ファルマシア
Online ISSN : 2189-7026
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50 巻 , 1 号
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目次
  • 50 巻 (2014) 1 号 p. 2-3
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    特集にあたって:ファルマシアでフッ素化学の特集号を組むのは,1991年に続いて2度目となる.それから約20年が経過し,技術の進歩とともにフッ素化学を取り巻く環境は大きく変化した.今や医薬品とフッ素は切っても切れない仲であり,低分子医薬品の多くがフッ素官能基を有している.本特集号では,医薬品構造へのフッ素導入効果をはじめ,近年目覚ましい発展を遂げているフッ素官能基導入反応,同位体を用いたイメージング,フッ素化材料のライフサイエンス利用など,様々な側面からフッ素化学の進歩を紹介した.本特集号が読者の皆様のインスピレーションを刺激し,医薬品開発の一助になることを願っている.
    表紙の説明:フッ素元素は周期表上,右端上に位置し,他の元素とは性質を大きく異にする.水素原子の次に原子半径が小さいにもかかわらず,全元素中で電気陰性度が最大であるという,この個性あふれる元素は,有機分子中に導入すると,その分子の性質に劇的な変化を及ぼす.近年,これらフッ素原子の導入効果についての研究が進展しており,医薬品開発への利用が活発化している.
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オピニオン
  • 田口 武夫
    50 巻 (2014) 1 号 p. 1
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    十数年前になるが,アメリカ化学会フッ素部会でのシンポジウムの標語が“Fluorine, a small atom with a big ego”であった.「サイズは小さいが極めて個性豊かなフッ素」について理論と応用の両面から,より一層の新知見や新技術さらにフッ素の有効利用について議論しようという趣旨であり,フッ素の特徴を的確に表現したものである.フッ素化合物の重要な応用分野は,工学的展開における機能性材料と生物活性や薬理効果に基づく医薬品や農薬とに大別でき,現代社会においてフッ素化合物の利用は不可欠である.
    1928年にフロンガスが,1938年にポリテトラフルオロエチレン(テフロン)が発見された.そして第2次世界大戦を経て20世紀半ば以降にフッ素化合物が我々の身の回りに数多く出現し,フッ素の利用は大きな躍進を遂げてきた.他の元素では実現できないフッ素の極めて特異な性質によるものであり,フッ素化学は20世紀の歴史の1ページを飾るものと言えよう.しかし,1974年ローランド博士らによって,大気圏内で難分解性のフロン(クロロフルオロカーボン類)による成層圏オゾン層の破壊が指摘され,さらにフロンは地球温暖化の一因としても認識された.1996年の特定フロンの全廃,使用上の規制や回収・分解技術の構築,代替フロン開発の必要性などは,フッ素化学のイメージダウンとなった.一方で,エネルギーと環境問題に関連する電池分野,技術革新の著しい半導体分野,さらにナノマテリアルをはじめとする新材料分野でフッ素化学は急速に発展し,今後も飛躍的に拡大していくものと思われる.
    医農薬分野でもフッ素の利用には着実な進展が見られる.1953年に発表されたコルチゾール9位へのフッ素導入による抗炎症作用の増強,また5-フルオロウラシルのチミジン生合成阻害による抗悪性腫瘍薬としての登場は,医薬品開発におけるフッ素の利用と有機フッ素化合物の合成法の開発を著しく促進させることになった.現在臨床で用いられている合成医薬品の約16%が含フッ素化合物であり,最近20年間の開発品でもこの数字はほぼ同じである(538品目中90品目が含フッ素化合物).農薬分野ではフッ素の利用は極めて大きい.農薬全体に占める含フッ素化合物は約17%であるが,2001年以降に発売された農薬は実に52%が含フッ素化合物である.医薬品と農薬では認可の基準が異なるが,フッ素導入により活性の改善が顕著であることを示している.
