液-液相分離によって形成される核内構造体は,様々な細胞機能を制御している.近年,液-液相分離の破綻が神経変性疾患をはじめとする様々な疾患の発症につながることが解明されてきた.我々は,液滴を含む核内構造体の機能を解明するために,抗体を用いたin situビオチン化標識法を確立し,核小体,γH2AX,カハール体などいくつかの核内構造体の構成因子の網羅的解析を行った.さらに,カハール体については,その形成機構を解明するために,構成因子として同定されたタンパク質,ゲノムDNA,RNA間のin silicoによるインタラクトーム解析を行った.その結果,カハール体で転写された新生RNA鎖とRNA結合タンパク質との相互作用が,カハール体形成に重要な役割を果たしている可能性が明らかになった.今後,疾患に関連する核内構造体の形成破綻メカニズムを解明することで,疾患発症機構の解明につながることが期待できる.
本邦では,毎年およそ38万人ががん死する.これまでに様々な治療法や抗がん剤が開発されてきたが,いずれに対しても,やがてがんは治療抵抗性を獲得することが治療上の大きな問題である.がんが増殖する過程で多数のがん細胞が生じるが,これらのがん細胞は少しずつ遺伝子発現パターンが異なる不均一性を示す.この不均一性により,抗がん剤などの外部刺激に抵抗性を獲得したがん細胞が生じる.筆者らは,がん幹細胞様細胞(CSC)が発現するがん幹細胞様形質関連転写因子に着目した研究を行ってきた.これらの転写因子は腫瘍増殖や,治療抵抗性,免疫からの回避に寄与していた.また,DNAバーコード技術やCRISPR/Cas9システムを用いて,がん細胞集団におけるCSCの出現やがん幹細胞様形質関連転写因子の機能を解析し,転写因子の発現と細胞のふるまいに関して新たな知見が得られた.本稿では筆者らの最近の研究についてご紹介したい.
プロテオゲノミクスは,プロテオームの観点から眺めたゲノム学である.その発端は30年前にさかのぼるが,それからゲノム解析とプロテオーム解析はすさまじい勢いでそれぞれが技術開発を続け,ようやく当初我々が期待した地平に近いところまで到達した.本稿では,ゲノムとプロテオ―ムの黎明期における関係性から説き始め,現在のゲノム情報に依拠したプロテオミクスの到達点を述べた後に,これからの展望について考える.特に,ヒトプロテオーム解析技術のこれまでの開発経緯と現状に焦点を合わせて,実際のその技術の医療分野での応用状況にも触れる.果たしてこうした計測技術の技術革新の組み合わせは,私たちの生命観に新しいパラダイムをもたらしてくれるのだろうか?プロテオゲノミクスがこうした人類的課題を解決するために貢献することを願っている.
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