応用生態工学
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8 巻, 1 号
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原著論文
  • 石田 裕子, 安部倉 完, 竹門 康弘
    2005 年 8 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2005/08/08
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    城北ワンド群に生息するトウヨシノボリ縞鰭型について,生息場所スケール(ワンド間比較)と微生息場所スケール(底質型間比較)での分布様式と摂餌生態を調査した.縞鰭型は,本川では採集されず,ワンド内でのみ生息が確認された.とくに,年間を通して小型で底質の小さい閉鎖的なワンドに多く生息していた.微生息場所スケールでは,泥や落葉が多い底質に多く生息していた.充満度(体重に対する消化管内容物湿重量の割合)は5月に高く,とくに,5月の0歳魚で高かった.消化管内容物には,止水環境に生息するケンミジンコ科やシカクミジンコ属などの動物プランクトンや,チビミズムシやユスリカ類などのベントスが多く出現した.これらの結果は,トウヨシノボリ縞鰭型の生活様式が,ワンドの止水環境に適応していることを示している.いっぽう,繁殖期と稚魚期には新設ワンドに多く生息しており,繁殖期の成魚は長径16∼21cmの大きな石の下面に産卵していた.したがって,トウヨシノボリ縞鰭型の生息場所には,餌場としての泥や落葉が堆積した止水域の生息場所と,産卵場としての侵食が卓越した石底のある生息場所が必要なことが示唆された.また,淀川大堰の運用が淀川の環境とヨシノボリ類の個体群に与える影響を考察した.
  • 小部 貴宣, 浅見 和弘, 大杉 奉功, 浦上 将人, 伊藤 尚敬
    2005 年 8 巻 1 号 p. 15-34
    発行日: 2005/08/08
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本研究は,フラッシュ放流が河床へもたらす効果について,デトリタスの掃流,付着藻類の剥離に関する調査に加え,浮石割合,河床の透水性の調査など総合的に検証した.現地調査の結果,フラッシュ放流による効果は河床の撹乱,それに伴う浮き石割合の増加,河床の透水性の向上,藻類生育量の指標となるクロロフィルa量の減少,よどみに溜まった有機物の掃流などが示唆された.透水性に対して効果が確認されたフラッシュ放流量は20m3/sで,水理計算による断面平均流速は1.1-1.8m/sであった.また,河床の透水性と河床構成材料の粒度との関係は,0.850mm未満の粒径が増加すると透水性が低下し,2-26.5mmの粒径が増加すると,透水性が向上するという結果が得られた.付着藻類に対して効果が確認されたフラッシュ放流量は10m3/sで,断面平均流速は1.5m/s程度であった.本研究結果と既往文献からの知見を踏まえると,フラッシュ放流に期待できる効果は,付着藻類の剥離·更新,河床構成材料中に産卵する魚類の産卵環境の改善,水生昆虫の生息環境改善,付着藻類及び水生植物の生育環境改善等が示唆された.
事例研究
特集: 森·川·海の自然連鎖系を重視した有明海·八代海の再生
序文
  • 楠田 哲也, 堀家 健司
    2005 年 8 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2005年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    本特集は2003年10月5日に開催された応用生態工学年次研究発表会の際に開催された「有明海·八代海ミニシンポジウム—森·川·海の自然連鎖系を考える—」における内容を充実させて構成したものである.なお,構成の基本的考え方は内容報告の意味もあるため,その時のままにしてある.東京湾,伊勢湾·三河湾,大阪湾·瀬戸内海,有明海·八代海を始めとする閉鎖性水域やその他の沿岸域の生物生産基盤,生態系および環境質の劣化は目に余るものがある.我が国が,安心して生活できる国,長期にわたり安全な国であるために環境面からしなければならないことは,まず第1に生物生産基盤を維持して国民のための食糧確保·資源供給を常時可能にすること,第2に遺伝子資源保全のために生態系を保持し得るように国土環境を維持すること,第3に身の回りの生活環境におけるリスクを低減させるとともに快適さや安らぎ感を増すことである.自然環境や生態系の再生は,これらが自己修復機能を有している間に,つまり生物群やその生息環境が復元される可能性がある間になされなければならない.再生機能が失われ,生物種が絶滅してからでは手遅れである.東京湾,伊勢湾,瀬戸内海では,臨海部の産業が国外に移転した影響もあり,わずかには改善の兆しが見えているが,有明海·八代海では自己回復機能がかなり低下しており,回復不能の環境劣化スパイラルに入り込んでいるようにも見える.有明海·八代海沿岸域には立地している産業が少なく,有明海·八代海流域の産業別就業者数は1次産業では21万人,2次産業では46万人,3次産業では111万人で(2000年国勢調査),1次産業が12%(有明海流域では11%,八代海流域では17%)と多くを占めていることから,環境の改善手法は,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海で採られた構造物建設に対する制御を主体としたものとは異なるはずである.
