応用生態工学
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早期公開論文
早期公開論文の3件中1~3を表示しています
  • 手塚 透吾, 溝口 裕太, 斉藤 展弘, 崎谷 和貴
    論文ID: 23-00021
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2025/01/01
    ジャーナル フリー 早期公開

    河道内に繁茂する広葉樹林の効率的なモニタリング技術の開発を目的に,航空レーザ計測(ALS)データを活用した樹木の本数や体積などの樹木諸元の推定手法を検討した.既往研究では,樹木の樹頂点を抽出する局所最大値フィルタリング(LMF)の適用において広葉樹林における抽出精度が課題とされた.そこで,本報では,河道内の広葉樹林の解析に適したラスタデータと,LMF のパラメータである Window Size(WS)の検討を深めることで精度向上を試みた.ラスタデータは,広葉樹の特徴を表現するために Digital Canopy Ruggedness Model(DCRM)を考案した上で,従前より用いられている Digital Canopy Height Model(DCHM)との有用性を比較した.また,WS は,既往研究で提案されている樹高(DCHM)に応じた推定式と,調査データにフィッティングを行った推定式である Fitting WS を適用し,樹木の抽出精度や樹木諸元の推定精度を比較した.その結果,抽出精度を示す F-score は,DCRM と Fitting WS の組み合わせが 0.62 と最大であった.広葉樹林を対象とした既往研究と比較して,いくらか高い F-score であるが,針葉樹林ほど高まらなかった.一方で,従前の DCHM やその他の WS の組み合わせよりも抽出精度が高く,考案した DCRM と Fitting WS の河道内の広葉樹林に対する有用性が認められた.調査区ごとでは,エノキよりもヤナギ類が優占する調査区で F-score が低く,ヤナギ類の割合が高い河道内樹林では,樹木の抽出精度が高まらない可能性が示唆された.DCRM と Fitting WS の組み合わせにおいて,樹木本数の推定精度は誤差率が -2% であり,比較的高い推定精度が得られた.体積の推定精度は,誤差率が -30%であり,推定精度は高まらなかった.

  • 徳江 義宏, 藤村 善安, 三好 文, 道家 健太郎
    論文ID: 23-00023
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/12/25
    ジャーナル フリー 早期公開

    河川における外来植物の拡大は深刻な問題である.その対策を検討するためには,対象となる種の分布把握が不可欠であるが,近年は無人航空機(UAV)で撮影した画像を用いることで詳細な分布把握が可能となってきている.本研究では,渡良瀬遊水地の第 2 調節池において,UAV で撮影した画像を用いて外来種であるセイタカアワダチソウの分布調査を行った.UAV と地上での植生調査結果を比較して UAV による把握の有効性を検証し,さらに画像認識技術の一種である深層学習を用いて分布図を作成する手法を検討した. UAV で撮影した画像によるセイタカワダチソウの開花シュートが画像に占める割合の把握の可能性を確認するため,本種の花期に,50 m,100 m,150 m の異なる高度から撮影を行った.同時に,撮影範囲で地上のコドラート調査を行い,UAV で撮影した画像から判読した本種の生育状況と地上で測定した植被率の関係を把握した.次に,第 2 調節池全体で 100 m の高度から UAV で撮影した画像を取得した.その一部の範囲で画像を 150 ピクセル四方に分割し,分割した画像内に占める本種の生育量によって区分したデータセットを作成した.このデータセットを用いて,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の Resnet50 によるモデルを構築し,このモデルを用いて第 2 調節池全体での分布を推定した. その結果,生育量の把握については,いずれの高度から撮影した画像でも目視で本種の分布を確認でき,本種の地上の植被率と強い正の相関が見られた.また,深層学習によるモデルを構築したところ,モデルによる識別の正解率は 94% となった.モデルを活用することで目視判読した結果と近い傾向で第 2 調節池内の分布図を得ることができた. 本研究から開花期に撮影することで本種の生育分布を精度よく把握できることを示した.本手法は類似した色をもつ植物との識別や,より背丈の高い植物がある条件での精度検証の課題は残されているが,河川や湿地など本種の侵入が問題となっている場所での調査に寄与することが期待される.

  • 中川 光, 森 照貴
    論文ID: 23-00013
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/12/06
    ジャーナル フリー 早期公開

    ある生態系における生物多様性の喪失過程を理解することは,その生態系の回復とそこに至る具体策の明確化に役立つ.本研究では,レッドデータブックに記載された淡水・汽水魚類の地域絶滅に関する情報を取りまとめることで,日本各地における生物多様性の喪失過程を,過去 100 年間にあった社会的,生態学的背景に着目しながら検討した.環境省および 47 都道府県が発行した最新のレッドデータブックに記載された種・分類群について,それらの説明文の中から都道府県単位または水系・湖沼・市町村・地区単位での絶滅,または絶滅を強く示唆する記述を収集し,記載がある場合は絶滅年代を十年紀ごとに取りまとめた.合計 162 例の地域絶滅に関する記述のうち,84.0%で絶滅年代が特定され,そのうち 55.9%で最後の記録が 1970 年代以前となっていた.絶滅要因は生息環境の劣化(46.5%)を報告している事例が最も多く,次いで国外外来種との競合・捕食(12.7%),海との分断(7.9%)が多かった.十年紀ごとにまとめると,1930 年代には生息環境の劣化が大部分を占めていたが,1940 年代は海との分断が 25.0%を占め,1950 年代には外来近縁種・亜種との競合・交雑が 23.1%を占めていた.1960 年代以降は絶滅要因が多様化し,農薬散布が 1960-1970 年代に,観賞魚としての過剰な採集が1960-2000 年代に報告された.国外外来種による絶滅事例の割合は 1960 年代から増加し,1990 年代以降の全事例の 21.9%を占めていた.絶滅事例数は日本が高度経済成長期にあった 1970 年代にピークとなり,この時期に大規模な生物多様性喪失が生じたことが示唆された.1980 年代以降,この傾向は多少鈍化したが国外外来種の影響などは現在も続いており,生物多様性の維持回復のための対策強化は,なお喫緊の課題といえる.

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