本稿は,中国浙江省慈渓市に住む48世帯の親から聞き取った事例を用いて,家族の資本構造がどのように公立と民営中学校の選択に影響を与えるのかを,親の学歴資本と経済資本の構造が異なる家族の比較を通して明らかにしたものである。得られた知見は,以下の通りである。
第一に,民営中学校を積極的に選択するのは学歴資本と経済資本の所有量が一貫して多い家族である。所有量の多い家族ほど,その意識がより明確である。
第二に,学歴資本と経済資本の両方が不足している家族にも民営中学校選択意識がある。ただし,彼らの行動は周囲の状況に制約されるため実現できない状況である。
第三に,学歴資本は少ないが,経済資本を社会一般より多く所有している場合,明確な民営志向が示される。こうした志向は民営中学校の進学実績により根拠づ けられている。
第四に,学歴資本の所有量が中間レベルの場合,民営志向は見られるものの,経済資本の少ない親ほど家計への負担感が言及された。一方,この場合の公立志向は,子どもの成績が良好ではないという判断によるものである。
第五に,学歴資本は多く保有しているが,経済資本はそれにみあわない家族の場合は,民営中学校を志向する家族もいる一方で,公立中学校を積極的に評価する家族もいる。いずれにせよ,これらの家族があげた理由からは,学業以外の能力などに大きな関心を持っていることが共通に読み取れた。
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