沿岸海洋研究
Online ISSN : 2434-4036
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54 巻, 2 号
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  • 宮澤 泰正, 田中 潔, 福田 秀樹, 木田 新一郎
    2017 年 54 巻 2 号 p. 95-96
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
  • 田中 潔, 羽角 博康, 小松 幸生, 伊藤 幸彦, 柳本 大吾, 坂本 天, 石津 美穂, 浦川 昇吾, 道田 豊
    2017 年 54 巻 2 号 p. 97-104
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    三陸沿岸の流況を明らかにするために,高解像度の海洋物理観測を実施した.また,観測研究に連携させて,高解像度 モデルによる数値シミュレーション研究も実施した.その結果,小さいリアス湾であっても,その中では非常に組織的で ダイナミックな海洋循環が作られていることが明らかになった.さらに,このような基礎科学研究を,地域社会(地元の 行政・試験機関や漁業協同組合・組合員など)と一緒になって実践する方法についても検討した.沿岸域の流況を解明す るためには,研究者自身も現場に赴くことが重要な意味を持つ.さらに,そうした地域密着活動で得られる知見(例え ば,日々の漁活動から漁師が経験的に獲得している知識体系など)の中にこそ,世界の先端に立って独創的な海洋物理学研究を実践するための重要な示唆も含まれているだろう.
  • 福田 秀樹, 楊 燕輝, 高巣 裕之, 西部 裕一郎, 立花 愛子, 津田 敦, 永田 俊
    2017 年 54 巻 2 号 p. 105-116
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日の2011年東北地方太平洋沖地震に伴う大津波の襲来により,三陸沿岸の内湾域では海岸地形の変化や堆積物の流出といった物理的な攪乱が生じたほか,藻場や干潟の流出,漁業施設や都市機能の損壊など,湾内の物質循環系を取り巻く環境に変化が生じた.我々は震災以降,五年間にわたって岩手県のリアス海岸の中ほどにある大槌湾を対象に栄養塩類の分布に対する大津波の影響を検討してきたが,本論文では,既に結果を報告している三年目に続く,2014年5月から2016年3月までの二年間の調査結果を報告する.大槌湾では2011年11月から2012年3月までの期間に顕著なリン酸塩の蓄積が見られ,全無機態窒素(TIN)とリン酸塩のモル比(TIN/P 比)は震災前には約10であったが6程度まで減少した.これらの低TIN/P 比は陸起源有機物や堆積物からの相対的にリンの寄与が高い栄養塩類の放出による可能性が考えられる.一方で,以降の2014年3月までの期間では,特に鉛直混合が強まる時期にTIN/P 比の平均値は12-13と震災前よりも高くなっていた.2014年5月以降の混合期におけるTIN/P 比の平均値は,それ以前の二年間の同時期よりも低くなったものの,2016年の初頭でも依然として震災前よりも高い状態が続いていた.
  • 小松 輝久, 大瀧 敬由, 佐々 修司, 澤山 周平, 阪本 真吾, サラ ゴンザル, 浅田 みなみ, 濱名 正泰, 村田 裕樹, 田中 潔
    2017 年 54 巻 2 号 p. 117-127
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日の東日本大震災は,東北地方の沿岸に甚大なる被害を与えた.津波は,沿岸漁業の社会的インフラである,港,市場,漁船,養殖筏はもちろんのこと,魚介類の再生産の基盤である沿岸のエコトーンであり自然的インフラである藻場など(本論文ではブルーインフラと定義)にも被害を及ぼした可能性があった.そこで,岩手県大槌湾および宮城県志津川湾において,藻場の被害状況とその後の変化を調べた.海藻藻場の被害は大きくなかったが,2014年からは震災後に加入したウニによる磯焼けが生じており,積極的な駆除を行う必要がある.砂地に生育するアマモでは,津波の波高が大きくなったために壊滅的な被害を受けた湾奥部では,2011年6月に埋土種子から実生に生長しており,アマモ場の回復が始まっていた.また,地形的に津波による被害を受けにくい湾央や湾口にあるアマモ場は残っていた.これらのアマモ場は種子供給源になるため,次の大津波に備えて保護することが望ましい.津波と地盤沈下により埋め立てで失われていた塩性湿地や干潟というブルーインフラは再生したが,復旧の埋立や巨大防潮堤などの工事で消滅した.繰り返される将来の大津波に備え,次世代のために持続的で健全な海洋環境および社会を育む沿岸域を実現するという視点から,ブルーインフラの回復を織り込んだグランドデザインを平時につくる必要がある.
