日本生態学会大会講演要旨集
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  • 藤原 晴彦, 二橋 亮, 岡本 俊, 三田 和英
    セッションID: S13-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    擬態は古くから生態学や行動学の対象として研究されてきたが、その基盤となる分子メカニズムはほとんど知られていない。通常、擬態は単純な形質発現でなく、形態・紋様・行動などが複雑に絡み合った複合的現象として成立している。演者らは、分子レベルでの擬態研究の切り口を明確にするために昆虫体表の紋様形成に着目した。紋様形成は、数多くの動植物で情報発信者が受信者を撹乱する戦略として幅広く使われ、中でも捕食対象となりやすい昆虫の幼虫は多様な色彩に彩られた紋様を持つ。例えば、アゲハの幼虫は4令時までは黒と白の特徴的な紋様によって鳥のフンに擬態し鳥の捕食を避けているといわれるが、終令幼虫になると背景の緑に近い紋様に切り替わる。アゲハの表皮が形成されるのは脱皮期であり、3齢脱皮期と4齢脱皮期の皮膚のパターン形成がホルモンにより切り替わると予測された。実際に黒色メラニンによる皮膚パターン形成はエクダイソンとJHのバランスによりその決定が切り替わることが示された。また、メラニン合成系酵素の関連遺伝子のTH, DDC, Yellow, Ebonyなどの発現解析から、各酵素の発現強度の違いが黒色の紋様パターンの違いを生み出し、また眼状紋の赤色領域などを形成することが示された。また、3齢脱皮期と4齢脱皮期皮膚で発現しているmRNAのEST比較解析を行うと、5齢時の緑色を発色するインセクトシアニンが4眠脱皮期にのみ発現しているなど、網羅的解析が有効であることが示されつつある。発生段階で紋様パターンを可塑的に切り替えるアゲハ幼虫の例とともに、ゲノムプロジェクトがほぼ完了したカイコの20を超える幼虫斑紋の変異系統についての研究も併せて紹介し、擬態紋様の分子メカニズムにどこまで迫れるかについて議論したい。
  • 道前 洋史, 若原 正己
    セッションID: S13-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     卵は多くの母性因子を含むことから、そのサイズがエピジェネティック発生過程を通じて後の形質発現に大きな影響を与えることが知られている。すなわち、遺伝子型の違いだけでなく、発生機構自体も表現型多型の要因となる。本口演では、卵サイズと可塑的形質がエピジェネティック発生過程を通じて強く相関しているため、可塑的な反応性に制約がもたらされる例を報告する。 近年報告されている表現型可塑性は、自然選択の対象となり、多様な環境変化への生物の適応的反応と解釈されている。北海道に生息する有尾両生類エゾサンショウウオでは、その幼生期間に頭部顎軟骨が著しく肥大した可塑的形態Broad-headed morph(頭でっかち形態)が誘導される。この形態の誘導要因はエゾサンショウウオ幼生にとって大型餌動物である同種幼生やエゾアカガエル幼生の高密度化である。この事実はBroad-headed morphが大型餌動物の効率的捕食への適応的反応であることを示している。したがって、集団間での選択圧の違いがBroad-headed morph発生率の変異を引き起こすことは容易に推測される。我々は、異なる幼生密度の集団間でBroad-headed morph発生率が大きく異なっており、幼生密度が高い集団ほどBroad-headed morph発生率が高いことを示した。しかし、同時に卵サイズを調べた結果、Broad-headed morph発生率は卵サイズに依存したものであった。すなわち、Broad-headed morph発生率の集団内及び集団間変異は、卵サイズの変異によるものであった。このような結果は、現在の生態学的アプローチによる表現型可塑性の研究に対して、発生学的アプローチの必要性を訴えているものである。
  • 山形 秀夫
    セッションID: S13-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     ミジンコ類は動物プランクトンとして湖、池沼に広く分布し、食物連鎖の中で重要な位置を占めている。また環境条件の悪化に応答した単為生殖から両性生殖への転換、被食ストレスに応答した頭部や尾部の巨大化、低酸素に応答したヘモグロビンの急増と体色の赤化など、顕著な環境応答を示す。このような特徴が興味を集め、ミジンコ類は古くから淡水圏生態学の重要な研究対象とされてきた。また水質の変化に敏感であるので、環境指標生物として、さらに環境毒性の試験生物として広く用いられている。ミジンコ類はまた飼育が容易で多数の遺伝的に均一な単為生殖個体が得られるなど、実験材料として優れた性質を備えている。しかしその遺伝子については最近まで解析が行われていなかった。 我々はミジンコ類の上記のような特徴に着目し、その環境応答および形態形成に関与する遺伝子群の解析を1994年に開始した。これまでに以下のようなタンパク質群のcDNAや遺伝子をクローン化し、発現解析を行なっている。(1) 低酸素応答に関与するタンパク質として、ヘモグロビン、低酸素応答転写因子のサブユニット(HIF-1αおよびARNT)。(2) 内分泌撹乱化学物質などの化学的シグナルの伝達や応答に関与するタンパク質として、ビテロゲニン、アリルハイドロカーボンレセプター、エクダイソンレセプター、ウルトラスピラクルなど。(3) 形態形成に関与するアンテナペディアなど11種類のHox転写因子およびそれらと関連して働くディスタルレスなど10種類のタンパク質。 本発表ではこれらの解析の概要について報告するとともに、最近見いだされた幼若ホルモンへの曝露により単為生殖メスがオスを産出するようになる現象およびそれとヘモグロビン遺伝子の低酸素応答との相関について考察する。
  • 三浦 徹
    セッションID: S13-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     環境に応じて生物の表現型が変わることを表現型可塑性と言うが,中でも2つ以上の表現型を不連続に切り替える表現型多型polyphenismが昆虫などで多く知られている.社会性昆虫では,コロニー内に生じるカーストの分化も表現型多型の1つであり,遺伝的バックグラウンドは同じ個体が,後胚発生の途上で受けた外的要因により個体の発生プログラムが修飾し,役割に応じた形態・行動を発現する.しかし,その詳細な機構についてはわかっていないことが多い. 演者らは,アリやシロアリを材料に,社会性昆虫におけるカースト発現機構とその進化過程の解明を目的として,カースト分化過程で起こる形態形成の至近要因,カースト特異的に発現する遺伝子の同定と発現解析,またそれら遺伝子の分子進化などの研究を行っている.アリ類(膜翅目アリ科)の多くの種では周期的に産生される有翅虫が主に繁殖を行い,無翅であるワーカーが労働を担っている.ワーカーは幼虫期には翅原基を持つが蛹化期にアポトーシスにより翅を退縮させていることを,我々はいくつかの種で明らかにしており,この過程はワーカー分化と共にアリ科で進化した機構であることが示唆された.一方,シロアリ類(等翅目)は不完全変態である特徴を生かして,多様なカーストの分化パターンを実現している.我々は,数種のシロアリにおいて幼若ホルモン類似体による兵隊カーストの誘導や,カースト特異的に発現する遺伝子の同定に成功している.また,大顎や翅,付属肢のカースト特異的器官の発生制御機構に関しても興味深い結果を得ている.これらの結果から,社会性昆虫における表現型多型の機構と進化を考察し,さらにその他の生物に見られる表現型多型にも照らして,生物における表現型発現の制御とその進化について考えたい.
  • 松田 裕之
    セッションID: S14-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     不確実な情報に基づき資源を持続的に利用する戦略として,順応的管理が注目されている.順応的管理とは,継続監視によって資源動態を把握し,変動に柔軟に対応する方策である.順応的管理によって,予測が難しい,非定常で変動が大きな資源にも対応できる.種間相互作用を考慮すると,MSY理論は大きな修正が必要になる.たとえばイワシとマグロのように,被食者・捕食者からなる系を考える.被食者の定常資源量は,捕食者がいる限り,被食者への漁獲努力量にほとんどよらない.この場合,被食者の資源量を継続監視し,それに応じて漁獲圧をフィードバック管理しても,被食者への漁業による捕食者の絶滅を避けることはできない.フィードバック管理に2つの方式を考える.一つは現存量と目標資源量の差に応じて漁獲圧を増減させるもので,積分型と呼ぶ.もう一つは漁獲圧を現存量の関数とするもので,これは現在多くの資源管理(許容漁獲量制度)で採用されているもので,TAC管理型と呼ぶことにする.積分型の場合,もとの被食者・捕食者系が安定平衡点を持つ場合,漁業と捕食者のいずれかが「絶滅」する.平衡点が不安定で周期変動する場合には,やはりどちらかが絶滅するか,長周期の不規則な変動を示すことが多い.TAC管理型の場合,本来適切な漁獲圧をかけていれば漁業と捕食者は共存する.これは順応的管理でなくても同じである.高水準期に過剰な漁獲圧をかける場合には,やはり漁業と捕食者の共存は困難である.いずれにしても,順応的管理はうまく機能しない.より複雑な多種系においても,順応的管理によって漁獲対象種の資源量は維持することができても,他種を絶滅させる場合が生じる.このように,フィードバック管理と言えども万能ではない.やはり,ある程度生態系の知見を得てから管理方策を練る必要があり,順応的管理はつねに監視と検証と見直しを担保として成り立つものである.
