教育社会学研究
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特集
  • ――科学者集団の役割を中心に――
    阿曽沼 明裕
    2024 年114 巻 p. 5-25
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     「学問の自由」は「大学の自治」と結び付けて議論されることが多い。大学の自治は学問の自由の制度的保障であるとされ,研究者を雇用する大学が大事であることは言うまでもないが,研究者の準拠集団である科学者集団(科学コミュニティ,科学共同体,学界)もまた不可欠な組織である。このため「大学の自治」だけでなく「科学者集団の自律性」も,学問の自由の基盤となると捉えることができるのではないか。とはいえ,科学者集団については科学社会学や教育社会学で研究されてきたものの,学問の自由の観点からは大学の自治ほどには十分に論議されてこなかった。
     そこで本稿では,学問の自由の観点から科学者集団の役割をどのように捉えるべきかを検討した。具体的には,学問の自由の問題は自主性と効率性の対立から生じると捉え,知識形成メカニズム,経済的基盤(研究費体系),学術体制に着目し,それぞれのレベルで自主性と効率性の理念がどのように反映されているのか,そしてそこに科学者集団はどのように関わるのかを検討した。その結果,自主性の理念は科学者集団を通じて維持されてきたこと,ただし科学者集団が機能しない場合も少なくなく,さらには効率性の拡大で科学者集団を通じた自主性も相対的に抑制されていることなどが指摘される。加えて最後に,科学者集団の自律性に関わる本質的で厄介な問題点についても議論される。

  • ――アメリカ大学教授連合(AAUP)の運動史に基づく―考察――
    丸山 和昭
    2024 年114 巻 p. 27-48
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     本稿では,学問の自由と専門職の自律性の関係について考察する。まず,専門職の社会学における近年の知見を整理したうえで,学問の自由が専門職の自律性との密接な関わりのもとに論じられてきた米国の事例について,その議論を先導したAAUPの運動史に注目する。
     学問の自由論と専門職の自律性は同義として語られることもある。他方,伝統的なプロフェッショナリズムにおいては,専門職の自律性を無条件の権利と捉えるのではなく,専門的な知識・技術による卓越性や自己規制の対価と捉える。その結果として,卓越性の水準を満たさないメンバーを切り捨てる,といった方針も選択肢に入る。
     プロフェッショナリズムに基づいた学問の自由の追求は,特に米国のAAUPに特徴的であることが,多くの先行研究において指摘されてきた。他方,近年のAAUPの運動は,労働組合主義との密接な関係において展開されており,専門性による排除を基調とした伝統的なプロフェッショナリズムとは異なるような,幅広い大学教育職の包摂が志向されている。
     AAUPは,その始まりにおいて,どのような経緯でプロフェッショナリズムと学問の自由を結び付けてきたのだろうか。また,どのような経緯で,労働組合主義と接近し,幅広い大学教育職を包摂する運動体に変化してきたのだろうか。本稿では,専門職の社会学における近年の議論も踏まえたうえで,AAUPの運動史から,専門職の自律性と学問の自由の関係を考えていきたい。

  • 小林 信一
    2024 年114 巻 p. 49-73
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,今日の大学の自治の意味を分析することである。世界的に見ても,現在の社会情勢は大学の自治に2つの側面から新たな課題を突きつけている。一つは,学問の自由と大学の自治に政治が介入する動きであり,もう一つは,ソーシャル・ネットワーキング(SNS)の時代における学問の自由と大学の自治の意味の変容である。この目的を達成するために,本稿では体系的な分析は行わず,先駆的な事例を探ることで変容を描き出す。
     まず,学問の自由と大学の自治が一体化している日本の特殊性を簡単に紹介する。次に,大学の自治が失われつつある最近の状況を説明する。トランプ大統領の誕生以来,政治家による大学への敵対的な態度が広がっている。さらに2022年以降,世界的な経済不況や欧米で移民排斥を主張する右派ポピュリズム政党や政権が優勢となった結果,彼らは大学に対して政治介入し,学問の自由や研究活動の国際化に制限を加えようとする。ほとんどの大学は国や自治体の財政によって支えられているため,財政支援の後退もまた,終身在職権制度など,学問の自由や大学の自治の基盤を弱体化させる政治介入となった。SNSが普及すると,合理性や真実性が意味を失い,大学もアテンションで評価されるようになった。アテンションを獲得するためには大学もアピールしなければならない。大学の自治の目的はアテンションを集めることになった。

