教育社会学研究
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98 巻
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特集
  • 山田 哲也
    2016 年 98 巻 p. 5-28
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本論文は,PISA型学力が日本の学校に与えた影響について検討するために,バジル・バーンスティンの理論的枠組みに依拠しつつ,PISA実施の前後で生じた学校教育のペダゴジーの変容過程を分析した。
     「生きる力」の育成を教育目標に掲げた1990年代の学校教育のペダゴジーは,子ども中心的で弱い分類・枠づけを特徴とするコンペタンス・モデルに近接するかたちで展開した。ところが90年代末に「学力低下」論が社会問題化し,2000年代以降もPISA などの国際学力調査によって学校教育が抱える課題が示されると,文部科学省は「確かな学力」の定着・向上を強調し,強い分類・枠づけを特徴とするパフォーマンス・モデルへとペダゴジーのあり方を転換した。
     ただし,そこで生じたのは単なる伝統的教授法への回帰ではなく,ヤヌス的な様相を持つペダゴジー,すなわち分類と枠づけの値を強めつつも,グローバルな教育文化が求める「機能的リテラシー」の育成をめざす一般的スキル・モードへの接近であった。このペダゴジーにおける評価ルールは,〈権利保障・平等〉言説,〈競争を通じた卓越〉言説,メリトクラシーの多元化言説という競合・補完関係にある3つの規制言説によって規定されているが,PISA 実施以降に展開した学力重視路線を背景に,近年は〈競争を通じた卓越〉言説の規定力が強まり,現場の多忙化・学習の形骸化などのリスクを生み出している。

  • ―後期近代におけるマイノリティ教育の論理―
    澤田 稔
    2016 年 98 巻 p. 29-50
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,グローバル化に伴う知識・能力(観)の再編が各国で加速する現状にあって,この動向がマイノリティ集団にとってどのような意味を持つのかという問いに対する一定の答えを,アメリカ合衆国で批判的教育学と呼ばれる分野の研究成果を踏まえるとともに,初等中等教育のカリキュラム・教育方法に関する実践事例を参照することによって明らかにすることである。考察には以下のような手順をとる。まず,本考察の理論的基盤となる批判的教育学の特質と,本稿が採用する視座の位置付けを明らかにするために,アメリカにおけるカリキュラム論と批判的教育学との関係を整理して,批判的教育学内部における重要な論争点を取り上げ,その意義について考える。その上で,近年の批判的教育学でも言及されることが多いフレイザーによる「再配分の政治」と「承認の政治」という正義論の概念を導入し,これを再解釈して教育実践論に適用することで,グローバル化による知識・能力の再編に対応するとともに,不平等の拡大再生産の是正に資するカリキュラム・教育方法論の可能性について論じる。さらに,このような社会適応・地位達成の実現を目指す教育だけでなく,民主主義社会における,より積極的で活動的な主体性の涵養を目指す批判的市民性教育の可能性についても論究する。最後に,こうした可能性を実践的に具現化したとみなすことができる事例を取り上げる。

  • ―高校教育研究による再構築―
    菊地 栄治
    2016 年 98 巻 p. 51-70
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本論文では,グローバル化社会における「能力」の社会的定義に焦点を合わせ,「質保証」問題を手がかりにしながら,高校と大学の教育実践と接続関係に与える影響について吟味する。高校教育の多様な実態との齟齬等を中心に,これまでの改革の言説と実践の問題点を批判的に考察する。最後に,具体的な実践事例の知見にもとづきながらもうひとつの改革モデルを提案する。一連の考察によって得られた知見は,以下の通りである。
     第一に,「質保証」問題は,低成長時代に特有の功利主義に影響されながら語られている。大学での「教養」の解体とともに経済ニーズが直接に教育のありように影響し始めている。
     第二に,「学士力」の定義は,有用性と広範さを特徴としており,実体論的な定義と線型的な自己成長が含意される点で旧来の理論の域を出ていない。
     第三に,新接続テスト(=二種類の共通テスト)が政策提案されているものの,矛盾と齟齬を抱えている。かつ,多様化した高校の実態とは大きく乖離した内容にとどまっている。
     第四に,実際の高校教育の実態は,学力と規律の点で向上しているが,職務多忙化の中で生徒・教師間の関係性の深さは浅くなってきており,教師の自律性も減衰している。
     最後に,主に大阪の高校の事例研究をふまえて,〈一元的操作モデル〉から〈多元的生成モデル〉へと学びの構造転換を図ることの重要性が浮き彫りになる。

