沿岸海洋研究
Online ISSN : 2434-4036
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49 巻, 1 号
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  • 門谷 茂, 柏井 誠
    2011 年 49 巻 1 号 p. 1-
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
  • 三寺 史夫, 内本 圭亮, 中村 知裕
    2011 年 49 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    宗谷暖流の沖側には,夏季,冷水帯が形成される.これは,栄養塩が枯渇しがちな夏季の海洋表層に栄養塩豊富な海水を湧昇させるものであり,北海道オホーツク沿岸の生物生産に重要な役割を持つ.ここではそのような冷水帯の形成メカニズムついて考察した.まず,現実的なシミュレーションが冷水帯を再現していることを示し,冷水帯の特徴を抽出し た.次に,サハリン沖での湧昇のメカニズムを,内部ケルビン波と海底地形の非線形共鳴の観点から理論的考察と理想化実験を行うことによって明らかにした.さらに,宗谷海峡で生じた湧昇は,順圧流に沿って傾圧渦度波として伝搬するこ とにより,下流の北海道沿岸に密度境界面変位を励起すること,そして表層に傾圧ジェット,亜表層にはドーム状構造を 生じることを明らかにした.冷水帯は,傾圧波によるそのような調節過程の,海表面への顕れである.
  • 工藤 勲, フローラン アヤ, 高田 兵衛, 小林 直人
    2011 年 49 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    オホーツク海北海道沿岸域における海洋構造と基礎生産環境の関係を明らかにする目的で2003年~2004年にかけて調査を行った.春季から夏季にかけて岸寄りに宗谷暖流水が存在し,その沖合の表層にオホーツク海表層低塩分水,中層に中冷水が存在した.栄養塩は,宗谷暖流水およびオホーツク海表層低塩分水中で低く,窒素態栄養塩で1~2μM 程度であるのに対して,中冷水中で高濃度であり,約20μM であった.栄養塩が豊富である中冷水中のクロロフィルa 濃度は低く,オホーツク海表層低塩分水,宗谷暖流水中の方が高濃度であった.水塊混合が基礎生産に与える影響を調べるため,船上培養実験を行った.個々の海水を約一週間培養した場合,クロロフィルa の増加および栄養塩の減少は観察されなかったのに対し,オホーツク海表層低塩分水と中冷水,宗谷暖流水と中冷水の混合水中では,クロロフィルa の増加および栄養塩の減少が観察された.特に後者の混合水中では,10μm 以上の大型の植物プランクトンの増加がみられ,ケイ酸塩も減少したことから増殖したプランクトンは珪藻類と推察された.その要因として溶存鉄濃度は,宗谷暖流水中で2nM 以上と3水塊中で最も高濃度であるため,中冷水からの栄養塩と宗谷暖流水からの溶存鉄の供給により珪藻類が増殖したことが考えられる.この結果は,宗谷暖流水と中冷水の間に形成されるフロント付近で春季から夏季にかけて持続す高クロロフィルa 濃度をよく説明すると思われる.さらに宗谷暖流水域で行われている地捲きホタテガイの環境と水塊構造の関係を考察した.その結果,中冷水が春先にホタテガイ漁場に接近した年に4月から6月のホタテガイの成長が良い傾向が見られた.このことは,春先に中冷水が沿岸部に接近し宗谷暖流水と混合することによりホタテガイのとなる大型の珪藻生産が活発になり,そのことがホタテガイの良好な成長にがったものと考えられる.
  • 木戸 和男, 村田 泰輔, 白澤 邦男, 仁科 健二, 大澤 賢人
    2011 年 49 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    「時化の多い年はホタテガイの育ちがよい」というサロマ湖の漁業者の俚をもとに,ホタテガイの料補給機構のひ とつとして粒状有機物の時化による海底あるいはその近傍からの再懸濁と上方輸送を考え,その実態を明らかにするために係留測器による連続観測と1日1回の船舶を用いた定点観測を行った.観測の結果,時化によって乱流が発達するために水温・塩分の鉛直分布は一様になり,懸濁物質量や粒状炭素,還元的環境で形成されると考えられる粒状硫黄,珪藻細胞数などの粒状物質が増加した.また増加した珪藻の多くは底生性種の死細胞であること,数は少ないものの時化とともに汽水性底生性珪藻の生細胞が出現したこと,が明らかになった.これらの事実は,時化によって湖底あるいはその近傍から粒状有機物が再懸濁し,垂下養殖されているホタテガイにも利用可能な浅い深度まで輸送されたことを明瞭に示している.
