電気泳動
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65 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
第59回日本電気泳動学会学会賞(児玉賞)受賞者論文
総合論文
  • 藏滿 保宏
    2021 年 65 巻 2 号 p. 23-27
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    日本電気泳動学会で発表してきた癌関連蛋白質解析の成果を紹介したい.C型肝炎関連肝癌組織と非癌部組織のプロテオーム解析ではHeat shock 70 kDa protein (HSP70) ファミリー蛋白群の増加とミトコンドリアでのβ酸化障害による酸化ストレスの可能性を明らかにした.またC型肝炎関連肝癌患者の血清中にHSP70.1への自己抗体が高発現していることを同定し,超高感度プロテインチップのプロトタイプを開発作製した.膵癌組織のプロテオーム解析でCofilin-phosphatase slingshot-1L (SSH1L) が膵癌細胞に高発現し膵癌細胞の動きと浸潤能を上げる事を明らかにした.Gemcitabine (GEM) 耐性膵癌細胞株のプロテオーム解析の結果,HSP27が耐性株に高発現しておりGEM治療の膵癌患者の生存日数が膵癌組織のHSP27発現と有意に関連していることも明らかにできた.

第21回日本電気泳動学会奨励賞(服部賞)受賞者論文
総合論文
  • 小松 徹
    2021 年 65 巻 2 号 p. 29-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    生体内には常に数千種類を超える酵素が発現しており,特定の酵素のはたらきの異常が病気の進行と関連する例が数多く報告されている.しかしながら,いまだに,「疾患との関わりが見出されていない」,「疾患との関わりが示唆されているがそのメカニズムが明らかにされていない」,「疾患との関わり,メカニズムが理解されているが,その機能を制御する手法が確立されていない」といった酵素は数多く存在する.著者らは,酵素の動的機能の理解を可能とするケミカルバイオロジーの研究ツールを開発し,疾患と関連する酵素を「探す」「視る」「操る」ことを目的とした研究を進めてきた.中でも,非変性の電気泳動を用いて,生体内に存在するタンパク質を酵素活性に応じて探索する方法論diced electrophoresis gelアッセイ法の開発および,これを用いて疾患と関わるタンパク質の機能異常を「探す」研究について,本論文で紹介させていただきたい.

第71回日本電気泳動学会総会シンポジウム:生体分子解析の技術革新と生命・医科学研究への応用
総合論文
  • 梶原 英之
    2021 年 65 巻 2 号 p. 35-39
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    カイコ(Bombyx mori)の繭および絹を希酸によって部分的に分解し,得られたペプチド断片をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF MS)によって測定した.この酸による速やかな断片化は野蚕や野性ガの繭にも見られ,絹タンパク質に特有な現象と考えられた.MALDI-TOF MSによって得られたペプチドマスフィンガープリント(PMF)は精練過程(生繭,加熱処理繭,煮繭,炭酸ナトリウム処理繭,およびマルセル石鹸処理繭)で変化した.各品種間でPMFを比較したところ差異があり,それに基づいてデンドログラムを描くことができた.これまでできなかった絹糸の品種同定および品質の評価がMALDI biotypingの手法を用いれば短時間でできると期待された.

  • 深田 正紀, 横井 紀彦, 深田 優子
    2021 年 65 巻 2 号 p. 41-45
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    パルミトイル化修飾は1970年代に報告された脂質修飾で,3量体Gタンパク質αや低分子量Gタンパク質HRas,シナプス足場タンパク質PSD-95等の細胞膜局在を決定する.パルミトイル化修飾は可逆性を有する唯一の脂質修飾であり,シグナル伝達における重要性が示唆されてきた.この10年余りで,パルミトイル化・脱パルミトイル化酵素が明らかになり,プロテオミクス解析によりパルミトイル化タンパク質が数千種類存在することが分かってきた.本稿では,最近,私共が開発したパルミトイル化状態(量比とパルミトイル化部位数)の定量法“APEGS法”について紹介する.APEGS法は,(1) 様々な生物試料に応用でき,(2) 精製を必要とせず(高収率),(3) 調べたい任意のタンパク質に適用可能であり,(4) パルミトイル化動態を定量できる,という点で極めて有用な手法である.