  • 瀧本 岳
    セッションID: S14-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    食物連鎖の長さ(食物連鎖長)は、地球上至る所で一定ではむろんなく、異なる生態系間でばらつく。このことはしかし1927年に初めてエルトンが指摘したとされる。実際、食物連鎖長は生態群集を特徴づける性質の一つとして重要であり、群集構造や生態系機能、最上位捕食者における有害物質の生態濃縮の程度などを左右する。エルトンの指摘以来、食物連鎖長のばらつきを説明するための仮説が多く提出されてきた。主な仮説として、利用可能資源仮説(resource availability hypothesis)や動的制約仮説(dynamical constraints hypothesis)、デザイン制約仮説(design constraints hypothesis)などがある。しかし最近の研究動向は、普遍的な一つの仮説(あるいは決定要因)を追求するよりむしろ、どの状況でどの決定要因が最も有効に食物連鎖長を制御しているのかを探る方向へと移行してきている。
    本発表ではまず、ギルド内捕食(intraguild predation)系のメタ群集(metacommunity)モデルを用い、食物連鎖長の決定要因として局所生産性や撹乱頻度、生態系サイズの効果を調べる。従来の仮説においては、局所生産性と生態系サイズは利用可能資源仮説で、撹乱は動的制約仮説で取り扱われる決定要因であった。今回の数理モデル研究ではこれらの要因の交互作用を重視し、各々が食物連鎖長の有力な決定要因となる条件とメカニズムを明らかにする。次に、この数理モデルから得られる理論予測、特に生態系サイズと撹乱頻度の効果に関する予測を、バハマ諸島の陸上生態系において野外検証する。この野外研究では、食物連鎖長を炭素と窒素の安定同位体比とミキシングモデルにより推定し、島面積と撹乱頻度の異なる島々で比較した。最後に、生態学における理論研究と実証研究のあり方について議論する。
  • 吉田 勝彦
    セッションID: S14-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     現実世界の食物網の研究者と食物網モデルを用いて理論的な研究を行う研究者が協力すれば、食物網に関する研究が効率的に進められると期待される。そのためにはお互いの信頼関係を構築することが必要不可欠である。理論的な研究を行う研究者が現実世界の食物網の研究者からの信頼を得るためには、構築したモデルが信頼性の高いものであることを示さなければならない。そのための方法として一般的なものは、モデルが実際の食物網の特徴を再現していることを示すことである。そこで、実際の食物網の記載に使用される結合度(相互作用の緊密さ)、食物連鎖長(最大値、平均値、標準偏差)、最上位捕食者、基底種、中間種の割合、1種当たりの捕食者種と餌種の数などのパラメータを利用してモデルと実際の食物網を比較することがよく行われる。しかし、いくつかのパラメータは食物網のサイズや調査努力量によって変動することが知られている。また、現実の食物網のデータでは、複数の種を栄養種としてひとまとめにしたり、詳細な分類をせずに高次分類群のまま扱ったりすることがよく見られるが、このことによって値が変わるパラメータもある。これらは、モデルと実際の食物網を比較する際に大きな障害となる。このような問題を解決するために、新たなパラメータを定義することも試みられており、今後もそのような試みが続けられると思われるが、その際にはパラメータが直感的にわかやすいものになるように留意しなければ、モデルと現実をつなぐ架け橋にはなりにくい。また、いくら変数を操作しても、精度の高いデータが無ければモデルの検証は不可能である。近年、精度の高いデータが公表されつつあるが、更に多くの食物網において同様の研究が行われることが望まれる。
  • 山本 智子
    セッションID: S14-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    群集構造とその決定機構におけるスケールの役割を明らかにすることは、近年の群集生態学の最重要課題のひとつである。その背景には、従来の実証研究が小スケールでの仮説検証型アプローチに偏り、様々なスケールで働いている群集構造の決定要因とその相互作用をとらえきれなかったことに対する批判がある。そのために条件依存的で予測性の低い法則しか導き出せなかった(Lawton 1999)というのである。一方、現実の群集をより正確にモデル化するという意味で、理論研究の分野でもスケールの問題は無視できないものになっている(Denny et al. 2004)。
    食物網研究においても、その構造のスケール依存性は様々な野外データをもとに実証されてきた(Martinez 1994)。しかし、そこに見られるのは食物網の大きさ(構成種数)に対するスケール依存性であって、食物網構造と空間スケールとの関係を明らかにした研究は少ない。実際の群集は様々な空間スケールでの変異を含むものであることから、食物網構造の変異をもたらす空間スケールを定量化し定義することは、複数の食物網を比較し、共通の法則を見つける上で不可欠な作業であると考えられる。
    そこで演者らは、北海道から鹿児島までの6地域×5海岸×5ステーションの階層的デザインで岩礁潮間帯生物群集の調査を行ない、各栄養段階に属する種数や現存量とその比率、栄養段階の数等を比較するとともに、その変異がどの空間スケールで生じるのかを解析した。また、波あたりや水温、基質の温度、基質の微地形などの環境要因についても、変異の生じるスケールを明らかにした。その結果、栄養段階の数に地域間、海岸間での変異は少ないこと、懸濁物食者の多様性やグレイザーの割合には地域間差が大きいことなどが明らかになった。講演では、このような食物網構造の変異スケールの違いと環境要因の変異スケールや構成種の生活史特性との関連についても議論したい。
  • 岩田 智也, 河西 瑠美
    セッションID: S14-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    食物網の理論研究は,生物間相互作用を基軸に群集動態を記述し,その平衡状態や振動を左右する要因を明らかにしてきた.このような理論から得られた予測は,室内や野外の操作実験で数多く実証されている.しかし,研究対象は生物間相互作用の影響が及ぶ時空間スケールに限定され,そのスケールにおいて環境は比較的均質である.一方,より大きな時空間スケールでは,資源の時間変動や不均一な空間分布が生物群集のかたちに大きく影響する.演者らは,流域生態系を対象に資源供給パターンの変化が水域食物網に及ぼす影響を明らかにしようと試みている.
     流域において, 河川は物質の輸送空間として機能する.上流で生産された有機物や栄養塩は河川に集積し,生物による取り込みと排泄を繰り返しながら流下してゆく.このように,流域の物質フローは陸域と水域の接続および上下流方向のフラックスを特徴とし,水域食物網はこのような資源供給パターンに依存している.しかし,ダムの設置は上流からの物質フローを遮断するため,下流域の生物群集に影響を及ぼすと考えられる.そこで,安定同位体を用いて流域炭素フローを追跡し,ダム設置に対する食物網の応答を評価する研究を山梨県富士川水系で行った.
     講演では,河川を流れる炭素の多くが陸上起源であることを示す.また,ダム湖に流入する陸上有機炭素は,底泥に堆積するか深水層で分解されCO2やCH4として湖面から大気に放出される.このように,ダムによって陸上有機炭素の流下は遮断され,ダム下流で大きく減少することを示す.河川では陸上有機物を起点とする腐食連鎖が卓越することから,ダムによる有機物フラックスの減少は腐食連鎖を縮小させると考えられる.講演では,ダムが下流域の腐食連鎖に及ぼす影響を安定同位体の分析結果を用いながら報告する.
  • 近藤 倫生
    セッションID: S14-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    現実の食物網のネットワーク構造を詳細に調べ、それを個体群動態(たとえば安定性)と関連づけようとする試みがおこなわれている。だが、このアプローチはどれほど有効であろうか?食物網構造の記述には避けられない問題点がある。それは、食物網構造自体の時間的変動をうまく捉えられないということである。生物種間の捕食・被食関係は様々な時間スケールで変動するため、どのような食物網構造が「観察される」かは、観察のスケジュールに大きく依存する。例えば、季節や一日の中での活動時間が異なる場合、観察のタイミングによって描かれる食物網の構造は変わる。あるいは、観察時間が長いほどある捕食者_---_被食者間の相互作用が生じる可能性は高くなるので、食物網構造は観察の時間スケールにも大きく依存するだろう。このようなシステムで食物網構造と個体群動態の間に意味のある関係を見いだすには、注目するダイナミクスにとってどの方法で描かれた食物網構造が重要であるかを特定しなくてはいけないだろう。さらに、最近の研究が示すように、食物網の構造の変化のしかたそれ自体が個体群動態にとって重要な役割を果たすとき、「スナップショット」の食物網構造と個体群動態を関連づける試みはもはや意味をなさないかも知れない。捕食者の適応的捕食による食物網構造の時間変動を考慮した数理モデルを解析すると、食物網の構造(結合度)と個体群の安定性(パーシステンス)の間の関係が、食物網構造を観察する時間スケールによっておおきく変わってしまうことがわかる。また、食物網間の構造の違いがなにによって生み出されているかによっても結果は大きく変わる。これらのことは食物網の詳細な構造と個体群動態を関連づけようとする試みの限界と危険性を指し示している。
  • 粕谷 英一
    セッションID: S15-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     交尾の際のメスとオスのさまざまな性質では、ある性質が片方の性にとっては有利だがもう片方の性にとっては不利だということがある。性的対立(sexual conflict)と呼ばれる、このような考え方が、最近、交尾に関する性質の研究を刺激している。これまで、交尾の際に見られる特徴を片方の性(とくにメス)の性質だと見て、その性にとっての利益を考えることが多かった。たとえば、メスが複数のオスと交尾する理由の研究では、メスの利益を中心に据えて、複数回交尾によってメスが受ける利益はどんなものかと考えるのが普通だった。また、メスの交尾相手選好性の研究では、ある性質を持つオスとの交尾率が高いのはそのオスと交尾するのがメスにとって有利であるからだ、と考えるのも普通であった。だが、メスの利益をもたらすことは実証されていないことも多く、メスは1回だけ交尾するのが最適であるのに、オスは数多く交尾するのが有利で、オスの交尾試行に対してメスが拒否できずに複数回交尾となっている可能性がある。実際に、交尾自体がメスにとってはコストをもたらすことがある。よく知られた例では、キイロショウジョウバエでは精液に含まれる物質により交尾するとメスの死亡率が高まる。性的対立のアイデアはすでに交尾をめぐるメスとオスの性質の研究に適用されており、代表的なものとしてRiceらのchase-awayモデルがある。交尾行動の進化に関する研究に性的対立が与える影響を、メスの交尾相手選好性を中心に種分化なども含めて概観し、行動を観察した印象から利害を類推することの危険性や利害の実測の重要性などについて述べる。
  • 安井 行雄
    セッションID: S15-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    雌が複数の雄と交尾し、その一腹卵が複数の雄由来の精子によって受精される可能性があるとき、性淘汰は交尾後も精子競争とcryptic female choiceの形で継続しているといえる。今日sexually-selected sperm (SSS)仮説と総称されている一連のモデル(Curtsinger 1991によるsexy sperm仮説や、Yasui 1997によるgood sperm仮説など)は、精子競争と雌による選好性の協調的な(すなわち雄にとっても雌にとっても有利になるような)共進化を理論的に導き出そうとするものであった。しかしながら雌が多回交尾から直接的・間接的利益を得ているかどうかは必ずしも明らかでなく、雌の利益を検出する試みはしばしば失敗している。雌雄の協調路線で雄と雌の繁殖戦略を考えることに無理があるなら、いっそ雌雄は対立したまま非平衡で共進化し続けるものだと考えてはどうだろう。雄はたとえ雌にとって有害であっても自己の適応度を高めるような性質を進化させ、雌はそれに対する対抗手段を進化させる拮抗的共進化のシナリオに基づけば、雌が多回交尾から何らの利益を得ていなくても、それは現時点で雄が雌を出し抜いて優位に立っている1つの時間断面を我々が観察しているに過ぎないのかもしれないのだ。SSS仮説は雄の精子競争能力と雌の交尾頻度が共進化することを仮定しているが、これらの形質を支配する遺伝子が雄と雌で異なったfitness payoffをもたらすのだとしたら何が起こるのだろう。たとえば雄の受精効率を高める遺伝子が雌に有害な影響(雌の再交尾を遅らせる射精液中の化学物質が雌の寿命を減少させるなど)を与えるならば、その遺伝子は雄の体内では正の淘汰を、雌の体内では負の淘汰を受けることになる。このような遺伝子は異性間の拮抗(sexual antagonism)をもたらし、雌雄の繁殖戦略における進化的軍拡競走を引き起こす。この講演では雌雄の対立の視点に基づいて、雄間の精子競争と雌の多回交尾の進化の問題にどのような新たな展開が予想されるかを論じたい。
  • 宮竹 貴久
    セッションID: S15-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    オスの適応度は交尾回数に比例して増加する.一方,メスの適応度は交尾回数に単純に比例しない.オスは自身の適応度を最大化するために,メスの再交尾を抑制したり,既交尾メスに不必要な交尾を強要したりして,メスの交尾回数を操作する方向に進化する.これに対してメスは最適な交尾回数を達成するために,オスの操作に対抗するよう進化する.そのため,メスの交尾回数をめぐってオスとメスの間に性的対立が生じる.これまでメスの交尾回数の進化議論に必須の遺伝的変異を示した研究は少なく、数種の昆虫のみでしか報告されていない. アズキゾウムシ Callosobruchus chinensis は,内田俊郎以来,多くの実験用系統が国内で維持されている.これらの系統間でメスの再交尾頻度に著しい変異が発見された(Miyatake and Matsumura 2004, Harano and Miyatake 2005).基本的には,野生集団のメスは複数回交尾(Polyandry),長期間累代飼育された系統では単数回交尾(Monandry)だった.これらの系統を用いて,本種メスの再交尾の遺伝様式,再交尾を支配する性,再交尾に影響すると思われる雌雄の形質について調べた.さらに交尾にあぶれたオスの交尾対へのハラスメントや,ライバルオス存在下での戦略的射精といった,再交尾変異と対応して進化すると考えられる形質についての研究結果も紹介する.講演では,これらの結果をもとに,再交尾頻度に遺伝変異のあるアズキゾウムシが交尾回数やその他の繁殖形質をめぐるSexual Conflictの進化研究にどのように使えるのかについて議論を提供するとともに,累代飼育とpolyandryの関係についても考察を試みる予定である.
