日本生態学会大会講演要旨集
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  • 川上 聰
    セッションID: L2-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    平成9年に河川法が改正され、河川整備計画策定にあたり住民や学識者の意見を聴取、反映することとなった。この背景には、昭和40年頃から多摩川流域を中心として始まった河川の自然を守り、活用しようとする住民・NPOの活動のうねりと全国への波及、全国的に注目された長良川河口堰をめぐる紛争と河川管理者の反省、阪神・淡路大震災におけるボランティアやNPOの活躍などがあった。この改正河川法に基づき、琵琶湖・淀川水系の今後20_から_30年間の河川整備計画策定に当たって意見を聴く機関として淀川水系流域委員会が近畿地方整備局長によって設置された。改正河川法はこれまでの治水、利水のみではなく河川環境の保全と整備、整備計画策定への住民意見聴取・反映を目標として掲げた。これまで治水と利水に偏った河川管理を展開してきた河川管理者は、4人の学識者による準備会議を設置して、委員の選任を諮問した。準備会議は自薦・他薦の公募を通じて学識者、NPOなど52名の委員を選び、平成13年2月に流域委員会が設置された。運営は完全に委員会の自主性に任したこと。そして委員会は、自主独立を保ちつつ、現場主義、会議の完全公開、情報公開の徹底を貫き、提言や意見書は委員自らが執筆し、取りまとめた。私は、河川のNPO活動に携わって今年で18年になるが、私が委員会に応募した理由(覚悟)は、最初、名張川で市民活動を始め、まもなく河川と言うものは山から海までつながっている事に気が付き、91年11月に木津川流域ネットワークをつくり、、流域で活動するNPOをネットワークし、流域で河川の諸問題を考えようという取り組みを始めた。この活動からその後、近畿・全国でのNPO活動に広がり、全国各地の川仲間と交流してさまざまなことを学んだ。
  • 西野 麻知子, 佐久間 維美
    セッションID: L2-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    琵琶湖は、58種の固有種を擁し、現在の湖が形成されてからでも数十万年の歴史を有する古代湖であるが、行政的には、日本最大の湖として近畿1400万人の流域の人々に工業・農業・生活用水を供給する一級河川でもある。淀川流域委員会の役割は、国(近畿地方整備局)が策定する「淀川水系河川整備計画(直轄管理区間を基本)」について意見を述べることであるが、琵琶湖は国の直轄区間ではない(滋賀県が管理)。ただ、近畿地方整備局が関わる部分については、委員会で審議することになったため、平成13年2月から4年にわたり琵琶湖とその流域の治水、利水、環境に関わる課題について、主に委員会の下部組織である琵琶湖部会でのべ30回にわたり議論を行ってきた。審議の結果は、平成15年1月に「提言」、平成15年12月に「意見書」としてまとめ、近畿地方整備局に提出された。「提言」では、琵琶湖の環境について水陸移行帯の機能保全と回復を重視した整備、琵琶湖をはじめとする水位管理の改善および統合的な流域水質管理システムの構築などを求めた。これに対し近畿地方整備局は、提言、意見書の趣旨を尊重して、様々な施策に委員会意見を反映している。なかでも画期的だったのは、琵琶湖の水位操作の試験運用(試行)である。「意見書」では、平成4年に制定され、夏期に琵琶湖の水位を低く保つため、湖の生態系に様々な負の影響を与えていると指摘されている水位操作規則の見直しとともに、その具体的検討のための試行を求めた。それを受けて、平成15年より琵琶湖の水位操作試行が始まり、同時に行った野外調査結果をフィードバックすることで、近年漁獲量が大きく減少したコイ科魚の産卵環境改善について作業仮説の提示が可能な段階になっている。ただ、過去2年間の試行は現行の水位操作規則の範囲内にとどまり、夏期に低水位を保った状態に変化はない。この点が、今後の課題として残されている。
  • 児玉 好史
    セッションID: L2-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     筆者は、2001年8月から国土交通省の琵琶湖河川事務所の所長として、さらに2004年4月から近畿地方整備局の河川調査官として、淀川水系河川整備計画の策定過程に関与している。この立場から、以下の3点を述べることにより、琵琶湖・淀川流域の今後の河川行政が目指しているところを示したい。 第一に、河川整備計画基礎案(河川整備計画の案)は淀川水系流域委員会を含むどのような過程を経て策定されたか、なぜそのような策定過程を経ることとなったのか。 第二に、河川整備計画基礎案の内容はどのような特徴を持つか、治水や利水について新しい考え方はあるか、新河川法で目的化された「環境」についてどのような考え方か、事業中のダムはどうなるのか。 第三に、淀川水系河川整備計画の策定過程に対する批判はないか、反省点はないか。
  • 新田 啓之
    セッションID: L2-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    淀川水系流域委員会は様々な新たな試みを行ってきた。その1つには、従来、行政が行ってきた事務局の機能を、外部の民間企業であるシンクタンクに委託した点が上げられる。これにより、委員会の独立性、中立性、自主性を高め、自由で活発な議論を行った。また、委員会では、会議の公開と傍聴者の発言機会の確保や中間とりまとめに対する意見の募集、一般の方々と意見交換を行う会の実施、寄せられた意見に対する委員会の考えをまとめた冊子等、様々な住民参加の試みを行ってきた。このような取り組みを支援してきた庶務(中立の民間事業者)の視点から、一部を紹介するとともに、計画策定プロセスの一環として、流域委員会の活動を振り返り、課題と今後の方向性について紹介する。
  • Junji Takabayashi
    セッションID: L3-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    In response of damage by herbivores, plants are known to emit volatiles that enhance the effectiveness of carnivorous natural enemies of herbivores. Studies on plant-carnivore interactions mediated by such infochemicals have focused on tritrophic systems in which plants are infested by a single herbivore species. In natural ecosystems, however, plants are often simultaneously infested by several herbivorous species. Here, we focus on two herbivore species that simultaneously attack crucifer plants, and their respective specialist parasitic wasps. We first show the specific responses of the two specialist parasitic wasps to infochemicals originated from cabbage plants infested by each of their respective host larvae. We then coupled the two tritrophic systems on the same plants. These experiments demonstrated the presence of indirect interactions between the two herbivore species. Overall, the results indicate the presence of infochemical-mediated indirect interaction networks on a single plant, and a filed community of herbivores can be better understood from the perspective of such interaction networks.
  • Charles Godfray
    セッションID: L3-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    Ecological theory demonstrates how competition can structure communities of plants and animals, and its importance has been demonstrated experimentally, particularly in plant, bird and rocky-shore communities. But equally many communities are unlikely to be structured by competition, for example herbivorous insects which frequently feed on non-overlapping resources, or which are typically too rare to exhaust food supplies. Here, it may be pressures from higher rather than lower trophic levels that structure communities, and indeed the theory of apparent competition shows that the actions of natural enemies can in many ways be homologous to the effects of resource competition. There is, however, relatively little evidence for apparent competition in the field. I will review the role of apparent competition in insect herbivore communities and describe experiments on two systems. The first involves aphids and the parasitoids, pathogens and predators that attack them (in the UK), the second leaf-miners and their parasitoids (in tropical Central America). I will conclude that the evidence to date suggests apparent competition is widespread, and hence may be very significant in insect community structure.
  • Elisa Thebault, Michel Loreau
    セッションID: L3-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    Recent theoretical and experimental work provides clear evidence that biodiversity loss can have profound impacts on functioning of natural and managed ecosystems and their ability to deliver ecological services to human societies. Work on simplified ecosystems in which the diversity of a single trophic level is manipulated shows that diversity can enhance ecosystem processes such as primary productivity and nutrient retention. Theory also strongly suggests that biodiversity can act as biological insurance against potential disruptions caused by environmental changes.
    One of the major current challenges, however, is to extend this knowledge to multitrophic systems that more closely mimic complex natural ecosystems. Our theoretical work shows clearly that trophic interactions have a strong impact on the relationships between diversity and ecosystem functioning, whether the ecosystem property considered be total biomass or temporal variability of biomass at the various trophic levels. In both cases, food-web structure and trade-offs that affect interaction strength have major effects on these relationships. Multitrophic interactions are expected to make biodiversity-ecosystem functioning relationships more complex and nonlinear, in contrast to the monotonic changes predicted for simplified systems with a single trophic level. Merging food-web and biodiversity-ecosystem functioning approaches is an exciting challenge which offers promising perspectives.
  • Kanehiro Kitayama
    セッションID: L3-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    My talk addresses how beta diversity maintains forest ecosystems. My model system is a tropical mountain, where soil weathering proceeds potentially rapidly but its speed varies with altitude, geology and topography. Consequently, nutrient availability (particularly P) varies greatly from site to site. I analyzed the foliar and litter nutrients of the major canopy-tree species in relation to net primary productivity and biomass in 12 tropical rain forests that were widely spaced from each other on different positions of the mountain with contrasting soil nutrient availability. Mean foliar N and P concentrations (weight basis) and N/P ratios varied across the 12 forests, and reflected soil nutrient availability. Leaf-litter N/P ratios were much wider (ranging from 50 to 225) than foliar N/P ratios were (40 to 100). Thus, nutrient-use efficient species in terms of productivity replaced inefficient species where that nutrient was critical. Theoretically, there is a trade-off between nutrient-use efficiency versus water-use efficiency. My analysis demonstrates that there is an array of tree species that differ in the foliar stoichiometry of N and P. Adaptive shifts (i.e. beta diversity) among species occur between nutrient-use and water-use efficiencies, and maintain forest productivity and biomass on spatial gradients on the mountain.
