本研究では, DNAフィンガープリント法を用いて, 近交系マウスC57BL/6とC3H/Heの亜系マウスの同定と亜系統および亜系間の遺伝的類縁関係の分析を行った。C57BL/6の亜系統および亜系としては, Jackson研究所 (J) 由来のJ//Jcl, J//Yok, J//Nrs, J//Jms, J//Slc, とアメリカNIH (N) 由来のN//Crj, N//Jcl, およびアメリカNational Cancer Institute (NCI) 由来のJahの8系統を用いた。C3H/Heの亜系統および亜系としては, J由来のJ, J//Jcl, J//Yok, J//Nrs, J//JmsとN由来のN, N//Jcl, N//Crj, およびNCI由来のNrs, Slc, Jahの11系統を用いた。プローブにはM13ファージの反復配列を用い, 制限酵素は
HinfIと
PstIを用いた。1) すべての亜系において, 同一亜系の個体は同一のフィンガープリント像を示した。2)
HinfIを用いたフィンガープリントでは大部分の亜系統で特有のバンディングパターンを示し, 相互に識別できたが, C3H/Heの亜系であるJ, J//Nrs, J//Yok間とN//Crj, Slc間では同一のパターンを示した。Pstlを用いた場合では, C3H/Heの亜系間では全く同じパターンを示し, C57BL/6の亜系においてもわずか5本のバンドで多型が見られる程度であった。3) 各亜系および亜系統間の遺伝的類縁関係を見るため, 制限酵素
HinfIを用いたフィンガープリントを用いて, デンドログラムを作成した。その結果, クラスターは大きくC57BL/6とC3H/Heの系統で大別された。C3H/Heでは, J由来とNIH由来 (NCI由来を含む) の亜系統マウス間では別のクラスターを構成し, その歴史的背景を反映していた。C57BL/6では, J由来のJ, J//Jms, J//SlcとJ//Yok, J//Nrsが別のクラスターを形成し, この間にNIH系 (NCI由来を含む) マウスのクラスターを形成していた。4) これらの結果からDNAフィンガープリント法は近交系マウス亜系についても, 遺伝的モニタリングや遺伝的類縁関係の解明に有効な手法となることが明らかにされた。
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