  • ―取引費用から整理する教育・市場・雇用―
    梅崎 修
    2016 年 98 巻 p. 71-90
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,取引費用という概念を使って人材と取引制度の分類を行い,教育とキャリアの接続を考察した。まず,取引費用の大小と市場取引と組織内取引の比較の観点から人材と取引制度を「市場型」「指令経済型」「ネットワーク型」「内部労働市場型」に分けた。さらに,その分類を踏まえて市場と雇用制度に関わる変化を「個別化」「市場化=非正規化」「バウンダリーレス化」「非定型化」に分類した。この分類によって,(1)「市場型」と「ネットワーク型」を区別せずに市場重視を語る限界と,(2)取引費用を過小評価し,市場取引や組織内取引を過度理想化する限界を考察した。具体的には,職業教育重視の高等教育改革案の問題点を検討し,「ネットワーク型」の中で脚光を浴びている曖昧な能力や働き方が,同じ市場取引という理由で「市場型の人材」の中に「密導入」され,さらにその能力が市場で観察・伝達可能であると理想化されていると説明した。実際の問題は,「市場化=非正規化」と「非定型化」によって生み出された「内部労働市場から排除され,なおかつ市場取引費用は高く,ネットワークも活かせない低い熟練の人材」が経験学習の「場」も喪失していることである。今後の高等教育機関の役割として,社会の中にネットワーク構築の「場」となることをあげた。

  • 小方 直幸
    2016 年 98 巻 p. 91-109
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     教育社会学研究は現在,伝統的ならびに現代的という二重の意味で,能力の飼いならしという課題に直面している。本稿は,1961年から2006年まで4度にわたり刊行され,我が国でも翻訳されてきた教育社会学のリーディングズに依拠しながら,この問題を考察する。教育社会学は伝統的に,階層,教育,地位達成の関係を考察し,不平等の構造を明らかにしてきた。しかし,教育は個人の能力の代理指標に過ぎず,能力の事後解釈というくびきから逃れられない。それは教育社会学の限界でもあるが,能力観を問わず教育機能を検証し続けられるという点で,強みでもある。教育社会学は50年前に経済と出会い,上記の経済に伴う不平等を考察する分析モデルを手にしたが,経済発展とそれに伴う教育拡大は,不平等を解消することはなかった。近年では,経済のグローバル化に伴い,分解,測定,比較という能力の可視化が,政治の世界で展開し,政治家や国民に不平等の現実を提示するという意味で,政治算術は教育社会学にとってますます重要になっている。他方で,能力の実態論を基盤としてきた教育社会学は昨今,能力の規範論であるシティズンシップ教育を重視し始めている。ただ,それが伝統的な階層,教育,地位達成をめぐる教育社会学のアプローチに及ぼすインパクトは定かでない。以上を総括すると,教育社会学は現在もなお,研究上も実践上も能力を飼いならせているとはいえない。

論稿
  • ―コンタクト・ゾーンにおける教育実践に着目して―
    金南 咲季
    2016 年 98 巻 p. 113-133
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,地域社会における外国人学校と日本の公立学校の相互変容過程を,接触によって立ち現れる教育実践に着目して描き出すものである。そのうえで,従来の研究が看過してきたミクロな地域的観点から「外国人学校」を捉え直す視座と,ローカルな地域的実態を踏まえた支援の在り方について示唆を提示することを目的とする。
     具体的には新興のコリア系外国人学校T校と校区の公立2小1中を事例に,その接触の様相を「コンタクト・ゾーン」を視点として記述した。
     本稿の知見は以下に纏められる。第一に,T校と校区の公立学校は非対称な力関係のもとで出会うが,既存の実践を問い直していくなかで双方に主体化し交流をもつようになっていた。第二に,接触の継続のなかでは,授業実践や構成員の変容,新たな軋轢とそれを契機とする連携強化,進学制度の創出と活用といった展開がみられた。第三に,その背景には社会的不利益層のエンパワメントを重視する校区の地域教育組織と,構造的な窮状に直面しつつも教育理念の実現を見据えて地域社会との関係構築を進めるT校の主体性が重要な役割を果たしていた。
     以上より,所与の環境や固有の構造的制約に規定されつつも,単に受動的に対処するだけでなく,既存の実践を問い直し相互に教育資源と位置づけ合うなかで,双方の教育実践を発展的に展開する外国人学校と校区の公立学校の姿が明らかとなった。踏まえて最後に学術的示唆と政策的示唆を論じた。