  • 東樹 宏和, 曽田 貞滋
    セッションID: S1-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    共進化系では生物間の相乗的な適応により、時として極端に発達した形質が生じる。特に敵対的な関係において「軍拡競走」と比喩されるこの過程について、1970年代以降に理論面での著しい発展が見られたが、軍拡的な共進化が始まるメカニズムや形質進化の速度、また、時間・空間軸上における動態に関して、野外における実証研究は発展してこなかった。そこで我々は、明解な軍拡競走を示すヤブツバキ‐ツバキシギゾウムシ系を対象に、相互作用の地理的な変異を元にして、地質学的な時間スケールにおける軍拡競走の進行過程を再現した。この系では、ツバキの防衛形質(果皮)とシギゾウムシの攻撃形質(口吻)が軍拡的な進化を遂げており、最も形質が発達した屋久島の集団では、握り拳大のツバキ果実(別名リンゴツバキ)と体長の2倍に達する口吻長を持つシギゾウムシが観察される。一方で、本州の各地で調査を行ったところ、形態形質の極端な発達は見られず、また、シギゾウムシの口吻長がツバキ果皮の厚さを大きく上回っていることが明らかになった。そこで、本州_から_屋久島の16集団でツバキの防衛形質にかかる自然選択を定量化したところ、南の地域で厚い果皮への強い方向性選択が検出される一方で北の集団ではそうした傾向が見られず、共進化形質の地理変異パターンをよく説明していた。シギゾウムシのmtDNAを用いた解析から、最終氷期以降の急速な分布域拡大が示唆されたため、現在見られる軍拡競走の地理勾配は後氷期に形成されたものであると推定される。後氷期にかつての避難所に残った南の集団で、温暖化とともにツバキの防衛形質にかかる資源コストが緩和され、急速な共進化が進行した一方、北に分布を拡げた集団では生産性の低さから防衛形質への投資が進化していないと考えられる。
  • 佐々木 顕
    セッションID: S1-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     軍拡競争の概念はメイナードスミスやパーカーによるボディサイズ進化のモデルを出発点とし、共進化の理論に重要な影響を与えたが、実証的な研究は遅れてきた。KraaijeveldやGodfrayらはショウジョウバエの寄生蜂への抵抗性に遺伝的変異と地理的変異があることを見いだし、飼育実験によって寄生蜂存在下で抵抗性は数世代のうちに急上昇する事を示し、さらに抵抗性のコストの検出にも成功した。これを受けて、Sasaki & Godfray (1999)は寄主抵抗性と寄生蜂病原性(抵抗性を打ち破る対抗形質)の共進化を数理モデル化し、抵抗性と病原性が増大と急落を繰り返す共進化サイクルが広いパラメータ範囲で見られること、また寄主抵抗性のコストがある閾値より大きいと、寄主が抵抗性を完全に捨てた状態が共進化的安定状態になることなどを示した。しかし寄生蜂の病原性の遺伝的変異の検出が難しいため、共進化実験や自然集団での検証は行われてこなかった。 ところが最近の東樹と曽田のツバキ果皮とツバキシギゾウムシ口吻の軍拡競走に関する野外研究によると、1) 両形質に高い種内多型があり、2) ゾウムシの口吻長とツバキの果皮厚とが比例する直線上に乗る集団群(共進化によるエスカレーション途上の集団群?)がある一方で、3) 果皮厚が明らかに口吻長より小さいゾウムシ優位の集団群(ツバキが抵抗をあきらめた平衡状態?)も存在する等の注目すべき結果を得た。本講演では、これらの発見を寄主の抵抗形質と寄生者の対抗形質の軍拡共進化理論から検討し、量的形質の共進化の理論と実証研究の統合を試みる。また進化動態において形質の遺伝的構造や、突然変異率・変異幅に関する仮定が共進化サイクル等にどう影響するか、Adaptive dynamicsとの関連、分集団間の共進化動態の同調・非同調や、地理的クラインの形成についても詳細に検討する。
  • 津田 みどり
    セッションID: S1-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    種間の相互作用に関与する形質の進化は、コストがかからない場合には軍拡競争へと発展する。しかし、コストが他の形質にかかるとその限りではないことが知られている。本講演では、寄主_-_寄生蜂系の進化モデル(Tuda and Bonsall, 1999)をマメゾウムシー寄生蜂実験系に即して改良し、これに基づいた予測を紹介する。このモデルでは種間の相互作用に関与する形質と、それとは中立な形質の間にトレードオフ(コストがかかるため生じる2形質間の二律背反)がある場合に、それが進化のダイナミクスと帰結にいかなる影響を及ぼすかに注目している。寄主側のトレードオフは系の持続に寄与することがあるが、寄生蜂側のそれは寄与しないことなどが明らかにされた。このような進化動態を野外で観測することは一般に難しく、実際、そのような報告もない。そこで実験系を駆使した検証が重要となる。最後に、マメゾウムシー寄生蜂実験系を用いた検証方法について議論し、できれば実験結果を一部紹介したい。
  • 矢原 徹一
    セッションID: S2-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    有性生殖の利点として、これまでは、「赤の女王仮説」などの短期的効果に注目が集まってきた。しかし、有性型が短期的に無性型を完全に駆逐できない条件は多数ある(有性型と無性型のニッチ分化・倍数性のコスト、など)。このような条件の下では、環境が変化したときに、有性型のほうが適応進化・種形成の速度が速いという長期的な効果が、有性型を有利にする可能性がある。メキシコ産ステビア属における有性生殖・無性生殖型の分布と、有性生殖系統の放散的な分化の証拠(中澤・副島・河原・渡邊との共同研究)は、この考えを支持する。有性生殖の短期的な利点との関連では、無性型がまれに有性型と交雑するという現象にもっと注目すべきではないか。このような「稀な有性生殖」があれば、無性型も有性生殖の短期的な利点をある程度享受し、さらに無性生殖の利点や、雑種性の利点を享受できる。このような有性型と無性型の交雑は、新たな「種」を生み出すプロセスでもある。
  • 芝池 博幸
    セッションID: S2-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    セイヨウタンポポは明治初期に日本に持ち込まれ,人里や採草地,都市的環境を中心に分布を広げた帰化植物である.近年,これまでセイヨウタンポポとして同定されてきた分類群には,セイヨウタンポポ(3倍体で無融合生殖をおこなう)と日本産タンポポ(2倍体で有性生殖をおこなう)の雑種が多数含まれていることが明らかにされた.雑種性タンポポは倍数性や核型の特徴から,さらに3つのグループ(4倍体雑種や3倍体雑種など)に大別できる.これら雑種性タンポポの生育環境の差異を明らかにするために,栃木県西那須野町の畜産草地研究所(以下,畜草研)においてタンポポが生育する場所の植生や土壌硬度,相対照度を調査した.その結果,4倍体雑種は土壌硬度が高く開けた平地に生育するのに対して,日本産タンポポは土壌硬度の低い林縁や林床に生育することが明らかとなった.3倍体雑種は比較的開けた場所に多いものの,日本産タンポポが生育するような林縁にも生育していた.3倍体雑種と日本産タンポポの生育環境の類似性は,3倍体雑種が日本産タンポポに由来するゲノムを相対的に多く含むことと関係があると推察された.次に,雑種性タンポポは無融合生殖により増殖することが確認されているので,雑種クローンの分布様式と生育環境の対応を比較した.畜草研と関東地方の1都6県から採集したサンプルを対象に,マイクロサテライト・マーカーを用いて遺伝的に異なる雑種クローンを識別した.その結果,畜草研で開けた平地に優占していた4倍体雑種は遺伝的に単一のクローンで,同型のクローンが関東平野全域に広がっていることが判明した.これらの結果は,雑種性タンポポが日本産タンポポの生育できないオープンな環境へ進出する際に,特定の雑種クローンが選択された可能性を示していると考えられる.
  • 村上  哲明
    セッションID: S2-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     生物の種分化過程においては、生殖的隔離の進化、遺伝的分化、ならびに生態的分化がしばしば同時平行的に起こると考えられる。演者らは、近年、分子マーカーによって容易に測ることができるようになった遺伝的分化の程度、そしてそれと生殖的隔離の程度、あるいは生態的分化との関係を様々なシダ植物、コケ植物について調べてきた。 シマオオタニワタリはリンネによって記載されたシダ植物の1形態種で、旧世界の熱帯域に広く分布し、生育環境の上でも低地から高地、暗くて湿った環境から明るく乾燥した環境まで幅広く生育するとされてきた。ところが、演者らがこの種群の葉緑体DNAにコードされているrbcL 遺伝子の塩基配列を調べたところ、種子植物の科レベルの大きな変異量がこの1形態種の中に見られることがわかった。 次に、広く東南アジアからrbcLの塩基配列が様々な程度に異なるシマオオタニワタリ類の植物サンプルを採集し、同時に採集したその胞子から配偶体(前葉体)を培養して人工交配実験も行った。その結果、rbcLの塩基配列の差違と生殖的隔離の程度の間には強い正の相関が見られた。さらに、rbcLの塩基配列が大きく異なるものは同所的に分布している場合でも、一般的に明確な生態的分化が見られることも明らかにした。すなわち、生育する高度や樹に着生する位置などがrbcLタイプごとに明確に分化していたのである。 また、距離的に離れた産地間で比較しても、rbcLの塩基配列が似ている群ごとに、似たような海抜高度に生育することが多いこともわかってきた。生態的分化があることは多様性の維持という観点から考えても非常に重要である。今後も、生殖的隔離、遺伝的分化のみられるものが生態的にも分化が見られないかという観点で調べていく必要があると考えている。
  • 伊藤 洋, Ulf Dieckmann, 池上 高志, 嶋田 正和
    セッションID: S2-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    生物進化の歴史は,適応放散の繰り返しとして解釈することができる.この進化動態の決定論的な機動力は自然選択であると考えられる.本発表では,生物間相互作用による自然選択のみに基いた生物群集の進化モデルを2つ提案する.それらの解析結果から,「再帰的な放散はなぜ起こるのか?」,「その単位過程である種分化の意義,有性生殖の意義はなにか?」, という問いについて議論する.[モデルの説明]1つ目のモデルでは,資源利用に関与する第1の形質における適応放散によって生じた種群が,第2の形質における方向進化によって不安定化し,結果として適応放散と絶滅が繰り返す.2つ目のモデルでは,第2の形質は資源(被食者)としての形質を想定し,群集レベルでは,資源利用(捕食)は理想自由分布へ近付く方へ,逆に資源(被食)としては理想自由分布から遠ざかる(捕食から逃れる)方へ,進化動態が進行し,種分化と絶滅のバランスが複雑な食物網を維持する.種分化は,これら2つの過程の在り方の1つとして解釈される.
