電気泳動
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60 巻, 1 号
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第54回児玉賞受賞者論文
  • 小寺 義男
    2016 年 60 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    全身を循環している血液中のタンパク質・ペプチドの組成は,体内で起こっている各種イベントを反映している.しかし,血中タンパク質の分析は高濃度タンパク質の存在,タンパク質濃度のダイナミックレンジの広さ,存在様式の多様性により,組織や細胞中のタンパク質に比べて網羅的な分析が困難である.このため,組織由来の微量タンパク質やペプチド,高濃度タンパク質に結合した成分を詳細に分析するためには,新たな試料調製法の開発が必要である.そこで,我々は血清・血漿中のタンパク質ならびにペプチドの前処理法の開発を進めているわけであるが,この開発段階において電気泳動を利用することにしている.その理由は,電気泳動によって,前処理の各段階における試料中のタンパク質・ペプチドの全体像を再現性良く迅速に把握することができるからである.本稿では,Tricine-SDS-PAGEを利用して開発した高効率な血清・血漿ペプチド抽出法の開発とその応用研究について記載する.

  • 武川 睦寛
    2015 年 60 巻 1 号 p. 7-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    ヒト細胞内には,主に細胞増殖に作用するERK経路と,様々なストレス刺激に応答して細胞死を誘導するストレス応答MAPK(p38及びJNK)経路という複数のMAPKカスケードが存在する.細胞運命を決定して生体の恒常性維持を担うこれらMAPK経路の異常が,癌や自己免疫疾患などの発症に密接に関与することが示されている.私たちはこれまでに,分子生物学的手法と各種電気泳動法を駆使して,ヒト・ストレス応答経路の活性制御分子の探索を行い,MTK1やPP2Cなどの蛋白質リン酸化・脱リン酸化酵素やストレス誘導遺伝子GADD45など,複数の新規分子を同定して,その生理機能を明らかにしてきた.またERK経路に関しても研究を進め,最近,ERKによってリン酸化される基質として,機能未知の新たな分子MCRIP1を同定することに成功し,さらにMCRIP1が癌の転移に関わる上皮間葉転換の制御に寄与することを示した.本稿では,MAPK情報伝達経路の制御機構とその破綻がもたらす疾患発症機構に関して,我々の知見を中心に概説する.

優秀ポスター賞受賞者論文
  • 久保田 哲平, 大石 正道
    2016 年 60 巻 1 号 p. 11-13
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    我々は,アクリルアミドには濃度勾配を付けずN,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS)に濃度勾配を付けたアガロース・ポリアクリルアミド・ハイブリッドゲルを用いた電気泳動法(BIS-gradient APAGE: BIS-gradient Agarose Polyacrylamide Gel Electrophoresis)を開発し,高分子量領域の分解能が高いSDSゲル電気泳動法を行うことに成功した.また,一次元目等電点電気泳動にアガロースゲルを用いた二次元電気泳動法(アガロース2-DE)と本法を組み合わせることで,高分子量タンパク質を高い分離能で解析できる新たな2-DE法を開発した.

  • 増川 陽大, 中山ハウリー 亜紀, 小山 渓友, 飯島 史朗
    2016 年 60 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    さまざまな細胞から生成されるエクソソームは,起源細胞の二重膜中にタンパク質および核酸を含む.このため,エクソソームは,新たなバイオマーカーとしてだけでなく,遺伝子輸送の役割を果たし,腫瘍細胞における細胞間相互作用に寄与すると考えられている.本研究では,骨髄腫の多様な合併症形成へのエクソソームの関与を明らかとするため,エクソソーム糖鎖の解析を行った.はじめに,エクソソーム糖鎖解析のための細胞培養条件について検討した.無血清培地またはFBSを含む培地中に分泌されるエクソソームを超遠心法で回収し,内包タンパクを比較した結果,両条件で差が見られなかった.このことより,FBS由来の糖タンパク糖鎖の影響を受けずエクソソーム糖鎖解析を可能とした.この条件を用い,骨髄腫細胞をIL-6で刺激し,細胞表面および,エクソソーム中のシアル酸量についてSSAレクチンを用いて解析した.その結果,刺激時間およびIL-6濃度に応じて,細胞表面上に発現するシアル酸の量は増加した.一方,エクソソーム分画中のシアル酸含量は,刺激2日目に減少したが,4日目には顕著に回復した.以上より,骨髄腫細胞由来のエクソソームは,サイトカイン刺激による起源細胞の糖鎖変化を部分的に反映することを示し,骨髄腫の増悪および全身合併症の発症に関与する可能性を示した.

シンポジウムII:電気泳動法と臨床検査―新たな発展に向けて
  • 妹尾 英樹
    2016 年 60 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    常光は,レントゲンフィルム,および,医療機器を取り扱うディーラーとして1947年に創業した.1964年に,当時の富士写真フイルム株式会社が開発した,国産初のセルロースアセテート膜の販売を開始した.この膜による電気泳動法が普及するにつれて,検査に要する工程を用手法による手作業から機械による自動測定へ省力化したいとのニーズが広がった.そこで当社はまず,濃度の測定を自動化する濃度計を開発・販売した.本装置により,各検体の分画パターンから分画値%を算出する作業が手間も時間も一挙に改善された.本稿では,セルロースアセテート膜による血清蛋白分画電気泳動の自動化について,その開発経緯や内容を紹介する.