  • 上村 佳孝
    セッションID: S15-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    ある形質に対する最適値が雌雄で異なる場合,性的対立は生じる.盛んに交尾を試みる雄に対して,雌が拒否行動を示せば,交尾回数に関する性的対立の存在が容易に予測される.しかし,今回の発表では,雌雄ともに著しく高い頻度で交尾をおこない(乱交性),交尾に関して目だった葛藤がないように見えるコバネハサミムシ(以下,コバネ)を題材に,本当に葛藤がないのか?考えてみたい.
    激しい精子競争が生じているコバネでは,雄の体長に匹敵するほど長い交尾器を用いて,細管上の受精嚢(雌の精子貯蔵器官)から,すでに存在している精子の掻き出しをおこなう.しかし,雌の受精嚢はさらに長く,一部の精子しか掻き出すことはできず,すでに他の雄の精子を持つ雌と1回交尾した雄が残す子供の割合は約2割である.
    体サイズの大きな雄は雌を独占し,より多数回繰り返し交尾し,高い繁殖成功を得る.雄の体サイズは有意な遺伝的基盤を持ち,大きく繁殖成功の高い父親の息子はやはり繁殖成功が高くなると期待される.このような条件のもとでは,雌は自らを独占する能力の高い雄の精子を集めることで,優れた息子を得るという遺伝的利益を得ることができ,一回の交尾あたりの父性の置換率を2割程度に抑えることで,このような利益が最大化されることを数値シミュレーションは示した.すなわち,低い精子置換率をもたらす雌の長い受精嚢は,何度も繰り返し交尾可能な優れた雄の精子を効率良く集めるための適応と考えられる.しかし,雄が同じ雌と繰り返し交尾をおこなうという現象は,一回の交尾あたりの精子置換率が低い場合に進化し易いものと予想され,両形質は共進化する可能性がある.
    発表では,雌雄双方の適応を考慮した共進化モデルと,一方の性の視点のみを考慮した最適化モデルの解析結果を比較し,交尾回数・精子置換率という複数繁殖形質の共進化の観点から「隠された対立」の分析を試みる.
  • 齋藤 大地
    セッションID: S15-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    鳥類の90%以上は社会的一夫一妻で,一見すると雌雄で利害の対立がないように見受けられる.ところが,遺伝子マーカーを用いた親子判定技術の確立により,多くの鳥種で婚外交尾による婚外子の存在が明らかになった.また,行動観察や野外実験からメスは積極的に婚外交尾の誘引をおこない,オスはつがいメスの婚外交尾を防ぐために配偶者防衛行動やその他の行動をとっていることがわかってきている.このような雌雄の対立はペア内の個体の質や状態だけでなく,婚外交尾の相手になりうるペア外のオス,そのオスのつがいメスの質や状態によっても影響されることが考えられる.しかし,一夫一妻種では潜在的にペア内の繁殖に影響を与える個体を把握することは困難であるため,父性の配分がどのような要因で決まっているのかは研究によって結論が大きく異なっている. イワヒバリは,非血縁個体からなる複数のオスと複数のメスがグループで繁殖する多夫多妻性の協同繁殖鳥類である.イワヒバリは配偶がグループ内に限られているため,配偶を争う潜在的な相手を特定することが可能である.今回の発表では,オスとメスの対立の結果である父性の配分が配偶に関係する個体の質や状況によってどのように変るのか,マイクロサテライトによる父性判定の結果を用いて報告する.
  • 小北 智之
    セッションID: S15-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     魚類は脊椎動物の中でも、配偶システムや保育行動といった繁殖様式が極めて多様な分類群であることが知られている。一方で魚類の繁殖における最も大きな特徴の一つは、その受精様式にある。現生魚類の大半を占める硬骨魚類では交尾をしない体外受精が一般的な受精様式であり、約9割の種が採用している。そのため、近年昆虫で活発に研究されている“交尾回数や交尾持続時間をめぐる性的対立”や“交尾に関連する形態形質や生理形質の拮抗的共進化”という現象は魚類にはほとんど存在しないと言えるだろう。
     しかし、魚類における性的対立の具体的事例も配偶システムや繁殖戦略の進化を扱った研究の中で次第に示されてきており、近年では性的対立に注目した研究も珍しくない。多様な繁殖様式と関連して雌雄の対立様相も様々で、配偶者数や配偶者の遺棄、親の子への投資などをめぐる性的対立の存在やそのダイナミクスが報告されている。また、性的対立による拮抗的共進化の結果と予想される雌雄の興味深い社会行動も知られている。このような魚類の性的対立に注目した近年の研究成果は、演者が研究した摂餌なわばりを共同防衛するサンゴ礁魚類の事例も含めて、本学会第45回大会(1998年)の自由式シンポジウム「対立する性〜魚類における雌雄のかけひき」でも紹介された。
     本講演では、演者自身の研究成果も含めて、魚類の性的対立に関する最新の研究事例をレビューし、魚類の繁殖における雌雄の利害対立の様相とその対立図式の多様性を紹介するとともに、性的対立がもたらす雌雄の行動形質の拮抗的共進化についても議論を加えたい。
  • 星野 義延
    セッションID: S16-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    多摩川永田地区では流路が左岸に固定され、河床低下が進行し、このため高水敷では攪乱頻度が低下するとともに細粒土砂が堆積し、ハリエンジュを主体とした樹林の拡大と礫河原の減少が生じていた。また、新たな礫河原ができにくくなったことから、カワラノギクなどの河原固有の生物が減少するなど本来の河川の生態系の状態とは異なる状況にあった。このため、2001年から2002年にかけて、永田地区では低水路の拡幅行い、河床の低下傾向を改善するとともに、礫河原を造成し、保全の緊急性の高いカワラノギクなどの河原固有の生物の保全を行う、河道修復計画を立案・実施した。また、低水路の拡幅のみでは、河床の低下傾向を改善するのに不十分であることが推定されたため、事業実施区間の上流部に、さらに上流にある小作堰に堆積した土砂を敷設する、土砂供給も同時に行うこととした。河道修復・礫河原造成を行った面積は2.11ha、総工事費は7700万円である。再生された礫河原は冠水頻度などに応じて4つの工区に分けて造成されている。河川生態学術研究会多摩川グループのうち、永田地区を調査フィールドとしている研究者を中心として河道修復モニタリングワーキンググループが組織され、河道修復を実施した後の生物の生息状況等についてモニタリングを進めている。調査項目は、出水後の地形変化のモニタリング、水生生物や魚類の生息状況と瀬淵構造との関係の把握、造成礫河原の植生の変遷、カワラノギク個体群に関するモニタリング、イカルチドリの繁殖状況、カワラバッタの生息状況、沿川住民の意識調査などが行われている。また、国土総合研究所の河川研究室では、事業実施区間を含む長さ7km区間の水利実験模型を縮尺1/50で作成し、過去の出水に伴う河床変動を再現し、模型実験の再現性を評価して、実施されている土砂供給の効果や河道修復後の地形変化の予測を行っている。
  • 福島 雅紀, 佐藤 孝治, 末次 忠司
    セッションID: S16-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    多摩川永田地区では,河川本来の生態系を保全するため,カワラノギクやカワラバッタなどの河原に固有の動植物が生息・生育する場を復元することが要請された.一方,砂利採取・河川横断構造物の設置等によって,永田地区の平均河床高は低下し,堤防の基礎の洗掘といった治水上の問題も生じている.そこで,このような治水と環境の問題を解決するため,河道修復事業が開始された.事業では段階的に施工を行うこととなり,第一段階として,永田地区下流部に位置する400m区間の低水路幅の拡大と永田地区上流端への礫の敷設・供給が実施された.
    本研究では,植物の生長と洪水による植物の破壊が適当な頻度で繰り返されることで河原が維持されていることに着目し,持続可能な河原の復元手法を提案した.その際,河原が維持される仕組みの機能状況を表す指標を提案し,その指標によって河道修復の目標を議論した.事業実施後は縦断方向25m,横断方法2から4m間隔でGPSを用いた地形測量,洪水による植生の破壊状況調査などを実施してきた.また,当該地点はなだらかな湾曲部に位置し,拡幅部分の一部が水裏部となる場合があり,洪水痕跡調査や一次元不等流計算のみでは無次元掃流力を適切に評価できない.そこで,平面2次元流れシミュレーションを行い,洪水時の平面的な流況を再現することで無次元掃流力の平面的な分布を調べ,植生の繁茂状況と比較した.これらの結果,主に以下のことが明らかとなった.
    1.低水路幅を拡大した区間では河床高が安定し,2から3年に一度発生する規模の洪水で明確な堆積傾向を確認した.しかし,部分的には砂が堆積し,再樹林化も懸念されている.
    2.平面的な流況を数値計算によって把握することで,どの高さに位置する植物がどの程度の規模の洪水で破壊されるかを評価できた.
  • 知花 武佳
    セッションID: S16-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    ・背景,目的
    河道修復では,本来そこにあるべき生態系を捉えた上で,モニタリングを継続していく事が必要不可欠である.本研究では,河道修復区及びその周辺において,河床構造の状態に焦点を当てつつ水生生物の生息状況を捉え,修復事業後のモニタリングを通して新たな提案を行う事を目指す.河床構造は,砂州の状態(Reach),瀬淵の状態(Unit),礫構造の状態(Subunit)とスケール別に捉え,時空間スケールの小さなSubunitでは,攪乱要素にも着目する.

    ・河道修復実施区周辺の比較
    Reach:河床低下が顕著な河道修復実施区では砂州が曖昧で,少し下流では砂州が発達している.
