教育社会学研究
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107 巻
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論稿
  • ――インタラクション・セットを手がかりとして――
    志田 未来
    2020 年 107 巻 p. 5-26
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

     本論の目的は,これまで逸脱集団として扱われてきた生徒の相互作用を詳細に描くことにより,逸脱研究に対して新たな視角を提示することにある。既存の逸脱研究は,生徒の相互作用を下位集団に限定してきた,生徒を下位文化に染まる受動的な存在だと仮定してきた,という2つの課題が残されていた。そこで本研究ではFurlong(1976)のインタラクション・セット概念を用いて彼らの学校経験について分析を行った。分析より以下が明らかになった。①ある生徒の行動によって,それまで逸脱することはなかった生徒たちの「適切なふるまい」が作り変えられたことが逸脱の契機となっていた。②彼らはインタラクション・セットへの参加者に応じて逸脱の強度を変え,その意味も変化していた。関係性のない教師には「消極的逸脱」を,関係性のある教師には「積極的逸脱」を行っており,後者は「コミュニケーション系逸脱」とも呼べる,教員との関係性構築のための代替手段の機能を有していた。③受験制度はインタラクション・セットに大きな影響を与える外圧であった。3年生になると,最小限の努力で入試を成功させるということが「状況の定義」を行う際の新たな判断基準に採用されていた。
     以上より,彼らの相互作用の場は集団ではなく常に構築されるインタラクション・セットとして捉える必要があること,そして逸脱に対して彼らが持つ価値規範をも累積される相互作用の過程で常に創造し直されていることが明らかになった。

  • 菊池 美由紀
    2020 年 107 巻 p. 27-47
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,学生の多様化と専門外の教育への対応という二重の困難に直面した大学教員の授業実践を,教員のストラテジー研究の枠組みを用いて分析することである。そのために,ボーダーフリー大学(BF大学)のキャリア科目を対象とするフィールドワークを行った。分析の結果,博士課程を経て学術的専門性を修得したアカデミック教員は,「就職技法教育」「ユーモアを使った婉曲的な注意」「罰則の伴わない事前契約」「専門性の取り込み」によって困難に対応していた。後者2つには,授業成立や逸脱行為の抑制に対して顕著な効果はなかった。にもかからず,これらの対応が用いられた背景には,学生を自立した成人とみなし,専門性に基づく授業を行うことで,大学らしい教育を実現しようとする教員の意図があった。他方,このような対応は博士経験を経ていない実務家教員には見られないものであった。
     本稿では,このようなBF大学のアカデミック教員に特有の,従来型の学生観と大学教員観に基づくストラテジーを「スカラリー・ストラテジー」と名付けた。このストラテジーは,学生観や大学教員観が急速に変化するなかで,葛藤を抱えながらも従来型の「大学らしい理想の教育」を維持しようとする試みである。しかし,このストラテジーを用いても,逸脱行為の抑制に対する顕著な効果はない。ここに,従来型の学生観や大学教員観が成り立たない状況下にある今日の大学教員の苦悩がある。

  • ――奥地圭子と鳥山敏子の授業実践を起点として――
    香川 七海
    2020 年 107 巻 p. 49-68
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,小学校教師の奥地圭子と鳥山敏子の授業実践に着目し,「教育の現代化」の時期に完成した教科体系が,どのように次の時代に引き継がれたのかという様相を明らかにすることにある。1957年のスプートニク・ショックに端を発した西側諸国における教育内容の「現代化」は,日本の場合,「官民」ふたつの潮流によって支えられていた。ひとつには,1960年代後半に,科学技術の発展と人的資源の育成に対応するために,教育内容の高度化が教育政策として意図された「官」の潮流がある。もうひとつには,「官」の潮流に先んじて,民間教育研究団体によって試みられた「民」の潮流がある。「民」の潮流は,経験主義から系統主義への教育内容の転換と,学習指導要領に対抗するため日本教職員組合によって提起された「教育課程の自主編成運動」を背景として形成された。「民」の潮流の「現代化」は,学校教育現場が主体となって,教科教育の体系を創出した事例として,戦後教育史において重要な史実として位置づけられている。ただ,先行研究では,従来,「現代化」のその後の史実,経緯については言及されてこなかった。本稿では,この経緯について,奥地と鳥山の授業実践に即して検討し,両者の「いのち」の授業が社会科教育の「現代化」の成果に依拠して創出されたものであることを明らかにした。

  • ――IRE連鎖における正当的権威の維持――
    石野 未架
    2020 年 107 巻 p. 69-88
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

