栄養学雑誌
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巻頭言
原著
  • ─脚気問題と宗教観に関する補論とともに─
    上田 遥
    原稿種別: 原著
    2025 年 83 巻 1 号 p. 3-18
    発行日: 2025/02/01
    公開日: 2025/03/18
    ジャーナル フリー

    【目的】日本栄養学の父とされる佐伯矩は従来の「営養」にかわり「栄養」の語を提唱したが,その根拠は不明なままであった。本研究の目的は,新たに発見した資料をもとに,佐伯と脚気問題と宗教との関係性をふまえながら,「栄養」の語義と根拠文献を明らかにすることである。

    【方法】これまでその存在が認識されず研究対象とされてこなかった旧栄養学校所蔵資料(とりわけ佐伯矩の著作群と古書群),および佐伯の下積み時代の論文23件,戦前の新聞記事(読売新聞,朝日新聞)を分析した。

    【結果】古書群のうち漢方医学(『諸病源候論』『万痾必愈』)および宇田川系の蘭学(『和蘭薬鏡』)の文献に,佐伯が「栄養」の語義を参照した形跡があった。佐伯の栄養学確立への動機を形成した要因として,脚気問題との関係を直接証明する文献的根拠は得られなかったが,佐伯の宗教観(特に妻昌子を通じた教派神道黒住教との接触)との関連性を示唆する資料的根拠を得ることができた。

    【結論】佐伯矩が「栄養」の語彙に託した意味は「血液」「発育」である。より具体的にいえば「栄養」とは,飲食物から取り込んだ生命の原動力を,体中に循環運行させ,心身を発育させる機能を意味する。本研究ではその語義と根拠文献を明らかにしたが,佐伯がなぜこうした意味を「栄養」という語彙に託したかという動機のさらなる探索が求められる。

  • 小野 愛花, 玉浦 有紀, 藤原 恵子, 西村 一弘
    原稿種別: 原著
    2025 年 83 巻 1 号 p. 19-29
    発行日: 2025/02/01
    公開日: 2025/03/18
    ジャーナル フリー

    【目的】地域在住高齢者の食品摂取の多様性の実態を把握し, その多様性が低い者の特徴を食品群別の摂取頻度や社会参加状況,属性,健康状態を踏まえて検討する。

    【方法】2022年度,2つの対象者層(集合住宅居住者,介護予防事業参加者)に無記名自記式質問紙調査を実施した。65歳以上で食品摂取の多様性(Dietary Variety Score; DVS)に関する項目全てに回答した者を解析対象とした。対象者層によるDVS区分(低・中・高群)の相違を確認後,対象者層別にDVS区分による各食品群の摂取頻度,属性,社会的フレイルを含む健康状態の相違をFisherの正確確率検定または一元配置分散分析で検討した。

    【結果】集合住宅居住者193名(有効解析率65.6%)と介護予防事業参加者38名(有効解析率73.1%)のうちDVS低群(0~3点)該当者は4割以上を占め,肉類,魚介類,海藻類,いも類,油を使った料理を「ほぼ毎日食べる」者は1割未満であった。集合住宅居住者のDVS低群は44.6%と介護予防事業参加者の18.4%と比べて高く,ソーシャルサポートがない者の割合が高い傾向がみられた(p=0.064)。

    【結論】DVS低群は,たんぱく質源となる食品群の摂取頻度の低さと関連し,社会参加やソーシャルサポートの不足の関与も示唆された。

研究ノート
  • みそ汁の汁を半量にした場合のおいしさや満足感等の比較
    杉本 真依子, 田尻 絵里, 中嶋 名菜, 坂本 達昭
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 83 巻 1 号 p. 30-38
    発行日: 2025/02/01
    公開日: 2025/03/18
    ジャーナル フリー
    電子付録

    【目的】給食施設等において実施可能な減塩方法を検討するために,普通量のみそ汁を含む定食とみそ汁の汁を半量にした定食のおいしさ,満足感等を比較検証することを目的とした。

    【方法】対象者は,大学生男女合計34名とした。試験食は,スマートミールの基準を参考に調製した定食(主菜:鶏肉の唐揚げ)である。ランダム化クロスオーバー試験にて普通量のみそ汁(汁:150 g)を含む定食を食べた場合(以下,普通量条件)と,みそ汁の汁のみを半量(汁:75 g)にした定食を食べた場合(以下,半量条件)の満足感,おいしさ,塩味に対する好み,量の認識等を試験食全体と料理別で比較した。途中辞退者2名を除く32名(男性16名,女性16名)を解析対象者とした。

