今回LBA-EATA法を原理とするミュータスワコーi30(和光純薬)によるAFP測定時に偽低値を示すHCC患者症例に遭遇した.約1年間における15%以上の偽低値の出現頻度は11,000検体中44検体で全検体数の0.4%,2,000 ng/mL以下では,770検体中5.7%であった.10%以上の偽低値を示した患者18症例は全例HCCと診断され,18例中15症例が末期であった.薬物療法を受けていたのは12症例であり,ネクサバールが9例,無治療は6例であった.偽低値検体の解析では,希釈することで偽低値が改善し,また,PEG処理やプロテインA処理で免疫グロブリンを除去することでも偽低値が改善した.さらに化学処理では10%TritonX-100処理,4 M尿素処理および1 M酢酸処理で偽低値が改善した.種々の検討結果から免疫グロブリン(特にIgG)が関係していることが示唆され,HCC末期状態により,患者IgGの構造に何らかの変化をきたし,IgG-アルブミン-血漿タンパクがアグリゲーションし複合体を形成,複合体がDNA標識抗体-抗原(AFP)-蛍光標識抗体の結合を阻止あるいは非特異的に免疫複合体に吸着し,等速電気泳動での濃縮を阻害することにより偽低値が発現されることが示唆された.今回にように全身状態憎悪の患者検体では種々の測定系に非特異反応を起こす可能性が示唆され,そのことを念頭におき臨床検査業務に携わる必要がある.
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