総説
  • 小川 滋
    2005 年 8 巻 1 号 p. 51-59
    発行日: 2005年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    有明海に流入する河川は,一級河川が7流域であり,2級河川が104流域である.これらの流域の森林域は,水源地域として最上流部に位置しており,森林域は,降雨の集水域として機能して,中流域と下流域への水·土砂·養塩などを排出している.そのため,森林域における水循環についての十分な理解の上で,人間は生産と消費と廃棄の活動を行なう必要がある.水源域は,きわめて局所的な特性を有しており,降雨—流出特性の変動が著しい.そのため,流域全体に及ぼす森林集水域の影響を評価するには,各水源流域から下流域までの連続したデータが必要とされる.しかし,このような観測資料は少ない.全流域でのデータとして,共通,あるいは換算可能な「原単位」での観測が必要とされる.これらを踏まえて,森林流域と有明海·八代海との関係について説明した.しかし,森林流域の観測データが少ないため,森林地からの一般的な流出特性について説明している箇所もある.最初に,森林地の一般的な水循環について述べ,次に,森林流域からの土砂流出は,正常な地質的浸食のオーダーであることを述べた.さらに,森林地からの栄養塩の流出は,有明海に流入する栄養塩(T-N, T-P)より1オーダー低いが,森林管理放棄のヒノキ林地からのT-Nの流出は,同程度のオーダーとなることが推定された.また,降雨時,あるいは,洪水時の正確な栄養塩の計測は,有明海に流入する河川の上下流で行われていないので,まだ,正確な森林地からの水·土砂·栄養塩の流出·流入が把握できていないことを述べた.最後に,森林の管理については,土壌層の保全が最も大事であることを述べた.また,森林流域から沿岸域まで流域生態系水循環システムの概念を示し,各個別生態系水循環のデータベースについて,長期生態研究のネットワークとして構築する必要があることを述べた.
  • —白川と筑後川の事例—
    横山 勝英
    2005 年 8 巻 1 号 p. 61-72
    発行日: 2005年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    河川は沿岸域に土砂や栄養塩,金属類などの様々な物質を輸送するが,特に土砂は地形形成要因になると同時に,栄養塩等の物質を運搬する.また,有明海のような内湾では河川から供給される土砂のほぼ全量が堆積するため,内湾の環境を考える上では河川の土砂動態を考慮する必要がある.有明海の容積が340億 m3であるのに対して,河川の淡水供給量は80億 m3と高い割合を占める.このうち筑後川は45%を占め,さらに土砂供給量は86%を占めると推測されるため,有明海の環境に対する河川の役割は大きく,特に筑後川の存在は重要である.そこで,白川と筑後川における粒径別の土砂動態を経年的に整理して,沿岸域や干潟の環境変化の原因と対策について考察した.流域での土砂生産状況の変化を知るために,明治以降の森林面積の経年変化,浮遊砂輸送量と河床変動の経年変化を調べた結果,森林は増加し河川の流砂量が減少していたことから,阿蘇—久住山塊では土砂生産量が減少していると推察された.河道の土砂移動状況を把握するために,筑後川の過去50年間の河床変動履歴と河川改修,砂利採取,ダム堆砂による砂の持ち出し量を整理したところ,これらの量は概ね一致した.また,自然の供給量を大幅に上回る土砂が河道から持ち出されたことが分かった.白川河口域において洪水時の土砂供給量と平常時の土砂移動量を1年間にわたって観測した結果,洪水時に土砂が堆積して干潟が前進し,平常時には潮汐作用によってシルト·粘土成分が侵食されて河道内に逆流·堆積していることが分かった.平常時の逆流堆積量は年に数回発生する洪水が輸送する土砂量と同程度であった.以上の結果から,筑後川では海域への砂の供給量が激減している可能性があり,これにともない河口域ではシルト·粘土の堆積が進行している可能性があることが示された.
