本論は,2010年以降におけるイギリスのタウンセンターファースト政策と土地利用規制の変化を明らかにして,日本の立地適正化計画における都市機能誘導区域の課題を提言する.イギリス政府と多くの研究者は,多くのタウンセンターの立地が陳腐化し,それらが内外の衝撃に適応する必要があることを指摘した.そこで,イギリス政府はタウンセンターを迅速に,容易に発展させるために土地利用規制を緩和した.日本でも,都市機能誘導区域が,新たな社会の要請に自ら適応して,インターネットショッピングなどと差別化できる体制を整える必要がある.さらに,日本の複雑化した計画システムを単純化する必要がある.
令和6年能登半島地震の被災地の様子を記録すること,さらに地盤隆起と津波浸水の関係を検討するため,LiDAR-SLAMおよびCLASを導入した現地測量と被災前の数値標高モデル,空中写真,基盤地図情報を用いて,地盤隆起量と津波浸水の関係を検討した.LiDAR-SLAMの測量データは,災害において重要な被災地の記録であり,被災地をデジタル空間に保存できた.地盤隆起量は,LiDAR-SLAMまたはCLASを用いて測量し,半島北西側ほど地盤隆起量が大きくなる傾向を確認した.現地調査で津波の形跡が確認できた港のうち,半島北東部の狼煙漁港周辺の家屋は地盤隆起によって浸水を免れたことがわかったが,大谷漁港周辺は家屋のある場所の標高が高く地盤隆起による津波浸水の軽減の効果は小さいと推察された.寺家漁港周辺は,津波が高かったことに加えて家屋のある場所の標高が低く,地盤が隆起したにも関わらず津波浸水の被害が大きかった.
本研究の目的は,地方圏の小規模市町村を中心とした市町村間の広域連携により構築される地域包括ケアシステムの実態を明らかにすることである.分析視角にマルチレベル・ガバナンスを用い,同システムにおける主体間の垂直的・水平的連携を考察する.分析の結果,秩父圏域では,市町以下と広域レベル以上のそれぞれで主体間の垂直的・水平的連携が行われていることが明らかとなった.また両者の併置および垂直的連携により同システムが構築されていた.マルチレベル・ガバナンスではレベル間の調整不足が指摘されるが,秩父圏域の事例では秩父市の医療・福祉部門の諸機関によるメタガバナンスの権限が及ぶ範囲であれば,前述の指摘は該当しなかった.このような市町以下と広域レベル以上の両レベル間の連携構築は,宇和島圏域の事例とは異なる.このため,マルチレベル・ガバナンスにおけるメタガバナーを設置するレベルが今後の検討課題になる.
本研究は,静岡県三島市の源兵衛川の水辺空間を対象に,その都市内親水空間としての特性を,「水」「熱」「音」の三つの側面から調査・分析することで総合的に評価することを目的とした.その結果,源兵衛川の水辺空間では,特に親水空間として利用される夏季において,水環境・熱環境・音環境いずれも良好な環境が形成されており,水環境が熱環境や音環境にも影響していることが明らかとなった.富士山麓の湧水が,良質な水環境を形成し熱環境にも貢献しているとともに,人間によるさまざまな取組みが,涼しくて静かで心地よい源兵衛川の親水空間としての環境を創出している.すなわち,現在の源兵衛川の水辺空間の良好な環境は,自然の営みと人間の営みとの協働の産物であるといえよう.
高等学校必履修科目の地理総合の全国的な授業支援を目的として地理総合オンラインセミナー(地理教育フォーラム主催)が行われている.本稿では,2022年度のセミナーの実施状況,申込者や参加者へのアンケート調査の結果をもとに,研修や情報提供の体制・内容に関するニーズを検討した.主な知見は以下の通りである.①高校教員だけでなく,大学生・大学教員・行政機関の専門家などにも地理総合に関する情報のニーズが高かった.②オンラインで行ったからこそ,広域にわたるそのニーズに応えられた.③授業展開例や教材の解説へのニーズが高く,特に歴史系科目を専門とする人に,その傾向が強いと推察される.④地理総合の内容面では地理情報システム(GIS),授業担当者としての実務面では生徒に対する評価方法への関心が高かった.⑤セミナーの参加者からはセミナーで使用した資料やセミナーを録画した動画の公開が期待されている.
国際地理オリンピック日本委員会実行委員会は,国際大会において日本代表選手が優れた成績を収められるよう強化研修フィールドワークを実施している.第一次から第三次までの選抜試験を経て選ばれる4人の日本代表選手は,出身地がさまざまである.それゆえ,近年では各々の日本代表選手の居住地の近くで勤務する大学教員が必要に応じて高等学校教員のサポートを受けつつ5~6月に強化研修フィールドワークを行っている.ただ,こうした取組みの経過記録を放置すると,その記憶が薄れてしまうことで経験に立脚した取組みの改善が困難になりかねない.そこで本稿では,関西地区から選出された日本代表選手を対象として2024年6月8日に大阪府堺市中心部で実施した強化研修フィールドワークの概要を踏査経路にしたがって記録し,そこから導出される課題と展望を指摘した.
