沿岸海洋研究
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58 巻, 1 号
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  • 北辻 さほ, 朝日 俊雅, 阿部 和雄, 鬼塚 剛, 多田 邦尚
    2020 年 58 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    [早期公開] 公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー
    有害赤潮プランクトンの衰退には様々な環境要因が関わっているが,中でも摂食者がどの程度寄与したかを現場海域で実際に見積もった報告は少ない.本研究では,広島湾北西部の大野瀬戸で現場観測を実施し,Heterosigma akashiwo が数百cells mL-1まで増加して衰退した5月下旬から6月上旬に従属栄養性渦鞭毛虫Gyrodinium dominans が増加する現象を捉えた.G. dominans の見かけの総成長効率やH. akashiwo に対するG. dominans の摂食量を見積もることによって,G. dominans が摂食者としてH. akashiwo の衰退に寄与した可能性を検討した.炭素換算した現場のG. dominans の増加量はH. akashiwo の減少量の10.4%であった.これは総成長効率(GGE)と考えられ,室内実験でG. dominans について報告されている範囲内であった.既往知見に基づき算出したG. dominans の摂食量および最大餌要求量は,現場で観測されたH. akashiwo の減少量のうち最大で28%および32%に相当した.以上の結果から,広島湾大野瀬戸で観測されたH. akashiwo の衰退にはG. dominans の摂食が寄与した可能性は十分にあると考えられる.即ち,H. akashiwo はG. dominansの摂食が原因で赤潮化できなかった可能性が考えられる.
  • 柳 哲雄
    2020 年 58 巻 1 号 p. 11-18
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル 認証あり
    世界の沿岸海域は1960年代以降,陸からの過大な栄養物質負荷により生じた,富栄養化による不健康な沿岸海域生態系 という状況に悩まされている.このような富栄養化問題の対策に関する世界の現状,富栄養化問題を克服するために行わ れてきた栄養物質負荷総量削減の結果生じた貧栄養化問題の現状,を紹介する.そして,沿岸海域における健康な生態系 を取り戻すための,適切な栄養塩濃度を実現するために,現在,緊急に必要とされる研究項目に関して論じる.
  • 武岡 英隆
    2020 年 58 巻 1 号 p. 19-43
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    豊後水道は,豊かな水産物の産地であるばかりでなく我が国最大規模の養殖生産地でもある.これらを支えている急潮 と底入り潮の研究の歴史,それらの物理的特性,基礎生産や水産への影響などを総括する.
  • 吉江 直樹, 張 勁, 小松 輝久
    2020 年 58 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
  • 松野 健
    2020 年 58 巻 1 号 p. 49-51
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    東シナ海における海洋物理現象,特に海面水温,黄海冷水,黒潮,長江希釈水,海水位の長期変動について,最近の文 献に基づいて主なものを紹介した.気象庁は,東シナ海の北部と南部海域における海面水温が,100年でそれぞれ1.23̊C および1.18̊C 上昇していることを示し,これらは全球平均に比べてかなり大きな値になっている.海面水温を含めて, 黄海冷水や黒潮の流量・流路,さらに長江希釈水の広がりや海水位の長期変動は,北太平洋の気候変動指標と何らかの関 係を持って変動していることが様々な文献によって報告されている.しかし,それぞれが相互に関連していること,また 用いたデータの取得場所や期間によって様々に異なる関連性も示されていることから,トレンドの理解にはより長期的な データを用いた解析が必要である.
  • 石坂 丞二
    2020 年 58 巻 1 号 p. 53-55
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    日本の縁辺海の東シナ海・日本海でも水温の上昇が報告され,温暖化による生態系の影響が懸念される.一方でこの海 域は人間による富栄養化の影響も大きいことが知られている.ここではこれらの海域での,衛星で測定したクロロフィル a 濃度の変化について報告する.過去の研究の10年スケールにおいても,最近の20年スケールの観測においても,東シナ 海ではクロロフィルa 濃度の上昇傾向が観測されている.東シナ海では,中国の長江水の富栄養化が報告されており, 直接的な富栄養化による植物プランクトンの上昇が考えられる.一方で,日本海は20年スケールでやはり上昇がみられ, 気候変動による可能性が考えられ,今後の研究が必要である.
