映像学
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101 巻
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論文
  • 『桃太郎の海鷲』から『桃太郎 海の神兵』へ
    小倉 健太郎
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 5-26
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     1943年に公開された『桃太郎の海鷲』は、海軍省が後援となり真珠湾攻撃をモチーフとして制作された国策アニメーションである。演出は、当時代表的なアニメーターのひとりと見なされていた瀬尾光世が務めた。同じ瀬尾による1945年公開の『桃太郎 海の神兵』は長らく幻の作品とされていたが、1984年に倉庫から発見され話題を呼んだ。近年、この作品の研究が進み、アニメの「ルーツ」として重要な作品と見なされるようになっている。一方、『桃太郎の海鷲』については比較的に研究が進んでいない。しかしながら、『桃太郎 海の神兵』は明らかに『桃太郎の海鷲』の延長線上に作られた作品である。日本アニメーション史において『桃太郎の海鷲』はどう位置づけられるだろうか。
     本稿では、瀬尾の「桃太郎」作品が当時の「漫画映画」という概念を拡張しようとする一貫した試みであったと主張する。まず『桃太郎の海鷲』では、「文化映画」の要素が取り入れられた。報道写真やニュース映像などが参考にされ、兵士たちの日常に焦点が合わされ、映画的手法も用いられている。このことは、漫画映画がどのようなものであるべきかという評者それぞれの意見の相違を顕在化させた。さらに『海の神兵』では、漫画の滑稽さとは相反する暴力描写や悲劇が導入されている。瀬尾は、それまでの漫画映画ではほとんど用いられなかった非漫画的な要素を取り入れることで、漫画映画という概念を拡張しようとしたのだ。
  • 『満洲グラフ』における植民地表象の様式
    半田 ゆり
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 27-48
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     本稿は、1930年代から40年代にかけて発行されたグラフ雑誌『満洲グラフ』におけるネイティヴと女性の表象が、植民地満洲の政治的背景といかに関わっていたのかを論じたものである。その目的は、時局にふさわしくない芸術性を批判されていた『満洲グラフ』という表象が、むしろ日本の植民地主義との相互依存的な関係にあったことを明らかにすることにある。1930年代に内地で流行した「芸術写真」「新興写真」の実践者たちが制作に関わった『満洲グラフ』は、戦時中の国家による写真家のプロパガンダへの動員を論じるのにふさわしい媒体である。既往研究は『満洲グラフ』の芸術性と政治性を分けて論じてきた。そこで本稿は、『満洲グラフ』の芸術性が植民地満洲のイデオロギーといかなる緊張関係にあったのかを検討した。『満洲グラフ』におけるネイティヴと女性の表象に着目した結果、ロシア人女性と日本人女性を満洲のその他の民族の上に置くという、民族とジェンダーの階層化を見出した。これは、日本人男性を頂点とする満洲の家父長的なヒエラルキーと一致していた。『満洲グラフ』は内地の支配的な「報道写真」に対する「芸術写真」の意図的な対抗として制作されていた。しかし、彼らの抵抗としての芸術性が込められたイメージこそ、満洲を包含する日本のトランスナショナルな帝国のネットワークに下支えされ、その循環的な強化・維持の役割を果たすものだったことが明らかになった。
  • 『プロジェクトA』と『ポリス・ストーリー/香港国際警察』における肉体性と形象性
    雑賀 広海
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 49-68
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     本論文は、ジャッキー・チェンの落下に注目する。先行研究では、危険なスタントを自ら実演することによって、身体の肉体的真正性が強調されるという側面が論じられてきた。しかし、『プロジェクトA』(1983)や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)における落下スタントの反復は、むしろ真正な身体を記号的な身体に変換しようとしている。なぜなら、反復は身体が受ける苦痛を帳消しにする効果があるからだ。加えて、反復は物語の展開にとっては障害でしかない。