    Unit:砂州が発達するにつれ,早瀬の形状は不明瞭型,横長型,縦長型,狭窄型の順に変化する.淵は,河床低下区間でも,岩盤周りが掘れた深いものが見られる.
    Subunit:狭窄型早瀬は急勾配で,巨礫ですら不安定な場所が多い.一方横長型早瀬は,礫が安定し流れも緩やかである.
    生物相:狭窄型早瀬では安定な礫を好む底生動物が少なく,藻類の現存量はSubunit間で大きく異なった.各早瀬形状に特有の底生動物が生息している.

    ・河道修復後の変化
    Reach:岩盤突出部付近での高水敷切り下げの影響で,淵が浅くなったものの,砂州は未だ発達していない.供給土砂の影響で細粒分が増加した.
    Unit:明瞭な瀬淵はなく,全体的に載り石が目立つ.
    Subunit:土砂供給による掃流砂が攪乱要素となっている.
    生物相:淵を利用する魚種は減少し,砂地や礫間を好む底生魚が増加した.掃流砂の影響で空間的に藻類の現存量が異なっている.

    ・まとめ
    発達した砂州及びそこに特有な生物相を回復するには,粒度組成,供給量に工夫しながら,かなり時間をかけて継続する必要がある.
  • 倉本 宣
    セッションID: S16-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    ステップ1では、永田地区が多摩川における河原固有生物の生息・生育地として重要であることの認識に基いて、緊急的なカワラノギクなどの河原固有生物の保全策を実施した。 カワラノギクの復元のために開花に要する年数を考慮して5年に1回程度冠水する高さの河原(A工区)を造成した。礫河原の造成に当たって現地で発生した土砂を10cm×15cmのスケルトンバケットでふるい,礫層をつくった。試験的に、掘削したまま、大きな礫1層、スケルトンバケットの目を細かくした小さな礫1層、小作取水堰の堆積物(細粒)、大きな礫3層の5通りの実験区をつくり、実生の定着率を比較したところ、大きな礫1層が最も定着率が高かったので、この方法でA工区の礫河原を造成した。 2004年秋にはカワラノギクの開花個体数は約10万株になり、1980年代の水準になった。あわせて、カワラヨモギやカワラハハコも生育するようになった。 造成した礫河原にかかわって植生管理を行う主体として、カワラノギクプロジェクトが、多摩川の自然を守る会の有志を母体として、多摩川センターの多摩川学校の卒業生に加わってもらって活動を始めた。2002年にはモニタリングを担当したが、2003年には植生管理の際に残す植物のマーキングを担当に加え、2004年には植生管理そのものを担うように活動を拡大してきた。造成した礫河原の植生を維持するためには、植生管理を長期間行うことがかぎになる。植生管理の継続に伴って、優占種は現在、ヒメムカシヨモギになっている。除草作業の際には、ヒメムカシヨモギは気持ちがよいほどよく抜ける。植生管理作業を行っていたときに、ヒメムカシヨモギを選択的に除草していたメンバーがいた。楽しみとして植生管理にかかわることのできる市民が増えれば、植生管理も長続きするであろう。
  • 大堀  聰
    セッションID: S16-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     河道修復事業前の多摩川永田地区右岸河川敷は、高水敷のニセアカシア樹林地と低水敷の礫地で構成されていた。河道修復事業によりニセアカシア樹林の一部が徐伐され、高水敷に新たな礫地が造成された。造成により低水敷から高水敷まで礫地が連続的に広がったことにより、造成後の鳥類相には変化が見られた。 礫地造成による変化が最も著しかった種は、イカルチドリであった。センサスの結果によると、2001年には、イカルチドリの月平均個体数は1.4羽、優占率0.4%、出現頻度57.5%であったが、造成後の2002年には5.1羽、優占率2.2%、出現頻度86.8%と増加した。さらに、2003年には8.0羽、優占率3.3%、出現頻度92.7%、2004年(7月まで)には13.5羽、優占率5.8%、出現頻度96.2%と年ごとに増加の傾向を示した。 イカルチドリは礫地に営巣する。多摩川永田地区(羽村大橋_--_永田橋)においては、2001年には少なくとも1番いのイカルチドリとコチドリが低水敷の礫地で繁殖した。造成後の2002年には、イカルチドリのみ延べ8巣の営巣が確認された。8巣のうち7巣が礫地造成実験区内で確認され、そのうちの6巣は低水敷の自然礫地であった。 イカルチドリは腹で小石をよけ4卵が納まる浅いくぼみを造り産卵する。したがって、礫径は営巣場所選択の重要な要因になる。高水敷の造成礫地の礫径は、低水敷の自然礫地の礫径よりも明らかに大きかった。また、高水敷に営巣された1巣は、高水敷の造成礫地では例外的な砂と小石が混在する場所であった。巣が低水敷に集中するのは、礫径が営巣に適しているためと考えられた。これらの結果から、礫地面積の増加、面的広がりおよび礫径が、イカルチドリの個体数の増加に関与しているものと思われた。
  • 皆川 朋子, 天野 邦彦
    セッションID: S16-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     自然再生事業の評価を自然科学の観点からのみでなく,住民の視点から明らかにすることは,事業評価を行う上で必要な事項であり,今後,自然再生を展開していく際の有益な情報になるものと考えられる.
     事業実施前の1999年に,樹林化が進行している永田地区の自然環境に対する住民の評価を明らかにするため,沿川住民2000世帯(ランダム抽出)を対象に,アンケート調査を行った.その結果,左岸・右岸住民で評価は異なり,高水敷の樹林化が進行している右岸住民は左岸住民よりも評価が低く,多摩川らしくないと評価していること,生じている環境の変化や生物への影響に関する情報を提供することにより,異なっていた評価は一致する方向へと変化すること,評価や情報の影響は,年齢や経験の違い等によって差異があることを明らかにし,合意形成を図る上で,情報の提供や共有化が重要な役割を果たすことを示唆した.
     その後,礫河原再生事業が実施されたが,住民は事業をどう評価しているのであろうか.また,実施前にみられた評価の違いは,事業評価にも影響しているのであろうか.これらを明らかにするとともに,本事業における情報提供や住民参加に関する課題を抽出するため,2004年に再度沿川住民2000世帯(ランダム抽出)を対象にアンケート調査を行った.その結果,回答者の60%が望ましいと評価し,事業内容に関する説明文の提示後は賛成できるが78%となる等,事業は概ね沿川住民に受け入れられるものであったと判断された.また,年齢が高く,興味・関心が高く,事業内容や目的を認知していた人ほど,評価は高い傾向があった.しかし,事前に事業内容や目的を認知していた人は10%に留まり,情報提供の重要性が示されていたにも係わらず,情報の提供が不十分であったこと,住民の計画への参加の意思と比べ,計画への自由な参加,発言の機会が限られていたこと等が課題として抽出された.
  • 若菜 勇, 辻 ねむ, 野坂 拓馬, 高村 典子, 中川 恵, 上野 洋一, 渡辺 雅子
    セッションID: S17-1
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    近年、釧路湿原の東部湖沼群で水生植物や底生動物の種数および生物量が急激に減少している。本研究では、釧路湿原自然再生事業の一環として、この原因を探り対策を講ずるための知見を得るべく、湖沼群の最南部に位置する達古武沼で2003年7月に沈水ならびに抽水植物の生育現況を調査した。調査では沼内の25地点で沈水・抽水植物を定量採取して種組成と生物量を把握するとともに、同時に実施された環境調査のデータを用いて、植生と環境構造との関係を検討した。結果の概要は次のとおりである。1)クラスター分析の結果、植生は大きく6タイプに分類された。2)水深、水深と湖底相対光強度が1%となる補償深度との差、底質中のシルト含量、SS、クロロフィルa濃度、水面と湖底との水温・pH・DOの差、TP、TN、DOCについて主成分分析を行ったところ、達古武沼の環境は河口2、沿岸帯3、沖帯1の計6タイプに分類され、この各々に植生のタイプがよく対応した。3) 河口の環境は流入河川の影響の程度によって2分され、エゾミクリなど特徴的な植生がみられた。4) 南部の沿岸帯は、ヒシをはじめとする植物の生物量が沼内で最も多く、また夏季、アオコが大量発生しない特異な水域であった。水温差とDOCが他の水域より高く、後者には周辺の湿地から流入する水が関与していると考えられた。5)ネムロコウホネやセンニンモを優占種とする西岸の沿岸帯は、水温差とDOCを除いた環境は沼南部と大差なかった。6)北西の流出河口に近い沿岸帯ではヒシが密生しており、湖水の滞留に起因するとみられる高いSSおよびクロロフィルa濃度を特徴とした。7)沖帯では植生がまったくみられず、補償深度(約1.3m)よりも水深が大きいことから、光が植生の制限要因になっていると考えられた。
  • 三上 英敏, 石川 靖, 上野 洋一
    セッションID: S17-2
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    達古武沼や塘路湖等の釧路湿原内湖沼群は、近年、富栄養化の進行による環境悪化が懸念されている。その中の一つである達古武沼も水生植物の衰退、アオコの大発生などの環境悪化が問題視されている。達古武沼における外部からの栄養塩負荷の要因として、(1)農業によるもの、(2)キャンプ場に由来するもの、(3)釧路川河川水の逆流流入に伴うもの、(4)温泉水によるもの、(5)湿地涵養地域に由来するもの、など主に5種類の栄養塩負荷源が考えられる。そこで、我々は、それぞれの栄養塩負荷源における水質特性の把握と栄養塩負荷量の見積もりを行うため、様々な現地調査を実施した。その結果、釧路川河川水の逆流は、釧路川流域の降雨や融雪に伴う釧路川の水位上昇に伴って起こることや、達古武沼最大流入河川の達古武川の上流部には河道に沿って湿地帯が形成されており、そこから高濃度のリンを含む水が供給されていること等、各負荷源の特性について、様々なことが明らかとなった。達古武沼への全栄養塩負荷量は、年間、全窒素で約34トン、全リンで約3トンと見積もられた。また、各負荷源の中で、キャンプ場、温泉及び釧路川の逆流による負荷寄与は小さかった。一方、湿地涵養地域の影響を大きく受けている達古武川の人為由来でないリン負荷量が、達古武沼への全負荷量の約2割を占めていると見積もられた。それは、達古武沼のような湿原内湖沼の水質環境や生態系を検討する上で、注意すべき現象であると考えられた。しかしながら、達古武沼の集水域には、集水域面積の割に、乳牛や肉牛そして豚が多く飼育されており、それらの糞尿等による達古武沼への栄養塩負荷寄与が、かなりの割合を占めていると見積もられた。
  • 水垣 滋, 安 榮相, 中村 太士
    セッションID: S17-3
