多彩な精神・神経症状を呈するペラグラの一原因ともなっている tryptophan imbalanced diet で飼育したシロネズミでは, 脳・神経ホルモンであるカテコールアミンの生合成が減少していることを前報で報告した。この際
14C-tyrosine を腹腔内注射し, 2時間後に脳を摘出して, 脳にとりこまれた放射活性を測定したところ, ニコチン酸投与群ではニコチン酸欠乏群に比べて脳にとりこまれた放射活性は減少していたので, この原因を明らかにすることを試みた。
1) ニコチン酸欠乏および投与シロネズミに
14C-tyrosine を投与し, 呼気中に排泄される
14CO
2の量と, 血清中と脳中の放射活性について経時的な変化を調べた。ニコチン酸投与群ではニコチン酸欠乏群に比べて, 呼気中に排泄される
14CO
2の量は増加しており, 血清中の放射活性の減少速度は速かった。したがって脳にとりこまれる放射活性は減少していた。
2) 肝臓の tryptophan 濃度はニコチン酸欠乏群ではニコチン酸添加群に比べて減少していたが, ニコチン酸または tryptophan の投与により増加した。しかし肝臓の tyrosine 濃度にはニコチン酸添加群, ニコチン酸欠乏群, ニコチン酸または tryptophan 投与群, どの群にも差はみられなかったので,
14C-tyrosine の cold の tyrosine による稀釈率が異なるためにニコチン酸投与群では呼気中の
14CO
2の排泄が増加したのではないと考えられた。
3) 肝臓の tyrosine transaminase 活性はニコチン酸投与群ではニコチン酸欠乏群に比べて増加していた。しかし tryptophan pyrrolase 活性は逆にニコチン酸欠乏群の方がニコチン酸投与群よりも増加していた。
これらの結果からニコチン酸欠乏シロネズミにニコチン酸を投与すると呼気中への
14CO
2の排泄が増加すること, 肝臓の tyrosine transaminase 活性が増加することから tyrosine の分解が盛んになっていると推定された。
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