ゲノミクスと呼ばれるゲノムの構造と機能に関する研究で用いられる手法を生態毒性学に適用した研究は,エコトキシコゲノミクスとして知られている.エコトキシコゲノミクスは, 汚染物質の診断など, 様々な用途において潜在的利点
を有しており, 関心を集めている. トビムシにおいては,遺伝子情報に乏しいため, 遺伝子を同定しその特徴を把握
することが先決である. 野外では
Orchesella cincta, 室内では
Folsomia candida を用いてエコトキシコゲノミクス研究が進められている.
O.
cincta においては金属結合性タンパク質メタロチオネインの遺伝子が同定され, 野外における転写制御の進化が示された.
F.
candida は室内の毒性試験によく用いられる種であり, 本種においてはDNA マイクロアレイを用いた土壌生態リスク評価手法の開発が進められており,Collembase と呼ばれるトビムシのexpressed sequence tag (EST)のデータベースの構築が
O.
cincta も対象に含めてオランダのVrije 大学の研究グループにより進められている.著者らは High-Coverage Expression Profiling (HiCEP) と呼ばれる手法を用いて
F.
candida におけるストレス応答遺伝子の探索を開始している.これらの研究活動は始まったばかりであるが,今後のトビムシの生態毒性学に大きな進展をもたらすものと期待される.
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