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     近年、釧路湿原達古武沼(湖)では、集水域の土地利用変化に伴う土砂流入により、以前より湖底の浅化がすすみ、水質の悪化と水生生物相の劣化をもたらしたと指摘されているが、その実態は明らかにされていない。一方、集水域からの流送土砂は湖底堆積物として蓄積され、その堆積履歴から集水域の水土流出情報を引き出すことができる。本研究の目的は、湖底堆積物の堆積履歴解析と流出入河川の水文観測により、達古武沼の長期的な土砂堆積実態を明らかにし、集水域の土地利用変化と湖沼の堆積環境との関係を検討することである。そこで、1) 現在的な土砂流入実態を把握するために、最大流入河川の河口および流出入河川の河口(釧路川合流点)において2003年7月より1年間水文観測を行った。また、2) 長期的な土砂流入堆積実態を解明するため、湖内8地点の湖底堆積物コアについてセシウム-137及び火山灰編年法により年代測定を行い、過去300年の堆積速度を推定した。水文観測期間は融雪出水がみられず、数度の降雨出水が確認されたが、流出河川の増水過程では湖への逆流が認められ、集水域からの流入量に比べて3倍以上の物質流出入が確認された。湖内8地点における1694_から_1739年、1739_から_1963年、及び1963_から_2003年の平均堆積速度から、湖全体として堆積量が増加傾向にあることがわかった。流入河川河口付近の堆積物には流路掘削工事や森林伐採に起因する複数の砂質層が確認できた。一方、釧路川流出入口付近の堆積物はシルト・粘土分で構成され、釧路川からの流入物質が堆積したものと思われた。達古武沼では、集水域のみならず釧路川流域の土地利用変化とそれに伴う生産活動による土砂流出の影響を大きく受け、堆積量が増加してきたと考えられる。
  • 中川 惠, 高村 典子, 五十嵐 聖貴, 若菜 勇, 辻 ねむ
    セッションID: S17-4
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    達古武沼の水質の分布は,主要な流入河川である達古武川,湖内の植生,湿原性土壌の分布あるいは釧路川からの逆流などによって影響を受けると考えられる.本研究では,達古武沼の水質と底質を調べ,沼の水質分布特性を明らかにした.調査は2004年8月29日_から_9月3日にかけて行った.環境測定,採水および採泥は,沼を格子状(沼の北側は200m,南側は100m間隔)に区切った交点54地点と河川9地点で行った.沼内54地点の水質16項目(k(光の減衰率),pH,TP,SRP,TN,NH4-N,Chl.a,Na+,K+,Ca2+,Mg2+,SO42-,Fe,Si,DIC,UV/DOC)を用いて主成分分析を行った.選んだ項目は,植物プランクトンや水生植物に必要な栄養分や光環境,土壌や流入河川の影響を示す指標に関係する因子である.第一主成分は全水質データの変動の45.0%を,第二主成分は18.2%を説明した.第一主成分では,DICの固有ベクトルが高い値を,TN,TP,Chl.a,SO42-,pHのそれが低い値を示した.第一主成分から計算した地点の分布では,正の側に沈水植物やヒシが優占する沼の南側の地点,負の側に植生が無い沼の北側の地点が位置した.DIC濃度は植生のある南側で高かった.一方,SO42-濃度は達古武川や沼の北側より南側で低く,その中でも東端と西端でそれが顕著であった.第二主成分では,Siの固有ベクトルが高い値を,SRPとFeのそれが低い値を示した.第二主成分から計算した地点の分布では,沼の南東端の数地点が負の側に位置した.沼の南東端はSRPやFeの濃度が高く,底質のpHが低くて還元的であった.沼の水質分布は,第一に植生の有無,第二に湿原特有の土壌特性の勾配によって成り立っていると考えられた.
  • 五十嵐 聖貴, 中川 惠, 高村 典子, 辻 ねむ, 若菜 勇
    セッションID: S17-5
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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     近年急速な環境変化が認められている達古武沼において、生態系の現状を把握することを目的とし、沼内のプランクトン生物(細菌・ピコ植物プランクトン・植物プランクトン・従属栄養鞭毛虫・動物プランクトン)の季節変化と分布の調査を実施した。 季節変化の調査は沼内の定点で2003年4月から11月にかけて隔週でおこなった。細菌・ピコ植物プランクトン・従属栄養鞭毛虫の現存量は初夏に年間のピークがあった。植物プランクトンは、春に黄色鞭毛藻、初夏に藍藻、晩夏に緑藻の現存量が高くなった。初夏の藍藻は、まず窒素固定能を有する Anabaena smithii が優占し、その後、Planktothrix agardhiiAphanocapsa spp. に優占種が交代した。珪藻は通年出現し、夏から冬にかけて現存量が高かった。動物プランクトンは春先の現存量が少なく、初夏に最大となった。動物プランクトン組成は大型の甲殻類が少なく、小型のワムシ類が多いことから魚類による捕食圧の高さが示唆された。 2003年7月23日_から_24日に、沼内25地点にて分布調査を実施した。植物プランクトンと動物プランクトンの組成をクラスター解析した結果、いずれも沼の南部の組成が異なることが示された。また、それらの地点ではプランクトンの多様性(Shannon-Weaver の多様性指数 H')が低い傾向がみられた。沼の南部はヒシが繁茂しているとともに、水質も他の地点と異なっており、それらがプランクトンの分布に影響を与えているものと考えられた。
  • 仲島 広嗣, 西川 潮, 高村 典子, 神山 塁, 中川 惠, 若菜 勇, 蛭田 眞一
    セッションID: S17-6
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    本研究は、達古武沼に生息する大型外来ザリガニPacifastacus leniusculus (注)の管理手法を念頭においた分布調査を行い、生息環境の定量化を行った。調査は2004年9月に行い、達古武沼とその周辺流域を含む合計102の地点(達古武沼沖合、湖岸、6つの主要流出入河川)において環境要因と外来ザリガニの測定を行った。ザリガニは追い込み(サデ網)と誘引トラップ(どう)を用いて捕獲し、追い込み面積あたりの捕獲数(密度)もしくはどうあたりの捕獲数(数度)で示した。環境要因として、水温、溶存酸素(DO) 、電気伝導度(EC)、流速、酸化還元電位(ORP)、岸からの距離、岸と湖内の植生および岸直下のえぐれ(体積・形状)を測定した。 
    野外調査の結果、外来ザリガニの最大密度は1.2 m-2、最大バイオマス(湿重量)は9.1 g m-2であった。これらは海外の湖沼から報告されている密度(> 5 m-2)やバイオマス(> 80 g m-2)より低い値であった。達古武沼流域においては、小型個体(<頭胸甲長24mm)は主に河川の調査地点からのみ捕獲されたが、大型個体(>頭胸甲長24mm)は河川と湖岸両方から採捕された。達古武沼の沖合からは、体サイズにかかわりなく、ザリガニはほとんど捕獲されなかった。これらのことから、外来ザリガニは、成長段階に伴って河川から湖岸にその分布域を広げることが示唆された。本研究は、決定木を用いて、小型個体と大型個体の分布パタンの説明を試みる。注:西川は「シグナルザリガニ」と呼ぶことを提案している(西川・神山・佐治・高村の要旨参照)が、蛭田は和名「ウチダザリガニ」を用いるべきと主張しているため、ここでは外来ザリガニと呼ぶ。
  • 西川 潮, 神山 塁, 佐治 あずみ, 高村 典子
    セッションID: S17-7
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    釧路湿原東部湖沼では、近年、沈水植物の減少が著しいが、その一因として、外来種シグナルザリガニ(注)によるグレージングが考えられる。シグナルザリガニは、鋏をつかって水草をちょん切ることによって水草の現存量を減らし、それらを隠れ家や食物として利用する他生物の資源利用様式を変化させる。この意味で、シグナルザリガニは生態系エンジニアである。しかしながら、生態系エンジニアの効果が成長段階に伴って変化していくのかどうかについては知見が乏しい。本研究は、シラルトロ沼において計20基のエンクロージャー(3 m × 2 m × 2 m)を設置し、シグナルザリガニの体サイズ組成を操作することによって以下の仮説の検証を試みた。シグナルザリガニの影響は、仮説1:バイオマスに比例して大きくなる(生態系優占種)、仮説2:バイマスに関わりなく影響力が高い(中枢種)、仮説3:体サイズ群によって影響が異なる、仮説4:影響が認められない。ニヶ月間の実験の結果、沈水植物(ホザキノフサモ、センニンモ)の現存量はザリガニの体サイズ組成に関わりなく実験終了時までには一掃された。底生動物は現在解析中で最終的な結果は出ていないが、本研究の設定範囲においては仮説2と3が支持されるものと思われる。最後に、実験結果に基づいたシグナルザリガニの管理手法とその問題点について述べる。注:北米から移入された大型ザリガニは、北海道ではウチダザリガニ、滋賀県ではタンカイザリガニと呼ばれていて、これらは移入当初、異なる亜種とされていたが、実際のところ亜種の差は明らかでない。これらの名前は在来種と勘違いされやすいことから、本研究では英名signal crayfishにちなんで「シグナルザリガニ」と呼ぶ。
  • 中島 久男, 高村 典子
    セッションID: S17-8
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     釧路湿原内の達古武沼は近年急速に富栄養化が進行し、アオコの発生が頻発し、透明度が悪化することにより沈水植物がほとんど消滅してしまっている。本研究では、達古武沼の状態を沈水植物が繁茂し透明度が高かった10年前の状態に戻すには、栄養塩負荷量をどの程度まで下げなければならないかを評価するために、数理モデルによる解析を行った。 達古武沼は周辺の湿地から水が流入するため、植物プランクトンの増殖は栄養塩についは窒素によって律速されている。また、発生するアオコはアナベナによるものであるが、このシアノバクテリアは窒素固定をすることが知られている。すなわち、栄養塩濃度が低ければ、アナベナは群体形成までには至らないが、栄養塩レベルがある程度高くなると群体形成が始まり、窒素固定により栄養塩の制限から解放されてアオコの発生が起こるもの考えられる。そして、アオコの発生は沼の透明度を低下させ、沈水植物の生長を阻害し、恒常的なアオコの発生が沈水植物の消滅を引き起こしたものと考えられる。 沈水植物が存在しているかいないかによって、植物プランクトンの増殖に違いがみられることが知られている。沈水植物が植物プランクトンの増殖に与える負の効果として、(1)沈水植物によるAllelopathyの影響、(2)沈水植物系による脱窒のための水中栄養塩濃度の低下、(3)底泥が安定化されることによる底泥の巻き上げの低下などが挙げられる。 これらのことを総合すると、最近の達古武沼は、いわゆるRegime shift (e.g. Scheffer and Carpenter (2003))が起こった可能性が高いとおもわれる。したがって、達古武沼の再生に関しては、この沼がRegime shiftのとくに履歴効果の性質を持つという前提に立って、栄養塩の負荷量の管理を行っていかなければならない。この観点から、この湖の自然再生のために必要な栄養塩負荷の低減量を推定することが出来た。
  • 高村 典子, 若菜 勇, 中村 太士
    セッションID: S17-9