  • ――「新しい専門職」,実務家教員を事例として――
    二宮 祐, 小山 治
    2024 年114 巻 p. 75-96
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     本論は2種類の質問紙調査の回答データを分析する。1つは各大学に配置されてきた「新しい専門職」を対象とした調査である。回答者はファカルティ・ディベロップメント担当者,キャリア支援・教育担当者,インスティテューショナル・リサーチ担当者,リサーチ・アドミニストレーション担当者,産官学連携コーディネーターである。調査は2017年12月から2018年3月まで行われた。合計1,847名に調査票を送付して有効回収数は674であった。もう1つは実務家教員を対象とした調査である。観光,メディア,ファッション,スポーツマネジメントの4分野の学部・学科に所属する大学教員を対象とした。調査は2022年2月から2022年5月まで行われた。合計2,583名へ依頼して有効回収数は500であった。
     主な知見は次の4つである。第1に,研究エフォートについては「新しい専門職」の内部では任期の有無で差がみられたものの,実務家教員か否かでは差はみられなかった。第2に,研究環境については「新しい専門職」の内部で大きな差がみられた。第3に,研究活動状況についても「新しい専門職」の内部で大きな差がみられた。第4に,研究業績については「新しい専門職」調査では任期なし層ほど成果を上げている者が多かった一方で,実務家教員調査では研究者教員ほど研究成果を上げていたのは学術論文(査読あり)のみであり,任期なし層の実務家教員ほど研究成果を上げている内容もあった。

  • ――調査データから論じる学問の自由・大学の自治――
    村澤 昌崇, 中尾 走, 樊 怡舟
    2024 年114 巻 p. 97-114
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     政府の学術会議会員任命拒否を契機として俄に学問の自由や大学の自治に関する政府批判の議論が起こっているが,大学教員が学問の自由や大学の自治を行使できうる存在たり得ているかについての自省も併せて必要ではないか。本稿ではこの視点に立ち,公的統計や独自のWeb調査により検討したところ,①公的統計の長期的趨勢からは,高等教育大衆化の中で大学教員の量的・質的変容が起きていると同時に,ジェンダー格差という旧態依然な部分を色濃く残していること,②社会一般の認識が大学教員の「専門職性」をそれほど支持しておらず,③研究者集団の信頼や威信に関する市民の支持や評価は高いとは言いがたい状況にあることが示された。
     この結果から,大学教員が学問の自由や大学の自治を行使しうる条件が揺らいでおり,社会的支持もはっきりとせず,憲法・法律・制度上の諸権利の保証が現実と乖離し形骸化しかねない危機を迎えうること,伝統的な学問の自由や大学の自治の擁護論が,アカデミズムの有り様を理念的・画一的且つ永遠不変かのような「伝統的教員像」を暗黙裏に仮定していることの限界を指摘しつつ,本稿では敢えて官僚主義対民主主義という古典的パラダイムを超えて,市民社会との対峙・対話を真剣に意識する必要性を訴えた。

論稿
  • 大久保 遥
    2024 年114 巻 p. 117-138
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,仲間集団からの「排除」を経験した女性を対象に,集団から排除される過程やその後に影響を及ぼす一連の経緯を描き,それをジェンダーの側面から考察するものである。協力者の学校経験の分析から,女子グループからの排除にみられた特徴は以下の通りである。
     まず,集団からの排除の起点には規範からの逸脱や目立つ言動,校則違反と疑われる外見,〈リーダー〉に逆らう行為,コミュニケーション規則からの逸脱などが読みとれた。これらの基準は,男性が仲間集団から承認される「異性の獲得」「業績主義」といった明確なものではなく,外部からは見えづらく,その場の支配関係によって変更される性質をもちつつ,女子同士の間では共有される「暗黙のルール」のようなものであった。つぎに,学校からの排除の過程では, 女子グループからの排除を当事者や周囲が問題に値しないものとみなしていたり,適切な介入がされないことで,「問題化」されなくなるプロセスが示された。
     以上から,協力者らが女子グループからの排除が「問題化」されることなく学校から排除され,不登校や進路の局面で「個人の問題」として直面してきたことを示すと共に,学校空間を生きる女性の「生きづらさ」の一断面を描いた。本研究は,看過されてきた女子グループからの排除に関連する問題を示し,関係性と学校の二重の意味で排除されてきた者を受け入れる,非主流の後期中等教育機関の教育や支援のあり方にも示唆を与える。