    【結果】食塩摂取量の中央値(25,75パーセンタイル値)は,普通量条件は3.4(3.4,3.5)g,半量条件は2.8(2.7,2.8)gであり,みそ汁を半量にすることで食塩摂取量は約 0.6 g低値であった(p<0.001)。料理別の評価では,みそ汁の量の認識は,半量条件の量を少ないと認識していた(p<0.001)。一方,試験食全体の評価では,両条件間で満足感,おいしさ,塩味の好み,量の認識についての評価に有意な差は認められなかった。

    【結論】定食のみそ汁の汁を半量にしても,定食全体の満足感やおいしさに有意な差は生じないことが示唆された。

  • ─副食(主菜・副菜)の食形態の名称と学会分類2013(食事)のコードとの関連─
    西浦 幸起子, 神田 知子, 渡邊 英美, 小切間 美保, 髙橋 孝子, 桒原 晶子, 赤尾 正, 宇田 淳, 市川 陽子
    原稿種別: 研究ノート
    2025 年 83 巻 1 号 p. 39-53
    発行日: 2025/02/01
    公開日: 2025/03/18
    ジャーナル フリー
    電子付録

    【目的】介護老人保健施設(老健)で提供されている副食(主菜・副菜)の食形態の名称と日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類)の活用の現状を把握し,施設間連携を円滑に進めるための問題点を明らかにすることを目的とした。

    【方法】2020年に全国の老健4,133施設を対象として質問紙調査を実施し,副食(主菜・副菜)の食形態の名称と,該当する学会分類コードの回答を求めた。得られた食形態の名称をカテゴリーに分類して集計した。

    【結果】食形態の名称の記載のあった941施設(名称に関する回答率22.8%)を対象とした。老健で提供されている副食(主菜・副菜)の名称の延べ出現数は3,965(重複を除くと627)であった。コード別の提供施設の割合はコード2-1と3は6割,コード2-2と4は5割,コード1jは3割であった。カテゴリーに分類した食形態の名称と学会分類コードとの関連では,概ね学会分類コードに対応した食形態が提供されていた。一方,コード1j~4のすべてで,著者らが分類した“ソフト食”,“刻み食”が出現し,食形態の名称だけでは実際の食事の物性が伝わりにくい状況であった。

    【結論】施設間連携を円滑に進める上では,各施設は提供している副食(主菜・副菜)の食形態の名称を整理し,学会分類コードを名称に併記することが必要と考えられる。

実践活動報告
  • ─特定健診・特定保健指導のフレイルへの応用による40歳以上を対象とした単群介入前後比較─
    吉田 司, 和田 理紗子, 有島 裕香子, 渡邉 大輝, 中潟 崇, 澤田 奈緒美, 島田 秀和, 西 信雄, 宮地 元彦
    原稿種別: 実践活動報告
    2025 年 83 巻 1 号 p. 54-67
    発行日: 2025/02/01
    公開日: 2025/03/18
    ジャーナル フリー

    【目的】フレイルは高齢者でなくとも存在し,適切な介入による可逆性があるため早期発見と介入が重要である。本研究は特定健康診査・特定保健指導に準じた実施方法がフレイルに適用可能か明らかにすることを目的とした。

    【活動内容】 40歳以上の参加者524人に対して基本チェックリスト(KCL)を含む質問票と体組成測定からなるフレイルチェックを実施した。フレイル該当者に管理栄養士による当日フレイル保健指導(フレイルの理解,運動,栄養・食事,口腔機能強化・ケア,社会的つながりで構成)と2回の郵送による情報提供を実施し,補助教材としてフレイルリーフレットと日誌を提供した。3か月後に再度フレイルチェックを実施し,フレイル該当の有無とKCL該当個数を介入前後で比較した。

    【活動成果】フレイル該当者は100人で,うち94人に介入を実施した。事後フレイルチェックは39人が参加し,うち25人がフレイル非該当になりKCL該当個数は平均8.72個から5.62個に減少した。

    【今後の課題】保健指導と情報提供の比較的負担が軽い方法でもフレイルが改善したため,特定健康診査・特定保健指導のノウハウをフレイルに活用できる可能性を示した。しかし40歳代や50歳代の参加が少ない,事後フレイルチェックの参加割合が低い,など課題が顕在化し,実施する曜日や時間帯,開催場所,リマインド方法などの工夫が必要であることが明らかとなった。

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