    生物活性や薬理効果を考慮したときのフッ素の主な特性は,(1)原子サイズが水素に次いで小さいことに基づく水素のミミック効果,(2)全元素中で最大の電気陰性度に基づく静電的因子,(3)炭素―フッ素結合の大きな結合エネルギーに基づく代謝的安定性,(4)フッ素導入による疎水性の変化に基づく体内動態への影響などである.さらに最近では,X線結晶構造解析データに基づいたフッ素含有薬物のC―F結合と標的の酵素や受容体タンパク質との詳細な相互作用解析など,フッ素導入効果に関する議論に新しい切り口が提案されている(参考:MEDCHEM NEWS,19,7―12(2009)など).現実にはフッ素置換体を含めた多くの関連誘導体の構造活性相関の検討から新薬候補が誕生するが,フッ素誘導体の今後ますますの活躍を大いに期待している.
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Editor's Eye
挑戦者からのメッセージ
  • 尾島 巌
    50 巻 (2014) 1 号 p. 11-13
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    ファルマシア委員会より本特集号のコラム「挑戦者からのメッセージ」に執筆して欲しいとの依頼があった.このコラムの前例を幾つか送っていただいたが,どうも定年退官時の著名教授あるいは功成り名遂げた社長が研究人生を振り返って,若い世代に激励のメッセージを送るという趣旨のようである.私は68歳になったが,米国の大学には定年がないので完全に現役で,大学院生,博士研究員達と研究教育に励んでいる.しかし考えてみれば,私も若い世代に何かメッセージを残す歳になったのかもしれない.今春米国化学会のフッ素化学賞を受賞したので,この特集号のコラムにちょうどよいと考えられたのであろう.どの程度お役に立つかは分からないが,まず有機フッ素化学のバイオメディカル分野での現状について簡単に述べ,その後,30年以上にわたる私とフッ素化学との触れ合い,研究テーマ,研究戦略の変遷等について述べたい.
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セミナー
  • 井上 宗宣
    50 巻 (2014) 1 号 p. 14-18
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    フッ素は医薬品において重要な役割を果たしている元素である.毎年Academic Pressから出版されるAnnual Reports in Medicinal Chemistryの“To Market, To Market”の章には,新たに発売された医薬品の構造と薬効が記載されている.1991~2011年の間に売り出された新薬の統計をとると,21年間に645種の薬が発売され,そのうち92種にフッ素原子が含まれている.実に約14%が含フッ素医薬ということになる.また,2012年度世界の大型医薬品売上高ランキングトップ35以内に,プロピオン酸フルチカゾン(4位,抗喘息薬),ロスバスタチン(5位,高脂血症用薬),シタグリプチン(10位,糖尿病治療薬),アトルバスタチン(15位,高脂血症用薬),エファビレンツ(27位,抗HIV薬),エムトリシタビン(31位,抗HIV薬),セレコキシブ(34位,抗炎症薬)の7種類の含フッ素医薬が入っている(図1).抗体医薬などの高分子医薬を除外すると,トップ10以内のすべての低分子医薬(3種)にフッ素原子が含まれている.
    このように,フッ素は医薬品開発において水素,炭素,酸素,窒素,硫黄に続いてよく利用される元素である.当研究所では毎年フッ素相模セミナーを開催し,含フッ素医薬の全構造を紹介している.この講演資料はweb上で公開されている.本稿では,含フッ素医薬の歴史,構造的特徴,合成法に関して,近年のトレンドを含めて概説したい.
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セミナー
  • 網井 秀樹
    50 巻 (2014) 1 号 p. 19-23
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    有機フッ素化合物は,医薬,農薬,液晶材料,高分子材料など様々な産業分野で利用されている.特に,医薬開発において有機フッ素化合物が果たす役割は大きい.現在販売されている医薬品化合物のうちフッ素を含むものは約150種類に上り,全体の2割を占める.中でも,芳香族トリフルオロメチル化合物の利用は顕著である(図1).
