オホーツク海北海道沿岸域における海洋構造と基礎生産環境の関係を明らかにする目的で2003年~2004年にかけて調査を行った.春季から夏季にかけて岸寄りに宗谷暖流水が存在し,その沖合の表層にオホーツク海表層低塩分水,中層に中冷水が存在した.栄養塩は,宗谷暖流水およびオホーツク海表層低塩分水中で低く,窒素態栄養塩で1~2μM 程度であるのに対して,中冷水中で高濃度であり,約20μM であった.栄養塩が豊富である中冷水中のクロロフィルa 濃度は低く,オホーツク海表層低塩分水,宗谷暖流水中の方が高濃度であった.水塊混合が基礎生産に与える影響を調べるため,船上培養実験を行った.個々の海水を約一週間培養した場合,クロロフィルa の増加および栄養塩の減少は観察されなかったのに対し,オホーツク海表層低塩分水と中冷水,宗谷暖流水と中冷水の混合水中では,クロロフィルa の増加および栄養塩の減少が観察された.特に後者の混合水中では,10μm 以上の大型の植物プランクトンの増加がみられ,ケイ酸塩も減少したことから増殖したプランクトンは珪藻類と推察された.その要因として溶存鉄濃度は,宗谷暖流水中で2nM 以上と3水塊中で最も高濃度であるため,中冷水からの栄養塩と宗谷暖流水からの溶存鉄の供給により珪藻類が増殖したことが考えられる.この結果は,宗谷暖流水と中冷水の間に形成されるフロント付近で春季から夏季にかけて持続す高クロロフィルa 濃度をよく説明すると思われる.さらに宗谷暖流水域で行われている地捲きホタテガイの環境と水塊構造の関係を考察した.その結果,中冷水が春先にホタテガイ漁場に接近した年に4月から6月のホタテガイの成長が良い傾向が見られた.このことは,春先に中冷水が沿岸部に接近し宗谷暖流水と混合することによりホタテガイのとなる大型の珪藻生産が活発になり,そのことがホタテガイの良好な成長にがったものと考えられる.
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