  • 金 海珍, 広瀬 直毅, 高山 勝巳
    2020 年 58 巻 1 号 p. 57-58
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    日本海の深層では,溶存酸素(dissolved oxygen:以後DO と省略)濃度が長期的に低下し続けている.DO 濃度の減少 に関してGamo et al.(1986)1)は3つの要因:1.深層・底層水の形成量が減少あるいは停止;2.深層に沈み込む有機物の 増加;3.深層水と底層水の鉛直混合の強化,を可能性として例示している.これまでの研究では,要因1がDO 濃度の 長期的な減少をもたらす主因とみなしており,要因2と3の影響はまだ明らかにされていない.本研究では,物理・生態 系結合モデルを利用して日本海のDO 濃度減少に対する3つの要因の影響を定量的に明らかにした.要因1である深層水 の形成の停止は,DO 濃度の総減少量比で128%もの効果があり,確かにDO 濃度の長期的な減少を起こす最も重要な原 因である.深層に沈み込む有機物の長期的な増加(要因2)は,DO 濃度の減少を加速させたが,それはDO 濃度の総減 少量に対して7%程度である.一方,生物学的分解を伴わない物理活動(要因3)は,逆に総減少量の35%相当分の深層 DO 濃度を増加させる効果が認められる.
  • 森本 昭彦, 柴野 良太, 高山 勝巳
    2020 年 58 巻 1 号 p. 59-60
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    東シナ海から日本海へは対馬暖流により栄養塩が水平的に輸送されている.この水平的に輸送される栄養塩量の変化は 日本海の低次生態系,特に対馬暖流域の基礎生産を変化させる.対馬海峡における観測結果から,対馬海峡を通過する栄 養塩量の経年変化が大きいことが分かっているがその変動要因は明らかになっていない.本研究では低次生態系モデルを 使い,対馬海峡を通過する栄養塩の起源とその寄与率を明らかにし,どこを起源とする栄養塩の変化が対馬海峡の栄養塩 を変えるのかを検討した.
  • 小松 輝久, 水野 紫津葉, 佐川 龍之, 高山 勝巳, 広瀬
    2020 年 58 巻 1 号 p. 61-63
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の影響は,水温上昇などを通じて固着生活を送る底生生物の分布域変化として現れる.長崎県の褐藻ホンダ ワラ類藻場(ガラモ場)では,温帯性から亜熱帯性への種組成の変化が既に報告されている.日本周辺ではホンダワラ類 アカモクは流れ藻を構成する卓越種で広域に分布する.そこで,沿岸の2000年2月と8月の表面水温分布をもとにアカモ クが分布する最低・最高水温範囲を求め,九州大学応用力学研究所開発の海況予測モデルDREAMS_B のRCP8.5温暖化 シナリオで得た2100年2月と8月の表面水温からアカモクの生息可能沿岸域を推定した.その結果,2000年に日本周辺の 25°N から45°N の沿岸に分布していたアカモクは,2100年には35°N から45°N の沿岸に縮小し,縮小原因は8月の水温で あった.東シナ海はブリの主要産卵場で,稚魚輸送にアカモク流れ藻が重要な役割を果たしているが,2100年にはその減 少が稚魚輸送を妨げる.このように温暖化に伴う藻場分布域の変化は海洋生態系に広く影響を及ぼす.
  • 井桁 庸介, 佐々 千由紀, 渡邊 千夏子, 北島 聡, 髙橋 素光, 瀬藤 聡, 渡慶次 力
    2020 年 58 巻 1 号 p. 65-67
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    2017年に日本太平洋岸西部海域で起きたとされるマアジ太平洋系群の新規加入量増加イベントを対象に,拡張版日本海 海況予測システムJADE2を用いた粒子追跡計算を行った.台湾北東沖から2・3月,五島列島周辺から4月に粒子を放 出した結果,太平洋へ移動する総粒子数は2000年~2017年にかけて減少したが,宮崎沿岸に着底した粒子数は2017年に増 加した.2017年の増加は両海域からの粒子の加入によって達成され,それは九州西方の沖縄トラフ北端部での時計回り循 環が原因となっていた.太平洋への粒子の経年的な加入減少は,黒潮~対馬暖流の海流系の,温暖化に伴う流量変化等と 関連すると推測された.
  • 堀川 恵司, 小平 智弘, 池原 研, 村山 雅史, 張 勁
    2020 年 58 巻 1 号 p. 69-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    日本海南部で優先する浮遊性有孔虫Neogloboquadrina incompta のMg/Ca 水温換算式を日本海13地点の表層堆積物から 作成した.また,佐渡沖で採取されたピスコンコア試料から,N. incompta を拾い,N. incompta のMg/Ca 水温換算式を使 い過去7,000年間の佐渡沖表層水温をおよそ100年程度の時間解像度で復元した.N. incompta に記録されている水温は5 月の表層水温と推定され,過去7,000年間にわたって春期水温が数千年規模の周期性で変動していたことを明らかにした. 春期の水温変動は対馬暖流の流量変動を反映していると解釈され,数千年周期の対馬暖流の流量変動が,太陽放射強度の 変動に駆動される北極振動(AO)様の空間パターンと負の太平洋10年規模振動(PDO)によって生じている可能性が示 唆された.