  • 久保田 亮, 飯島 史朗, 芝 紀代子
    2016 年 60 巻 1 号 p. 23-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    セルロースアセテート膜電気泳動は蛋白分画を行う上で容易で簡便な方法である.我々は,様々な腎臓病患者の尿を用いて,セルロースアセテート膜電気泳動を行い,得られた蛋白バンドの相対移動度(RM)から,糸球体障害パターン,尿細管障害パターン,混合パターンの3つに分類してきた.この分類方法をさらに応用するために,起立性蛋白尿の人やDent病患者の尿蛋白を解析した.起立性蛋白尿について,SDS-PAGE法で解析したところ,起立性蛋白尿の人は27.7 kDa,39.2 kDaに特徴的に濃染するバンドが検出できた.さらにセルロースアセテート膜電気泳動法で解析したところ,前彎負荷試験後15分及び30分後の尿は,糸球体障害パターンを示した.次にDent病患者の尿について,セルロースアセテート膜電気泳動法で解析したところ,血清蛋白分画とは異なる蛋白分画を示した.特にslow α2グロブリン分画,βグロブリン分画が特徴的であった.またセルロースアセテート膜電気泳動後に自然転写法を行ったところDent病患者の尿蛋白分画からシスタチンCやプレアルブミンが検出された.さらにプレアルブミンはslow α2グロブリン分画に検出されることが分かった.今後さらに様々な腎障害患者の尿蛋白について,セルロースアセテート膜電気泳動法を用いて詳細に解析することで,本法が腎疾患の診断の一助になるのではないかと考える.

  • 清宮 正徳, 遠藤 八千代, 渡邉 万里子, 浅野 はるな, 本田 早織, 鈴木 芳武, 吉田 俊彦, 澤部 祐司, 松下 一之, 野村 文 ...
    2016 年 60 巻 1 号 p. 27-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    検査室から電気泳動の技術が失われ始めている.その理由として,至急対応が困難,コストが高い,他の特異性の高い各種検査法の充実,などが上げられる.しかし,生化学検査において不審な異常値が認められた際,電気泳動の活用は最も簡便かつ有効な原因究明手法である.また電気泳動により異常の原因が突き止められれば,その後の精査は不要となるなど,患者に余計な検査の負担や心配を与えずにすむ.本稿では,当院において,生化学検査の異常の原因の解明に電気泳動の手法が役立った例を挙げ,電気泳動手法の有用性について検証した.

  • 竹田 真由, 舩渡 忠男
    2016 年 60 巻 1 号 p. 31-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    遺伝子関連検査は,PCR法を中心とした核酸増幅から診断情報を得ることだけでなく,次世代シークエンスを用いた塩基配列解析によって診断される時代へ移り変わっている.遺伝子関連検査を実施するにあたって品質保証に欠かせない技術,またこれから必要となる遺伝子解析技術の中の一つとして,電気泳動の技術は極めて重要である.一般的なアガロースゲル電気泳動から得られる泳動像だけでなく,保険適用されているサザンブロット法も臨床検査の中では必要な解析と考えられる.また,電気泳動の技術進歩によるマイクロチップによる方法も確立し,高度な遺伝子解析を行うにあたって核酸の品質保証のツールとして,さらに発展すると考えられる.

  • 黒澤 竜雄
    2016 年 60 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/06
    ジャーナル フリー

    我々は,マイクロチップを用いた全自動蛍光免疫分析装置ミュ―タスワコーi30の開発を行った.本システムは,LBA-EATA法を測定原理とし,測定時間9分を実現した.本システムの重要な技術は,レーザー誘起蛍光測定による高感度化検出とDNAを抗体に結合した点である.陰性荷電を多く持っているDNAを抗体に結合することにより,DNA結合抗体が特異的に反応したたんぱく質と形成する免疫複合体にも強い負の荷電を持たせることができる.このため,キャピラリー電気泳動を用いた免疫測定で既存方法より感度,分離能と迅速性を向上させることができた.LBA-EATA法は,マイクロチップキャピラリー電気泳動において,等速電気泳動(ITP)により,DNA標識抗体を濃縮しながら,抗原と反応させ,ITPからキャピラリーゲル電気泳動(CGE)に切り替えることでB/F分離する.その後CGEで分離分析し,目的タンパク質を測定する方法である.本法によるAFP-L3とPIVKA IIの測定では,感度,再現性が良好であった.ミュータスワコーには,AFP-L3,PIVKA-II,PCT,NT-proBNP とTroponinTの5項目がある.本技術は,糖鎖解析や分離測定の有効な手段となる可能性があることから,さまざまな測定系へ展開できる可能性を持っている.

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