東京圏居住者に焦点を当て,国立公園制度についての理解度とイメージを把握した上で,知名度や訪問率,訪問意欲の度合から各国立公園に対する認識と需要を明らかにし,各公園が置かれている状況の明確化を試みた.Webアンケート調査の結果,国立公園に対して自然の豊かさや自然観光地域としてのイメージはもたれているものの,全体的な理解度は低かった.それぞれの国立公園について,知名度・訪問率・訪問意欲の度合いを総合的にみて4つのグループに分類した結果,各公園が置かれている状況には大きな差があり,下位のグループにおいてはほとんど知られておらず,それは若年層において顕著であった.すなわち,多くの国立公園の需要は高いとはいえず,特に新しい世代の人々に対して訴求するものになっているのかについて検討の余地があるといえる.
本研究は,中国の自然環境保全システムの中核を担ってきた国家級自然保護区の空間分布特性を,地理的・社会経済的要因に着目して考察した.国家級自然保護区の類型別・地域別・標高地形別の分布特性を分析した結果,以下の点が明らかになった.第1に,保護区の数からみると地域間で均等に分布しているものの,地域別の合計面積は西北地区と西南地区のほうが広い.第2に,保護区の数と面積規模は標高によって異なり,標高差が大きい地形境界線付近に保護区が集中する傾向がみられる.第3に,国家級自然保護区の指定と観光開発は,黒河・騰衝線で区分される地域経済水準と密接に関連しており,経済発展の著しい南東部において保護区指定と観光開発が進んでいることがわかった.これらの結果から,中国における国家級自然保護区の分布は,自然的要因に加え,社会経済的要因にも制限されていることが明らかになった.
本稿では特別区における都心–郊外の関係が,財政運営に及ぼす影響を解明することを目的に,特別区税と財政調整制度に焦点を当てて検討した.本稿の主な知見は次の3点である.①特別区における都心–郊外の関係の強化に伴い,特別区財政調整交付金を「負担する都心区」と「再分配を受ける周辺区」という対立軸が先鋭化している.②郊外としての性質が強い周辺区は郊外市町村と類似した地域特性を有し,都心区の豊富な税収を原資とする特別区財政調整交付金により柔軟な財政運営が可能になっている.③都区財政調整制度の特殊性により,他の大都市圏と比較して東京大都市圏の郊外市町村は最も不利な立場に置かれている.以上の知見により,特別区の都心–郊外の構造に起因する税源の偏在を均衡化するための都区財政調整制度の存在が,財政トランスファーを受けられる周辺区と,受けられない郊外市町村との間に,財政運営上の大きな差異をもたらしていることが示唆される.
イタリアにおけるランドスケープ政策への地理学の寄与について,フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州のランドスケープ計画を事例とし,その策定のために地理学者がいかなる知見を提供したかを検討した.調査の中心は,同計画の立案業務を受託したウディネ大学の専門家チームへのインタビュー,並びに計画文書とそれに関連する学術的生産物の分析である.調査の結果,地理学者を中心とするチームは,文化遺産の保護に重きを置くイタリアの制度文化から大きく踏み出し,欧州ランドスケープ条約を拠りどころに地域の全域を対象とする将来志向の計画を編み出したこと,また,基礎自治体を巻き込んだ市民参加プロセスを通じて,州の計画にローカルレベルの豊かな経験知が取り込まれたことが明らかになった.ランドスケープ研究に関わる多様な専門知の統合において,総合的な人文社会科学としての地理学の強みが発揮されたことも特筆に値する.
本研究では,長崎県松浦市における「アジフライの聖地」PR協力店のアジの仕入れ方法の考察を通して,飲食店が,不安定な食料供給の状況下でいかにして消費者へ食事を提供しているのかを明らかにした.アンケート調査からは,PR協力店には,鮮魚・活魚の調理にこだわりをもつ飲食店だけでなく,冷凍品を仕入れて加温・保温して販売する飲食店も加入していることが判明した.このうち,供給が不安定な鮮魚・活魚を仕入れる店舗の多くが複数の仕入れ先を確保していた.このように協力店が自身の経営に適したアジの仕入れ方法を選択できる背景には,遵守すべき決まりとして定められた「アジフライ憲章」の規定があった.すなわち,アジフライ憲章では,調理方法と仕入れ方法が限定されておらず,各店舗がノンフローズンかワンフローズンかを選択できたり,水揚げ地と漁獲地を広く解釈できたりする.結果的に,協力店はそれぞれの調理方法に合わせて,さまざまな形態のアジを仕入れられるのであった.フードツーリズムが持続的に運営されるには,消費者へ安定的な食事の提供が欠かせない.本研究からは,各主体による食材の仕入れ・調達に焦点を当てたフードツーリズム研究の重要性が指摘できる.
本稿の目的は,日本において地域の医療サービスに関して分析・検討・見通しを行う際,地域の面積・広がりについても考慮すべきことを提起することである.各医療機関からのバッファ距離別の人口を求め,それを地域人口数で割った値を人口カバー率とした.人口カバー率が相対的に低いところでは総じて単位面積当たりの医療機関数も少ない.人口カバー率は単位人口当たりの医療機関数よりも,単位面積当たりのそれとにおいて相関がより強いため,単位面積当たりの値に注目することは重要である.単に人口密度だけに注目するだけでも十分意義がある.単位面積当たり医療機関数と人口密度との間には強い相関があるためである.
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