こうしたことから、ジャッキー作品の反復は、スラップスティック・コメディのギャグと同様の機能を持ち、スタントをおこなう彼の身体は初期アニメーションの形象的演技へと接近していく。本論文は、ジャッキーと比較するために、ハロルド・ロイドやバスター・キートン、ディズニーの1920年代末から1940年代までの作品までを扱う。そして、アニメーションの身体性と空間についての議論や、スラップスティック・コメディにおけるギャグ論などを参照し、映像理論的に落下の表象を論じる。こうした作品分析をおこなうことで、ジャッキー・チェンの身体を肉体性から引きはがす。さらに、彼の映画では、身体だけではなく、まわりの空間までも非肉体的な形象に置き換えられていることを明らかにする。結論では、肉体性と形象性の境界を反復運動することが彼のスターイメージの特色であることを主張する。
  • 10フィート運動と「市民」の言説
    藤田 修平
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 69-91
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     1980年代初頭、米国戦略爆撃調査団が撮影した日本未公開の被爆映像を用いて、反核映画を製作・上映する市民運動(10フィート運動)が行われた。東宝争議以降、労働組合が主導した映画製作や上映活動は〈運動〉(自主製作・上映運動)として展開され、そうした〈運動〉の映画は非劇場映画史において主要な地位を占める。本稿はラクラウ/ムフの言説理論を参照し、映画テクストだけでなく、製作・上映をめぐる集合行為や他のメディアへの展開など多様な言説的実践に注目し、10フィート運動を通して、映画における〈運動〉を考察した。その結果、10フィート運動 を言説としての「市民」を構築し、その存在を実空間に実現させる試みとして、またその「市民」とは、戦前の軍国主義に封建的な社会規範、神道ナショナリズム、保守的な政治勢力などを「接合」した上で、被爆者の火傷や死体の映像を通して否定的に表象し、被爆者が代表する形でキリスト教徒、女性(主婦)、労働組合員、学生、在日コリアン等による「等価性の連鎖」によって生み出されたと解釈した。こうした仕組みは労働組合が主導した映画の製作・上映運動にも当てはまり、「市民」の代わりに職種、賃金、年齢などの差を超えた「労働者」や「人民」が言説的に構築され、上映活動や映画サークルなどを通して実空間に存在させたと考えられる。
  • 「風俗映画」としての渋谷実『自由学校』と「虚脱」状態の両義性
    角尾 宣信
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 92-113
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     敗戦後から1960年代前半にかけて、「風俗映画」と呼称される多くの作品が登場した。その特徴は、同時代のライフスタイルや風景などを記録し、そこから人々の思想や価値観を捉えるものと指摘されてきた。本論文は、総合的な「風俗映画」の研究に向けた一歩として、「風俗映画作家」と言われていた渋谷実の『自由学校』(1951年)を取り上げ、原作小説および吉村公三郎による同名翻案(1951年)と比較し、その「風俗映画」としての映画史的・社会史的意義と可能性を考察する。
     渋谷作品のスタイル上の特徴として、戦争および敗戦のトラウマの継続と、人物表象および心理描写両面での奥行きの無さの二点が指摘されてきた。本論文は、この二点を結ぶ線上において、本作品の特徴である男性主人公の「平面に寝ころぶ」という繰り返し現れる身ぶりを考察する。また、本作品での平面性というスタイルが、愛情や行動意欲の欠如と、ジェンダー的および物理的な平等性という二重の意味をもつことを指摘する。そして、この身ぶりの繰り返しを通じて描かれる、行動意欲を徹底して欠いた男性主人公の心理状態を、敗戦直後における日本社会全体の「虚脱」状態から歴史的に位置づける。さらに、本作品では、この「虚脱」状態を核として、「風俗映画」と見なしうる同時代の記録が構成されており、それが同時代における「虚脱」状態の逆説的かつ肯定的解釈と通じ合うことを示し、敗戦後の社会的心理状態から「風俗映画」を考察する必要性を指摘する。
  • 瀧口修造版との比較分析
    大谷 晋平
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 114-133
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     勅使河原宏や松本俊夫ら、後に日本の「新しい波」と言われる映画人たちは、1950年代末頃から「主体」を巡って様々な映画を制作するが、本論は勅使河原の『北斎』(青年プロ、1953)を、そういった映画活動の初期作品であると位置付け、その観点から考察を試みるものである。
