応用生態工学
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7 巻, 1 号
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原著論文
  • 服部 昭尚
    2004 年7 巻1 号 p. 1-11
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    穏やかで透明度が高く,水鳥がほとんど生息しない琵琶湖の奥出湾(西浅井町大浦)において,沈水植物群落の構造とその季節変化をSCUBA潜水により調査した. 水深構造の違いが沈水植物群落へ及ぼす影響を把握できるように,岸から35mのベルトトランゼクト(幅4m)を水深構造が異なり30m離れた2地点に設置し,1997年5月から11月まで毎月1回,水中植生図を作成した. 両地点とも,外来種2種(オオカナダモとコカナダモ)と固有種1種(ネジレモ)を含む11種が観察され,毎月の出現種数に地点間で有意差はみられなかった. 両地点とも帯状分布が不明瞭で,混合群落がモザイク状に分布していた. 少なくとも5種類(ホザキノフサモ,オオササエビモ,エビモ,ヒロハノセンニンモ,ヒロハノエビモ)には,2地点間で成長パターンに違いが見られた. 本調査場所では,沈水植物の種組成を決める主要因の一つとされる波浪の影響(波浪による撹乱)が少なかったため,明瞭な帯状分布が成立しなかったと考えられる. 本研究は,水深構造のわずかな違いが,種組成や種数ではなく,いくつかの種の生長パターンに影響を及ぼすことを明らかにした. また,種毎の生長パターンの違いは,水生動物の生息地に重要な沈水植物群落の立体構造に変化をもたらす可能性がある.
  • 柳井 清治, 長坂 有, 佐藤 弘和, 安藤 大成
    2004 年7 巻1 号 p. 13-24
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    北海道札幌市近郊の渓流において木製構造物を造成し,渓流の物理環境構造とサクラマス現存量の変化を4年間にわたって調査した. 設置構造物の種類は,カラマツ間伐材とヤチダモ天然木を使ったログダム,ウエッジダム,およびデフレクターログであり,緩やかな流れと落ち込み淵を造り,渓岸侵食を防ぐことを目的とした. 施工の結果,施工前に比べて水深,流速そして渓床基質は著しく変化した. 落ち込み淵はウエッジダムの下流側に形成され,デフレクターの下流には緩やかな流れ,先端に速い流れが形成された. 施工以前の渓床は大礫が卓越していたが,施行後小礫や砂などが木製構造物の上下流に堆積した. この構造物がサクラマスに与える影響を,下流に標準区,対照区を設定し発眼卵と稚魚を放流してその密度を比較した. この結果,6月には当歳魚は標準区で最も高く,ついで施工区,対照区の順となった. とくに流れの緩い二次流路や水際のくぼ地区間に多く分布していた. また7,8月の密度は標準区が最も高かったが,施工区と対照区の差は殆どなく,施工区内においては落ち込み淵が形成された区間で,サクラマス当歳魚が多く見られた. しかし,10月には釣りの影響と考えられるサクラマス当歳魚の密度低下が生じた. 木製構造物の一部は腐朽して流出したものも見られたが,大部分は渓床を維持·固定していた. このような木製構造物が渓流に与える生態的,地形的な影響を総合的に考慮すると,悪化した渓流環境を改善する一つの工法となると考えられた.
  • 松井 明, 佐藤 政良
    2004 年7 巻1 号 p. 25-36
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,圃場整備済み水田地区の魚類相保全の観点から,茨城県下館市の整備済み水田用排水路を取り上げ,2002年5月から2003年6月の間毎週1回定期的に実施した現地調査に基づいて,魚類の生息実態,用排水路系の接続の意義および今後の用排水路整備の方法について検討し,以下のことを明らかにした.
    1. 定置網を用いて採捕された魚類10種はドジョウ,ナマズのように主に排水路系に分布し水田に移動する魚類,タモロコのように用水路系と排水路系の両方に分布する魚類の2タイプに大別された.
    2. 採捕された魚類は全般に灌漑期に多く,非灌漑期に少なかった.また,用水路系で採捕された魚類は少なく,河川から流入した個体と考えられるが,その一部は流水がない非灌漑期に水路中の深みに生息していた.
    3. 地表·地下排水の分離処理によって浅い小排水路を採用し小排水路と田面の落差を小さくすること,またそれを支線用水路と接続し用排水路間の往来を可能にすることが,上記2タイプの魚類の保全および水田の高生産性との両立を図る上で有効である.
    4. 灌漑期に用水路内に現存した魚類の保全対策としては,灌漑用水の停止前に,支線用水路から小排水路に落水し避難させることが簡便かつ効果的である.