    トリフルオロメチル基を有機分子に導入することにより,1)疎水性の向上,2)強い電子求引性,3)置換基としての特徴的な大きさ,4)酸化的代謝の抑制(強固なC-F結合)などが賦与できる.その結果,薬理効果の発現,生体内での吸収/輸送の改善,作用選択性の向上が期待できる.
    高度に官能基化された芳香族母核に対し,トリフルオロメチル基を直接導入する手法は,ドラッグ・スクリーニングや新規材料化合物開発等の観点から非常に有用である.本稿では,国内外で活発に研究が行われている芳香族トリフルオロメチル化反応についての研究動向を紹介する.
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最前線
  • 江上 寛通, 袖岡 幹子
    50 巻 (2014) 1 号 p. 24-28
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    生物活性分子の代謝安定性等の物性を改善するために,フッ素原子を含む官能基を分子に導入することは,医薬化学研究における重要なアプローチである.そのためこれまで多くの含フッ素生物活性分子が合成され,実際にたくさんの含フッ素医薬や農薬が開発されている.著者らは長年不斉フッ素化反応の開発に取り組んできたが,それに関しては既に総説なども書いているのでそちらを参照していただくとして,ここでは著者らが最近取り組んでいるトリフルオロメチル(CF3)化反応について取り上げたい.
    CF3基は,医薬や農薬の候補化合物に導入することにより,代謝安定性,脂溶性,疎水性の向上や,生物活性自体の改善も期待できることから,特に注目されている官能基の1つである.それゆえに,CF3基を有機分子に組み込む方法論の開発は重要であり,多くの化学者により精力的な研究が行われている.これまで,芳香環へのCF3基導入反応は数多く報告されてきた.これに対し,脂肪族の炭素にCF3基を導入する反応は,限られた例に止まっていた.
    しかし最近,単純なオレフィン類に酸化的な条件でCF3基を導入する方法論の開発研究が活発に行われ,特に炭素―炭素二重結合をCF3化すると同時に,もう1つ官能基を分子に導入する合成化学的に有用な反応が多数報告されるようになった.このようなアプローチは古くからあったものの,Togni試薬や梅本試薬などの求電子的なCF3化試薬を利用することで,近年急激に進展しつつある.そこで本稿では著者らの研究を中心に,最近報告されているオレフィン類のCF3化反応に関して概説する.
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最前線
  • 古谷 建
    50 巻 (2014) 1 号 p. 29-33
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    医薬品化学の分野におけるフッ素原子の重要性は古くから認知されており,1950年代にはステロイドをフッ素化することでその薬効や選択性が向上し得ることや,ピリミジン塩基をフッ素化した5-フルオロウラシルの抗がん作用などが報告されている.近年の米国における売り上げ上位30位の医薬品の3分の1がフッ素原子を含んでいることからも,その重要性を疑う余地はないであろう.
    また近年「化合物合成終盤におけるフッ素原子導入(late-stage fluorination)」という概念が注目を集めている.フッ素に限らず医薬品化学に汎用される原子や置換基であれば何であれ,化合物合成の終盤に導入することができれば合成経路の一般性と効率が高まるために有利となるのは論を待たない.ではなぜ,例えば塩素やシクロプロピル基のように医薬品化学の分野で頻繁に用いられる他の置換基と異なり,フッ素のみがこのような注目のされ方をしているのだろうか?
    その理由として,①フッ素化のように本質的に困難な官能基変換を合成の終盤で行うことが近年の化学の進歩によって,ようやく技術的に可能になり始めていること,②フッ素化が医薬品化学の中でも取り分け有用であること,そして③フッ素の放射性同位体(18F)を用いたポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)測定の有用性と18Fの半減期による制約,が挙げられる.以下,本稿ではこの3点を解説する.