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    釧路湿原東部に位置する3湖沼では、環境の劣化が顕在化している。我々は、環境省釧路湿原自然再生事業の一環として、2003年7月から約2年間、まず達古武沼とその流域を対象に、環境劣化の現状把握と原因究明を行った。達古武沼では1992年に沼の約8割の面積を覆っていた沈水植物群落が大幅に後退し、現在は、沼南の達古武川の流入部付近を中心に東西の帯状に残っているのみである。浮葉植物としてはヒシが圧倒的に多く、沼の西南にネムロコウホネがまばらにある。夏には達古武川の流入部付近を除く沼全面にアオコ(Anabaena)が大発生する。現在の達古武沼のプランクトン、底生動物、魚類の分布は、この沈水植物群落に大きく依存して分布している。特に、希少動物は残存植生に大きく依存して生息しているため、今後沈水植物群落が消失するようなことが起これば、それに伴い多くの在来の動物群集が生息場を失うと考えられる。沼中央の夏の水質は1996年まで全窒素量が0.4-0.9mg/L、全リン量が0.02-0.09mg/L、クロロフィルa量が2-11μg/Lであったが、2004年は順に3.5mg/L、0.35mg/L、340-400μg/Lと高い値を示し、急激な富栄養化が起こっている。達古武沼では、今、まさに生態系のカタストロフ・レジームシフトが起きている。そのため、生態系回復のために早急な措置が必要とされている。生態系の劣化を引き起こした原因は、近年の沼への土砂流入量や河川からの栄養塩負荷量の増加が考えられる。現在の栄養塩負荷は、過去に湿地へ排出蓄積された畜産排水が降雨時に流出している可能性が大きい。また、沼周辺部に分布している外来ザリガニ(Pacifastacus leniusculus)が、沈水植物群落減少の一因となっている可能性も大きい。本シンポジウムでは、今後どのような自然再生を行うべきか、達古武沼の再生へのシナリオについて議論する。
  • 鶴井 香織, 本間 淳, 西田 隆義
    セッションID: A101
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
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    われわれは休耕田のバッタ群集に対する捕食者の非致死的効果について研究してきた。本講演では、休耕田の代表的なバッタであるコバネイナゴに対する鳥の非致死的効果、すなわち自切について、その主犯を推定する。これまで、ウズラ、カマキリ、クモ、カエルなどをモデル捕食者とした室内捕食実験の結果、ウズラのみがコバネイナゴの自切を引き起こすことが確認された。しかし、ウズラは調査地の休耕田には棲息せず、自然状態でどの鳥が自切を引き起こしているのかについては全くわかっていない。そこで、飼育条件下にある野鳥を用いた捕食実験と捕食行動の観察、およびフィールドでの鳥類群集調査によって自切を引き起こす捕食者を推定した。捕食行動観察の結果、トビやカラスといった大型の動物食・雑食の鳥は餌をむしり食べるので自切を起こさず、逆にコガラやスズメなどの小型の昆虫食・雑食の鳥は餌としてサイズの大きすぎるコバネイナゴを襲わず、中型の鳥だけがイナゴを襲い自切を引き起こした。さらに捕食様式から、中型でも動物食スペシャリストのモズなどは自切を引き起こしにくく、中型でジェネラリストの鳥が主犯と推定された。これら中型の鳥は自切させた後脚は食べるがイナゴ本体を食べることはめったにできなかった。一方、休耕田における鳥群集の調査の結果、イナゴの自切を引き起こす中型の鳥は、個体数が多くジェネラリストのホオジロか、同じく個体数が多く昆虫食だが耕地のスペシャリストではないセグロセキレイと推定された。これらの結果と、鳥類の食性に関する文献データを併せて評価し、結果の妥当性について考察する。
  • 本間 淳, 鶴井 香織, 岡田 陽介, 西田 隆義
    セッションID: A102
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    自切は、捕食者に襲われた際に体の一部を犠牲にして捕食を回避する行動であり、いくつかの分類群においてみられる。バッタ類の自切には、後脚の切断という一見大きなコストがともなう。したがって、自切は捕食者による被食者への非致死的捕食の例ととらえることができる。本発表では、後脚切断という非致死的ダメージの適応度への影響評価を試みる。これにより、植食者の防衛戦略の進化や個体群動態に及ぼす捕食者のトータルの影響を評価することが可能となる。自切にともなう適応度コストの研究は、主にトカゲを使って試みられているが、生涯にわたる影響を評価するのが困難なため、あまり進んでいない。本研究では、コバネイナゴOxya yezoensisを用いて、後脚を自切することの適応度コストを評価することを試みた。本種は、一年生であり、自切をするのはほぼ成虫時に限られるため、生涯繁殖成功の評価が比較的容易であり、成長に及ぼすコストも無視できるという利点がある。まず、自切の起こしやすさについて、片足と両足、メスとオスで違いがあるか、実験を行った。すると、片足よりも両足を自切するときの方が、また、メスよりもオスの方が有意に自切しにくかった。この結果は、自切の繰り返しにともない適応度コストが増大すること、またそれはオスにおいてより大きいことを示唆する。そこで、自切にともなう生存コストと繁殖コストについて、雌雄別にそれぞれ検討した。生存コストについては、生理寿命と跳躍パフォーマンスの変化に、繁殖コストについては、体重変化と交尾成功に注目した。生理寿命には有意な変化はなかったが、跳躍パフォーマンスは自切個体で有意に減少した。また、定位行動の有意な変化が自切個体で検出された。体重については、有意差は検出されなかった。交尾成功については、オスのみ自切個体で有意に減少した。これらの結果に基づき、コバネイナゴにおける自切の適応度への影響を議論する。
  • 西田 隆義, 本間 淳, 鶴井 香織
    セッションID: A103
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    自然生態系において、捕食者の影響は被食者を殺すことで生じると考えられてきた。しかし近年、被食者が捕食機会に遭遇することで行動や形質が変化するという非致死的な効果が注目されるようになってきた。本講演では、鳥のバッタ類に対する非致死的効果である自切を対象とし、それがもたらす生態的効果について述べる。同題の前2講演によって、イナゴの自切は中型の鳥が特異的に引き起こすこと、中型の鳥はイナゴをめったに殺さないこと、自切の生理コストはほとんどないこと、しかし、オスでは高い配偶コストがメスでは行動の変化が生じることが明らかとなった。メスの行動の変化とは、自切個体がイネの株内部に潜りこむことであり、鳥の捕食を避ける上で効果があると予想された。さらに、別の実験によって自切個体は活動性が低下し、その結果、鳥の捕食に遭遇しにくくなることが分かっている。以上から、自切メスは鳥に捕食されないように行動を変化させていると考えられる。こうした行動の変化は、摂食時間の減少や配偶・産卵活動の低下などに結びつく可能性がある。したがって、自切を引き起こす中型の鳥がイナゴに与える影響は、ほぼイナゴの行動変化を通じた非致死的なものに限られる。一方、休耕田に棲息するトゲヒシバッタは潜在的捕食者であるトノサマガエルに対する捕食回避策を発達させており、カエルの効果はやはり非致死的であった。いずれの場合においても、同じ生息場所にすむ主要な潜在的捕食者と被食者の間には、捕食を通じたエネルギーの流れはほとんどなく、捕食者の効果は被食者の行動を介した非致死的なものであった。この結果は、食物網とそこを流れるエネルギー量を基盤としたこれまでの群集観と大きく異なる。その群集生態学的な意義について考察する。
  • 内藤 馨, 平松 和也
    セッションID: A104
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     淀川における魚類相の現状を調査し、生息環境との関わりについて検討した。魚類採集調査は2004年7月7日から9月6日にかけて三川合流点から淀川大堰の間の本流域およびワンド域145ヵ所において地曳網を用いて実施した。確認魚種は36種で、本流域は29種が確認され、その組成はオイカワ、コウライモロコ、オオクチバス、ブル_-_ギルの順で多く、ワンド域は29種が観察され、多い方からブル_-_ギル、フナ類、モツゴ、オオクチバスの順となった。特にワンド域ではイタセンパラ、バラタナゴ、ツチフキ等の割合が激減し、ブル_-_ギル、オオクチバス、カマツカ等の占める割合が増加し、種類数の減少もみられた。しかし、城北ワンド群の一部や新たに造成された樟葉人工ワンドでは多様性を維持している。種の多様性が失われつつあるが、オオクチバス、ブル_-_ギル等外来魚による在来魚種の捕食が少なからず影響していると考えられ、主に止水域を好む外来魚が増加したのは長期にわたる本流の湛水化が一因であると思われる。その他、ヨシ帯は在来魚種の産卵や隠れ場所として重要であるが、本流域やワンド域で見られない所も多く、そういった場所が減少していることが窺える。また、水位、水量の変化が少なく、ヨシ帯や高水敷等が産卵場所としての利用機能が低下していることが懸念される。さらに、オオカナダモ、ボタンウキクサ、ナガエツルノゲイトウ等の外来植物は群落を形成し、水面、水底を覆い、酸素欠乏や光不足を生み出し、水生生物に悪影響を与えていると考えられ、冬季には枯れて水底に沈む。それらは腐泥として堆積し、底質の悪化と水域の富栄養化を促し、イタセンパラ等タナゴ類が産卵する二枚貝類の生息に影響を及ぼしていると考えられる。外来生物の低減化、水位の変動等が在来魚種の生息環境の保全に重要であろう。
  • 平松 和也, 内藤 馨
    セッションID: A105
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     淀川は天然記念物のイタセンパラなど多様な魚類が生息する河川であるが,全域規模の調査例は少ない.当センターは,ワンド(止水域)で1972年から,本流では1984年から地曳網による調査を定期的に実施しており,その結果,外来種の増加,ワンドにおける在来魚種の減少,ワンドと本流の魚類相の均一化などが確認されたので報告する. 淀川の外来種はオオクチバス(以下バス),ブルーギル(以下ギル),カダヤシ,ヌマチチブ,ワカサギ,タウナギ,タイリクバラタナゴ,カムルチーなどで,調査地点1地点あたりの外来種の平均種数は,本流:1984年0.1種→2004年1.8種,ワンド:1972年1種→2004年2.6種と増加した(P<0.01 ANOVA).バス・ギルの増加は著しく,曳網1回の平均採取個体数は,バス(本流:1984年0.1個体→2004年12.6個体,ワンド:1972年0個体→2004年31.6個体),ギル(本流:1984年0個体→2004年10.2個体,ワンド:1972年0.1個体→2004年74.3個体)(いずれもP<0.01 ANOVA)であった.生息域も拡大しており,調査地点全体に対する出現率は,バス(本流:1984年1%→2004年99%,ワンド:1972年0%→2004年:92%),ギル(本流:1984年0%→2004年67%,ワンド:1972年3%→2004年96%)であった. 一方,ワンドの在来魚種は減少し,1993年までは1地点平均9種を維持していたが,2004年は5.4種に減少した(p<0.01 ANOVA).特にツチフキ,ハス,イタセンパラ等が減少した. このように魚類相は大きく変化し,主要15種のクラスタ-解析を行うと,1983年には本流とワンドが明確に区分されたが,2004年には両者の入り乱れたクラスターが形成された.また,判別分析では,本流とワンドの判別的中率は1984年には98%であったが,2004年には85%に低下した.