  • 野間 直彦, 安渓 貴子
    セッションID: S3-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     日本生態学会と日本生態学会中国四国地区会は、独自の調査と分析に基づき、上関原子力発電所建設予定地の貴重な自然環境と生物多様性にみあった環境影響評価を実施することを関係諸機関に要望してきた。その5年間の経過と現状からは、環境影響評価手続きの中で学会の指摘はほとんど生かされなかったと言わざるを得ない。生態学では原発計画は止まらなかったし変わらなかった。
     しかし、共有地の入会権をめぐって裁判が行われており、一審では入会権が認められ工事が事実上できない結果になった。二審では、過去に薪をとるための伐採があったかどうかが争われている(伐採されたことがない林であれば入会利用の事実がなく、権利が縮小される可能性がある)。別の面で学会の調査が生きる可能性が出てきた。
     我々が予定地の2か所の共有地内の林で行った調査では、最大の幹の直径が25cm以下と細く、落葉樹が胸高断面積比で65%前後と多かった。神社に見られる極相に近い林とは大きく異なり、かなり若い林と考えられる。薪炭材として重要であったコナラとアベマキが優占種の最上位を占め、ほかに落葉樹では、ハゼノキ、ハマクサギ、ヤマザクラ、シデザクラがみられた。常緑樹ではクロキ、ヒメユズリハ、カゴノキ、カクレミノ、ヤブニッケイ、シロダモ等が多く出現した。萌芽が多いという株の形態と、成長錐による樹齢の推定から、一方は40-50年前、もう一方は30-40年前までは継続的に伐採されていた林と考えられる。空中写真を解析した結果もこれを支持する。山口、広島、岡山各県でのかつての薪炭林の構造とも似通っている。
     伐採されていた二次林として一般的な姿であるが、里山の生態学の目で見ることが過去の利用を証明し、原発計画に重要(で皮肉)な役割を果たす可能性が高い。
  • 金井塚 務
    セッションID: S3-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     西中国山地のツキノワグマ個体群(Ursus thibetanus japonicus)は絶滅の恐れのある地域個体群としてレッドデータブックに記載されている孤立個体群である。その個体群保護のために広島、島根、山口の三県は共同で特定鳥獣保護管理計画を策定し、実施に当たっている。しかしながら計画では、個体群保全のための環境復元や資源回復の具体的な方策は棚上げされ、捕獲数の上限値を決めただけという内容にとどまっている。しかも上限を超える捕獲・除去に対して有効な歯止めがないことから、2004年度は220頭を超えるクマが捕殺されるという状況を招いている。一般には、集中豪雨や台風などの異常気象による餌不足が人里へのクマ出没の原因と受け取られているが、実際にはクマの生息密度の低下と生息域の拡大傾向は1970年代初めから続いてきており、この秋にはそれが顕在化しただけに過ぎない。西中国山地におけるツキノワグマ生息域の中核となるとブナ-ミズナラ林は年々減少し、そこでの生物多様性やそれに依存した生産量も減少している。そうした状況の中で、生物の多様性を維持し、生産量も多い細見谷渓畔林は西中国山地のツキノワグマ個体群にとって、最後のより所となる貴重な地域である。細見谷渓畔林を中心としたツキノワグマの食性調査では、サケ科のゴギを捕食している可能性を示唆するような証拠も得られており、こうした水産資源を含む、生物生産性の高い地域の保全がツキノワグマ個体群の保全に極めて重要であることは間違いないであろう。にもかかわらず、細見谷渓畔林を縦貫する林道建設計画が緑資源機構の手で進められ、来年度中にも着工という事態にある。こうした林道建設は、衰退しつつある孤立個体群の絶滅に直結しかねない問題をはらんでいる。生態学者はこうした事態にどのような態度で臨もうとしているのだろうか。
  • 河野 昭一
    セッションID: S3-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    過去30余年にわたり自然保護・保全問題にさまざまな形で関与してきた。対象地域は国有林、保安林、国立公園、国定公園、地方自治体自然環境保全地域、民有地、企業所有地など、実にさまざまである。国有林、保安林は、林野庁の所管である。国立公園、国定公園は、環境省の所管であるが、国定公園は指定以後は、地域の地方自治体の所管となる。県立自然公園、県有林、その他の指定地域は、都道府県、市町村などの地方自治体の所管である。中には、優れた景観、生物多様性と保持した民有地もある。しかし、なぜか国の所管である国有林、保安林、国立公園、国定公園ほど、発生する破壊の規模が大きく、しかも日本列島の自然環境と生物相の保護・保全の根幹に関わる問題が大きい。研究者の組織としての日本生態学会には、自然保護専門委員会がある。上記の保護対象カテゴリーに帰属する対象地域の自然環境、生態系、生物多様性は、そのいずれをとっても、極めて原生的自然の原型を保持し、従って公共性、公益性が高い自然環境保全・保護地域であるが、その破壊行為の阻止に対し、研究者の組織として如何なる役割を果たしてきたか。今、正にその検証が迫られている。
  • 河口 洋一, 中村 太士
    セッションID: S4-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     2002年春,北海道東部を流れる標津川下流域では,国内で初めてとなる川の再蛇行化実験が実施された。今回の再蛇行化実験は,直線河道と過去に直線化によって河道周辺に残された一つの旧川(旧河道)を再び連結する方法で行われた。川の再蛇行化と氾濫原の復元によって、失いつつある自然環境を取り戻そうという標津川の試みは、国内では例をみない大規模な事業であるが、世界ではすでに幾つかの取り組みが実施されている。例えば、米国フロリダ州の中央部を流れるキシミー(Kissimmee)川では、水門の撤去、および約10kmの直線河道を埋め戻すことによって蛇行河川と氾濫原の復元が始まり、また、欧州デンマークを流れるスキャーン(Skjern)川でも、川の再蛇行化によって約2200haに及ぶ氾濫原の復元が行われている。しかし、先駆的な事例はあるものの、川の再蛇行化によって河川環境や生物群集がどのように応答したかを報告している研究例は未だ少ない。そのため、川の再蛇行化に伴う生態系の変化を、物理的、化学的、生物的側面から明らかにする必要性は高く、今後の川の再生事業を実施するための基礎データを提供できると考える。 今回は、川の再蛇行化実験で行った複数の調査結果(河道地形、水環境、食物網構造、水生生物群集など)について説明し、これまでに明らかになった内容を報告する。また、この大規模な検証実験には、生態学だけでなく河川工学や河道地形、水質など、異なる分野の研究者が加わっており、分野を横断する新たな研究テーマの発掘や集水域生態系科学における分野間の共同研究の重要性について発表したい。
  • 藤沼 康実
    セッションID: S4-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    国立環境研究所地球環境研究センター(CGER)は、国内外の研究機関等と連携して多くの地球環境モニタリングプロジェクトを推進している。地球温暖化関連では、国際的な観測戦略(IGOS;Integrated Global Carbon Obsevation)を踏まえて、人工衛星・航空機・船舶・地上局などの様々な観測プラットフォームを用いて温室効果ガスの濃度とフラックスを観測している。ここでは、森林のCO2フラックス観測を中心とした森林の総合観測研究について紹介する。 CGERは、北海道森林管理局の協力を得て、2000年初夏より苫小牧カラマツ林で、森林の炭素循環機能に関する総合観測研究を開始した。この観測研究では、森林機能・環境の長期継続的なモニタリングを基盤として、関連する多くの研究者が参加して、同一の森林を広範囲な分野から総合的に研究解析している。また、本観測研究が契機となり、わが国のフラックス観測研究者が結集し、わが国を含む東アジア地域のフラックス観測網(AsiaFlux)が発足し、その中核拠点としての機能も果たしている。なお、残念ながら苫小牧カラマツ林は2004年9月に来襲した台風18号により全壊したため、現在、同じ機能を持つ観測林を新たに選定中である。さらに、2001年より北海道大学天塩研究林で、北海道大学・北海道電力(株)・国立環境研究所が連携して、森林集水域での炭素循環を含む物質循環機能の育林過程による変化に関する総合観測研究(CC-LaG;Carbon Cycle and Larch Growth Experiment)を開始した。2003年には既存の針広混交林を皆伐し、整地後カラマツ苗を植樹し、長期にわたり育林過程を追った観測研究を進めている。 これらの森林観測研究では、CGERがモニタリングとして観測プラットフォームを長期的に運営し、観測データを集約・提供するものである。そこに組織を超えた多様な研究者が参画することによって、より密度の濃い研究成果が得られていおり、効果的な研究展開が進められている。
  • 桐谷 圭治
    セッションID: S4-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    21世紀の農業では、農業生態系の本来の目的である農産物の生産とともに農地管理をつうじて、里山特有の生物多様性を維持、保全することが求められる。IBM(総合的生物多様性管理)は害虫管理と生物多様性の保全の両立を目指した理論である。そのためには、短期的と長期的、局所的と広域的など両極の視点から農業生態系をながめる必要がある。農業分野では、実験は短期的、局所的なものに限られ「大規模長期操作実験」というものはない。しかしその視野にたって、過去を振る返ることは有用だと思われる。日本の稲作の歴史は米の増産につきる。気象、病虫害、肥料、労働との戦いである。戦後米の増産のため時代を追って各種の農業資材、機械、栽培様式が導入された。保温折衷苗代、早期栽培、穂数型品種、BHC 粒剤、稲藁のマルチ使用、刈取期の早期化、珪酸カリの施用、移植や収穫の機械化、稲藁の焼却や裁断、農薬の苗箱処理などの技術は米の増産の目的を達成し、3割の減反政策が実施されるまでになった。稲の最大の害虫、ニカメイガの防除を目的にした技術は農薬だけであったにもかかわらず、この過程でかっての大害虫は潜在的害虫になった。これらの事実は、BHCで害虫の被害は防げても、個体群密度の管理はより総合的な環境管理の問題であること。大害虫の低密度化は広域的かつ長期間を要することが明らかになった。また増産技術が必ずしも害虫問題を誘発重大化するとは限らず、両立する可能性も示された。他方ではBHCによる潜在害虫のリサージェンス、抵抗性害虫の出現、ただの虫の激減、食物や環境の農薬汚染をもたらした。これは、抵抗性品種や天敵を軽視した手段万能主義がもたらした結果である。同時に総合的かつ横断的な視野を持った戦略家が必要なことを示唆している。
  • 加藤 知道
