教育社会学研究
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101 巻
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
論稿
  • ――教師が語るローカル・リアリティに着目して――
    越川 葉子
    2017 年 101 巻 p. 5-25
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     過去30年間にわたる「いじめ問題」の社会問題化過程において,学校非難の語りは強まる一方である。こうした社会状況において,「いじめ問題」の当事者性を担う教師は,公的な場で自らの実践の論理を主張することができない状況へと追い詰められている。
     本稿の目的は,公的な言説で語られる「いじめ問題」のリアリティに対し,教師の語りが描く学校現場のリアリティを対置することで,生徒間トラブルについて異なるリアリティが構築されうることを実証することにある。教師の語りから明らかとなった学校現場のローカル・リアリティは,今日の「いじめ問題」に次の示唆を与える。
     第一に,学校は「いじめ」事件の社会問題化以前も以降も,「いじめ問題」として生徒間のトラブルには対応していないということである。学校にとって大事なことは,「いじめ」という言葉でトラブル状況を定義するかどうかでなく,今,何を最優先に生徒らに働きかけていかなければならないのかを判断し,対応することなのである。
     第二に,学校は社会問題化以降も,生徒らの将来的な地域での生活を見据え,被害生徒はもとより,加害生徒らにも学習支援を行なっていることである。また,親同士の謝罪の場も設け,学校は,当事者間の調整役としての役割を果たしていた。こうした学校の対応は,「いじめ問題」を教師の語りから捉えなおすことではじめて理解が可能になるものである。

  • ――傾向スコアを用いた分析――
    森 いづみ
    2017 年 101 巻 p. 27-47
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     本稿では,国・私立中学への進学が生徒の進学期待と学業上の自己効力感に及ぼす影響について検討する。日本の先行研究では,私立中学へ進学する生徒の背景として多くの要因が明らかにされてきたが,実際に進学した際の効果についての実証研究はいまだ少ない。本稿の課題を検討するため,2011年の「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS)の日本の中学2年生データを用いて,国・私立中学に進学したことによる因果効果をより積極的に検証するために,傾向スコアを用いた分析をおこなった。
     分析の結果,国・私立中学へ進学した生徒は,公立に進学した類似の特徴をもつ生徒と比べて進学期待が高まりやすく,とくに階層の低い生徒の進学期待が高まりやすいことが分かった。また,国・私立中学へ進学すると学業的な自己効力感が弱まりやすく,とくに学力の高い生徒の学業的な自己効力感が弱まりやすいことが分かった。
     これらの結果から,日本の国・私立中学への進学は,生徒の在学中の学業面に対して,正と負の両方の効果をもつことが示唆された。これらの効果を説明しうるメカニズムについて,トラッキング研究の枠組みを参照して教授上の効果やピア効果を検討したところ,進学期待については週当たりの数学指導時間や学校の学業重視の風潮によってその効果の一部が説明された。学業的な自己効力感については,ピア効果の一つである周囲の学力の高さによって大部分の説明がなされた。

  • ――学力と学習態度の双方向因果に着目して――
    数実 浩佑
    2017 年 101 巻 p. 49-68
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     学力格差のメカニズムを考察する際の有力な理論として,文化的再生産論があげられる。しかしこの理論に基づく実証研究においては,ある1時点において親から子へ文化資本が伝達されるメカニズムに注力してきた一方で,通時的な観点から子どもの文化資本(知識,ハビトゥス)がどのように変化するかを分析した事例はほとんどない。そのため,ある1時点において生じる学力格差を説明することはできても,なぜそれが維持・拡大するかを説明することができていない。
     そこで本稿では,「なぜ学力の階層差は維持・拡大するのか」という問いを設定し,パネルデータを用いた計量分析を通して検討していく。その際,学力と学習態度における因果の方向に着目し,両者に双方向の因果関係が見られるかについて明らかにしたうえで,学力格差のメカニズムについて考察する。
     主な知見は次の3点である。(1)学年が上がるにつれて,学力に対する家庭の文化資本の影響が弱まっていく。(2)学年が上がるにつれて,学力の時点間の相関の強さが強まっていく。(3)学力と学習態度の間に双方向の因果関係が見られる。
     分析結果をふまえ,スキルの自己生産性とポジティブ・フィードバックという概念を用いて,低学力の子どもにさらなる不利が累積するという仮説を提示し,家庭の文化資本に起因する初期学力の差が,その後の学力格差の拡大に不可避的に転じていくメカニズムの重要性を強調した。

