本研究は,放棄農地の湿原再生のモデル地区(釧路湿原広里地区)で,旧農地区域の地下水環境の実態を湿原区域との比較により明らかにするとともに,農地開発が地下水環境に及ぼす影響について検討し,以下のことを得た.
1. 地下水面は,湿原区域中央部をピークとしたマウンド状を示しており,主な水供給源は雨水であることが示唆された.また,湿原区域では,地表面水位が地表面近傍に現れ,地下水面変動も小さく,低層から高層湿原に移行する湿原の水文状態にあると考えられた.
2. 旧農地区域では,地下水面変動が大きく,さらに,地表面水位が低く乾燥しているという湿原区域の水文状態とは逆の傾向を示した.これは,明渠排水路による排水よりも,むしろ,旧雪裡川分断による河水面低下によってもたらされていると考えられた.また,地下水面変動が大きかったのは,降雨によって供給された地下水が速やかに旧雪裡川に排水しているためと考えられた.
3. 湿原区域では,地下水のナトリウムイオン·塩化物イオン·マグネシウムイオン濃度が高かったが,旧農地区域では顕著に低い傾向が得られた.これは,旧雪裡川への一方的な排水が卓越し,旧農地区域の塩類が排出されているためと考えられた.
4. 旧農地区域では,湿原区域に比べ,地下水のカルシウムイオン濃度が高く,炭酸カルシウムなどの土壌改良資材が土壌に残留しているためと考えられた.このように,旧農地区域では農地開発が行われておよそ30年経過しているが,現在も土壌改良資材散布の影響が残存している.さらに,約70年前に行なわれた河川の分断の影響が,河水面低下による水文条件の変化を通して,地下水水質の変化に現れており,広里地区旧農地区域を低層湿原の地下水環境に戻すためには,旧雪裡川の水位(流量)の確保や土壌改良資材の処理を検討することが重要であると考えられた.
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