応用生態工学
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6 巻, 1 号
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  • 今本 博臣, 後藤 浩一, 白井 明夫, 鷲谷 いづみ
    2003 年 6 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    1998~2000年にかけて公団管理15ダムの無土壌岩盤法面で,植生調査および毎木調査を実施し,以下の結果を得た。調査区は無土壌岩盤が19カ所,林縁部が4カ所,対比区が3カ所であった.
    ・外来牧草主体の緑化工を実施した地区は,施工後20年以上経過しても依然として外来牧草が優占しており,在来種への移行がほとんどみられなかった.
    ・緑化工を実施していない地区は,施工後20年以上経過すると,アカマツ,ハリエンジュ,ハゼノキ,アカメガシワ,ヌルデ,リョウブ等の先駆性樹種を中心とした樹林に移行していた.
    ・在来種の中ではアカメガシワ,リョウブ,アカマツ,ヌルデが,岩,れき質といった植生の生育基盤としてもっとも悪い場所においても良好な生育を示した.
    ・無土壌岩盤法面における生育樹種は,基盤条件が大きな影響を与えているという傾向が見られた.
    ・植物の多様度は,外来牧草主体の緑化工を実施した調査区で低く,緑化工を実施していない調査区および緑化工を実施した林縁部で高かった.
  • 齋藤 大, 宇野 正義, 伊藤 尚敬
    2003 年 6 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/12/02
    ジャーナル フリー
    さくら湖(三春ダム)において洪水調節を目的とした水位低下がオオクチバスの繁殖に与える影響について調査し,検討を行った.
    試験湛水前から継続した捕獲調査の結果,オオクチバスは侵入直後に増加し、特に水位低下のない前貯水池において激増する傾向が認められた.侵入直後に増加したオオクチバスは,すぐに減少する傾向が全水域に共通して認められたが,オオクチバスが激増した前貯水池では,本種の被食魚が激減し,オオクチバスが減少してもその傾向が継続することが示された.
    成魚の生殖腺分析,当歳魚の耳石輪紋計数の結果,さくら湖における繁殖期は,日平均水温が15℃から21℃に上昇する5月上旬から6月下旬であると推定された.
    水位低下後に採取した当歳魚には,水位低下中の前貯水池で孵化した個体が含まれなかったことや,水位低下中の湖岸で孵化後20日程度の当歳魚の群れが水際で死亡していることが確認されるなど,オオクチバスの繁殖期に合わせた水位低下が本種の繁殖を抑制するものと考えられる.以上の結果から,日平均水温が15℃から21℃に上昇する時期に0,27m/day以上の速度で2.5m以上(約9日間以上)水位低下することは,本種の繁殖抑制につながることが推察された.
  • 田中 規夫, 浅枝 隆, 関 渉
    2003 年 6 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    湿地植生の遷移は自然再生事業において維持管理上重要な視点となる.しかし,抽水植物の拡大特性や遷移については不明の点が多いため,抽水植物間の競合の優劣を考慮し立地条件を把握することが重要な課題となっている.本研究は,日本産ガマ科3種(コガマ,ガマ,ヒメガマ)の地下部動態の相違からその生長戦略を探り植生管理に必要な知見を得ることを目的とした.
    現地観測では,各器官毎の乾燥重量の季節動態,群落生産構造の調査(群落内の日射量と高さ毎のバイオマス計測),群落の密度,葉面積,植物体内に含まれるNの含有率を計測し生長戦略を分析した.また,より詳細な過程を推論するため,生長モデルによる解析を行った.
    現地観測の結果,ガマ科のR/S比,Root/Rhizome比は,生育する湛水深と関係があり,深い湛水深で育つ種ほど地下茎が発達し,相対的に根の割合が少なくなることが明確となった.ガマとヒメガマの地下茎の栄養に従属する生長期間は土壌栄養状態が貧しいほど長いことが確認されたが,コガマの従属生長期はそれらよりも非常に短い.コガマとヒメガマの器官間の栄養輸送フラックスを光合成に対する割合で評価したところ,従属生長期における地下茎の利用は量・期間ともにヒメガマよりも少ないことが判明した.すなわち,コガマは地下茎の栄養に従属する割合は低く生育する地点を先取りすることを優先とした生長を行い,拡大能力で勝負するガマや,地下茎を大きく太らせることで深い湛水深にたえるヒメガマとは異なる戦略が確認された.ウェットランドを適切に維持管理するためには,種毎の地下部動態や生長戦略を把握する必要がある.