    セッションID: S5-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    青海_-_チベット高原の北東部に位置する、中国青海省海北地区の高山草原生態系(カヤツリグサ科C3草本が優占)を対象とし、渦相関法を用いた大気-生態系間のCO2交換の測定(2001年8月_から_2002年12月)と、生態系炭素循環モデルSim-CYCLEを用いた推定(1981-2000年)によって、異なる時間スケールでのCO2交換と環境要因の関係を明らかにし、温暖化に伴うCO2交換の変化を予測した。
     植物生長期(5-9月)の日中のCO2吸収量は、LAI(葉面積指数)の季節変化と、光(PPFD)の日々の変化量に依存していた。一方、夜間のCO2放出量、すなわち生態系呼吸量Reは、土壌温度に対しては正の相関を示し、土壌水分に対しては負の関係を示した。実測値から年間CO2吸収量は78.5 gC m-2となり、他の高山帯とほぼ同等の小さな値であった。世界の様々な生態系における、年平均気温とCO2吸収量の関係から見て、本生態系の制限要因は温度であることが示唆された。
     Sim-CYCLEを用いたCO2交換の変動実験の結果では、総一次生産GPPと生態系純生産NEPの年々推移は同調しており、変化幅は±70 g C m-2yr-1程度であった。一方、Reは変動幅が小さかった。NEPは、温度の上昇に対して、緩やかな負の関係を示したが、有意ではなかった。気候変化に対する応答ポテンシャルを調べるモデル感度実験では、年平均気温を5℃上昇させたとき、GPPは応答が速く、20年程度で定常に達したが、Reはそれよりも反応が緩やかであった。これによると、ある程度の温暖化は植物生産力を増加させる可能性があることを示唆した。次に、年平均温度を±10℃の間で強制的に変化させたモデル実験では、5℃までの年平均気温の上昇はGPPを増加させるが、それ以上の上昇は逆に現在よりも値を低下させた。ある程度の温暖化は、本生態系をCO2の吸収源として維持させるが、温暖化が顕著になると、放出源になる可能性が考えられた。
  • 廣田 充
    セッションID: S5-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    青海・チベット草原生態系には、広大な草原とともに多くの湿地が点在している。これらの高原湿地では、土壌有機炭素の蓄積量が非常に多く、炭素収支において吸収源と考えられている。同時に、還元土壌が卓越する高原湿地では、CO2だけではなく、CH4の放出も見られることから、温暖化ガスの放出源である可能性が高く、高原湿地_-_大気間のCO2とCH4ガス動態を定量化することは重要である。そこで発表者らは、2002年より継続的に高原湿地においてCO2とCH4ガス動態の調査を行っており、その結果の一部については、これまで当大会において発表している。
    一方、青海・チベット草原では、牧畜業が盛んで羊を中心とした家畜が多く飼われている。これらの家畜は、水のみ場として湿地を利用しており、湿地植生は、集中的に被食を受けている。湿地_-_大気間のガス動態は、主に湿地の植生を介して行われることから、家畜の被食によって高原湿地におけるCO2とCH4ガス動態の変化する事が予測されるが、これら家畜の被食の影響について明らかにされていない。高原湿地の温暖化ガス動態を解明するには、このような家畜の被食の影響を明らかにする必要がある。そこで本発表では、高原湿地のCO2とCH4ガス動態、特に家畜の被食が与える影響について報告する。
    対象湿地内に、家畜の入らない保護区(40 x 100m)を設置し、保護区と保護区に隣接する対照区の2区間で、チャンバー法によるCO2とCH4フラックス、植物バイオマス及び土壌環境を調査した。その結果、対照区では植物バイオマスおよびCO2吸収量が減少し、CH4放出量が増加することが明らかになった。これらから、家畜の被食によって高原湿地の地球温暖化への貢献度が大きくなることが示唆された。
  • 関川 清広
    セッションID: S5-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     熱帯と温帯域の草原は陸域面積の1/5を占め,全生態系の30 %の土壌炭素を有する.また,樹幹という炭素プールをもつ森林に対し,草原では土壌炭素プールの寄与が高い.このため草原生態系がグローバルな炭素循環に与える影響は無視できず,温暖化の影響を鑑みると,特に草原における土壌炭素放出のメカニズム解明は,重要な研究課題といえる.演者は,本シンポジウムの研究対象であるチベット高山草原において,土壌炭素放出フラックスとして土壌呼吸を2種類のチャンバー法を用いて測定した.本草原では,夏期の地表温は晴天日には,夜明け頃の最低約0 ℃から日中の最高20 ℃以上と日較差が大きく,土壌呼吸の温度依存的な日変化を1日程度の測定で十分に検知できる.土壌呼吸測定に用いた手法は,密閉法(CC法)と通気法(OF法)である.CC法では,チャンバー密閉後,チャンバー内ガスを定期的に微量採取し,そのCO2濃度の時間的増加に基づいて土壌呼吸速度を算出する.OF法では,大気をチャンバーを経てCO2分析計に通気し,チャンバー入口と出口のCO2濃度差に基づいて土壌呼吸速度を求める.アクセスが困難で,電源の制約や厳しい環境の影響がある生態系では,野外操作が真空瓶によるガス採取のみであるCC法が便利である.OF法は電源が不可欠で,厳冬期の使用は困難であるが,連続測定が可能で,土壌呼吸に対する環境要因の影響解析が容易である.本草原では,盛夏の土壌呼吸速度は時間帯によって,CC法では200から700 mg CO2 m-2 h-1,一方OF法では100から800 mg CO2 m-2 h-1となった.本講演では,これら土壌呼吸データの手法間比較,日本の草原との比較から明らかとなる,本草原の土壌呼吸特性について紹介する.
  • 陳 俊, 堀 良通, 山村 靖夫, 安田 泰輔, 塩見 正衛
    セッションID: S5-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    目的:青海高原における自然草原生態系の炭素循環解明の基礎として,植生の構造とバイオマスを調査した。青海高原の自然草原における種多様性は,他の草原と比べて非常に高いと言われている。その実態を,栃木県西那須野町の畜産草地研究所の半自然草原と比較して明らかにする。
    調査地:青海高原は101°16’E,37°38’N,標高3,200mに位置し,年平均気温_-_1.7℃,年平均降水量589.0mmで,一般に夏季には放牧利用されていないが,冬季に羊・ヤクによる非常に強い放牧が行われている。一方,西那須野草原は年平均気温11.7℃,年平均降水量1,371mmで,初夏から初秋にかけて140日間程度の和牛のやや弱い放牧が行われている。
    調査方法:10mあるいは50mのライントランセクト上に10cm×10cmの方形枠を80あるいは100個並べ,枠ごとに地上部を刈取って種別に分類し,70℃で48時間乾燥後秤量した。青海高原草原では2003・2004年7月下旬_-_8月上旬,西那須野草原では2002年10月と2003年6月に調査を行った。
    結果:出現した種数は,青海高原草原では46_-_62種/m2(または0.8m2),西那須野草原では20_-_32種/m2であり, 青海高原草原では西那須野草原の2_-_3倍であった。また,100cm2当りでみると,青海高原草原では15.5_-_19.7種,西那須野草原では3.7_-_4.4種であり,青海高原草原では西那須野草原の4倍以上であった。
    一方,バイオマスは,青海高原草原では3.0_-_3.3g/100cm2,西那須野草原では2.3_-_2.5g(枯死部を含む場合は5.7_-_5.9g)/100cm2で,両草原に大きな差はなかった。
  • 長太 伸章
    セッションID: S6-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    オサムシ亜科オオオサムシ亜属Ohomopterusのオサムシは日本固有であり、現在15種が知られている。本亜属は飛翔能力を持たないため分散が限られており、交尾器などの形態が著しく多様化している。また、多くの地域で体サイズの異なる2種以上が同所的に生息している。そのため、本亜属は種分化から種の共存にいたる過程を明らかにする上で興味深いグループである。これまでの形態、分子系統、生物地理的解析から、本亜属では異所的に種分化した種が相互に分散し、サイズが異なる種の同所的共存がもたらされたと考えられている。また、種の二次的接触が起きた場合、種間交雑とそれにともなう遺伝子浸透性が繰り返し生じていることが示されている。 オオオサムシ亜属は近畿地方から中部地方にかけて最も多様性が高く、オオオサムシ、ヤコンオサムシ、マヤサンオサムシ、イワワキオサムシ、ミカワオサムシ、ドウキョウオサムシ、ヤマトオサムシ、ヒメオサムシ(アキオサムシ)の8種が生息する。また、大阪・奈良県境の金剛山では5種、他の多くの地域でも2種以上が同所的に生息している。本研究では近畿・中部地方におけるオオオサムシ亜属各種の分布形成過程およびその共存過程を再構築するために、この地域に生息する8種の多数の集団から、約2,000個体のミトコンドリアDNA ND5遺伝子1,020bpの塩基配列データを収集した。ハプロタイプの統計的最節約ネットワークに基づくNested Clade Analysisや集団の遺伝的多様度、地域クレード間の系統関係の推定などから、それぞれの種について分布域の形成過程を推定した。そして全8種の分布形成過程の情報を統合することにより、近畿・中部地方における共存過程を再構築した。
  • 大舘 智志
    セッションID: S6-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    北海道を中心に中期更新世以降の北東アジアにおけるトガリネズミ群集の成立史を推定した。北海道に生息する4種のトガリネズミと近縁種についてミトコンドリアのチトクロムb遺伝子による系統地理学的分析を行った。またいくつかの種については核rDNAのRFLP分析とマイクロサテライト遺伝子による集団遺伝学的解析も行った。mtDNAの分析よると、北海道にはまずバイカルトガリとチビトガリが出現し、最終氷期最寒冷期にオオアシトガリが渡ってきたと推定された。ヒメトガリはこの間の時期に複数回の移入があったと示唆された。また現在の分布と古環境の情報により最寒冷期には現在は北海道には生息しないツンドラトガリが北海道の北部東部に移入し、代わりにバイカルトガリが絶滅したと思われた。その後、温暖化に伴いツンドラトガリが北海道から絶滅し、代わりに道南部のrefugiumよりバイカルトガリが北部東部に分布を再拡大したと考えられた。このことはマイクロサテライト遺伝子の分析結果とも矛盾しなかった。さらにバイカルトガリとツンドラトガリは形態、生態が似ていることから、北海道内におけるこれら二種の分布の変遷には環境変化の他に種間競争も関与している可能性がある。一方、本州産の中期更新世以降のトガリネズミ類(Sorex)の化石の形態の分析結果より、本州にはオオアシトガリと近縁なS. isodonや大型の不明種が生息しており、また本州中部産のアズミトガリはかつては本州全域に生息していたことが判明した。これにより中期更新世以降、本州ではトガリネズミ群集の種構成や分布域が減少していることが分かった。以上のように群集の形成過程の推定には系統地理学、集団遺伝学、古生物学、古環境、種間関係などの情報を統合することが必要である。