  • 土田 真二, 藤原 義弘, 高橋 幸愛, ソーントン ブレア, 河戸 勝, 屋良 由美子, 山北 剛久, 藤倉 克則, 北里 洋
    2017 年 54 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2013年10月7日,岩手県船越半島沖水深540m 地点において,無人探査機「ハイパードルフィン」による潜航調査を行ったところ,5箇所で集積した瓦礫を発見した.その場所は,発達した海底谷の入り口にあたり,瓦礫は互いに絡まった状態で塊となってパッチ状に分布していた.瓦礫は,缶類,プラスティック類,木片類,漁具類,その他に大別され,そこには,カイメン類,イソギンチャク類,クモヒトデ類,ウミシダ類,ヒトデ類,魚類が付着または近傍に生息していた. 瓦礫種別に付着していた生物の個体数密度は,プラスティック類でもっとも小さく66.5個体m-2,次いで缶類,木片類と漁具類ははるかに大きく240個体m-2前後であった.天然の付着基質となる露頭および岩石は,木片類や漁具類より小さく141.8個体m-2であった.各種瓦礫上に生息した生物の組成比率をみると,いずれもクモヒトデ類が優占し,缶類およびプラスティック類で100%,木片類と漁具類で97%であった.これら瓦礫上で優占していたクモヒトデ類の個体数密度を,瓦礫上と瓦礫から3~5m 地点および10m 地点の泥底と比較した.その結果,それぞれ129.6個体m-2,5.8個体m-2,6.6個体m-2となり,瓦礫上の密度は瓦礫から3~5m および10m 地点の約20倍となった.これらから,瓦礫上の生物密度は,瓦礫から離れた泥底よりも高くなること,木片類や漁具類では,露頭および岩石よりも高い密度になることが明らかになった.
  • 熊本 雄一郎
    2017 年 54 巻 2 号 p. 135-142
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    北太平洋東北地方沿岸・沖合域において2011年3月から12月にかけて測定された海水中溶存放射性セシウム濃度をとりまとめ,同年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所事故によって同海域に放出された放射性セシウムの動態を議論した.3月~6月に得られた測定結果は,高解像の海洋モデルシミュレーションで得られた結果と概ね整合的であったすなわち事故起源放射性セシウムの水平的な拡がりは,陸棚波に励起された南北に卓越する沿岸流と,渦に代表される中規模構造の消長に伴う流動場の変動に大きく影響されたことが明らかになった.7月以降の観測結果からは,原発から放射性セシウムが継続的に流出し続けていたこと,流出した放射性セシウムは沿岸流によって南北に卓越して拡がったことが示唆された.
  • 石丸 隆, 伊藤 友加里, 神田 穣太
    2017 年 54 巻 2 号 p. 143-149
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    2011年3月11日の福島第一原発事故により大量の放射性物質が海洋生態系に拡散した.我々は同年7月以降,ほぼ半年ごとに練習船による調査を行ってきた.プランクトンネット試料のCs-137濃度は時間とともには低下せず,大きく変動した.原因は,オートラジオグラフィーにより確認された高セシウム線量粒子の混在であると考えられる.ベントスでは,事故当初は原発近傍とその南側で高い濃度のCs-137が観察された.その後原発近傍では低下したが,原発南側の岸よりで下げ止まっている.2014年12月から1年半の間,原発近傍の水深約25m の定点で,大量ろ過器により採集した懸濁粒子のCs-137濃度は約2,000Bq/kg-dry で変化したが有意な低下の傾向はなく,またCs-137濃度全体に対する高線量粒 子の寄与は大きかった.陸域からの高線量粒子の供給が続いていると考えられるが,高線量粒子は不溶性であることから魚類に移行することはない.
  • 升本 順夫, 津旨 大輔, 郭 新宇, 内山 雄介, 宮澤 泰正
    2017 年 54 巻 2 号 p. 151-157
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    福島第一原子力発電所から漏洩した137Cs 分散シミュレーションのモデル相互比較と,伊方発電所および浜岡原子力発電所周辺海域での仮想シナリオ実験から,分散シミュレーションに影響を及ぼす沿海域海況変動過程とその再現性について検討した.その結果,対象とする海域や季節によって重要な変動過程が大きく異なること,モデルによりそれらの再現性が異なることが分かった.より実用的な結果を得るためには,複数モデルによるアンサンブルシミュレーションなどの手法が必要と考えられる.
  • 内山 雄介
    2017 年 54 巻 2 号 p. 159-172
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    福島第一原発由来の放射性核種の沿岸域での懸濁質分散とそれに伴う懸濁態137Cs インベントリの精緻な評価に向けて,JCOPE2-ROMS ダウンスケーリングによる3段ネスト高解像度領域懸濁質輸送モデルを開発した.本モデルでは,浅海域の再懸濁過程で重要となる波浪の効果を考慮するとともに,サイズ毎に異なる分散挙動を評価するためにマルチクラス粒子に対応させ,さらに河川由来の懸濁質や海底堆積層から再懸濁して海洋中を再循環する輸送過程を取り込んだ点に大きな特徴がある.水深200m 以深の沖合堆積物中に出現する高濃度の懸濁態137Cs の起源について評価した結果,予想されていた浅海域からの懸濁物輸送の寄与は小さく,有機物系粒子に吸着した137Cs が関与する可能性が示唆された.また,水深600m 程度の沖合海域では仙台湾沖をソースとする南向き細粒懸濁質フラックスが等深線に沿うように発達すること,河川からの懸濁質の再循環は水深30m 以浅の浅海域に限定されることなどが明らかとなった.