  • 張 勁
    2020 年 58 巻 1 号 p. 71-73
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    地球温暖化が直接かかわる地球規模での変動把握に関する化学海洋学国際的な枠組みを紹介し,日本沿岸の海洋循環構 造,特に日本海に寄与する対馬暖流による物質とエネルギー輸送について概説した.こうした海洋循環規模での変動を背 景として,陸から海への物質輸送に関して顕著な特徴を持つ富山県と富山湾にズームインし,気候変動が陸から海への物 質輸送にどのような影響を与えているかを論じる.最後に,このような状況を踏まえ,これからの海洋変動を正しく理解 するために,今後進めていくべき国際的な枠組みについて紹介する.
  • 寺内 元基, 原田 恭行, 松村 航, 前田 経雄
    2020 年 58 巻 1 号 p. 75-76
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    富山湾におけるアマモ場の時空間変動を明らかにするため,水中ビデオカメラによる底質の現場観測データと人工衛星 画像を用いて,氷見沿岸のアマモ場の抽出を試みた.2016年の水中ビデオカメラによる現場観測(6月下旬~7月上 旬,11月下旬~12月上旬の2回実施)で得られた底質情報を主に用いて(岩礁性藻場のみ2017年のデータを一部使 用),2016年3月17日に観測されたRapidEye 衛星画像を最尤法による教師付き分類で解析したところ,富山湾の氷見沿岸 においてアマモ場と分類されたエリアの総計は592ha となり,現場観測で得られた底質情報と概ね対応した(全体精度 64%,タウ係数0.54,アマモ場の精度74%). その後,2017年の初夏から2018年の春先にかけて実施したスキューバ潜水によるアマモの生育状況及び種子の分布状況 調査から,氷見沿岸の深い海域(水深6m 以深)のアマモ場は1年性で,その分布が水温や濁り等の環境の変化ととも に,ダイナミックに変化していることが示唆された.
  • 井口 直樹
    2020 年 58 巻 1 号 p. 77-79
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    富山湾では動物プランクトン生活史についての研究が1990年代に多く行われた.富山湾の動物プランクトンの生態的特 徴についてこれら結果に基づいて紹介する.その後1997年からは富山湾で動物プランクトンの生物量や種組成の長期変動 を把握するためのモニタリングが開始された.この動物プランクトンモニタリングの方法,結果の一部について報告す る.
  • 小塚 晃, 北川 慎介, 南條 暢聡, 辻本 良
    2020 年 58 巻 1 号 p. 81-86
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/12
    ジャーナル フリー
    富山湾では400年以上も前から定置漁業が盛んであり,暖水性の回遊魚を中心に漁獲してきた.主要漁獲物であるブリ, スルメイカおよびホタルイカについて,漁獲変動と海洋環境との関係を調べた.ブリでは,日本周辺海域の海水温の上昇 に伴い分布域がオホーツク海まで拡大し,2000年代後半以降に北海道の漁獲量が急増した.また,南下期である冬季の富 山湾への来遊状況は,12月に山形県沖が暖かく能登半島北西沖が冷たい水塊配置のときに好漁となる傾向が認められた. 富山県沿岸で1月~3月に漁獲されるスルメイカは,日本海北部海域の1月期における水温が低い年に南下経路が沿岸よ りとなり,漁獲量が多くなる傾向があった.日本海北部海域の水温上昇は,冬季の富山湾へのスルメイカの来遊量を減少 させる要因となると考えられる.ホタルイカでは,2008年まで,日本海における主産卵場である山陰沖の5月の水温が高 いと,翌年の富山湾漁獲量が多くなる傾向が認められた.しかし,2009年以降,山陰沖水温環境指標と富山湾漁獲量との 間の関係性が悪くなり,その要因の解明が必要となっている.これらの種は,東シナ海や日本海を産卵場とし,日本海を 広く回遊する.対馬暖流の勢力は,加入量や仔稚魚の分散にも関与し,富山湾への来遊は,日本海の水温や水塊配置に大 きく依存している.地球温暖化やレジームシフトによる海洋環境の変化により,日本海や東シナ海において産卵場や回遊 状況が変化し,長期的に富山湾の漁況が変化していくことが懸念される.
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