  • ――行動遺伝学的アプローチを用いて――
    中村 聖, 敷島 千鶴, 安藤 寿康
    2024 年114 巻 p. 139-158
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     行動遺伝学の方法論は,集団内のばらつきに寄与する遺伝と環境の影響を推定する。しかし,この手法を用いた先行研究は,家庭間のばらつきを示す「共有環境」という統計学的潜在変数の効果のみで教育達成の格差を考察しており,教育社会学が指摘してきた父母の学歴と教育達成の関連は検討されていない。そこで本稿では,父母の学歴を用いて,共有環境という潜在変数を同定し,IQと教育年数の関連に対する遺伝要因と社会経済的地位の双方の影響を確認することとした。
     慶應義塾双生児研究により収集された,青年期および成人期の双生児データ(一卵性双生児698組,二卵性双生児209組)を分析した結果,IQに対して遺伝要因が43%,共有環境要因が30%,非共有環境要因が27%,教育年数に対して遺伝要因が40%,共有環境要因が27%,非共有環境要因が34%説明していた。さらにIQと教育達成の関連のほとんどは,遺伝要因ではなく共有環境要因が媒介していた。父母の教育年数を統制した残差得点を用いて,共有環境の同定を試みたところ,その関連の半分は父母の教育年数により説明されていた。
     IQと教育達成の関連に関して,遺伝要因を起点としIQから教育達成へとつながる経路ではなく,家庭環境を起点とする経路が支持された。教育社会学で指摘されてきた,教育達成に対する父母学歴の影響が,行動遺伝学的アプローチにおいても確認された。

  • ――性別役割分業意識をめぐる実証的検討――
    戸髙 南帆
    2024 年114 巻 p. 159-177
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     家事とジェンダーの研究においてわずかにみられる子どもを対象とした議論では,男子よりも女子が家事をするというジェンダー差が広く報告されている。多くの先行研究では,子どもの家事実践に焦点をおき,親の属性や意識がこれに影響を与えるという構図が想定されていたが,子どもが家事をする背後には,親の代わりやしつけといった様々な要因が混在していることが指摘できる。
     そこで本稿では,ジェンダー役割を学ぶ場として重要な家庭において,子どもに家事を教えるという母親のはたらきかけに着目し,性別役割分業意識との関連を検討した。もし性別役割分業を支持する母親が,娘に積極的に家事を教える一方で,息子には家事を教えることに消極的であるならば,将来の性別役割分業の再生産に加担している可能性があるためである。
     日本の小学生を対象とした親子ペアデータを分析した結果,子どもに家事を教えることには明確なジェンダー差があり,息子をもつ母親よりも,娘をもつ母親のほうが,より家事を教える傾向にあった。一方で,仮説に反して,母親が性別役割分業を支持するほど子どもには家事を教えない傾向が確認された。この傾向は,むしろ娘をもつ母親においてより明確であった。つまり,性別役割分業を支持する母親は,そもそも家事を子どもに教える傾向にはないといえる。ジェンダー役割の社会化の過程を紐解くうえで,家事という視点からも,さらなる研究蓄積が求められている。

