中嶋章は1930年代に独自にブール代数に相当する理論を構築し,スイッチング理論の研究を行ってリレー回路設計に適用した.1935年にド・モルガンの法則を含むリレー回路構成理論を発表し,1936年には榛澤正男と共著で“+”と“×”の記号を用いてスイッチング回路を論理式で表し,この変換及び簡単化を含むスイッチング理論を発表した.Claude E. Shannon が同様の論文を発表したのは1938年である.中嶋の生誕100年にあたる2008年にフィンランドのTampere University of Technology より中嶋の全英文論文を収録した覆刻本が出版された.
臨場感の高い音響を実現するため,様々な音場再生技術が研究開発されている.これらは,心理音響モデルに基づく方式と,物理音響モデルに基づく方式に大別できる.前者としては,5.1サラウンドから22.2マルチチャネル音響に至る様々な方式が提案されている.いずれも,2チャネルステレオの音像制御方式を基本としており,チャネル数を増やすことで,音場再生能力を向上させている.一方,後者は,音の物理量再現を目的とした方式であり,Wave Field Synthesisや境界音場制御法など,音の場の再現を目指す方式と,アンビソニックスに代表される,受音点での音の物理量を再現する方式に分けることができる.本稿では,これらの方式の基本技術を概観するとともに,その背景となる理論を紹介する.
日本は世界で最も超音波による骨粗鬆症診断が盛んな国である.骨粗鬆症診断に関して,米国国立衛生研究所(National Institute of Health:NIH)は2000年のコンセンサス会議で「骨質(Bone Quality)」を定義した.この骨質とは骨のマクロ・ミクロな構造や,材料物性,マイクロクラックなどの骨の強度に関与する様々な要因の総称である.超音波法による骨診断は骨中を伝搬する音波の伝搬速度や伝搬減衰の情報を引き出してくれる.これらの情報は骨質,特に骨の弾性的性質にも依存している.このような視点のもとで,本稿では骨粗鬆症の初期症状が現れやすい海綿骨部位を取り上げる.特に,縦波超音波の興味深い伝搬現象とその骨構造(異方性)との関係について述べ,この現象を利用した新しい超音波骨評価法について紹介する.