  • 杉山 康憲, 中根 達人, 坂本 修士, 村尾 孝児
    2021 年 65 巻 2 号 p. 47-50
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    慢性的な高血糖は膵臓β細胞においてインスリン分泌障害とインスリン発現抑制を引き起こす.これらの現象は糖毒性と呼ばれるが,糖毒性を引き起こす詳細な分子メカニズムは不明である.我々は,糖毒性におけるインスリン発現抑制に関わるシグナル経路を解析してきた.マルチPK抗体を用いた解析により,糖毒性状態の膵臓β細胞においてcalcium/calmodulin-dependent protein kinase IV (CaMKIV) がcalpainによって分解されて減少することを明らかとした.また,マイクロアレイを基盤とした解析により,糖毒性状態のINS-1細胞においてcandidate plasticity gene 16 (CPG16) の発現量が増加し,インスリン発現を抑制することが示された.加えて,CPG16の基質として見出したjun dimerization protein 2 (JDP2) がインスリン発現を正に制御することを見出した.さらに,CPG16がJDP2によるインスリンプロモーター活性の上昇をキナーゼ活性依存的に抑制することが示された.これらの結果から,糖毒性におけるインスリン発現抑制にcalpain-CaMKIV経路およびCPG16-JDP2経路が重要な役割を担うことが示唆される.

総説
総合論文
  • 武森 信曉
    2021 年 65 巻 2 号 p. 63-68
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    質量分析を用いるプロテオーム解析において,SDS-PAGEはサンプル前分画ツールとして使用される.SDS-PAGE分離後のゲル内タンパク質はインタクトの状態では回収が困難であり,質量分析に用いるにはゲル内にて酵素消化をおこない,ペプチド断片として回収する必要がある.こうしたゲル内消化は一般に長時間の反応を必要とし,溶液内の消化条件と比べてサンプル損失が生じやすい.本研究ではゲル内消化の問題点を解決するために,N,N'-bis(acryloyl)cystamine (BAC)を架橋剤として調製したポリアクリルアミドゲルに着目した.BAC架橋ゲルは還元処理により容易に溶解するため,タンパク質を損失なく溶液内へ回収できる.著者らのグループはゲル溶解液中のタンパク質を迅速トリプシン消化するための反応条件を最適化し,ハイスループットなサンプル前処理ワークフローであるBAC-DROP(BAC-Gel Dissolution to Digest PAGE-Resolved Objective Proteins)の開発に成功している.本稿では,高深度なプロテオーム解析や,バイオマーカー定量におけるBAC-DROPの活用例を紹介する.

技術論文
  • 松下 誠, 山口 奈摘美, 田中 満里奈
    2021 年 65 巻 2 号 p. 69-73
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    リポ蛋白分画の染色は,Fat red 7BやSudan black Bなどの脂溶性色素が使用されている.そのため,脂質の相違によってリポ蛋白分画が異なる問題点を有している.私たちは酵素法でコレステロール(CH)とトリグリセライド(TG)の和を染色するリポ蛋白分画法(CH・TG法)を考案した.CH・TG法は全自動化が可能であり,Fat red法に比べLDLとVLDLの分離がより明瞭となった.Fat red法の相関は,HDLでy=1.04x-9.1, r=0.934,VLDLでy=1.27x-6.6, r=0.893,LDLでy=1.26x-3.2, r=0.734であった.さらに,CH・TG法によるVLDLおよびLDL分画はFat red法に比べ,それぞれTG およびCHの増減をより反映しやすいものであった.これらの結果より,従来の方法の問題点を改善した新たなリポ蛋白分画と考えられた.

一般論文
  • 小野 拓也, 野口 玲, 吉松 有紀, 申 育實, 小島 伸彦, 近藤 格
    2021 年 65 巻 2 号 p. 75-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/11
    ジャーナル フリー

    がん微小環境には細胞外マトリックス(ECM;Extracellular Matrix)が含まれており,ECMはがん細胞アッセイを行う際に用いられている.しかし現行のアッセイ系ではコラーゲンなど単一もしくは特定のECM成分しか用いられておらず,がん細胞の行動特性を評価するアッセイとしては改良の余地がある.細胞の機能を調べるための新しいプラットフォームとして近年注目されている脱細胞化組織をゲル化させ細胞培養に利用することで,よりin vivoに近い条件でがん細胞のアッセイを実施可能であると考えた.脱細胞化ゲル(decellularized tissue gels; DTGs)ががん細胞に与える影響を調べるために,DTGsをコーティングしたプレート上でがん細胞株を培養した.また,DTGsをSDS-PAGEにより分離後,銀染色を行うことで含有タンパク質を調べた.結果,DTGsにはがん細胞の増殖をin vitroで変動させる効果があることが判明した.銀染色では複数のタンパク質バンドが出現したため,DTGsには単一の成分のみではなく,in vivoのように複数の成分からなるECMの含有が期待できる.以上より,DTGsはがん細胞のin vitroアッセイに有用なツールとして検討する価値があるといえる.

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