  • 佐藤 綾, 堀 道雄
    セッションID: S6-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     ある地域に見られる種群(群集)の成立には、広域的な種のプールの成立と、そのプールを構成する種の局所的な生息場所選択と同じ生息場所を選択した他種との相互作用がかかわる。日本の海岸には、全部で9種のハンミョウ(甲虫目)が見られ、それぞれの海岸には2から4種が同所的に見られる。本研究では、海辺のハンミョウ種群の成立に注目し、広域的な種のプールの成立として、日本の海浜性ハンミョウ相の歴史的な形成過程を取り上げた。また、局所群集の成立要因として、ハンミョウ類の種間関係(競争)を取り上げた。ハンミョウ類の成虫は、どの種も裸地上を走りながら餌(小型節足動物)を探索するという生活形態を持っており、餌をめぐる種間競争が大きいと予想されたからである。
     まず、ハンミョウ類の競争関係を見るため、捕獲する餌サイズと正の相関を示す大腮長(顎サイズ)に注目し、日本全国17ヶ所の海岸のそれぞれで共存種の顎サイズを比較した。その結果、共存しているハンミョウ類では、種の組み合わせに関わらず種間で顎サイズは重ならなかった。また、顎サイズに大きな種内変異が存在するハラビロハンミョウに注目し、個体群間の顎サイズの違いを共存種との関係で説明した。これらの結果から、顎サイズと対応した餌をめぐる種間競争が、共存種の決定に大きな意味をもつと考えられた。
     次に、日本の海浜性ハンミョウ相の歴史的な形成過程を推測するため、大型4種に注目し、各種における大陸との遺伝的関係と、日本国内での地域集団間の遺伝的変異を解析した。その結果、大陸と遺伝的交流を失った時期や、日本の中での歴史的な地理的分化のパターンは、種ごとに大きく異なることが明らかとなった。
     以上の結果を踏まえて、海浜性ハンミョウ種群の成立過程についてまとめた。
  • 向井 貴彦
    セッションID: S6-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    琉球列島は日本列島南西部に連なる亜熱帯島嶼であり,発達したマングローブ林やその周辺の干潟・流入河川に多種多様な汽水魚が分布している.特に,小型の底性魚類であるハゼ亜目魚類の種数は多く,塩分・底質などの細かな違いを利用して各種が棲み分けている.こうしたハゼ亜目魚類の中には日本列島と琉球列島の間で地理的に分化しているものがいくつも知られており,色斑などの違いから日本列島と琉球列島の個体群が別種とされていたり,同種とされていても成熟サイズなどが違うとされている. そこで日本列島から琉球列島の汽水域に生息するハゼ亜目魚類について両地域間での遺伝的分化をミトコンドリアDNAの部分塩基配列を元に比較した.予備的比較を含めて16種(種群)について検討したところ,ほとんど遺伝的な違いがないと思われたものは8種であり,それらは東南アジアに広く分布する種であった.残りの8種は明瞭な,あるいは多少の遺伝的分化が観察され,それらは東アジアに分布が限定されている種であった.分散能力の違いが分布域の広さと関連するならば,日本列島と琉球列島の間で地理的に隔離され遺伝的に分化している種は,相対的に分散能力の弱い種であることが示唆される. さらに,遺伝的分化が見られた種について分岐年代を試算したところと,分岐の古いものは約300万年前に日本列島と琉球列島の間で分化し,中程度のものは約100万年前,起源の新しいものは数十万年前以降に日本列島と琉球列島の間で隔離されるようになったと推測された.このことは,両地域間で汽水性のハゼ亜目魚類が分布を広げるチャンスが複数回存在したことと,それにもかかわらずいくつかの種は初期の地理的隔離以降,それぞれの環境で固有の地域集団として存在し続けてきたことが示唆される.
  • 田嶋 文生
    セッションID: S7-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     集団内の遺伝的変異がどのような機構により維持されているのかは、集団遺伝学の主要な研究テーマであり、集団遺伝学は生物進化を理解する上で必須の研究分野である。突然変異、自然選択、遺伝的浮動、集団構造、組換えなどは、維持機構の主要な要因である。本講演では、主として集団構造をDNA多型の関係を考察する。 集団構造のモデルには、2分集団モデル、島モデル(無限島モデル、有限島モデル)、飛び石モデル(線状飛び石モデル、環状飛び石モデル、2次元飛び石モデル)などが知られている。本講演では、2分集団モデル、有限島モデル、線状飛び石モデルおよび環状飛び石モデルをもちい、集団構造とDNA多型量の関係を示す。 また集団構造が自然選択が働いている遺伝子座のDNA多型にどのような影響を与えるかについて(有限島モデルをもちい)考察する。
  • 宮下 直彦
    セッションID: S7-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    私たちは、植物自然集団に存在するDNAレベルの変異の維持機構と進化的背景を解明することを目的として、これまでいくつかの植物種を材料として分子集団遺伝学的解析を行ってきた。本発表では、まず基本的な種内および種間のデータ解析(変異量の推定・連鎖不平衡の検定)や中立性検定(Tajima検定・McDonald & Kreitman検定)の方法を紹介し、そのような方法を適用したコムギ・エギロプス、シロイヌナズナとイネ野生種を用いた研究結果を報告する。コムギについては、パンコムギのBゲノム提供親に関する倍数性進化を解明するために行った細胞質オルガネラ(葉緑体とミトコンドリア)DNA変異のRFLPおよびSSCP解析の結果を、シロイヌナズナについては、アルコール脱水素酵素遺伝子(Adh)などの核遺伝子領域の塩基配列多型と、ゲノム上に遍在するマイクロサテライト多型やAFLP多型について、イネについては、重複して存在する2つのアルコール脱水素酵素遺伝子や重金属耐性に関与するメタロチオネイン遺伝子の塩基配列多型について紹介する。
  • 高野 敏行, 猪股 伸幸, 伊藤 雅信, 近藤 るみ, 難波 紀子, 長谷川 雅子, 大島 未来, 井上 寛
    セッションID: S7-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトを含めたほ乳類の世代あたりの有害突然変異率は1を超えると推定されている。このような高突然変異率は集団への過剰な遺伝的負荷、すなわち遺伝的荷重をもたす結果となる。せっ頭型淘汰など想定されている有害突然変異間の相乗効果はこれを軽減する働きがあることは理論的に示されているが、自然集団での相互作用の検出と貢献の評価は困難であった。私たちはショウジョウバエ集団の遺伝構造が、おそらくは多遺伝子の相互作用をもった淘汰を介して、季節変動することを明らかにした。また、遺伝的荷重の大きさには南高北低のクラインが存在し、南方での環境の多様性が過大な荷重を維持していると考えられていた。私たちは北方での季節変動による一時的な環境の劣化が、淘汰の働きを高め、結果として有害突然変異の除去に大きく貢献するとの仮説を提唱する。有害突然変異の作用機序と集団中の維持機構の理解は生物保全プログラムの推進に貢献するはずである。
  • 嶋田 正和
    セッションID: S7-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    近年、遺伝子組換え(GM)作物が続々と開発されているが、GM作物による生態系の生物多様性への影響をリスク評価する必要性が高まり、わが国では2004年2月からカルタヘナ法の施行となった。特に、交雑性の問題は、GMダイズからツルマメへ、あるいはGMセイヨウナタネから在来アブラナへの遺伝子浸透が懸念され、生物多様性に意図しない悪影響を与える可能性が無視できない。しかし、現段階では広域・長期的データはなく、モデルを使った遺伝子浸透の先行研究ですらも(Haygood et al. 2003)、遺伝的浮動の影響をきちんと評価したものはまだない。よって本研究では、GM作物から近縁野生植物へ、交雑を経て導入遺伝子が野生植物のゲノムに取り込まれた後、どのように局所集団での遺伝的浮動による固定・消失を繰り返し、さらに近隣の局所集団へどのように伝播していくかを予測するモデルを構築した。 2次元セル状構造のメタ個体群系を考え、各局所集団内では、遺伝的浮動と自然選択の効果を取り込んだKimura(1967)の反応拡散方程式(中立説で使用された)で遺伝子頻度を計算した。花粉流動による局所集団間の遺伝子伝播は、近隣の局所集団にstepping-stoneの移動で広まると仮定した。問題としている導入遺伝子が、(i)完全に中立な場合、(ii)選択的に1%有利な場合、(iii)選択的に1%不利な場合、の3つに分けて予測を行った。その結果、選択的に1%の有利・不利を与える場合は、完全に中立な場合に比べて、遺伝子浸透による拡大パターンに差が生じた。これらの予測をもとに、今後、自然生態系においていくつかの植物種で遺伝子浸透の実態調査が進められるが、どのようなデータが必要となるかを考察した。
  • 山村 則男, 山内 淳
    セッションID: S8-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    2方向にフィシャーのランナウェイが走るという性淘汰による種分化のモデル (Higashi et al. 1999) に対して、最近、そのメカニズムで実際に種分化が起きる条件は厳しいという批判 (Arnegard & Kondrashov, 2004; van Doorn et. al, 2004 など) がなされているが、その批判の根拠について反論する。さらに、オスの性的形質およびメスのそれに対する好みの他に、メスの選択を容易にするようなオスの性的形質を強調する形質の進化、あるいは、メスの選択能力の進化を導入すると、姓淘汰による種分化がより容易に起きることを示す。Higashi, M., Takimoto, G., and Yamamura, N. (1999) Sympatric Speciation by Sexual Selection. Nature 402: 523-526.Arnegard & Kondrashov (2004) Sympatric speciation by sexual selection alone is unlikely. Evolution 58: 222-237 .van Doorn, G. S., Dieckmann, U. and Weissing, F.J. (2004) Sympatric speciation by sexual selection: A critical reevaluation. Amer. Natur. 163: 709-725.