  • ―合理的選択理論における信念の明確化―
    小川 和孝
    2016 年 98 巻 p. 135-154
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本論文では,高校生の持つ時間割引選好とリスク回避傾向が,教育期待へと与える影響について分析する。これによって,合理的選択理論における行為の前提となっている信念を,より明確化することを目的としている。
     日本全国の高校2年生とその母親に対する調査をデータとして使用し,時間割引選好とリスク回避傾向が,高校卒業後の教育期待に与える影響を検証した。時間割引選好は,入職時点とその後の上昇度合いが異なっている賃金プロファイルのどれを好むかという選択から,またリスク回避傾向は仮想的な宝くじへの支払い意思額から尺度が構成される。
     分析の結果から,これまで教育選択のモデルに明示的に取り込まれてこなかった信念は,既存の社会階層変数とは独立した効果を有していることが示された。時間割引選好は教育期待に対して有意に正の影響を有していた。これは将来の大きな利益をより重視する生徒ほど,より長い教育を望む傾向あることを示している。また,リスク回避傾向は教育期待に対して有意に負の影響を有していた。これはより損失に敏感な生徒ほど,より長い教育を望みにくいことを意味する。ただしリスク回避傾向については,モデルの選択によって頑健な結果とは言えなかった。これらの結果が教育選択におけるリスク回避仮説に対して持つ意義や,信念の役割を明らかにすることと機会の不平等における規範理論への発展との関連について議論した。

  • ―縦断的経済資本研究―
    松岡 亮二
    2016 年 98 巻 p. 155-175
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     親の世帯収入と学歴によって学校外教育活動への参加に差があることは,実証的に示されてきた。しかし,先行研究は一時点における横断データに依拠してきた。よって,成長に伴って大多数の児童が学校外教育を利用するが,そこに社会経済的な格差が存在するのかは明らかにされていない。また,先行研究は観察されない異質性を統制していないので,経済資本と学校外教育機会利用の関連が過大評価されている可能性がある。そこで本稿は,厚生労働省が実施している21世紀出生児縦断調査の個票データを用い,(1)学齢と参加の関連が,世帯収入を含む社会経済的地位によって異なるのか,そして(2)世帯収入の変化が学校外教育参加の変化と関連しているのかを検討することによって,学校外教育投資における経済資本の役割を精査した。
     世帯収入を含む3時点の大規模縦断データを,成長曲線を含むハイブリッド固定効果モデルによって分析した結果,資本転換の基底にあるとされる経済資本量が多く,父母の学歴が高いとき,学齢と学校外教育活動種類の増減の関連がより強い傾向にあった。また,係数は小さいものの,世帯収入の変化と習い事の種類数の変化の関連が明らかになった。この傾向は養育費を目的変数としても確認された。これらの知見は,学校外教育機会量の社会経済的格差は子の成長に伴って拡大するが,微弱ながら経済資本の効果が確認されたことから,経済的支援による格差解消の可能性を示唆している。

