ネコヤナギSalix gracilistylaは日本の河川流域に広く分布する低木性のヤナギで,西日本の上・中流域では主要な河畔植生の一つとなっている.またネコヤナギは多自然型護岸工法の一つ,柳枝工法にしばしば利用されている.本研究では,河川環境の保全・復元計画においても重要な情報となると思われるネコヤナギ低木林の現存量と地上部生産量の推定を行った.
広島県太田川中流域の砂州に調査地を設け,5月から10月の間の各月と12月に,シュートの地際直径と各器官の重量の間の相対成長関係を求めた.また毎月調査シュートの地際直径を測定し,肥大成長を求めた.その結果5月から10月にかけて著しいシュートの肥大成長が認められ,地際直径は30%増加した.生育期間終了時の12月にコドラート内の全シュートの地際直径を測定し,肥大成長と相対成長関係から各月の群落1m
2あたりの地上部現存量を推定した.その結果,5月に0.9kgm
2であった地上部現存量は6月以降増加し,9月に最大(2.2kgm
-2)となった.旧年枝・幹の現存量は5月から12月にかけて群落1m
2あたり0.4kg増加した.9月における群落1m
2あたりの葉,当年枝の現存量はそれぞれ0.6,0.3kgであった.生育期間終了後(2月)に群落内の一部を掘削して求めた地下部現存量は1.6kgm
-2であった.5月から12月にかけての旧年枝・幹の現存量の増加と,9月における葉,当年枝,当年シュートの現存量から,ネコヤナギ群落の地上部生産量は1.3kgm
-2yr
-1と推定された.この値は他の先駆性木本や温帯林の生産量に比肩する値であった.以上の結果から,ネコヤナギは現存量は比較的小さいながら,潜在的に高い生産力を持つことが示された.またネコヤナギは土砂による埋没と萌芽形成の繰り返しによって群落面積を急速に拡大することから,植生を復元する際には有用な樹種であると考えられた.
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