  • 片倉 晴雄
    セッションID: S8-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    食植性昆虫は種数にして全生物の4分の1を占めると言われている。その種分化過程を解明することは、現在の地球上に見られる生物多様性の起源の相当部分を説明することに他ならない。食植性昆虫の種分化に関してはこれまでに様々な研究が行われ、新しい食草へ適応した種内品種(ホストレース)の形成を経由する同所的種分化が異所的種分化と同じように重要である、という考えが広く支持されている。しかし、同所的種分化によって生じたことが確実視される例はむしろ稀であり、それがどの程度頻繁に生じているかは不明である。食植性昆虫においては、チョウ類のように成虫の餌資源と幼虫の利用する食草が一致しないタイプと、ハムシ類のように、成虫と幼虫が同じ餌資源を共有するタイプがあり、同所的種分化の生じやすさにもそれが影響していると考えられる。ここでは、ハムシタイプの食草利用を行うマダラテントウ類に属し、食草の違いのみによって生殖的に隔離されていると考えられるヤマトアザミテントウ(食草はアザミ類)とルイヨウマダラテントウ(ルイヨウボタン)の生殖隔離の詳細についてのべ、この2種ときわめて近縁でアザミとルイヨウボタンの双方を食草とするエゾアザミテントウの食草利用パターンと対比させながら同所的種分化における食草変換の重要性について考察する。さらに、時間が許せば、ナス科植物依存の状態からマメ科のムラサキチョウマメモドキをカバーする方向に食草の拡大が進行中のインドネシア産のニジュウヤホシテントウと、同所的にホストレースが分化しつつあると見られるインドネシア産マダラテントウの1種(Henosepilachna sp. 3)(キク科のMikania micranthaとシソ科のLeucasなどを利用)について紹介する。
  • 河田 雅圭
    セッションID: S8-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    アフリカ湖のカワスズメ科魚類において、性選択による交配前隔離が急速な種分化を引き起こしていることが指摘されてきた。特に、ニッチのほとんど違わない同所的に生息する近縁種が体色の違いで、種間の交雑が妨げられていることから、オスの体色に対するメスの選好性の進化によって同所的種分化が生じた可能性が指摘された。そこで、近年、性選択のみによって生じる同所的種分化モデルがいくつか提唱されてきた(Higashi et al. 1999; Kawata and Yoshimura 2000)。しかし、Aregard and Kondrashov (2004) は、オスの派手な色を好むことによって生じる分断的な性選択による同所的種分化は、非常に限られた条件のみでおこることを指摘した。 一方、カワスズメ科魚類を含め、いくつかの魚類では、色の知覚とメスの選好性の間に関係があり、色の知覚の適応分化が、種分化を引き起こすというsensory dirve仮説が注目を集めている。Terai et al. (2002)らは、カワスズメ科魚類において視物質を構成するオプシン遺伝が、種内で固定しているが種間では異なることを示した。これらのことから、視物質の進化によるメス選好性の進化によって種分化が生じる可能性について個体ベースモデルをもちいて検討した。 モデルは以下の仮定をおいた。個体は異なる吸収波長を持つ3つのオプシン遺伝子を持つ。2つのオプシン遺伝子の吸収波長とオプシン遺伝子の発現量が色の感受性を決定する。感受性の高い色の体色に対してよりメスは選好性を示す。オスの体色はpolygeneである。それぞれがビクトリア湖の観測のように、水中の光環境は、深度によって徐々に変化する。シミュレーションの結果、水中の色環境の勾配が中程度のときに種分化が生じることが示された。水中の色環境の均一な同一な場所で性選択のみによって同所的分化は生じにくいと考えられた。 同様に、緑の水環境において、めだつ色である赤と青をもつ2つの種が同時に種分化をするかどうかも検討したが、種分化は同所的には生じなかった。
  • 矢野 覚士
    セッションID: S9-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     植物をとりまく光環境は時間、場所によって大きく異なる。光が弱いと葉は光合成を活発に行う事が出来ない。一方、強すぎる光は光阻害を引き起こしてしまい、光合成効率が低下してしまう。植物は光環境の違いに馴化することで対応している。陽葉・陰葉は植物の示す光馴化の一つである。陽葉・陰葉は古くから比較研究が行われており、生理学的、形態学的な違いが数多く指摘されている。両者の違いは、結果として、それぞれの葉がそれぞれの光環境下において効率良い光合成生産を可能にしている。
     陽葉・陰葉という現象に対する生理生態学的な議論が活発に行われてきた一方、発生学的観点からの解析はあまり進んでいない。両者に形態学的な差が生じるのは、両者で発生が異なるためである。葉原基は光環境に応じて発生プログラムを選択し、陽葉や陰葉へと分化すると考えられる。では、植物は光環境をどうやって認識し、どのように発生を調節しているのか?陽葉・陰葉という現象を包括的に理解するには、これらの疑問に答えなければならない。
    本講演では陽葉・陰葉という現象を発生学的に解析した研究を紹介する。近年、シロイヌナズナやシロザ、タバコを用いた解析によって、発生中の葉がおかれている光環境ではなく、成熟葉のおかれている光環境が新しい葉の発生運命を左右している事が明らかになった。これらの事は、成熟葉で認識された光情報が何らかのかたちで新しい葉に伝達されている事を示している。これらの研究とは別に、光受容体を欠く変異体においても野生株と同様に、光強度に応じた葉の肥厚が起こると報告されている。さらに演者らの実験で、植物を培地で育てると、培地中の糖濃度と葉の厚さに正の相関関係があることが分かった。こうした研究例もふまえて、陽葉と陰葉の発生調節機構に関して考察する。
  • 小口 理一
    セッションID: S9-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     植物が受ける光環境は時間的、空間的に多様である。ギャップ形成などで突然の光環境の改善が起こると、多くの種では既に展開が終了した葉の光合成能力が上昇する。これは成長速度の上昇につながり、その後の光獲得競争に有利であると考えられる。しかし、この順化能力は種によって異なる。なぜ種によっては光順化を行わないのか?本研究では葉の解剖学的性質が成熟葉の光順化能力を制限すると考えた。葉緑体は細胞間隙からCO2を受け取るために葉肉細胞表面付近に存在する必要があるが、ほとんどの種において成熟葉は厚さの可塑性を失い、葉肉細胞表面の面積を増やすことができないからである。
     環境制御室において1種の草本と3種の木本について弱光から強光への成熟葉の生理的、解剖学的応答を調べた。また、自然環境での順化メカニズム、順化によるベネフィットを調べるため、冷温帯樹林にギャップを形成し、8種の木本実生の応答を観察した。
     その結果、光合成能力の増加が見られた全てのケースで葉緑体が細胞間隙に接する面積(Sc)が増加し、Scの増加が光合成能力の増大に不可欠であることが示唆された。Scを増加させるメカニズムは種間で異なり、陰葉の細胞表面付近に葉緑体が存在しない隙間があり、そこを埋めるように葉緑体が大きくなる種、展葉終了後でも葉の厚さを増やし、葉肉細胞表面積を増やす種が観察された。一方、陰葉の細胞表面にほとんど隙間が無く、葉の厚さを変えることもできずに光合成能力が変化しなかった種も観察された。ギャップ環境での光合成速度を計算したモデルは、光順化による光合成能力の上昇は炭素獲得量を増やすことを示したが、順化に必要なコストやリスクまたギャップ形成の確率といった不安定要素があるために、順化能力を持たない種が存在すると考えられた。
  • 野田 響
    セッションID: S9-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     植物において、取り巻く環境条件に応じてひとつの遺伝子型が作る表現型のパターン(reaction norm)は、ある環境下における物質生産量を決定し、適応度を左右する。多数の先行研究によりreaction normは種間あるいは種内でも異なる例が示されている。演者はクローン植物サクラソウPrimula sieboldiiの馴化特性について研究を行ってきた。サクラソウは近年、自生地の開発とそれに伴う個体群の孤立分断化により激減している。北海道日高地方においては、比較的大きな自生地が現存しており、広葉落葉樹林の林床から明るい草原までの幅広い光環境に生育している。 日高地方のサクラソウについて個葉・個体の生理生態的特性と生育光環境との関係を調べたところ、その結果は個葉ガス交換特性において顕著だった。すなわち強光条件ほど最大光合成速度が高く、弱光条件ほど暗呼吸速度が低いという馴化が認められた。この馴化の結果、自生地では生育が見られないほどの暗い条件でさえラメットの相対成長率(RGR)はプラスであり、無性芽形成も見られた。さらに光馴化特性におけるジェネット間変異の有無を検討するため、日高地方の自生地内で生育光条件の異なる3ジェネットを比較した。自生地から採取して1年目のラメットは、ジェネットごとに最大光合成速度における光馴化の幅が大きく異なった。ところが翌年、これらのラメットからクローン成長で生じたラメットで比較したところ、ジェネット間変異は認められなかった。実験1年目に見られた変異はラメットの前歴(前年の生育環境の影響)を反映したものであろう。 クローン植物のジェネットは長期間生存し、多数のラメットで広い空間を占めるため、時間的・空間的環境変動を経験しやすい。そのため、サクラソウの生活様式にはジェネット間変異よりもラメットの馴化が重要であると考えられる。
  • 宮沢 良行, 菊澤 喜八郎
    セッションID: S9-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    上層の落葉樹は下層に季節変化する光環境(春-秋の弱光と冬の強光)を創り出す。弱光下の春-秋に光合成生産が制限される常緑下層樹木にとって冬の強光下での光合成生産はその生長を左右するほど重要であると考えられる(Harrington et al. 1989)。しかし寒・冷帯や地中海気候に生育する常緑樹の場合と異なり温帯常緑広葉樹の冬の光合成については不明な点が多い。実測例が少ない上に冬の低温での光合成速度に影響を及ぼす光合成速度の温度依存性と葉の光合成に関わる諸特性が不明だからである。葉の光合成特性は種によって異なり時間変化する。特に光利用量が急激に変化する環境において植物は葉の光合成特性を馴化させてその光環境で効率的に光合成しようとすることが知られている。また光合成速度の温度依存性も種や生育環境によって異なる。常緑広葉樹の冬の光合成を理解するためには冬の間の環境条件と共に葉の生理学的特徴によって光合成を決定されるプロセスを理解する必要がある。 本研究は温帯落葉樹林下層に共存する常緑広葉樹6種の稚樹を用いて光合成とそれに関わる植物の生理学的特徴を一年を通して継続的に調べた。第一に季節変化する環境下で光合成速度を測定して冬期の光合成生産の種間比較を行い、また年間光合成生産における重要性を解明した。第二に冬の光合成速度の種間差や季節変化パターンを生み出す要因として光合成速度の温度依存性と葉の光合成能力(同一温度条件での光飽和での光合成速度)に注目して夏以降定期的に測定した。その中で季節的な光環境の激変に対する葉の生理学的特徴の馴化に注目して検証を行った。これらのデータをもとに野外での光合成速度の季節変化パターンと種間差を特徴づける生理学的特性とその生態学的背景を明らかにした。