     勅使河原は1950年代初頭から「世紀の会」等のいくつかの芸術運動に携わり、後に映画制作で協働する安部公房や、1940年代末に「主体性論争」の中心となった「近代文学派」の人物たちとも交流を持ち、同時代に芽生えていた問題意識を共有していく。勅使河原はそういった活動をしている時に、瀧口修造が過去に制作していた映画『北斎』の仕事を引き継ぎ、自分なりの『北斎』を再制作して監督デビューした。
     そのため、本論では瀧口が残したシナリオと、勅使河原版の『北斎』とを比較し、また、絵画を「物語的」に扱う映画の先駆者であるアラン・レネらの影響も考慮しながら、勅使河原のオリジナルな演出に焦点を当てて『北斎』を「主体」との関わりから考察する。
     本論を通して、勅使河原の『北斎』は「主体」を巡る映画としてある程度の問題意識を提出できたが、問題点も孕んでいたことが明らかになる。結局、『北斎』は、日本の「新しい波」の活動が盛んになる前の1953年の作品であること、そして「主体」に関しても課題を含んでいることから、「主体」を巡る映画運動の萌芽であると位置付けられるのである。
  • ライオン、ハグルマ、孔雀、キング、朝日活動、大毎キノグラフ
    福島 可奈子
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 134-154
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     玩具映画産業の実態とその多様性について、大正末から昭和15年頃までの玩具映画全盛期の業界大手6 社の業態とその傾向性の差異を、玩具映写機やフィルムなどの史料分析により実証的に論じる。
     玩具映画とは、戦前を中心に存在した子供用35㎜フィルムと家庭用映写機のことである。玩具映画ブランドには「ライオン」「ハグルマ」「孔雀」「キング」「朝日活動」「大毎キノグラフ」などがあるが、先行研究でブランド名などは知られていてもその業態は未解明であった。また玩具映画はフィルムの二次利用で映画産業の派生的領域をなしたが、従来各社の具体的相違についても未知であった。本稿は、系統学的方法から逸脱する短命メディアを「分散状態の空間」として「アルシーヴ化」するメディア考古学の視座から、東西玩具映画各社の流通・販売戦略を対比的に分析し、日本の映画産業の知られざる多様性の一端を明らかにする。なぜなら玩具映画は、劇場用映画を解体的に二次利用することで、映画の専門家ではなく、玩具会社や享受した子供までが映像を脱構築して無数のヴァリエーションを生み、他に例をみない拡がりをみせたからである。従来の映画史からすればそれは「断片」であり消滅した「雑多なもの」ではあるが、映像文化全体からみれば、日本の玩具映画とその産業形態のヴァリエーションはきわめて重要な存在であるといえる。
  • 奇術師たちとシルクハットの距離感
    平野 大
    原稿種別: 研究論文
    2019 年 101 巻 p. 155-176
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/06/25
    ジャーナル フリー
    【要旨】
     本稿は、クリストファー・ノーラン監督による映画『プレステージ』について、シルクハットというアイテムに焦点を絞り、これを分析の手がかりとしながら、読み解いていくことを目的としている。同時に、いままであまり注目されてこなかったファッション・アイテムである帽子の、分析ツールとしての可能性の一端を提示していくことも試みていく。
     映画『プレステージ』は19世紀末のロンドンを舞台に、「人間瞬間移動」を得意演目としていた二人の奇術師が繰り広げる確執の物語である。
     本作を検証するにあたり、特に注目するシーンがある。それは、オープニングとエンディング部分に見られる数多くのシルクハットが空き地に散乱しているシーンである。アメリカの映画研究家、トッド・マガウアンは、『クリストファー・ノーランの嘘― 思想で読む映画論(The Fictional Christopher Nolan)』の中で、このシーンに関して「過剰な帽子は、創作活動に必然的に付随する余剰物である」と述べている。
     このマガウアンの視点は、ノーランの映画製作観に鋭く踏み込む画期的なものである。しかし、果たしてシルクハットは、本当に創作活動の「余剰物」に過ぎないのであろうか。本作におけるシルクハットは「余剰物」以上の役割と意味を担っているのではなかろうか。
     本稿においては、このマガウアンの指摘に対して、シルクハットの歴史や象徴性をふまえながら、検討を加えていく。
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