  • Akiko SASAKI, Takayuki NAKATSUBO
    2003 年 6 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    ネコヤナギSalix gracilistylaは日本の河川流域に広く分布する低木性のヤナギで,西日本の上・中流域では主要な河畔植生の一つとなっている.またネコヤナギは多自然型護岸工法の一つ,柳枝工法にしばしば利用されている.本研究では,河川環境の保全・復元計画においても重要な情報となると思われるネコヤナギ低木林の現存量と地上部生産量の推定を行った.
    広島県太田川中流域の砂州に調査地を設け,5月から10月の間の各月と12月に,シュートの地際直径と各器官の重量の間の相対成長関係を求めた.また毎月調査シュートの地際直径を測定し,肥大成長を求めた.その結果5月から10月にかけて著しいシュートの肥大成長が認められ,地際直径は30%増加した.生育期間終了時の12月にコドラート内の全シュートの地際直径を測定し,肥大成長と相対成長関係から各月の群落1m2あたりの地上部現存量を推定した.その結果,5月に0.9kgm2であった地上部現存量は6月以降増加し,9月に最大(2.2kgm-2)となった.旧年枝・幹の現存量は5月から12月にかけて群落1m2あたり0.4kg増加した.9月における群落1m2あたりの葉,当年枝の現存量はそれぞれ0.6,0.3kgであった.生育期間終了後(2月)に群落内の一部を掘削して求めた地下部現存量は1.6kgm-2であった.5月から12月にかけての旧年枝・幹の現存量の増加と,9月における葉,当年枝,当年シュートの現存量から,ネコヤナギ群落の地上部生産量は1.3kgm-2yr-1と推定された.この値は他の先駆性木本や温帯林の生産量に比肩する値であった.以上の結果から,ネコヤナギは現存量は比較的小さいながら,潜在的に高い生産力を持つことが示された.またネコヤナギは土砂による埋没と萌芽形成の繰り返しによって群落面積を急速に拡大することから,植生を復元する際には有用な樹種であると考えられた.
  • 村上 哲生, 服部 典子, 舟橋 純子, 須田 ひろ実, 八木 明彦
    2003 年 6 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    硫酸アンモニウム(硫安;(NH4)2SO4)は,スキー場の雪面硬化剤として,日本では良く使われている.1970年代より,スキー場開発が進められている長良川上流域(岐阜県)の渓流において,窒素汚染の実態を調査した.流域面積の50%をスキー場が占める渓流では,無機態窒素濃度と負荷量は冬季に著しく増加した.即ち,無機態窒素濃度は,降雪のない時期には約0.2mgL-1であったが,冬季には1.2mgL-1に達した.また,年間の無機態窒素負荷量に対する冬季の寄与率は70%と推定された.このような冬季における窒素濃度と負荷量の特異的な増加は,他の対照とした渓流では観測されなかった.硫安が散布されている時期においても,渓流の無機態窒素の90%以上が硝酸態であった.低温環境下でも硝化により,アンモニウムが硝酸に変化しているらしい.
  • ダム下流河川における土砂投入の効果
    梶野 健, 浅見 和弘, 中嶌 一彦, 杉尾 俊治, 林 貞行, 高橋 陽一
    2003 年 6 巻 1 号 p. 51-58
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    浦山ダムの下流河川で,河床構成材料の粗粒化および生物の生息・生育環境の悪化を防止するため,貯水池上流端に堆積した土砂を堤体下流に投入する「土砂投入」を実施した.
    土砂投入の生物に対する効果を検証するため,ウグイの産卵場を調査対象とし,ウグイが投入土砂を産卵場として利用するか,投入土砂にトレーサーとして糖晶質石灰岩を混入させ,調査した.
    現地調査の結果,トレーサーの混入した河床でウグイの産卵が確認され,投入土砂が産卵場として利用されたことが証明された.
    投入土砂以外でも産卵が確認されたが,自然の状態で産卵が確認されたのは1箇所のみであった.
    確認された産卵場の状況から,洗い砂利の存在する平瀬の維持が,ウグイの産卵場の保全につながると考えられたが,浦山ダム下流は土砂の供給がないため,産卵場を維持するためには,今回実施したような土砂投入が有効な対策と考えられた.