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最前線
  • 飯倉 仁
    50 巻 (2014) 1 号 p. 34-38
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    低分子医薬品に求められる性質として,薬効,物理化学的性質(physicochemical property:PCP,水溶性や膜透過性,代謝安定性などの経口投与のために必要な性質群),安全性(変異原性,CYP阻害,一般毒性など)などが挙げられる.これらの性質のうち1つでも基準値に満たないと,医薬品として世に出ることは難しい.低分子創薬の医薬品最適化では,化学修飾を施して1つの性質を改良させると他の性質が悪化して基準値を下回ってしまうことが頻繁に起こる.創薬化学者は多くの時間を,あと一歩のところで臨床開発に値する化合物創出に至らないジレンマとの格闘に費やしている.
    このようなジレンマを解決する手法として,リード化合物の構造変化を最小限に留める化学修飾の価値は高い.構造変化が小さいため,特定の性質が改良された際の,残りの性質への影響が小さくなる可能性が高いからである.
    フッ素置換(炭素―水素結合の炭素―フッ素結合への置き換え)は,導入するフッ素原子の近傍に存在する官能基(例えばアミノ基)との相互作用を無視できる場合には,リード化合物の立体的構造変化を最小に留めると同時に,分子全体の極性変化も限定された化学修飾である.本稿では,この長所を活用する手法として,簡便なフッ素スキャン法※1の開発を述べる.本法では,リード化合物の様々な位置にランダムにフッ素原子を導入して最適位置を容易に探索することが可能になる.また,フッ素原子導入の効果を述べるとともに,窒素置換(炭素原子の窒素原子への置き換え)をランダムに行った窒素スキャンとの効果の対比を述べる.窒素置換は立体的な構造変化が小さい点でフッ素置換と類似する一方で,分子全体の極性変化がより大きい点でフッ素置換と対照的である.我々は,フッ素スキャンと窒素スキャンの2つの化学修飾を軸にして,臨床開発化合物1(CH5126766/RO5126766)を創出した.本化合物は,500種類存在するキナーゼの中から,Raf/Ras/MEK/ERK経路を構成する2つのキナーゼであるRafとMEKの機能を特異的に阻害する.
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セミナー
  • 松村 靖
    50 巻 (2014) 1 号 p. 39-43
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    フッ素は他の元素には見られない独特の物理化学的性質を有するため,生体内での吸収や代謝に与える効果に加えて,薬理作用の発現や増強に及ぼす影響が注目されている.医薬や農薬の分野において開発される含フッ素化合物の増加には,目を見張るものがある.今やフッ素による構造修飾は,ドラッグデザインの重要な手段の1つと言えるかもしれない.しかし一方で,構造修飾の手法は芳香環部位へのフッ素原子やCF3基の導入がほとんどであり,化合物の主鎖となる骨格や脂肪族置換基にフッ素を導入した例は限られている.また,薬物が受容体に結合するときのフッ素と受容体アミノ酸残基との直接的な相互作用やフッ素の立体電子的効果については,いまだによく分かっていない.
    さて,読者の皆様は,研究対象の化合物の構造を眺めていて,ふと「ここにフッ素を入れたら,面白い活性や物性が出るかもしれないなあ…」などと思われたことはないだろうか.
    我々は1980年頃より,プロスタグランジン(PG)などの生理活性物質にフッ素を導入した誘導体を合成し,フッ素が生理活性や物性に及ぼす効果について研究を行ってきた.何かフッ素の特徴を生かしたユニークなドラッグデザインができないだろうかと考えるとき,どのようにして目指す位置に選択的にフッ素を導入するかが常に問題となり,新たな合成法の開発が鍵となることを痛感してきた.
    本稿では,主鎖にジフルオロメチレン(-CF2-)骨格を持つPG誘導体について,フッ素の効果に焦点を絞って,ドラッグデザインとフッ素導入法を中心に概説し,緑内障治療薬タフルプロスト(tafluprost)の誕生に至る経緯を交えて紹介したい.