  • ―NHK『日本の素顔』『現代の記録』『現代の映像』を対象に―
    石岡 学
    2017 年 101 巻 p. 69-89
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,高度成長期にNHKで制作・放送されたテレビドキュメンタリーを分析対象として,そこにおいて「青少年問題」がいかなる問題として表象されたのかを解明することである。
     分析に先立ち,高度成長期の青少年問題に関する先行研究のレビューおよび分析対象とする番組の社会的位置づけについて整理を行い,テレビドキュメンタリーを分析対象として上記課題を解明することの意義・必要性について議論した。
     分析によって得られた主な知見は,以下の通りである。
     ①青少年の逸脱を都市化と結びつけて描き出すパターンが,定番化していた。都市化は近代化による社会変動の象徴であり,個々人の意志や力を超えた巨大なうねりのようなものとして捉えられていた。
     ②学校教育は「青少年問題」に対し無力な存在として早い段階から描き出されていた。特に,受験体制に飲み込まれた学校が青少年の不良化の一因であるとする認識がみられたが,受験体制自体は社会に起因する問題として捉えられていた。
     ③青少年問題は,大人社会の歪みの反映として位置づけられていた。そのことは,因果関係を持ち込むことで問題の解決可能性を担保する機能を有していたが,そこには青少年の主体性を剥奪する逆機能も存在していた。それゆえ,結果的に「世代間断絶」は構築・維持され,「問題」は解決不可能なものとして再生産されるという原理的アポリアを内包していた。

  • ―江蘇省S県出身大卒者に対するインタビュー調査に基づいて―
    範 俏慧
    2017 年 101 巻 p. 91-110
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     本稿は,大卒者の学校から職業への移行を「成人期への移行」の一局面として捉え,中国の小都市出身の大卒者の就職プロセスに焦点を当て,職業選択(就職地選択及び就職先選択)における「親の意向」による影響と,就職時における「家族・親族ネットワーク」の効果との2つの要素に注目し,中国の大卒者の就職における家族の影響を明らかにすることを目的とする。
     分析の結果,以下のことが明らかになった。共産主義の遺制と強い家族主義の文化を残したまま急激な市場経済を導入した中国においては,大卒者の就職プロセスは,依然として戸籍制度や労働市場における体制内外の分断といった構造的・制度的要因によって制約されている。大卒者及びその家族はその中で可能な限り有利な就職機会と将来設計を手にするために,私的な家族・親族ネットワークを動員している。家族・親族ネットワークの効果は,ネットワーク自体の地域的広がりの度合いにより一定程度規定されている。そのような「家族戦略」とも言える中国の大卒就職のあり方は,個人としての大卒者にとって制約と資源という両義的な意味をもつ。
     本稿の分析が示唆するように,大卒の就職を「成人期への移行」の一部として捉えることで,大卒者の就職が埋め込まれている「社会構造」を,これまでよく分析の射程に入れられてきた「大卒労働市場」及び「社会ネットワーク」を超え,より包括的に検討することが可能となる。

  • ――教育課程編成をめぐる諸機関の葛藤に着目して――
    濱沖 敢太郎
    2017 年 101 巻 p. 111-130
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,定通モデル校事業を事例として,1960年代の定通教育振興の論理を明らかにすることである。1960年代は定時制が量的に縮小する中で,都市部の労働力需要を背景とする定通教育改革が進められたと理解されてきたが,実際に展開された改革をめぐる諸機関の方針の異同を先行研究は精査してこなかった。
     本稿が明らかにした知見は以下のとおりである。
     第一に,文部省は都市部の勤労青少年を定通モデル校事業の主な対象と考えており,その教育機会拡充の具体的方策として定通併修などの導入を進めようとした。
     第二に,特に都市部の自治体では,定通併修の導入が勤労青少年の教育機会を危うくするものとして懸念されており,定通モデル校事業としての実績はあげられなかった。
     第三に,定通併修は都市部と異なる生活環境にある勤労青少年に関しても,就学可能性を高める具体策としては受け入れられず,むしろ農業・看護などに関わる教育施設との技能連携が,通信制の教育課程の再編成を伴う形で展開されていった。
     以上に示した定通教育の変容過程は,勤労青少年の進路形成に関する問題の射程を広げ,また,現代の定通教育の形態が作り出される一局面を明らかにしたという点において重要であろう。

  • 御旅屋 達
    2017 年 101 巻 p. 131-150
    発行日: 2017/11/30
    公開日: 2019/06/14
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,若者支援機関において,支援者・若者双方の立場から「障害」概念がいかなる意味をどのように付与されているかについて明らかにし,医療化にまつわる議論を関係論的視点から捉え直すこと,そして若者支援における医療的概念の位置価について検討することにある。
     本稿で得られた知見は大きく2点に整理できる。
     第一に,「障害」を疑われる者の存在が,支援の現場に混在性をもたらしていることである。そしてそれは集団の同調圧力を軽減し,コミュニケーションに困難を抱えた当事者の集団参加に対する障壁を押し下げる機能,そして同時に異質な他者との葛藤を通じた相互理解を促進する機能を期待されていることが明らかになった。
     第二に,若者支援機関における「障害」に対する当事者の意味付与の条件やプロセスについて明らかにしてきた。当事者が自身の「障害」に意味づけていく初期段階においては「正常でないこと」の承認の要求が行われる。また,当事者が自身の困難を「障害」と位置づける際には,「若年無業」や「ひきこもり」といった個人が既に有しているスティグマからの回復への志向や支援機関内で形成された関係性が影響していることが明らかになった。
     結論として,これらの知見には医療化論における関係論的な視角の可能性や,若者支援機関における障害の意味付与プロセスの理解に資する含意があることを論じた。

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