     教室における教師の権力性を告発する研究の多くがIRE連鎖(Initiation(教師の開始)-Reply(生徒の応答)-Evaluation(教師の評価))(Mehan, 1979)を議論の土台としてきた。とりわけ教師と生徒の間に存在する知識の非対称性に焦点をあて,教師がもつE部分の権限を権力ととらえてきた。
     しかし,知識の非対称性にばかり注意がむけられ,教室における発言機会の非対称性については注意が向けられてこなかった。IRE連鎖において教師がもつ発言機会の分配という権限は,この非対称性に大きく関わる権限である。本稿では,教師が発言機会を分配する行為を分析することで,教室における教師の権力性を問い直すことを目的とする。
     分析では,教師の権力を「正当的権威」ととらえ,教師が発言機会を分配する際にどのようにその権限の行使を正当化するのかに焦点をあてた。分析の結果,教師は発言機会の分配においてその分配が生徒との道徳的秩序に基づいて行われるものであることを演出することがわかった。教師が道徳的秩序を乱した事例では,本来の学習活動を遅らせても,教師の正当的権威の回復のための相互行為連鎖を展開する様子が観察された。
     分析結果が示唆することは,教室における教師の権力の脆弱性である。本稿で分析した教師の権力は,先行研究がとらえてきたようなIRE連鎖に常備されたものではなく,正当的権威であることに志向する教師の不断の実践によって維持されていたからである。

  • ――大学別採用実績データの計量分析から――
    吉田 航
    2020 年 107 巻 p. 89-109
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

     高等教育の学校歴が初職に与える影響は,先行研究によってくり返し検討されており,大学選抜度が初職の企業規模に与える効果が一貫して確認されてきた。一方で,学校歴の位置づけを企業側から捉えた研究は少なく,とくにその企業間異質性についてはほとんど検討されていない。そこで本稿では,どのような制度・慣行を持つ大企業で高選抜度大学からの採用が多いのかについて,大学別採用実績データの計量分析を通じて検討した。
     学校歴が入社後の訓練可能性を表すシグナルとして捉えられてきたことを踏まえ,採用時に訓練可能性が重視される程度と関連する制度・慣行として,技術職採用制度と長期雇用慣行に着目した。技術職採用を行う企業では,一般的な訓練可能性よりも特定の職務能力が重視されると想定し,上位大学からの採用が少なくなると予想した。一方,平均勤続年数が長い企業では,長期的な企業内訓練(OJT)がより実施される傾向にあると想定し,上位大学からの採用が多くなると予想した。
     分析の結果,技術職採用を行う企業では,上位大学からの採用が少なくなる傾向が概ね確認された。さらに,平均勤続年数が長い企業では,上位大学からの採用が一貫して多くなっていた。これらは,学校歴を訓練可能性のシグナルとみなしてきた想定を支持する経験的な知見であると同時に,長期安定雇用が維持されている企業への就職に学校歴が寄与している可能性も示唆している。

  • 鳶島 修治
    2020 年 107 巻 p. 111-132
    発行日: 2020/11/30
    公開日: 2022/06/20
    ジャーナル フリー

     本稿では,NHK放送文化研究所が2012年に実施した「中学生・高校生の生活と意識調査」のデータを用いて,中高生の教育期待形成における父母の教育期待の相対的重要性について検討した。Diagonal Reference Modelによる分析の結果,父母の教育期待の相対的重要性を表すウェイトの推定値はそれぞれ0.363(36.3%)と0.637(63.7%)であり,母親の期待が父親の期待よりも子どもの大学進学期待と強く関連していることが示された。同時に,母親の期待に比べて関連は弱いものの,父親の期待もまた子どもの大学進学期待とのあいだに一定程度の関連を有していることが確認された。なお,父母の教育期待のウェイトは子どもの性別には依存していなかった。父母の教育期待の不一致に着目した分析を行ったところ,父親だけが子どもに大学進学を期待している場合は,サンプル全体の分析結果と同様に,母親の教育期待のウェイトが相対的に大きかった。しかし,母親だけが大学進学を期待している場合には父母の教育期待のウェイトは同程度であり,必ずしも母子間の期待の関連が父子間の期待の関連よりも強いわけではないことが示された。また,父母の教育期待の組み合わせは階層的地位(学歴や職業)と関連していた。以上の知見は,教育達成の階層間格差の生成プロセスにおける家族の影響を捉える上で(母親の期待だけでなく)父親の期待の役割を考慮することの重要性を示唆するものである。

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