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最前線
  • 中村 竜也, 松下 尚嗣, 菊地 和也
    50 巻 (2014) 1 号 p. 44-48
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    核磁気共鳴画像化法(magnetic resonance imaging:MRI)は,静磁場中に置かれた核種の核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance:NMR)シグナルに,磁場勾配を用いて位置情報を付加し,コンピュータ上で核種分布の画像を再構成する生体断層イメージング法である.MRIは,生物個体内のありのままの情報を,高い空間分解能で無侵襲に追跡可能である.このため,各種信号パターンやパルスシーケンス法を用いて,様々な病変を特異的に可視化する手法が開発されている.この結果,水の拡散性,あるいは脂肪組織などの組織内成分の違いを基に,組織の質的違いを画像化する診断法が開発されてきた.
    本稿では,上記の物理原理に基づく計測手法の高精度化ではなく,化学原理に基づく分子プローブ開発について述べる.化学手法を用いる利点としては,様々な化学スイッチが組み込まれた分子プローブを開発することで,特定の分子情報や細胞情報を可視化できる可能性が高いことが挙げられる.
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セミナー
  • 高木 俊之, 馬場 照彦, 金森 敏幸
    50 巻 (2014) 1 号 p. 49-53
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    有機フッ素化合物は通例の有機化合物とは異なる特性や生物活性を示し,素材分野や医薬・農薬分野において幅広く利用されている.フッ素化素材は低エネルギー表面特性を有し,耐熱性,耐薬品性に優れるので,フライパンの焦げ付き防止コートや窓ガラスの曇止めなど,製品の形で身近に接する機会が多い.フッ素(F)原子のサイズは水素(H)原子に比べてやや大きいが,電気陰性度が原子中で最大であり,分子内に存在すると溶媒親和性(例えば脂溶性)が大きく変わるなどの特徴があるため,医薬・農薬において,リード化合物の修飾による性能向上などに一役買っている.また近年,非医用分野におけるバイオ材料として,有機フッ素化合物の一群であるフッ素化界面活性剤・脂質が注目されている.
    本稿では,膜タンパク質の構造・機能解析などに資するバイオ材料としてのフッ素化界面活性剤・脂質の最近の研究動向について,我々の研究を交えて紹介したい.
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セミナー
  • 堀 久男
    50 巻 (2014) 1 号 p. 54-58
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    有機フッ素化合物は耐熱性,耐薬品性,界面活性等の優れた性質を持つ.このため様々なところで使われているが,近年になって環境残留性や生体蓄積性,さらには廃棄物の分解処理が困難といった負の側面が顕在化しつつある.環境中で検出されているのは主に界面活性剤として用いられてきたペルフルオロアルキルスルホン酸類(PFAS類,CnF2n+1SO3H)やペルフルオロカルボン酸類(PFCA類,CnF2n+1COOH),およびそれらの誘導体である.中でもペルフルオロオクタンスルホン酸(C8F17SO3H,PFOS)やペルフルオロオクタン酸(C7F15COOH,PFOA)といった化合物は生体蓄積性が高いため,使用や排出に関する規制(自主規制も含む)が世界的に進行している.
    このような有機フッ素化合物の環境リスクの低減のためには,有害性の度合いに応じて排水や廃棄物の無害化を行う必要があるが,炭素・フッ素結合は炭素が形成する共有結合では最強なため容易に分解しない.焼却は可能であるものの,高温が必要であるだけでなく,生成するフッ化水素ガスが焼却炉材を損傷する問題がある.
    これらの物質をフッ化物イオン(F)まで分解できれば,既存の処理技術により環境無害なフッ化カルシウムに変換できる.フッ化カルシウムの鉱物は蛍石で,硫酸処理によりフッ素ポリマーを含むすべての有機フッ素化合物の原料であるフッ化水素酸になるため,フッ素資源の循環利用にも寄与できる(図1).これまでにも電子線照射やプラズマ等の高エネルギー的な手法を使えば,フッ素ポリマーでさえ分解できることは知られていた.しかしその場合,毒性が非常に高いペルフルオロイソブチレン(CF3C(CF3)CF2,PFIB)や温暖化係数が二酸化炭素の数千倍のテトラフルオロメタン(CF4)等の有害ガスの発生が懸念されている.