  • Mahito KAMADA, Yasuhiro TAKEMON, Hyoseop WOO
    2003 年 6 巻 1 号 p. 59-60
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
  • Hyoseop WOO, Hyeon Soo KIM, Hong Kyu AHN
    2003 年 6 巻 1 号 p. 61-72
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    Ecological engineering is at a beginning stage in Korea, with its concept first introduced only in the early 1990s. A rebirth of the concept of ESSD (Environmentally Sound and Sustainable Development) by the Rio Summit in 1992 and surprisingly rapid dissemination of its concept into the major sectors of development activities would give the most profound impact on the ecological consideration in large-scale development projects as well as land and river plans. Basic knowledge and experience of the ecological engineering, mostly adapted from Germany, U. S. A. and Japan, have been applied in the several fields of civil engineering practice, such as stream and river management, highway construction and land and new-town planing. Since the mid-1990s, the Korean government has sponsored various research and development programs of ecological engineering and techniques-the third generation of environmental technology-in order to develop and disseminate the ecological engineering and techniques to conserve and restore the fragile national ecosystem. Academia is trying to make those knowledge and experience, still fragmented and crude, to be systematic and analytic. Ecological engineering, then, will be established as an important discipline in both academia and engineering-practicing societies.
  • Keiko NAGASHIMA, Nobukazu NAKAGOSHI
    2003 年 6 巻 1 号 p. 73-85
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    近年,森林管理と土地利用政策が一体化した包括的な資源管理システムの構築が世界的な課題となっている.ニュージーランド(NZ)は自然林と人工林の役割を分化するとともに,資源管理法を策定し,いち早く包括的な資源管理システムを構築した.本稿では,多くの示唆に富むNZの資源管理システムの構築過程とその効果・問題点について概説する.また,我が国の森林管理システムとの比較も行う.
    NZは自然林を環境保全に人工林を木材生産に,とその役割を分化させた管理を行っている.このような管理が可能になったのは,(1)自然林の多くが既に伐採され,急斜面に残存するのみであること,(2)人工林による林業が盛んであること,(3)森林管理の効率化と環境保護活動の圧力の存在,が背景として挙げられる.そのため,森林の分布状況や林業の現況が大きく異なる我が国では,このような森林管理方針を導入するのは難しいと思われる.しかし,森林管理に携わる行政機関や関連法規の役割を明確化させることは有益と思われる.
    資源管理法は,中央省庁・地方自治体の改革そして環境に関する法規の統合という過程を伴って制定された.資源管理法は各省庁間や各法律間の矛盾や対立をなくし,包括的な資源管理を可能にする素地を提供したといえる.我が国では包括的な資源管理を実践するために,法律を付け加えることで対処してきたが,NZのように管理省庁や法律を徹底的に見直し,一貫性のあるシステムを構築することが必要と思われる.
  • Sung-Uk CHOI, Hyeongsik KANG, Kyongmin YEO
    2003 年 6 巻 1 号 p. 87-96
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    Vegetation on the streambed increases the total resistance but decreases the bed shear stress. However, when the drag force term is not separated from the resistance term in the momentum equation, increasing the roughness coefficient due to vegetation may result in increasing the bed shear stress. This is not realistic and crucial to the accurate assessment of sediment transported in the vegetated zone. This paper presents a 1D model for the simulation of flow and sediment transport in the emerging vegetated zone. The model consists of depth-averaged equations of continuity, momentum, turbulent kinetic energy, and its dissipation rate. The suspended load and bedload are estimated, and the bed elevation change is computed by solving the Exner's equation. The model is validated through comparisons with experimental observations. Then, the model is applied to predict the morphological change of the emerging vegetated zone in response to the flood. The developed model can be used to the management of vegetated islands within watercourse made naturally which are important to river restoration projects nowadays.
  • Ahmad Jailani Muhamed YUNUS, Nobukazu NAKAGOSHI, Ab Latif IBRAHIM
    2003 年 6 巻 1 号 p. 97-110
    発行日: 2003/08/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    マレーシアのピナン川流域において,人間活動による土地利用形態の変化は,特に下流域の河川水質を悪化させつつある.本研究では,ピナン川流域における土地利用変化を明らかにした上で,それが河川の水質に与えた影響を評価した,1992年,1996年,および2000年の土地利用の被覆状況をランドサットの画像データから地図化し,その経年変化をGISを用いて把握した.そして,4つの小流域および全流域を対象に経時観測されている水質データ,およびそれをもとに算出される指標値(DOE-WQI)の経年変化を土地利用変化とあわせて検討した.なお,DOE-WQIは,マレーシア環境省によって採用されているものである.
    森林や低木林の面積は経年的に急速に減少する一方,都市面積(人工造成地)が増加していること,そして,景観が分断化されてきていることが判明した.小流域および全流域のDOE-WQIの値は,それぞれの流域に含まれる森林面積と正の相関を,都市面積と負の相関を持っていた.このようなことから,流域の土地利用計画や開発計画に,リモートセンシングやGIS技術を用いることが有効であることが確認、された.
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