  • —酪農草地化および河川改修が湿原地下水環境に及ぼす影響—
    山田 浩之, 中村 隆俊, 仲川 泰則, 神谷 雄一郎, 中村 太士, 渡辺 綱男
    2004 年7 巻1 号 p. 37-51
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,放棄農地の湿原再生のモデル地区(釧路湿原広里地区)で,旧農地区域の地下水環境の実態を湿原区域との比較により明らかにするとともに,農地開発が地下水環境に及ぼす影響について検討し,以下のことを得た.
    1. 地下水面は,湿原区域中央部をピークとしたマウンド状を示しており,主な水供給源は雨水であることが示唆された.また,湿原区域では,地表面水位が地表面近傍に現れ,地下水面変動も小さく,低層から高層湿原に移行する湿原の水文状態にあると考えられた.
    2. 旧農地区域では,地下水面変動が大きく,さらに,地表面水位が低く乾燥しているという湿原区域の水文状態とは逆の傾向を示した.これは,明渠排水路による排水よりも,むしろ,旧雪裡川分断による河水面低下によってもたらされていると考えられた.また,地下水面変動が大きかったのは,降雨によって供給された地下水が速やかに旧雪裡川に排水しているためと考えられた.
    3. 湿原区域では,地下水のナトリウムイオン·塩化物イオン·マグネシウムイオン濃度が高かったが,旧農地区域では顕著に低い傾向が得られた.これは,旧雪裡川への一方的な排水が卓越し,旧農地区域の塩類が排出されているためと考えられた.
    4. 旧農地区域では,湿原区域に比べ,地下水のカルシウムイオン濃度が高く,炭酸カルシウムなどの土壌改良資材が土壌に残留しているためと考えられた.このように,旧農地区域では農地開発が行われておよそ30年経過しているが,現在も土壌改良資材散布の影響が残存している.さらに,約70年前に行なわれた河川の分断の影響が,河水面低下による水文条件の変化を通して,地下水水質の変化に現れており,広里地区旧農地区域を低層湿原の地下水環境に戻すためには,旧雪裡川の水位(流量)の確保や土壌改良資材の処理を検討することが重要であると考えられた.
  • —植生と環境の対応関係からみた攪乱の影響評価—
    中村 隆俊, 山田 浩之, 仲川 泰則, 笠井 由紀, 中村 太士, 渡辺 綱男
    2004 年7 巻1 号 p. 53-64
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    釧路湿原再生事業対象地である広里地区での植生と環境要因の対応関係を整理することにより,地区内に存在する放棄農地や増加したハンノキ林に対する劣化の評価及びその劣化原因を検討した.主要な植生は7タイプに分類され,放棄農地部分では牧草種等からなる乾性草原植生タイプが優占し,地区内部ではハンノキやムジナスゲなどからなる湿原植生タイプが優占した.植生データと環境データによるCCA(正準対応分析)では,次の2つの傾向が主な特徴として抽出された: 1)地区内部に分布する湿原植生タイプから放棄農地に分布する乾性草原植生タイプへの移行と対応した地下水位の低下,2)ハンノキ優占タイプから他の湿原植生タイプへの移行と対応した地下水位の上昇·土壌水窒素濃度の低下・土壌水リン濃度の上昇.放棄農地における乾性草原植生は,隣接する雪裡川の分断に伴う著しい地下水位の低下により,かつての湿原植生から変化して生じたものであると考えられ,湿原生態系の深刻な劣化が生じていると評価された.ハンノキ林では,周辺の湿原群落との植生的な相違が比較的小さく,劣化の程度はまだ小さいものであると評価された.また,ハンノキ林の分布には高水位時の水文特性が強く影響していることが明らかとなったが,ハンノキ林の増加をもたらした決定的な環境変化や具体的な人為的攪乱との関連性を特定することはできなかった.