    以上の背景から,我々はPFCA類やPFAS類,さらにはそれらの誘導体について種々の比較的穏和な反応手法を開発し,Fまでの完全分解,すなわち無機化を達成してきた.本稿ではそれらについて,他の研究者の報告例も交えて報告したい.
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FYI(用語解説)
  • 古谷 建
    50 巻 (2014) 1 号 p. 59_1
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    医薬品開発の初期段階において,メディシナルケミストはリード化合物の生理活性や選択性の向上,薬物動態や毒性の改善を目指し,誘導体を効率的に合成しなければならない.化合物へフッ素原子を導入すると,体内での代謝に対する安定性,バイオアベイラビリティ,血液脳関門透過性などの薬物動態,生理活性や選択性が変化することが多い.そこで,これらの効果を期待して,リード化合物上のC-H結合を1つ1つ網羅的にC-F結合へと変換し,あたかもフッ素原子が化合物上を歩いたかのように,順にフッ素化された誘導体を合成する手法がよく用いられる.このことを“fluorine walk”と呼ぶ.
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  • 高木 俊之, 馬場 照彦, 金森 敏幸
    50 巻 (2014) 1 号 p. 59_2
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    粘度の逆数として定義される「流動性」は,本来は巨視的物理量だが,生体膜のような分子膜内の微視的な動きやすさを表す概念として標題語が頻用されている.粘度依存的応答を示すプローブ(蛍光色素等)を膜内に標識して挙動を観測し,別途,粘度既知の溶媒に溶かしたプローブの挙動と比較することで,巨視的流動性の量として膜流動性が定量化できる.しかし,異方的で不均質な膜内の微視的な動きやすさを巨視的量で表すのは必ずしも適切でない.実際には,膜分子も含むプローブ分子の回転・並進拡散係数,分子内異性化速度,flip-flop速度など,各種分子運動にかかわる微視的物理量を多面的に評価して膜流動性の程度を議論することが多い.
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  • 堀 久男
    50 巻 (2014) 1 号 p. 59_3
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    促進酸化法とは,過酸化水素やオゾンを酸化剤として直接利用するわけではなく,それらを組み合わせたり,それらに紫外線や超音波等を照射することでヒドロキシラジカル(OHラジカル)を生成させて,水中の難分解性有機化合物を分解する方法である.OHラジカルは,pH等の反応条件が整えば過酸化水素やオゾンをそのまま用いた場合よりも高い酸化力を示し,有機化合物に対して電子移動反応,水素引き抜き反応,不飽和結合への付加反応等を起こす.これらの反応により水中の有機化合物の濃度を低減させることができ,様々な水処理プロセスに用いられている.
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  • 堀 久男
    50 巻 (2014) 1 号 p. 59_4
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    水の臨界点(374℃,22.1MPa)を超える温度・圧力の状態は超臨界水と呼ばれるが,臨界点よりもやや低い領域にある高温,高圧の水(液体)が亜臨界水である.亜臨界水や超臨界水は無極性の有機化合物を溶解し,有機化合物を加水分解する等,普通の水にはない性質を持っている.水は地球上に豊富に存在する資源であり,化学的に安定で環境に負荷もかけないことから,近年様々な領域で活用が検討されている.
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トピックス
  • 住井 裕司
    50 巻 (2014) 1 号 p. 61
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    遷移金属を用いる炭素-ヘテロ原子のクロスカップリング反応において,チオールをカップリング種として用いた場合,合成中間体として重要なスルフィドやスルホキシドが容易に得られる利点がある.しかし,多くの場合50℃以上の加熱や,高価なパラジウム触媒や配位子が必要であった.最近PetersとFuらは,光で活性化させた銅触媒を用い,アミンとヨウ化アリールを室温以下でカップリングできることを報告している.この反応はこれまでの遷移金属の反応と異なり,一電子移動を経て反応が進行していると推定される.彼らはこの反応をさらに展開させ,これまで困難であった温和な条件下でのチオール基のクロスカップリング反応を報告したので,今回紹介する.