  • ――階層とネットワークの教育社会学――
    荒牧 草平
    2024 年114 巻 p. 179-199
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     教育態度は,社会学的研究において,主に教育達成の階層差を生み出す媒介要因の1つとして着目されてきた。しかし教育の目的に関する理論的考察やソーシャルネットワークに関する研究成果をふまえると,以下の2つの方向で発展の可能性がある。第1に,着目する教育態度の対象を,子どもに教育・地位達成を求める態度に限定せず,社会貢献を求める態度にまで広げることであり,第2に,検討すべき背景要因の範囲を,親自身の地位や資源だけに限定せず,そのソー シャルネットワークにまで拡張することである。
     以上の問題意識に基づき,子育て中の親を対象とした調査データを用いてログリニア・モデルによる探索的分析を行った結果,以下の点が明らかとなった。1)従来から注目されてきた地位達成志向は,確かに階層と関連するが,それとは独立に競争的ネットワークの規模とも正の関連を持つ。2)従来は見過ごされてきた社会貢献的な子育て志向には,協力的ネットワークの規模のみが正の関連を持つ。3)肯定的養育態度には,競争的ネットワークの規模のみが負の関連を持つ。4)地位達成志向の強い者は否定的養育態度を取りやすい。これらの結果は,私的で協力的な人間関係が向社会的な教育態度を形成する可能性や,教育達成の多世代効果の背景には競争的な親族関係が作用している可能性,および,核家族外の育児資源を充実させる際には,それらの資源と子どもの親との関係性に配慮すべきことを示唆する。

  • ――相互情報量指数を用いた学歴段階間・学歴段階内の寄与の分析――
    小川 和孝
    2024 年114 巻 p. 201-221
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     本論文の目的は,日本社会における学歴と職業の連関について,個人レベルの社会調査データから新たな分析を行うことである。より具体的には学科・専攻分野を考慮した際に,異なる学歴段階間・学歴段階内に職業との連関がそれぞれどの程度に存在するかを明らかにする。
     分析では,2005年と2015年の「社会階層と社会移動調査」をデータとし,相互情報量指数を用いて学歴と職業の連関の強さを明らかにする。主な分析結果は次のとおりである。(1)学歴段階別にみると職業との連関にもっとも寄与しているのは,男性では大学・大学院,女性では高校である。構成割合を考慮した構造的連関では,男女ともに中学,大学・大学院,高校,短大・高専・専門の順で職業との連関が強い。(2)学歴と職業の全体の連関に占める,学歴段階内の寄与は3割前後であり,女性においてより大きい。(3)2005年から2015年にかけて学歴と職業の連関は男女ともに弱まっている。反実仮想的なアプローチを用いて構造的変化に注目すると,男女ともに観察値よりも大きな連関の弱まりが見られる。これは高等教育の進学率が高まるにつれて,それまでに各専攻分野に特徴的であった職業に付く傾向が弱まったという,教育過剰(overeducation)が起きている可能性を示唆する。

  • ――学習指導をめぐる教師の専門性の構築過程――
    溝脇 克弥
    2024 年114 巻 p. 223-243
    発行日: 2024/07/01
    公開日: 2026/02/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,Fournier(2000)のバウンダリー・ワーク論の視点から,教師が学校と学習塾,教師と塾講師の違いについて語ることを通じて境界を創出し,自らに「固有」の専門性を構築していく過程を明らかにすることである。
     今日,学習塾は日本社会に受容されている。これは同じく学習指導にかかわる教師にとってその専門性を揺るがす事態といえるが,教師=専門職論はこの問題を等閑視してきた。そこで本稿では,「専門職の社会学」に示唆を得,教師と塾講師を共に学習指導の「管轄権」(Abbott 1988)をめぐって競合する専門職として位置付け,その葛藤関係の内に立ち上がる教師の専門性を筆者が実施したインタビュー調査のデータを基に検討した。
     主な知見は,次の通りである。第一に,研究参加者は学習塾を肯定し,学習指導における塾講師の管轄権の領有を認めていた。一方で第二に,学習指導をめぐる職務領域を〈学力向上〉と〈人格形成〉に分割して境界を創出し,管轄権の重心を後者に移動させる特殊な形態のバウンダリー・ワークを実践することで,教師に「固有」の専門性を見出していた。第三に,語りを通じて呈示される教師の専門性は日々の実践を規定する制度的枠組みとの間に矛盾をきたしうるが,それは境界再編の契機にはなり得ず,境界は維持されていた。
     以上を踏まえ,教師=専門職論における「下から」のアプローチの展開可能性と,学校外の「他者」に関心を向けることの重要性を指摘した。

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