  • 幸田 正典
    セッションID: A107
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    昆虫・鳥類・ほ乳類の採食なわばりが種内個体間で大きく重なることは少ない。しかし、個体のサイズ変異の大きい魚類では、同種個体間でなわばりが大きく重複する事例が知られている。タンガニイカ湖産ベントス食魚ロボキローテス(ロボ:6-30cm)は、各個体が採食なわばりを維持している。しかし、サイズの異なる個体間では、なわばりは大きく重なっており、調査の結果5つの異なるサイズの同種個体がなわばりを5重に重複させていることが明らかになった。ロボの場合、重複個体の間での摂餌場所の分割的利用が示された。隣接サイズの個体の体長比は平均すると、4つの組合せそれぞれでほぼ1.3倍(体重で2倍)であった。この数値は「同所的に共存する近縁種はサイズ(あるいは口器のサイズ)比が1.3倍(体重比は2倍)となることが多い」との経験則、ハッチンソン則のものと極めて似ている。本則は成体のサイズの種内変異が少ない昆虫・鳥類・ほ乳類などでの近縁種を対象に考えられており、独立後も成長を続ける魚類で検討されたことはこれまでない。ロボの重複なわばりでも(種内個体間)、ハッチンソン則の場合でも(近縁種個体間)、競争関係にある個体がサイズを違えることで資源分割が起こり、共存が可能になるという点は同じである。その意味でロボの種内重複なわばりはハッチンソン則に沿う事例と考えられる。このロボの事例から、これまでのハッチンソン則の検証研究の問題点などを議論したい。ロボの重複なわばりの話を聞けば、ハッチンソンは大いに喜んだことだろう。
  • 西村 欣也, 舞木 昭彦
    セッションID: A108
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    競争種の共存・排除のメカニズムは、ニッチ理論の要約的概念である競争係数を通して理解されてきた。生活史や個体群構造の特徴を通して競争種の共存・排除を理解することが次のステップである。 発生過程で形態・棲み場所が変わる生物では、発生の進行とともに利用ニッチが移行する。そのようなニッチの移行をともなう生活史構造は、競争種の共存・排除に影響する。幼体間、成体間でニッチ重複がある2競争種の共存・排除を決める仕組みについて、ロトカ・ボルテラ競争方程式を修飾したモデルを用い、幼体間・成体間の競争関係と、生活史サイクルを特徴づけるパラメータに注目して調べた。 種間競争が幼体・成体両ステージを通して強い場合と、両ステージで強い種間競争関係が一方的な場合以外では、各生活史ステージ内の競争関係と生活史パラメータの条件に依存して2種の安定共存が達成される。幼体から成体への成熟率に焦点を当てると、各生活史ステージ内の競争関係の組み合わせパターンに対し、安定共存のための成熟率の上限あるいは下限が存在する。成熟率は、異なる競争関係において、3つの異なるメカニズムを通して競争種の安定共存に寄与することが分かった。 モデルは、出生・成熟が、単純なメタ個体群モデルの集団間移動率に類似するため、メタ個体群における競争種の安定共存条件と、類似点を有する。競争種の安定共存に関連する両種の生活史パラメータが、自然選択の対象となる場合、それらの生活史形質の進化が競争関係における共存とその安定性にどのように作用するかが次の問題となる。
  • 河井 崇
    セッションID: A109
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     生物群集におけるfacilitation(プラスの作用を介した種間相互作用)について,近年になりその一般性・重要性が認識されるようになって来た.Facilitationのプロセスとして,物理的・生物的ストレスの緩和,資源の供給などが,海域・陸域にかけた様々な群集において報告されている. 九州天草の岩礁潮間帯には,固着性動物であるカメノテとムラサキインコが同所的に棲息している.カメノテはムラサキインコに対して二つの異なるストレス緩和作用:stress amelioration(波あたりによる物理的ストレスの緩和,日射による熱ストレスの緩和)を与えることにより,ムラサキインコの生存・成長を促進していることが演者らの研究により明らかにされている.本講演では,季節的なストレス環境の変動に伴って,これら二つのストレス緩和作用の強さがどのように変化するかについて,野外操作実験により得られた結果を紹介する. 海が穏やかな状態が連続的に続く秋を除き,ほぼ一年を通して強い物理的ストレスの緩和作用が検出された.一方,熱ストレスの緩和作用は夏においてのみ検出され,その強さは物理的ストレスの緩和作用と比較し小さい値を示した. これらの結果から,本調査地においては,カメノテによる物理的ストレスの緩和作用がムラサキインコの生存に必要不可欠であることが明らかになった. 本研究は,同一種間における複数のfacilitationプロセスの検出,及びそれらの重要性の評価・比較を実施した,数少ない研究例の一つである.
  • 唐沢 重考, 肘井 直樹
    セッションID: A110
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    熱帯から亜熱帯林に分布する着生植物のオオタニワタリ(Asprenium nidus complex)は、葉を大きく展開し、樹上で落葉などの有機物を集めてある種の“土壌”をつくるため、そこには多量の土壌動物が生息する。たとえば、そこに生息する無脊椎動物のバイオマスは着生植物以外の林冠部でみられる無脊椎動物のバイオマスとほぼ等しい(Ellwood and Foster, 2004)。このように、オオタニワタリは多量の無脊椎動物を保持するため、それらの存在は、森林の生物多様性維持機能を高めると考えられる。しかし、これまでにオオタニワタリの存在が、林床から樹冠までの森林全体の無脊椎動物の種多様性に与える影響について調べた研究はない。そこで、本研究では、オオタニワタリの存在が、森林全体のササラダニ群集(Acari: Oribatida)の種多様性を増加させるのかについて調べた。調査は、沖縄本島北部の亜熱帯照葉樹林(通称“ヤンバルの森”)にて行った。優占樹種イタジイ(Castanopsis sieboldii)の葉、枝および樹皮、林床のリターと土壌、オオタニワタリ内のリターとオオタニワタリの根部の7部位から合計166試料を採取し、ササラダニを抽出したところ、47995個体、211形態種のササラダニが得られた。これらをSpecies-accumulation curveによって比較した結果、森林全体のササラダニ種数は、オオタニワタリ着生の有無の間で有意な差が認められなかった。すなわち、オオタニワタリの存在だけでは、森林全体のササラダニの種数は増加しないことが明らかとなった。
  • 門脇 浩明, 西田 隆義
    セッションID: A111
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    生物群集の形成過程において、種間相互作用は競争種間の形質置換や資源分割、分布様式を決定するメカニズムとして注目されてきた。本研究では、キノコ(硬質菌)をめぐる昆虫群集を対象として、種間相互作用と環境要因の2つの視点から群集の構造と形成過程の説明を試みた。タコウキン科の一種ヒトクチタケには3種のスペシャリスト昆虫(カブトゴミムシダマシ・ヒラタキノコゴミムシダマシ(いずれも甲虫)とオオヒロズコガの1種(蛾))がほぼ同じ密度で棲息・産卵し、幼虫が激しく食害した。空間分布解析の結果、甲虫2種は共存するが、甲虫と蛾は原則的に共存せず、後者では種間相互作用が産卵を通じて影響した可能性があった。これに対して飼育実験では、同一子実体に共存させた甲虫2種の間にほとんど影響はなく、甲虫と蛾の間には負の影響が認められた。一方、群集構造と環境要因との相関はほとんど認められなかった。これらの結果から、ヒトクチタケをめぐる昆虫群集では3種が互角な消費型競争を繰り広げ、それゆえに環境要因よりも種間相互作用のほうが群集形成に重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 上野 裕介, 堀 正和, 野田 隆史
    セッションID: A113
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    大型動物による環境改変は、群集構造や生態系機能を大きく変化させることがある。本邦に広く分布するアオサギArdea cinerea は森林に繁殖コロニーを形成する。本種は樹上で営巣し、しばしば巣の周りの枝や葉を取り去ることで、直接的に営巣木の成長を阻害していると考えられる。また、営巣木直下とその周辺の林床へ排泄物を大量に落とすことで土壌中の栄養塩量を増加させ、樹木の成長量や林床植物の現存量、種多様性に影響を及ぼしていると考えられる。
    そこで本研究では、アオサギの繁殖コロニーのある北海道厚岸町にあるミズナラ林および標茶町にあるカラマツ林において、アオサギの営巣が樹木と林床植物に及ぼす影響を明らかにするために、まずアオサギの巣の分布と樹木の成長量の関係を調べた。次に2000_から_2004年のアオサギの繁殖期に、林床へのアオサギの排泄物の供給量の空間変異と林床植物の現存量および種多様性の関係を調べた。得られたデータをもとに統計解析を行い、アオサギが直接的に樹木に及ぼす影響と、排泄物を介して間接的に及ぼす影響を明らかにする。また、アオサギの排泄物が林床植物の現存量と種多様性に及ぼす影響を明らかにする。なお結果については、現在解析中であるため本講演にて報告する。
  • 亀田 佳代子, 八尋 克郎
    セッションID: A114
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     カワウ(Phalacrocorax carbo)は大型の魚食性鳥類であり、湖沼や河川、内湾部などで採食し、水辺の森林に集団で営巣する。カワウの営巣活動にともない、森林では巣材としての枝葉の折り取りや多量の排泄物供給が行われ、植生が大きく変化することが知られている(藤原・高柳 2001、石田 2002)。また、排泄物として土壌に供給された養分は、土壌の菌類相に影響を与えると共に(Osono et al. 2002)、土壌の養分動態が、営巣中のみならず営巣放棄後も大きく変化することが明らかになっている(Hobara et al. 2001, in press)。こうしたカワウによる森林の環境改変は、そこに生息する動物相や食物網にも間接的に影響を与えると考えられる。そこで本研究では、カワウの営巣中から営巣後にわたる昆虫相の変遷を明らかにし、カワウの営巣が昆虫相に与える直接および間接の影響について検討を行った。
     調査は、2004年5月より10月まで、滋賀県琵琶湖にある伊崎半島(約57ha)で行った。調査区域として、対照区、営巣区(営巣2年目、5年目)、営巣放棄区(放棄後2年、5年、8年、12年)の計7区域を設置し、ピットフォールトラップおよびフライトインターセプトトラップにより、林床付近の昆虫類を採集した。本発表では、その中でも種数および個体数の多かった甲虫類の変化について報告する。
  • 門脇 正史, 村山 卓, 小島 幸彦
    セッションID: B101