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  • 美多 剛
    50 巻 (2014) 1 号 p. 62
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    一般にイリジウム触媒を用いるアリル位置換反応では,アリルエステル等がイリジウムに酸化的付加し,生じた求電子的なπ-アリルイリジウム種が置換基を有するアリル炭素上で求核剤と反応するため,分枝成績体が選択的に得られる.パラジウム触媒を用いる辻-Trost型反応では直鎖状の生成物を生じるため,相補的な反応として有機合成化学に幅広く用いられてきた.一方,1997年の武内らによる初のイリジウム触媒によるアリル位置換反応の開発を契機として多くの化学者がその不斉触媒化に取り組んだ.その結果,不斉配位子としてホスホロアミダイトが極めて有効に機能するということがHartwig,Carreiraらによって報告され,様々な求核剤の使用が可能となった.特にCarreiraによって開発されたリン,オレフィン二座配位型のホスホロアミダイトL-イリジウム錯体は,Brønsted酸等と組み合わせることによって,無保護の単純なアリルアルコールからでもアリル位置換反応が効率良く進行する.
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  • 高橋 伸治
    50 巻 (2014) 1 号 p. 63
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    天然物は,機能性食品,化学プローブ,医薬品開発のための優れた資源であり,構造多様性に富む生物指向型ライブラリーとして近年再評価されている.
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  • 清水 広介
    50 巻 (2014) 1 号 p. 64
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    近年,がんを含む多くの疾患の早期診断が可能となり,その治療効果が上がりつつあるのは,分子イメージング技術の目覚ましい発展によるものと言っても過言ではない.また学術論文に掲載されるデータにも,色鮮やかなイメージング画像を使ったものが増えてきた.これは,結果を測る(量る)データとして示すだけでなく,見るデータを加えることにより厚みが増し,信頼性を向上させるのにも一役買っている.特に近赤外蛍光(Near-infrared fluorescence:NIRF)イメージングは,ポジトロン断層法(PET)等に比べ簡便に実施できるため,広く用いられるようになっている.一例としてProulxらは,インドシアニングリーン内封リポソームを作製し,固形がんにおけるリンパ管機能のイメージングに成功している.このように分子イメージングは,研究から臨床まで幅広い領域で利用されている技術である.
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  • 柴田 圭輔
    50 巻 (2014) 1 号 p. 65
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    世界人口の約16%(およそ10億人)がうつ病関連疾患に悩まされている今日,病態メカニズムの解明および治療法の開発は喫緊の課題である.うつ病に関する研究は古くから行われてきたが,その焦点はほとんど神経細胞に当てられていた.1998年,うつ病患者の前頭前皮質においてグリア細胞数が減少していることが報告されたことを皮切りに,うつ病におけるグリア細胞の重要性が次々に報告されている.しかし,うつ病とグリア細胞機能の関連性はいまだ十分に理解されていない.本稿では,グリア細胞の1つであるアストロサイトが放出するATPが,うつ病の病態メカニズムにおいて重要な役割を担うことを明らかとした論文を紹介する.
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  • 波多野 紀行
    50 巻 (2014) 1 号 p. 66
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患(IBD)は,消化管の慢性的な炎症を主徴とする原因不明の疾患であり,最近話題になることが多い潰瘍性大腸炎やクローン病はその代表例である.1970年代以降その患者数は急増しており,2009年度における患者数は約15万人と報告されている.IBDの主な症状は下痢,腹痛,血便であり,緩解・再燃を繰り返す.現在においてもIBDの完治は困難であり,病態機構の解明および創薬標的の探索が精力的に行われている.今回,IBDモデルマウスにおいて,transient receptor potential melastatin 8(TRPM8)の活性化が大腸炎を抑制することが報告されたので,以下に紹介したい.
