春季~夏季の北海道東部根室湾において,動物プランクトンの群集構造と時空間分布を明らかにするとともに,その変動要因を調べた.根室湾で採集された動物プランクトンは水温と水深の影響により,1)低水温(8.8℃未満)・水深の深い沖合(水深10.5m 以上)に出現する群集型(クラスター1),2)低水温(8.8℃未満)・水深の浅い沿岸(水深10.5m未満)に出現する群集型(クラスター2),および3)高水温期(8.8℃以上)に出現する群集型(クラスター3)の3つの群集型に類型化された.クラスター1の指標種は,中・大型カイアシ類のAcartia tumida とCalanus glacialis によって代表され,知床半島東側からのオホーツク表層水の湾内への流入により出現したものと推測された.クラスター2は,汽水性カイアシ類のEurytemora herdmani によって代表され,低温・低塩環境(汽水域)で優占するクラスターと考えられた.クラスター3は,水温躍層が顕著に発達する6月中旬以降に多く出現し,枝角類のPodon leuckarti によって代表され,高水温かつ再生生産的な環境において成長・繁殖するのに適した群集型と推測された.この様な動物プランクトン群集の遷移からサケ稚魚の餌料環境を評価した結果,根室湾ではサケ稚魚の成長に重要な中・大型餌料生物(クラスター1)の出現期間が短く,湾外からの海流輸送による大型の冷水性外洋性種(カイアシ類Neocalanus など)の補給も少ないことから,本湾の餌料環境は成長し体サイズが増加したサケ稚魚の成長・生残に必ずしも良好ではない可能性が示唆された
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