  • 重信 裕弥
    2017 年 54 巻 2 号 p. 173-179
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    東京電力㈱福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性セシウムが福島県沖の魚類に取り込まれた機構について,水産庁公表データと水産研究・教育機構の調査結果に基づき分析を行った.コウナゴ等の小型浮魚の放射性セシウム濃度は事故直後に高濃度が検出されたが,海水濃度の低下と共に速やかに低下した.高次捕食魚のマグロ・カツオ類の放射性セシウム濃度は,事故直後に数十Bq kg-1 wet weight(w.w.)の水準にまで上昇した.しかし,その後は速やかに低下して2014年以降は事故前と同等である1Bq kg-1 w.w. 以下の水準で推移している.福島第一原発の事故後,マグロ・カツオ類から国が定める食品に含まれる放射性セシウム濃度の基準値(100Bq kg-1 w.w.)を上回った検体は報告されていない.底魚の放射性セシウム濃度は緩やかな低下傾向にある.最近の研究では海底土に含まれる放射性セシウムは海産生物に移行しにくいことが示唆されており,今後,福島県沖の底魚が海底土に含まれる放射性セシウムを取り込み続けることで,濃度が基準値を上回る水準にまで達する可能性は低いと考えられる.
  • 葛西 広海, 永田 隆一, 村井 克詞, 片倉 靖次, 舘山 一孝, 濱岡 莊司
    2017 年 54 巻 2 号 p. 181-192
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    北海道紋別市の氷海展望塔(オホーツクタワー)で行われている海洋環境モニタリングの1996-2014年のデータを用いて,オホーツク海沿岸域の表層の海洋環境の季節変動を示すとともに,冬季~春季の海洋環境の経年変動と海氷密接度の関係について解析した.オホーツクタワー周辺域の表層水温は2月中旬に最小,8月下旬に最大となった.表層塩分は1月上旬に最小(31.60)を示した後,6-10月は33台前半の高い水準であった.海表面クロロフィルa(Chl. a)濃度は3月に増加し始め,4月に最大値(3.1mg m-3)を示した後,1-2mg m-3 で11月まで維持された.海表面の栄養塩濃度はChl. a 濃度の増加に伴って減少したが,その変動は栄養塩種によって異なった.これらの季節変動は紋別沿岸域のものと概ね近かった.紋別沿岸域の海氷密接度の減少の時期は年によって最大1ヶ月半変動した.ほとんどの年で,紋別沿岸域の海氷密接度が50%以下に減少してから16日後までにオホーツクタワー周辺域の海表面Chl. a 濃度は2mg m-3以上に増加した.これらから,オホーツク海沿岸域では海氷密接度の減少が初春季の植物プランクトンブルーム発現の主要な要因であることが示された.
  • 山口 聖, 松原 賢, 増田 裕二, 三根 崇幸, 伊藤 史郎
    2017 年 54 巻 2 号 p. 193-201
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    有明海湾奥西部域の冬季珪藻ブルームの発生要因を調べるために,2012年から2015年の11月-3月に沖合域定点観測を,2014年から2015年に鹿島川感潮域の観測を行った.結果として沖合域に位置するStn.1では,すべての年で水温が10℃を下回った時期に珪藻ブルームが発生し,それに伴い栄養塩が減少したが,その後もブルームは維持された.一方で河川から栄養塩の供給がある感潮域は,珪藻類の増殖とバイオマスの維持において重要な場所であることが示唆され,感潮域からの水塊移入が沿岸域での珪藻ブルームの発生およびその維持に寄与している可能性がある.これらの結果は,感潮域での珪藻類の動態が冬季の有明海湾奥西部域での珪藻ブルームを理解する上で重要であることを示している
  • 赤井 紀子, 大山 憲一, 益井 敏光, 宮川 昌志
    2017 年 54 巻 2 号 p. 203-213
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/02/12
    ジャーナル フリー
    瀬戸内海中央に位置する燧灘東部海域の一次生産構造の特性を明らかにするために,クロロフィル蛍光の鉛直分布につ いて季節変動を調べた.さらに,燧灘の代表定点においてサイズ別(>20μm,8-20μm,<8μm)クロロフィルa (Chl. a)濃度,植物プランクトン出現群および栄養塩濃度を調べた.クロロフィル蛍光については,極大層が4月から6 月および9月(底層極大期)には底層において,7,8月(中層極大期)には中層に観察された.7月以外の成層期には 透明度が高く,有光層が海底まで到達していた.サイズ別Chl. a 濃度は,中層極大期以外において,Chl. a 濃度が高いほど,20μm より大きい画分の占める割合が高くなる傾向が認められた.サイズ別Chl. a 濃度と植物プランクトン出現群および栄養塩類との間に明瞭な関係は認められなかった.燧灘東部海域では,見かけ上の栄養塩濃度は低いが,恵まれた光環境と底層からの溶出や備讃瀬戸からの栄養塩の供給により,一次生産が支えられていると考えられる.
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