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  • 更家 信
    50 巻 (2014) 1 号 p. 67
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    微生物は,自然現象である風送ダストや海流,人的要因である船舶のバラスト水などに伴って長距離を移動し,ときに到達地に定着すると言われている.これらの微生物は到達地のヒトの健康に影響を与える可能性が考えられ,近年研究が進められている.中でも代表的な風送ダストであるサハラダストでは,毎年10億トンもの砂が風に巻き上げられ大陸を広く移動し,その一部は大西洋を超えアメリカ大陸にまで達する.この砂粒子を“ヒッチハイク”する微生物が到達地に及ぼす影響・リスクを考察する際,その属種に関する情報は重要となる.
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  • 濱口 良平
    50 巻 (2014) 1 号 p. 68
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    ニーマンピック病C型(NPC)は,リソソームの異常によって生じる希少疾患の1つである.NPCには発症年齢に個人差があり,乳児型,幼児型,若年型,成人型に大別されている.主な症状としては,肝肥大や肝脾腫といった肝機能障害,カタプレキシー,ジストニアおよび精神・運動発達遅滞などの中枢神経障害が挙げられる.NPCの発症要因が,コレステロールの細胞内輸送に関連する遺伝子であるNPC1またはNPC2の変異であることは知られているが,その発症メカニズムは不明であるため,いまだ有効な治療法が確立されていない.
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  • 斉藤 毅
    50 巻 (2014) 1 号 p. 69
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    オレキシン(ヒポクレチン)は,摂食調節や睡眠・覚醒の制御など重要な生理機能を誘導する神経ペプチドであり,AとBの2種が知られている.オレキシンの発見以来,国内外の多くの製薬企業がオレキシン受容体拮抗薬の開発に乗り出し,最近では不眠症治療薬としてスボレキサントが米国食品医薬品局へ承認申請されたことでも記憶に新しい.オレキシン受容体拮抗薬は,睡眠へ直接的に誘導できることから画期的な新薬として期待されている.一方,オレキシン受容体には1型(OXR-1)と2型(OXR-2)が存在し,選択的拮抗薬とデュアル拮抗薬のどちらを開発すればよいかという明確な知見はない.これまでに臨床試験に辿り着いた拮抗薬はいずれもデュアル拮抗薬であり,スボレキサントを除いては,すべて開発から撤退されている.そこで本稿では,今後のオレキシン受容体拮抗薬開発に影響を与えると考えられる,Steinerらによって見いだされた1型受容体に対する選択的拮抗薬の開発とその薬理作用について紹介する.
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  • 佐藤 伸一
    50 巻 (2014) 1 号 p. 70
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    共有結合形成型の酵素阻害薬は求電子構造を持ち,標的タンパク質上のシステイン等の求核性アミノ酸残基との共有結合形成反応を引き起こす.そのメリットとして,不可逆的な結合による阻害作用時間の増大や,タンパク質構造上のシステインの位置を狙った標的選択性,親和性の向上が挙げられる.しかし,生体には標的以外にも無数の求核性残基や高反応性システイン残基が存在し,阻害薬の求電子構造との非特異的な不可逆的結合,それに起因する毒性発現が大きな問題として存在する.
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  • 稲垣 喜三
    50 巻 (2014) 1 号 p. 7_1
    公開日: 2016/02/01
    ジャーナル フリー
    フッ素(F2)は元素の中で最も強い反応性を有し,その反応性の強さは「電気陰性度の高さ」に由来する.フッ素の原子では,原子核の周りを内側に2個,外側に7個の9個の電子が回っている.この外側の電子殻は,8個目の電子が入った時に最も安定になるため,フッ素は周辺にある元素から電子を奪い取り,マイナスイオンになろうとする性質がある.そして,フッ素は電子を原子核近くへ引き込むため,フッ素を含む化合物は分子間に働く力が小さくなり,同程度の大きさの分子に比べて沸点が低くなる.
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