  • 品田 晃良, 西野 康人, 佐藤 智希, 菊地 隆太, 工藤 亮太, 瀬戸 鈴代, 松井 大宇
    2011 年 49 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    北海道北東部能取湖における貧酸素水塊の発生機構,分布特性および低次生産(栄養塩,クロロフィル)を調査した.貧酸素水塊の発生機構としては,弱風のため密度躍層が破壊されず,表層からの酸素供給量が減少することが重要と考えられた.貧酸素水塊の分布特性としては,湖口付近にはほとんど分布せず,主に湖心部から奥部の底層に存在することが示された.この理由として,夏季に卓越する南風による吹送循環流の影響が考えられた.湖心部における底層の栄養塩濃度は,貧酸素水塊の出現とほぼ一致して上昇した.表層クロロフィル濃度は,日平均風速が最も弱かった2007年に最も低かった.これは底層の栄養塩が風による上下混合で表層に供給されなかったことが関係していると考えられる.よって,夏季以降の低次生産は,貧酸素水塊の発生と同時に観察される栄養塩再生と上下混合による表層への供給の影響を受けている可能性がある.
  • 塩本 明弘
    2011 年 49 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2007~2009年の5~6月(晩春~初夏)と8~9月(晩夏~初秋)の知床半島周辺沿岸域において,サイズ分画したク ロロフィルa と基礎生産力の測定を行った.晩春~初夏において,半島のオホーツク海側(西側)では大型(>10μm) の植物プランクトンの占める割合が最も高かったが,根室海峡側(東側)では小型(<2μm)の占める割合が最も高かっ た.しかしながら,単位クロロフィルa あたりの基礎生産力(植物プランクトンの成長速度の指標)は西側では大型, 東側では大型か中型(2-10μm)が最も高く,重要な基礎生産者であることが示唆された.一方,晩夏~初秋では,西 側では大型が多く,東側では大型か小型が多かった.ところが,単位クロロフィルa あたりの基礎生産力は両側ともに中 型が最も高く,重要な基礎生産者であることが示唆された.現存量の組成で見ると東西で重要な基礎生産者のサイズは異なるものとみなされるが,実際には重要な基礎生産者は半島の東西で異ならず,季節によって異なる可能性が示された.
  • 小熊 幸子, 東屋 知範
    2011 年 49 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    根室湾では,湾内の海洋環境の把握や,周辺河川からのサケ稚魚放流時期の改善を目的として,2007年から2009年にかけて海洋環境調査観測が行われた.表層水温について,サケ(Oncorhynchus keta)稚魚の生活環境として適水温とされる温度帯は8~13℃であるが,沿岸域が8℃に達した時期は2007年と2009年は5月下旬,2008年は6月上旬であった.また13℃を超えるまでの期間はそれぞれ3旬,4旬,5旬と,当該3年間では2009年が最も長かった.根室湾に流入する河川の水温が気温と時期をほぼ同じくして変動するのに対し,沿岸域の水温は遅れて推移するため,河川と沿岸域との間で水温差が最大で9℃以上に達していた.一方,表層塩分は沿岸域で塩分31未満となるが,その低塩分水の広がり方は年によって異なるうえ,河川流量以外の要因によって変動することが示唆された.数値モデルを用いて流れ場を再現した結果,低塩分水の分布は風に強く依存していることが分かった.サケ稚魚を模した粒子追跡数値実験により沿岸域のサケ稚魚分布を再現できたことから,サケ稚魚は海洋の流れに乗って受動的に移動している可能性が高いことが示された.根室湾のようにサケ稚魚が降海して間もない海域では,塩分分布によって生物の種組成が変わるうえ,循環場によって稚魚の移動経路が左右される可能性があることから,表層水温と併せて表層塩分および循環場も考慮すべきであることが示唆された.