  • ―明治前期の「学校管理法書」に着目して―
    水谷 智彦
    2016 年 98 巻 p. 177-196
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿は,明治前期に刊行された「学校管理法書(以下,「管理法書」)」中の罰に関する記述を分析し,そこに描かれた教師像とその変容過程を解明するものである。「管理法書」は,当時の教育知識を主導的に形成した師範学校関係者により書かれた書物で,教員志望者へ学校運営・管理方法を説明する役割を担っていた。
     本稿では,学校における罰を,周縁的な存在である生徒の逸脱行動への処遇として位置づけた。そのうえで「管理法書」中の罰の記述を分析し,教師がいかに生徒の逸脱を定義し,それに処遇するよう要請されたのかを考察した。分析には,バーガーとルックマンが世界を維持するための概念機構として理論化した治療と無効化を用いた。
     分析の結果,罰は1880年代の逸脱行為を排除する無効化から,90年代の逸脱者の矯正・訓練をおこなう治療へと変化し,それにともない,教師像も裁判官から医者へと変容したことが示された。また,この変化は森有礼の教育政策である「人物査定」の要請と廃止を契機に普及した「性質品評表」という生徒の診断装置の登場によってもたらされたことが,「管理法書」から明らかになった。
     最後に本稿の二つの知見を述べた。その一つは,明治前期には人びとの生活世界の中心ではなかった学校が,世界を維持するための概念機構を用意しはじめていたことである。またもう一つの知見として,その概念機構が国家の政策ではなく,教育知識の担い手により準備されていたことを論じた。

  • ―高校中退経験者の「前籍校の履歴現象効果」に着目して―
    内田 康弘
    2016 年 98 巻 p. 197-217
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,高校中退経験を持つ私立通信制高校サポート校(以下,サポート校)生徒の大学進学行動の事例に着目し,サポート校を経由した非直線的な大学進学行動(教育達成)の実態とその構造を明らかにすることである。そのため,本稿ではサポート校X学院V校生徒の大学進学行動に焦点を当て,「前籍校の履歴現象効果」という観点から分析を試みた。
     本稿の主な知見は以下の3つである。第1に,高校中退経験を持つ生徒によるV校経由の大学進学行動の際,葛藤を経て離脱した前籍校という特性が,V校において残存効果を持ち,新たな仲間集団での相互作用を通じて大学進学アスピレーションの(再)加熱を支える独自の資源として機能していたこと。第2に,V校での進路指導場面においても前籍校という特性が機能し,スタッフは各生徒の前籍校の履歴現象効果を巧みに活用して志望大学のランクをそれぞれ調整し,V校の進路資源を傾斜的に配分しながら,生徒を皆「納得」させて大学進学へと導いていたこと。第3に,そうしたV校での学校経験を経て大学合格を達成した生徒たちには,高校中退経験そのものを各個人の描く「成功物語」獲得のための進路変更として積極的に捉え直すという自己再定義過程があったこと,である。
     これらの検討を通じて,サポート校が教育達成のためのオルタナティブ・トラックの一つとして機能している現状を明らかにするとともに,残された課題を考察した。

  • ―PISA2009のデータを用いた分析―
    鳶島 修治
    2016 年 98 巻 p. 219-239
    発行日: 2016/05/31
    公開日: 2017/06/01
    ジャーナル フリー

     本稿では,経済協力開発機構(OECD)が2009年に実施した国際学力調査PISA(Programme for International Student Assessment)の日本調査データを用いて,高校1年生の「読解リテラシー」に対する出身階層の影響について検討した。PISAの読解リテラシーを構成する「情報へのアクセス・取り出し」,「テキストの統合・解釈」,「テキストの熟考・評価」という3つの側面を区別し,これら3つの側面の得点が個人(生徒)にネストされた形の階層的データをもとにマルチレベル分析を行った結果,いずれの側面の得点に対しても出身階層が正の効果をもっていることが確認された。また,国語科で従来から重要視されてきた「読解力」に近い性格をもつ「情報へのアクセス・取り出し」に比べて,「テキストの統合・解釈」や「テキストの熟考・評価」の得点に対する出身階層の効果は相対的に大きいという知見が得られた。読解リテラシーに対する出身階層の影響を説明するため,「文化資本」の一種とみなされる生徒の読書習慣(学校外での趣味としての読書時間)に着目して媒介関係の検討を行ったところ,読解リテラシーに対する出身階層の効果の約10~12%が読書時間によって媒介されていた。ただし,読解リテラシーの3つの側面の得点に対する読書時間の効果はほぼ同程度であり,「テキストの統合・解釈」や「テキストの熟考・評価」の側面において出身階層の効果が相対的に大きい傾向は読書時間という要因によっては説明されなかった。

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