事例研究
  • 佐川 志朗, 中森 達, 秋葉 健司, 張 裕平, 近藤 智, 渡辺 雅俊
    2004 年7 巻1 号 p. 65-80
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,空知支庁管内石狩川支流空知川に建設された滝里ダムにおいて,ダム運用前後の下流河川の物理環境および水生生物の変化を把握し,その変化様式から相互の関連性を考察することを目的とした.本研究ではBACIデザインを適用し,運用前(Before : 1998年)および運用後(After : 1999,2000,2001年)に,滝里ダム運用の影響がおよばない上流域(Control : コントロール区)および運用により減水が生じるダム下流域(Impact : 流況変化区)において各年で時間的な反復調査を実施した.運用前の調査区域は,既存のダムや頭首工の影響で3倍以上の昼夜の流量変動(約20-80m3/sec)がみられたが,滝里ダム運用後にはダム下流の流況変化区の流量が一律9m3/secへと変化した.これら流量の一律減少に伴い,流況改変区への物理環境にも連動した変化が生じ,河床への土砂堆積,流速の減少,瀬·淵·砂礫州の明確化,水際の緩流速域および抽水植物群落の分布域拡大等が確認された.水生生物の変化も流量の減少と連動して出現し,イバラトミヨの個体数の増加および底生動物の多様度指数の減少が確認された.さらに,このような水生生物の変化は,最大水深,水際の緩流速域および抽水植生帯の規模と有意な相関関係を示した.以上の結果より,滝里ダム運用による流量の減少が流況変化区の物理環境を変化させ,それに伴い水生生物群集構造が影響をうけたことが示唆された.本研究では,ダム下流区域の既存研究で報告されているような河床の粗粒化およびそれに適応した陸上植物の分布域拡大は確認されなかった.以上の理由としては,流況変化区に設定した調査位置が,滝里ダムより約11km下流に立地する発電用ダムの満水位時の水位影響範囲に入り,滝里ダム運用後に生じた流量,流速の減少により,発電用ダム貯水池の堆砂および流砂沈降の範囲を上流に拡大させたことが考えられた.ダム運用後の流況変化区における底生動物の多様度指数の減少には,調査地点ごとでは違いがみられ,河道の流心部および水際部では顕著に減少したが,瀬部では変化がみられなかった.以上の瀬部における群集構造の多様性の保持は,流量の減少に伴い出現した砂礫州が瀬部の水面幅を縮め,単位水面幅あたりの流量や流速を運用前程度に維持させたことに起因していると考えられた.本研究では,時間的反復を加味したBACIデザインによる影響評価手法を導入したが,デザインを満たすためには,評価対象生物の現存量の時間的な変動を把握できるような繰り返し調査が必要である.従って,限られた原資の中で事業評価を行なう場合,評価対象生物群の選定,およびその挙動に併せた調査頻度の見極めが重要である.
  • 金子 是久, 大野 啓一, 森内 栄一, 西岡 孝雄
    2004 年7 巻1 号 p. 81-92
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,千葉県船橋市近郊に位置する土地利用の異なる3つの谷津の水質について比較検討した.3つの谷津は,(1)谷底が過湿地であり,周辺の斜面台地及び台地に樹林が広がる自然型の谷津,(2)谷底の大部分は湿地であるが,その周辺の大部分が住宅地,人為裸地で占められている半自然型の谷津,(3)谷底の大部分が畑地または造成地であり,周辺は住宅地または畑地で占められている都市型の谷津の3タイプに分けられた.3つの谷津の水質(Cl,TN,TP,COD)を比較した結果,自然型の谷津は,半自然型,都市型の谷津に比べて水質が良好である傾向を示した.これは,自然型の谷津周辺における樹林の面積率が3つの谷津の中で最も高く,樹林による保水力もあると推察されたことから,豊富な湧水が流れ込み,水質の良好な河川を形成していると考えられる.また,半自然型の谷津と都市型の谷津では,樹林地が台地斜面に一部残されているが,谷頭周辺では住宅地が密集し,生活雑排水が流入していたことから,周辺から湧水が流入しても,自然型の谷津に比べて水質汚濁が進行していたと考えられる.
短報
  • 山下 慎吾, 傳田 正利, 中越 信和
    2004 年7 巻1 号 p. 93-102
    発行日: 2004年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    低水位期の氾濫原プールにおける稚魚多様性の予測子を探索するため,秋出水直後と春出水前における地形構造と種多様性との関係を調べた.現地調査は,2001年9月の台風出水で形成された10箇所の氾濫原プールにおいて,水位が安定した10月末から翌年7月末まで実施し,そのうち2001年10月末のデータを秋出水直後として,2002年3月末のデータを春出水直前に該当するものとして解析に用いた.調査地における魚類の種別個体数を体長群(全長30mm間隔)別に記録し,文献情報に基づく当歳魚のサイズに最も近い体長群までを本研究対象の稚魚として,その種数を目的変数として用いた.予測変数としてはプールの面積,水際線長,カバー水際線長,カバー水際線率,最大水深,平均水深,水深の変動係数,底質多様度,プールの長さ,プールの最大幅,形状指数,主流路からの距離および最近傍プールからの距離の13変数を設定した.主要な予測変数を抽出するための手法としてステップワイズ重回帰分析を用いた.重回帰分析に投入する予測変数については,相関係数と単回帰分析によるスクリーニングを行った.解析の結果,秋出水直後の氾濫原プールにおいては,稚魚多様度の予測子として最大水深と底質多様度の有用性が示された.最大水深は遊泳力の小さい稚魚の避難場機能の指標となることが推察された.底質多様性はハビタットの異質性を示していることが考えられた.また,春出水前においては,カバー水際線率の有用性が示唆された.解析対象プール数が少ないため (n =10),他の有用かもしれない変数を採択できていない可能性があるが,本研究の結果により,氾濫原プールの稚魚生育場機能の予測評価を行うためには,少なくとも最大水深,底質多様性,カバーに関するデータが重要であることが示唆された.
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