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    サシバは春に南方より飛来するタカの1種であり、里地里山に生息して春から夏の間に繁殖する。里地里山生態系の食物連鎖では上位に位置すると考えられるが、里地里山の消失や環境の変化のため、本種の生存が危惧される。実際、本種の個体数の全国的減少を示唆する報告(Kawakami and Higuchi、2003)があり、積極的保全が必要と考えられる。このような状況を反映して近年、サシバによる採食地点の利用、生息地の土地環境条件、食性等が調査されている。しかし、猛禽類の食性や環境選択は地域・年により異なることも知られているので、本種の保全には生態的知見をさらに集積する必要がある。 本講演では、特に産卵期以前と産卵期以後のサシバの狩場利用状況、すなわち、1)飛来数、2)止り時間、3)狩りの頻度について調査した結果を報告する。 調査は1997年の4月から6月まで茨城県宍塚大池地域内の水田周辺で行った。望遠鏡・双眼鏡を用いて上述した1)から3)について直接観察した。4月27日より前を産卵期以前、その日以降を産卵期以後とした。1)飛来数、2)止り時間、3)狩りの頻度は1日の調査時間あたりの合計値として表わした。但し、2)止り時間は1止り(個体)あたりの止り時間としても表わした。産卵期以後の4月から6月において1)から3)とも3ケ月間で有意な差はなかった。そこで、産卵期以後の1)から3)を一まとめとして扱い、産卵期以前の1)から3)の値と比較した。1)飛来数は産卵期以前と以後の間で有意差はなかったが、2)止り時間と 3)狩りの頻度の値は、いずれも産卵期以前の方が有意に高かった。また、1止り(個体)あたりの止り時間も産卵期以後の4月から6月の3ケ月間で有意差はなかった。産卵期以後の値を一まとめにして、産卵期以前の値と比較したところ、やはり産卵期以前の値の方が有意に高かった。
  • 牧野 渡
    セッションID: B102
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    動物プランクトンの成長と再生産が、餌の量(炭素量)だけでなく化学組成(炭素とリンの相対量比、すなわち炭素:リン比)により律速される可能性については、枝角類のミジンコ(Daphnia)を用いて数多く研究され、たとえ餌の量が炭素量として充分でも、餌の炭素:リン比が大きい(炭素量に対するリンの相対量が小さい)場合には、その炭素量から期待される潜在的な成長・再生産能力が実現されないことが明らかにされて来た。その一方で、湖沼生態系でミジンコと同等かしばしばそれ以上の生物量を誇るケンミジンコにおいては、ケンミジンコがミジンコよりも複雑な生活史を示し、かつ飼育しにくいことが原因であろうか、同様の研究は、意外なことであるが、これまでに1例しかない。しかもその研究では、炭素:リン比が大きい(つまり質の悪い)餌を与えられたケンミジンコは、全て成熟する前に死亡している。そこで今回、仙台市近郊で採集され、実験室で継代培養されていたヒゲナガケンミジンコの一種、Sinodiaptomus valkanoviを用いて、これまでに1例しかない研究の追試を行った。すなわち、卵から孵化したてのS. valkanoviに、炭素:リン比の異なる(180:1、すなわち良質のもの、と900:1、すなわち悪質なもの)植物プランクトンを同量(1.2mgC/L)ずつあたえて成長と再生産を比較した。得られた結果を既報と比較・検討する。
  • 高槻 成紀, 田戸 裕之
    セッションID: B103
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    日本列島は南北に細長いためにかなり大きな温度差があり,植生も多様である.ニホンジカはこの広い範囲に生息するため南北で生活がかなり違う.冷温帯落葉樹林では冬に積雪があり,シカの食物は夏と冬で大きく異なるが,暖温帯常緑樹林では冬にもある程度の常緑植物があり,食物供給の季節差は比較的小さい.このことはシカの越冬の条件に大きな違いをもたらすものと予想される.一方,シカは一夫多妻性の繁殖様式をもつため,秋の交尾期はオスにとって熾烈な戦いの季節となる.そのためにオスは夏のあいだに脂肪を蓄積する.前者は「食料環境」,後者は「繁殖環境」といえるだろう. 岩手県五葉山のシカと山口県のシカの蓄積脂肪を調べたところ,以下のような結果が得られた.数値はライニー腎脂肪指数である.1) メス成獣は山口では一年中40_%_前後を推移したが,岩手では9月以降急増し,12月に140_%_になったあと激減した.2) 子ジカもメスと似ていたが,指数値がやや小さかった.3) オス成獣は山口でも夏に増加し8月に最高値の120_%_となり10月には40_%_ほどになってそのまま低い値を維持して春を迎えた.岩手では7,8月にデータはないが9月に110_%_となったあと11月に30_%_ほどにまで低下した.いずれの場所でも交尾期に減少するということが共通していた.4) 若いオスはむしろメス成獣に似ており,山口では一年中40_%_前後であったが,岩手では11,12月に90_%_程度のなだらかなピークをもった.これらの結果はニホンジカの脂肪蓄積には基本的に食料供給の違いに応じた明瞭な南北さがあること,しかしそれはメスと若い個体に限られており,オス成獣にとっては温暖な地方でも交尾期のために夏に脂肪を蓄積するという「繁殖環境」が重要な意味をもつことを示唆している.takasesika
  • 戸金 大, 福山 欣司, 倉本 宣
    セッションID: B104
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     関東地方においてはトウキョウダルマガエル(Rana porosa porosa)はその分布域や個体数が徐々に減少してきているカエルであるといわれている。しかし、本種の保全生態学的なデータは不足しているため、基礎的なデータの収集が必要とされている。 本研究では東京都町田市にある2つの谷戸(神明谷戸、五反田谷戸)を調査地とし、トウキョウダルマガエル個体群における成長と年齢構成を明らかにすることを目的とした。 定期調査は、原則として毎週フィールドを調査し、発見した個体全てを捕獲した。捕獲した個体は体長と体重を測定し、年齢査定を行うために左後肢の第3指を第2関節まで切り取り10%ホルマリン容器に入れ固定した。固定した指を脱灰し、凍結ミクロトームにより薄切し、骨切片に見られる年輪から個体の年齢を査定した。講演ではこれらの結果から本種の谷戸田における年齢と成長について考察する。
  • 椿 宜高, 山肩 重夫
    セッションID: B105
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    均翅亜目のトンボは、複数のメスがひとつの産卵基質に集まって産卵することがある。これは、産卵のために飛来したメスが、他のメスが産卵している産卵基質に誘引されるからである。これをコピー産卵と呼ぶことにする。コピー産卵には、連結産卵のペアが産卵場所をコピーする場合(グンバイトンボ科など)と、メスだけが産卵場所をコピーする場合(カワトンボ科など)がある。ここでは、ヒガシカワトンボのコピー産卵について検討する。両科に共通するコピー産卵の利点は、好適な産卵場所(卵の生存率が高い、捕食者がいないなど)の情報を得られることであろう。しかし、カワトンボ科のコピー産卵は、縄ばりオスの存在にも影響されるようで、性淘汰によって進化した可能性がある。野外観察の結果、次のことがわかった。(1)すでに産卵メスがいる縄ばりに新しいメスが着地すると、縄ばりオスと交尾せずに産卵する(警護は受けられる)確率が高かった(SAG: Stealing a Guard)。(2)縄ばりオス(オレンジ翅型)の翅色を尺度にRHP(Resource Holding Potential)を評価したところ、RHPの高いオスはあまりSAGを許さないが、RHPの低いオスは多くのメスに警護を盗まれる傾向があった。(3)RHPの高い縄ばりオスは、スニーカーオス(透明翅型)の干渉からよくメスを警護し、RHPの低いオスはしばしばメスを奪われた。これらの結果から、メスはコピー産卵をすることによって、結果的にRHPの高いオスを交尾相手として選択していることが示唆された。
  • 岸 茂樹
    セッションID: B106
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
    親による子への投資で最も基本的な問題は子の数と大きさのトレードオフである。Smith & Fretwell (1974) は親の資源量に関係なく子一匹あたりの最適投資量が存在することをモデルによって示した。ここでもし親が質の異なる多種の資源を用いる場合、最適な投資を行うためには親は資源の質を評価し、資源の投資量を変化させる必要がある。そこで本研究では食糞性コガネムシ類であるコブマルエンマコガネOnthophagus atripennisを用いて以下の仮説を検証した。親は質の悪い資源ならば投資量を多くし、質のよい資源ならば投資量を少なくする。その結果、資源の質に関わりなく子の適応度は一定となる。実験には親の資源としてウシ、サルの糞と2種の糞を混ぜた混成糞の3種を用いて行った。1ペアを入れた薄型飼育ケース内に3種のうちどれか1種の糞をいれ7日間糞球を造成させサイズを計測した。その後糞球を再び埋め戻し脱出した成虫の体サイズを比較した。結果、糞球サイズはサル糞が最も小さく、混成糞、ウシ糞の順に有意に大きくなった。しかしそれらの糞球から脱出した子の体サイズはサル糞と混成糞では有意な差はみられなかったがウシ糞でのみ有意に小さかった。これらのことからコブマルの親は子のためのエサの質を評価し投資する資源量を変化させることによって最適な投資を達成できるが資源の質が極端に悪くなると投資量が子の適応度に反映されなくなると考えられる。
  • 桑村  哲生
    セッションID: B107
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/03/17
    会議録・要旨集 フリー
     魚類では雌性先熟(雌→雄)あるいは雄性先熟(雄→雌)の性転換をする種が少なからず知られている。性転換の進化は体長有利性説と呼ばれる生活史戦略モデルで説明され、性転換の方向は配偶システムによって決まることも予測されている。たとえば、大型の雄が雌を独占する種では雌性先熟が、雄の繁殖成功が体サイズの影響を受けないランダム配偶の場合には雄性先熟が進化しやすいと予測され、潜水観察が容易なサンゴ礁魚類などで多くの実証例が報告されてきた。また、最近になって、社会的地位の変化に応じて双方向に性転換する種も存在することが明らかになってきた(桑村2004『性転換する魚たち−サンゴ礁の海から−』岩波新書)。 一方、魚類においては雄の代替繁殖戦術がさまざまな種から報告されている。大型雄がなわばりをかまえて雌と「ペア産卵」するのに対し、小型雄はペア産卵に飛び込んで放精する「スニーキング」や、1尾の雌を多数の雄が追尾して同時に放卵放精する「群れ産卵」を行う。このような雄の代替繁殖戦術がみられるベラ科やブダイ科においては、雌性先熟と一次雄(小さいときから生涯雄として繁殖する個体)が共存する種が多数報告されてきた。その1例であるベラ科ミツボシキュウセンにおいて、演者らは一次雄が雌に性転換することを野外で1例確認した(鈴木祥平ほか未発表)。本講演では、(1)このような雄性先熟がこれまで他のベラ科やブダイ科魚類で発見されなかった理由について検討したのち、(2)雄の代替繁殖戦術が存在する場合には、雄性先熟と雌性先熟が生活史多型として種内に共存できる可能性があることを、体長有利性説を踏まえて説明し、(3)双方向性転換の進化条件との違いを論じる。
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