  • Mark Joseph Grygier
    セッションID: S10-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    A survey of helminth and crustacean parasites of 62 fish species from Lake Biwa and its watershed revealed eight parasite species suspected of being introduced. All were recorded from introduced host species from continental Asia or North America, or artificially stocked hosts (eels). The northern snakehead, Channa argus, hosts the nematode Pingus sinensis and the copepod Lamproglena chinensis. A Holarctic nematode, Raphidascaris acus, and a circum-North Atlantic tapeworm, Bothriocephalus claviceps, were found in eels, Anguilla japonica; both represent new records for Japan. Two North American monogeneans, Haplocleidus furcatus and Actinocleidus sp. (similar to A. fusiformis), found on largemouth bass Micropterus salmoides, represent the first occurrences of their genera in Japan. Of two undescribed acanthocephalans that represent the first records of the subgenus Acanthosentis in Japan, the one from the bitterling Rhodeus ocellataus ocellatus may well have been introduced together with its host. Another acanthocephalan, Pseudorhadinorhynchus samegaiensis, was originally described from rainbow trout, Oncorhynchus mykiss, at a hatchery. Now known from several native fish species around Lake Biwa as well, its status as a Lake Biwa area endemic or an introduced species is unclear. At present, no introduced digenean is known from fishes in this watershed.
  • 五箇 公一
    セッションID: S10-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    我が国では昨今、特に産業用資材として、またペットとして大量の外国産生物が輸入されており、その中でも昆虫種の占める割合は極めて高い。生きた生き物を持ち込むということは、その生物が生息していた地域や空間の生態系の一部をそのまま「切り出して」持ち込むことを意味し、その生物体内には無数の微生物や微小動物のミクロ生態系が存在する。当然輸入昆虫にも無数の未知なる寄生生物が随伴して侵入してきていると考えられるが、現時点で我が国には、輸入昆虫の検疫システムは家畜扱いのセイヨウミツバチおよびカイコを除いて皆無である。 宿主と寄生生物の間に存在する独特の生物間相互作用関係は、宿主と寄生生物の間の長きに渡る共進化の結果として存在しており、生物移送に伴う外来寄生生物の侵入は、この共進化プロセスを崩壊させ、免疫や抵抗力をもたない在来生物種に対して深刻な打撃を与える結果となる。逆に寄生生物も本来は自然宿主のもとで共生関係を築き、平和に生息していた生物多様性の構成員と言っていい。それを「侵略的」な種に変貌させるのは人間自身に他ならず、その意味で寄生生物の固有性・多様性も十分に調査する必要があり、保全対象ともすべきと言えるのではないだろうか。 本講演では、輸入昆虫の中でも特に大きな注目を集める農業用生物資材セイヨウオオマルハナバチおよびペット用外国産クワガタムシに随伴して侵入してくる病原微生物や寄生性ダニについて、被害事例などこれまでの知見に加えて、当研究室で進めている分子遺伝マーカーおよび形態に基づく宿主-寄生生物間の共種分化プロセス解明に関する研究成果を中心に話題提供を行い、昆虫輸入における侵入寄生生物の管理のあり方について議論したい。
  • 横畑 泰志
    セッションID: S10-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     哺乳類、鳥類の寄生虫には人間や家畜、家禽に有害なものが見られるため、それらの宿主の日本国内への持ち込みには法的規制(感染症法、家畜伝染病予防法など)や検疫による対応が行われており、結果的に寄生虫の自然界への逸出もある程度防がれていると考えられる。しかし、有史以来のヒトや家畜などの移動によって、寄生虫を含む多くの寄生生物が自然分布の範囲外に分布を広げてきたであろう。野生動物の寄生虫でも、シカ類の第4胃に寄生する数種の毛様線虫が養鹿業に伴い大陸間で互いに、あるいは日本から大陸へと宿主ごと持ち込まれ、野外に定着している例が比較的よく知られている。演者は 24 種 2 亜種の日本の外来哺乳類について文献情報を収集し、飼育下での情報も含めて宿主 8 種から 28 種の外来寄生蠕虫類の報告を得た(横畑、2002)。また、日本産陸生脊椎動物に見られる外来寄生虫として、「外来種ハンドブック」(改訂版、2003)の巻末リストに吸虫類 1 種、条虫類 5種(2 種は国内移動)、線虫類 19 種(1 種は国内移動)、昆虫類 1 種を挙げたが、その多くは住家性ネズミ類に寄生しており、国内の野ネズミには見られないものである。その後、鳥類などで該当する事例が散見されており、今後も調査の進展に伴い種数が増加してゆくであろう。また、野生動物とヒトや家畜などに同種の寄生虫が見られる場合は、家畜などに寄生する外来のものが野外に逸出することによって野生動物に見られる土着のものとの交雑が進んでいるであろうが、検証はほとんど行われていない。
     国内では、エキノコックスのように人間に重篤な患害を及ぼすもの以外では十分な研究は行われていない。日本の陸生脊椎動物は、しばしば島嶼隔離や人為的な生息地の縮小・分断化によって個体群が小規模化しており、そうした状況下では寄生虫群集も単純化しているものが多い。したがって外来寄生虫の侵入も容易であると考えられる。
  • 宮下 実
    セッションID: S10-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     日本には現在90の動物園があり、そこで飼育されている哺乳類だけを取り上げても約400種、その飼育数は3万頭を超える。それらは日本産野生動物と家畜を除けば、約90%は外国原産の野生動物である。半世紀前には野生由来の動物が海外から直接輸入されることが一般的であったが、CITESによる取引規制が進み、希少野生動物のほとんどは動物園などの飼育下で繁殖したものに限られるようになった。 野生個体も飼育下繁殖個体も海外から輸入されれば、それに伴って日本には本来存在しない寄生虫がもたらされるのは当然のことである。日本での輸入動物に対する動物検疫はウシ、ブタ、ウマなどの家畜では以前から非常に厳しい体制が敷かれていたが、それ以外の野生動物は検疫対象にもなっていない。2000年1月にやっとアライグマ、スカンク、キツネ、サル類が検疫対象となったが、それら以外はまったくフリーパスで現在も輸入されている。すなわち動物の保有する病原微生物や寄生虫が何の検査もされずに国内に侵入しているのが現状で、各動物園では受入れ時に検疫を実施し、飼育動物への感染予防のために、寄生虫を保有する場合には駆虫を実施している。 外来寄生虫としては、北米原産のアライグマには固有の寄生虫であるアライグマ回虫が知られているが、日本の動物園で飼育されるアライグマにも本回虫は高率に寄生していた。またアラスカから千島列島を経て入り込んだといわれる条虫の一種、エキノコックスは終宿主であるアカギツネが持ち込んだものであり、いまや北海道全土にその汚染が広がり、道内の動物園で飼育されていたサル類からもその感染が報告されている。それら以外にも、日本には存在しなかった多くの寄生虫が動物園で確認されている。 
  • Joji Muramoto
    セッションID: S11-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    Agroecology is the science of applying ecological concepts and principles to the design and management of sustainable agroecosystems (Gliessman, 1998). The need for developing sustainable agriculture that is built upon local knowledge of ecological, social and economic conditions has increasingly been recognized worldwide. The goals of this paper are to: 1) review development in American agroecology during the last decade, and 2) discuss sustainability indicators as they apply to Japanese and California agriculture.