  • Eisaku SHIRATANI, Tomijiro KUBOTA, Ikuo YOSHINAGA, Tadayoshi HITOMI
    2005 年 8 巻 1 号 p. 73-81
    発行日: 2005年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    有明海沿岸の農業農村地域では,アオ取水,地下水依存,近代的な農業水利など,いくつかの特徴的な水利用形態があり,それに応じた多様な水質環境が存在する.有明海北部沿岸地域の水環境は,主たる農業用水源から4タイプに分けることができる.すなわち,矢部川を水源とする筑後平野の一部,筑後川を水源とする筑後平野∼佐賀平野の東部,嘉瀬川を水源とする佐賀平野,地下水に大きく依存する白石平野を中心とした地域である.このうち,矢部川を水源とする地域は,上流部の茶園の影響で窒素濃度が高い.白石平野は恒常的な水不足地帯で,用水の高度な反復利用が行われており,有機物,リン濃度が極端に高い.しかし,農業用水の反復利用を行なうことは,農業地域からの排水量が削減されるため,結果として地域からの排出負荷量の削減につながる.農業農村の有する多面的機能の一つである水田や湿地の窒素除去機能を,地域の水循環の中で積極的に活用することは流域の水環境の保全と有明海への負荷削減のため有効な方法と考えられる.そのためには,農業用水の反復利用を可能にする農業水利システムの整備が必要であり,生活排水を農業用水として利用する体系を整備することも検討に値する.ただし,農業用水の反復利用や生活排水の農業利用は,農業用排水系内での様々の汚濁物質の蓄積や水環境の悪化を招くおそれがある.灌漑用水としての本来機能だけでなく,農業用水の親水機能その他の多目的利用の機能が損なわれないようにすることが重要である.
  • 堤 裕昭
    2005 年 8 巻 1 号 p. 83-102
    発行日: 2005年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    有明海に面した熊本県の沿岸には,アサリの生息に適した砂質干潟が発達し,1970年代後半から1980年代前半にかけて,アサリの漁獲量は約40,000∼65,000トンに達した.しかしながら,1980年代後半から1990年代にかけて漁獲量が激減し,1990年代後半以降,熊本県全体のアサリの漁獲量はわずか1,000∼3,000トンにとどまっている.アサリの漁獲量が激減した干潟では,アサリのプランクトン幼生が基質に定着·変態しても,ほとんどの個体が殻長数ミリに成長するまでに死亡していた.ところが,アサリ漁の主要な漁場である緑川河口干潟および荒尾市の干潟では,沖合の海底から採取した砂を撒くと,その場所にかぎっては,覆砂から数年以内は,このような定着·変態直後の幼稚体の死亡が少なく,アサリ漁が再開されるまでに個体群の回復が見られた.覆砂した場所にかぎって,一時的にアサリの幼稚体の生残率が高くなる現象については,もともとの干潟の基質に含まれる物質がアサリの幼稚体の生残に悪影響を及ぼしていることが考えられ,基質中の重金属類とその基質に生息するアサリの生息量との関係を解析した.その結果,アサリの幼稚体のほとんどが死亡している熊本県熊本市の緑川河口干潟および荒尾市の干潟の基質には,1,700∼2,900μg/g のマンガンが含まれ,一方,現在,アサリの現存量の約1∼6kg/m2に達する菊池川河口干潟および韓国の Sonjedo干潟では,マンガン含有量が500μg/g未満にとどまった.基質中に含まれるマンガンが,アサリの幼稚体に何らかの生理的な悪影響を与えている可能性が考えられる.
トピックス
  • 森 誠一
    2005 年 8 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 2005年
    公開日: 2009/01/19
    ジャーナル フリー
    基本的な考え:希少種·自然環境·生物多様性の保全をめざした魚類の放流は,その目的が達せられるように,放流の是非,放流場所の選定,放流個体の選定,放流の手順,放流後の活動について,専門家等の意見を取り入れながら,十分な検討のもとに実施するべきである.
    1. 放流の是非:放流によって保全を行うのは容易でないことを理解し,放流が現状で最も効果的な方法かどうかを検討する必要がある.生息状況の調査,生息条件の整備,生息環境の保全管理,啓発などの継続的な活動を続けることが,概して安易な放流よりはるかに有効であることを認識するべきである.
    2. 放流場所の選定:放流場所については,その種の生息の有無や生息環境としての適·不適に関する調査,放流による他種への影響の予測などを行った上で選定するべきである.
    3. 放流個体の選定:基本的に放流個体は,放流場所の集団に由来するか,少なくとも同じ水系の集団に由来し,もとの集団がもつさまざまな遺伝的·生態的特性を最大限に含むものとするべきである.また飼育期間や繁殖個体数,病歴などから,野外での存続が可能かどうかを検討する必要がある.特にそれらが不明な市販個体を放流に用いるべきではない.
    4. 放流の手順:放流方法(時期や個体数,回数等)については十分に検討し,その記録を公式に残すべきである.
    5. 放流後の活動:放流後の継続的なモニタリング,結果の評価や公表,密漁の防止等を行うことが非常に重要である.
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