  • 門谷 茂, 真名垣 友樹, 柴沼 成一郎
    2011 年 49 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2006年5月から2008年11月にかけて風蓮湖とその流入河川の水質および堆積物の性状を調査した.風蓮湖における河川水と海水の混合形態は潮汐によって変化し,下げ潮時にはエスチュアリー循環の弱混合型であり,上げ潮時は強混合型である.酪農の影響をうけた高濃度の栄養塩は風蓮湖に流れ込み,河口域でほぼ植物プランクトンにより消費されることが示された.2007年4月~2008年3月までのデータを一年として,平均流量を用いた主要3河川による,風蓮湖への年間負荷量はDIN で529t,DIP で58t と計算された.さらに,負荷された栄養塩を利用した植物プランクトンの推定基礎生産量は2,533~4,550t C となり,負荷された栄養塩のうち,DIN で54~98%,DIP は河川のものだけで考えるとほぼ100%消費されていることが分かった.湖内に分布するPOC は,河川由来のものよりも湖内で生産されたものの方が,割合が大きかった.また,湖内で生産された粒子は,容易に湖外に流出しない傾向にあった.また,堆積物表層のシルト含有率は,湖奥部中央~最奥部にかけて高くなっていることから,水柱の粒子が湖奥部に選択的に堆積している可能性が示された.
  • 山口 一岩, 三好 慶典, 加 三千宣, 槻木 玲美, 武岡 英隆, 多田 邦尚
    2011 年 49 巻 1 号 p. 69-77
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    東部瀬戸内海域を対象に,表層堆積物(0-10mm)における生物起源珪素(BSi)の分布と収支を,全有機態炭素 (TOC),全窒素(TN),全リン(TP)の様子と対比・比較しながら調べた.DeMaster(1981)の方法で測定したBSi 含有量は,2.02-24.8mg Si g-1の範囲にあり,全測点の平均値(±S. D.)は11.6±7.4mg Si g-1(n=25)であった.BSi 含有量の水平分布は,TOC,TN,TP と同様,堆積物の含水率との間に高い相関性(r=0.875)を示していた.そのため水平分布の様子には,水柱における植物プランクトンの動態のみならず,海底沈降後の植物プランクトン起源粒子の集積や離散の影響が表れていると考えられた.大阪湾と播磨灘海域の生物活動を通じた水柱から堆積物へのBSi,TOC,TN,TP の移行量(総計10.3×104t Si yr-1,11.7×104t C yr-1,1.41×104t N yr-1,0.26×104t P yr-1)は,同海域での植物プランクトンによるSi,C,N,P 年間生産量の各々28%,7.2%,4.9%,6.7%に当たると試算された.東部瀬戸内海で一次生成した粒状態炭素・窒素・リンの大部分は系外へと流出する一方,珪素については堆積物が1つの主要シンクになっていると見ることができる.
  • 山田 佳裕, 三戸 勇吾, 堤 裕昭
    2011 年 49 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    香川県の河川では,河口堰でせき止められた水域に多量の植物プランクトンが存在している.このような河川が多く存 在する瀬戸内海では,河川から沿岸海域へ多くの有機物が供給されていると考えられる.δ13C,δ15N を用いた解析から,河口堰下流の干潟堆積物中の有機物の起源は,河川由来有機物が14~57%,干潟で生産された有機物が4~62%,海域由来有機物が1~67%であった.河川から供給される植物プランクトンを主体とする多くの有機物が干潟に堆積していることがわかった.干潟の底生生物は干潟で生産された有機物を摂食しており,河川由来の有機物は利用されていないことがわかった.河川から多くの有機物が供給されるが,干潟で有効的に活用されていないと考えられる.また,香川県沿岸では河川・干潟起源有機物が干潟直下流の海域へ直接的に供給されている可能性が示された.
  • 奥村 裕弥, 磯田 豊, 工藤 勲, 宮園 章
    2011 年 49 巻 1 号 p. 91-103
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2007年から2008年の噴火湾において,海底近傍の溶存酸素(DO)と表層泥中の酸揮発性硫化物(AVS)の季節的な関係を調べるための調査を実施した.DO には一年周期の変化がみられたものの(秋季に極小,春季に極大),AVS の一年周期の変化は不明瞭であり,むしろ数カ月の時間スケールをもった短期変動が卓越していた.DO 供給に対するAVS 応答を理解するために,一定の還元作用と可変の酸化作用を表現した二つのパラメータを有する簡略モデルを提案した.モデル結果は次の3つの特徴を示し,これらは一年周期のAVS 変化を定性的に説明できる応答特性である. 正弦波のDO 強制に対して,AVS は指数関数的(または双曲線関数的)な急増急減を示す. AVS が極大となる位相は,DO が極小となる位相から0°~90°の範囲で遅れる. 酸化還元速度が小さくなるほど,AVS の応答振幅は小さくなる.AVSの短期的な急減を説明するためには,通常時(非攪乱時)よりも1オーダ大きな酸化速度を伴う何らかの底泥攪乱が必要であることが推測されたが,具体的な攪乱要因については不明である.
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