    During the last decade, agroecology has been widely accepted among scientists and practitioners across the Americas and beyond. Recently Francis, et al. (2003) proposed a broader definition of agroecology as the ecology of food systems. A food system is the interconnected meta-system of agroecosystems, their economic, social, cultural, and technological support systems, and systems of food distribution and consumption. Toward holistic understanding of complex food systems, the definition encourages interdisciplinary research across natural and social sciences at multiple scales spatially and temporally.
    Whereas California agriculture is dominated by large-scale operations with specialty crops, Japanese agroecosystems are characterized as small-scale paddy-oriented farms that are managed intensively by older part-time farmers. Sustainability of Japanese and California agroecosystems is discussed based on characteristics identified using a broader definition of agroecology.
  • 佐久間 大輔
    セッションID: S11-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     演者らは、近畿中部の京阪奈丘陵周辺を対象に、主に江戸中期以降の里山利用の変遷を調査してきた。その結果、次のような実態が明らかになった。
    ・近接する地域でも、土壌の条件・需要の強さ・他産業とのバランスなどにより、里山の薪炭利用形態は大きく異なる。
    ・里山林は、常に林として維持されてきたわけではなく、商品作物の動向などと絡んで多くの一時的利用が存在した。
    ・換金作物であるクヌギを植林しての高度な薪炭林経営の歴史はそれほど古くない。明治中期以降、昭和30年代までの70年ほどという場合も多いようだ。
     里山林は、多くの保全現場で言われるような、長期にわたって一定の管理をされてきた場所ではない。しかし、近年まで多くの動植物のすみ場所として機能して来たことも事実だ。現在の遷移の進行や松枯れといった事象をその中に位置づけてみたとき、里山の生物相の長期にわたる保全のために必要な要素は何か、改めて議論したい。
  • 日鷹 一雅
    セッションID: S11-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     広義のAgroecologyは人間(農家と消費者)を含めて生態学を捕らえようという大胆かつ包括的な試みでもあると言う。我が国の農業生態系を語るとき、ecology of food systemではなく、水田の生物多様性保全への政策導入議論(いわゆる環境支払い制度)に代表される様に、前者よりもecology of biological system という観点が強く打ち出されている感は否めない。とくに日本生態学会では、Agroecology is ecology of agro-biodiversity と標榜しているように受けとられそうである。農生態系における生物多様性保全や自然再生を進めるにも、農生態学の本場で再認識され出しているような「食のシステム」の問題は、無視できないのではないかという疑問をここで呈したい。そこで、ここでは日本的に「農」に関わる二つのキーワードを取り上げて、それらと生態系や生物多様性保全の関係をメジャーな事例を交えて考えてみたいと思う。第1に、我が国で最近社会的キーワードである「食農」(Food and Agriculture)である。そして第2は、今回の里山保全の講演者に関わる「暮らし(livelihoods)」である。まず「食農」における問題点は、以下の様に要約できる。1)農:農業の化石エネルギー依存度と海内外食料輸出入量の増大2)食:EF増大型食生活(肉食油物嗜好)と生態系攪乱型栽培種の社会的選択これらの動向は、食料の不足と分配の不均等を拡大させる意味で地球レベルの農業問題と、主に農業が生業として成立不能であることによる農業・農村持続性の低下という地域レベルの農業問題の両方を深刻化させている。さらに生態系や生物多様性への攪乱に、我々の食農や暮らしの実態が結びつきうる場合も生じてしまっていることを考察する。現在の我々日本人の食農と暮らしの実態からは、生態系保全や生物多様性保全に結びつかない関係性が見えてくる。それは、減農薬・有機農業や農村生態工学で展開すれば、生物多様性や生態系が保全できるなどは思えない深刻な状況である。今一度、食農や暮らしを伝統文化まで掘り下げて、絶滅危惧の技術や技能を保全・再生する必要がある。
  • 吉岡 俊人, 佐野 成範, 郷内 武
    セッションID: S13-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    植物は気温の季節変化に適応して一年草型の生活環を進化させた。一年草は夏季一年草と冬季一年草に、冬季一年草は、さらに、真性冬季一年草(obligate winter annual)と可変性冬季一年草(facultative winter annual)に分かれた。一年草の生活環は、基本的に、種子発芽タイミングと開花タイミングによって決定される。そこで、冬季一年草の発芽と開花のフェノロジーを調節する生態現象である高温による種子発芽の阻害、低温による種子2次休眠と未発芽種子バーナリゼーションの誘導について、生態、生理、遺伝子の各レベルで解析を行った。高温発芽阻害は、種子のアブシジン酸内生量と感受性を制御することでその程度が調節されて冬季一年草の秋発芽タイミングを決定する。冬の低温によって種子に2次休眠が誘導されるか未発芽種子バーナリゼーションが誘導されるかで、真性冬季一年草型と可変性冬季一年草型のどちらの生活環が発現するのかが決まると思われる。未発芽種子バーナリゼーションは新規な現象である。サブトラクションによって得られた未発芽種子バーナリゼーション候補遺伝子は、緑植物バーナリゼーション遺伝子と構造は違うが機能は似ているかも知れない。
  • 飯田 聡子
    セッションID: S13-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     多くの水生植物は水中では沈水葉をつけ,乾燥・高温・光ストレスやアブシジン酸(ABA)存在下では浮葉や気中葉を形成する.一般に,沈水葉は線形または細裂して質が薄く,気孔やクチクラ層,海綿状組織が分化していない.一方,浮葉や気中葉は幅広く全縁で肥厚し,気孔やクチクラ層,柵状組織と海綿状組織が分化している.このように水生植物は環境ストレスに対応した形態形成を研究するうえで優れた材料である.
     単子葉類の水生植物,ヒルムシロ属は世界に約100種,日本では約20種が分布し,種間雑種も数多い.この群の植物は生態的特性(生育域と生育型可塑性)より4タイプに分けられる.
    沈水型(淡水,生育型可塑性がなく,沈水シュートに沈水葉のみを形成)
    浮葉型(淡水,生育型可塑性を持ち,沈水シュートに沈水葉に加えて浮葉を形成)
    陸生型(淡水,生育型可塑性を持ち,沈水葉・浮葉をつける沈水シュートと渇水時に陸生シュートを伸長させ,気中葉を形成)
    汽水型(淡水_-_汽水,生育型可塑性がなく,沈水シュートに沈水葉のみを形成)
    生態的特性には多数の形態形成やストレス応答の遺伝子群が関与する可能性が高く,これら4タイプが独立・並行して分化したとは考え難い.しかし日本産ヒルムシロ属の葉緑体分子系統樹では4タイプは単系統群を形成せず,沈水葉の形態と倍数性に基づく3つの群が認められた.そこで近縁な陸生型種と汽水型種に注目し,それらの種間雑種を含め,栽培比較実験やストレス耐性実験を行った.その結果,陸生型形成には母系遺伝の葉緑体(細胞質)ゲノムの種類,高温や塩ストレス耐性の有無が関与することが示唆された.また,核ゲノム支配の葉緑体局在の熱ショックタンパク質遺伝子は,重複しアミノ酸レベルで多様化していることが明らかになりつつある.
  • 工藤 洋
    セッションID: S13-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     シロイヌナズナに近縁の野生種は多様な生活史を示し、分子発生遺伝学を利用した進化研究の対象となる。対象となる形質には2つのタイプがある。 1つめのタイプの形質は、単一遺伝子座のアリール変異で表現型がきまる形質である。変異は単純なメンデル遺伝をし、表現型可塑性は小さい。このタイプの形質では遺伝子座にかかる自然選択を直接研究できる。分子集団遺伝学的解析、対立遺伝子の分布と環境勾配との共分散、近自殖系統やトランスジェニック植物の移植などによって自然選択を研究できる。 2つめのタイプの形質は、複数の遺伝子座がエピスタティックに表現型を決めている形質である。環境依存的な発現調節が関与していることが多い。変異は量的に遺伝し、表現型可塑性がある。このタイプの形質の研究は、栽培実験によるリアクションノームの変異の検出で始まる。次に分子発生学的な仕組みに準拠した「変異の代表値」を用いて遺伝子型_---_環境共分散を検出し、最終的には変異の原因遺伝子の探索にいたる。 この講演では、現在私たちが行っているアブラナ科野生植物の研究について紹介する。1つめのタイプの形質として、ハクサンハタザオ(シロイヌナズナ属)における表面の毛の有無の多型を研究している。1遺伝子座に支配される自然集団内の多型を対象に、植食昆虫に対する防御を介した平衡選択の検出を試みている。2つめのタイプの形質として研究しているのが、開花反応である。シロイヌナズナでは、開花調節経路がFLCという転写因子の発現調節に収束していることがわかっている。そこで、栽培実験によって開花反応性の適応的分化が起こっていることを明らかにしたタチスズシロソウ(シロイヌナズナ属)とタネツケバナ(タネツケバナ属)を用いてFLCのmRNA転写量を指標とした研究を進めている。
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