。その結果,流水域に早瀬と淵が存在する場合は生息量が有意に大きかった.また,水際植生の有る場合は無い場合に比べて生息量が増加する傾向が見られたが,その増加量は早瀬と淵が存在する場合に比べて小さかった.本結果は,中流域の多自然型川づくりを考える上で流水域のハビタットが重要な保全対象であることを示唆している.
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