ファルマシア
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60 巻, 5 号
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目次
  • 2024 年 60 巻 5 号 p. 376-377
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル フリー

    特集:筋萎縮性側索硬化症(ALS)のUp to Date

    特集にあたって:筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,筋肉を動かす神経が何らかの原因で損傷することで発症する,根本治療法のない難病である.いくつかの薬物が治療に用いられるほか,新薬の臨床試験も進んでいるものの,十分な満足度の得られる医薬品の開発が今後も必要である.最近の研究から,いくつかのタンパク質のリン酸化やミスフォールディングによる凝集体形成が病態に関与すること,興奮性神経伝達物質受容体の活性化が起こっていることなど,ALSの理解と創薬につながる知見が得られつつある.本特集では,ALSの原因,病態から治療に至る最新の知見を,この分野のエキスパートの先生方にご紹介いただく.

    表紙の説明:筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,神経を原因とする筋疾患であり,根本治療法のない難病であるが,様々な分野での研究が進められている.

オピニオン
  • 山中 宏二
    2024 年 60 巻 5 号 p. 375
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    運動神経を傷害する神経変性疾患として知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症メカニズムや病態解明、治療法開発に向けた研究が近年進展している。特に、さまざまな原因遺伝子の同定とその解析、病因タンパク質としてのTDP-43の発見、ALS患者由来iPS細胞や遺伝子改変動物などの病態モデルの開発が、本疾患の研究の発展を支えてきた。本特集では、ALSの発症メカニズム解明、治療法開発に向けたUp to Dateな知見を、我が国のトップランナーによる総説にて紹介いただく。

Editor's Eye
最前線
最前線
  • グリンパティック仮説の現在
    三澤 日出巳
    2024 年 60 巻 5 号 p. 388-392
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    脳と脊髄は脳脊髄液(CSF)に浮いた特殊な環境に存在する. CSFの役割として, 衝撃保護液としての働きだけではなく, 脳物流に積極的に関与することが発見され, 「脳のゴミ処理システム」としての重要性が認識されつつある. パラダイムシフトが起こりつつあるCSF循環の新たな概念と, 脳内水環境の制御に重要なアクアポリン4とグリンパティックシステムの関連について, ALSモデルマウスを用いた著者らの解析を含め, 最近の動向を概説する.

最前線
  • TDP-43による運動神経回路内の病態の進行
    坪口 晋太朗, 小野 寺理, 上野 将紀
    2024 年 60 巻 5 号 p. 393-397
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,運動ニューロンが変性し,筋が動かなくなる難病である.病態の進行において,神経細胞に蓄積するTDP-43が神経回路内を伝播する可能性が提唱されている.著者らは,TDP-43の伝播を検証可能なマウスモデルを確立し解析を行った.結果,TDP-43はオリゴデンドロサイト以外,神経回路内を伝播しなかったが,TDP-43が蓄積した運動ニューロンから,脊髄や筋へと,病巣の遠位への病態進行が見出された.この結果は,従来の伝播仮説と異なる病態進行機序を提起している.

最前線
  • 田原 進也, 中林 孝和
    2024 年 60 巻 5 号 p. 398-403
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    抗酸化タンパク質である銅-亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質の一つとしても知られている。我々はSOD1の毒性発現機構について、ミスフォールディングによってSOD1が獲得する酸化促進性の観点から研究を行ってきた。最近では、SOD1のオリゴマーが示す強毒性の原因の一つが、SOD1が獲得した酸化促進性であることを提案した。本記事ではSOD1の酸化促進性獲得機構に関するこれまでの研究を解説し、最新のトピックである液-液相分離との関係についても議論する。

最前線
最前線
最前線
最前線
最前線
セミナー:創薬科学賞
日本ベンチャーの底力 その技術と発想力
薬用植物園の花ごよみ
日本人が知らないJAPAN
  • イヒム ステラ アマラチ
    2024 年 60 巻 5 号 p. 441
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    日本への留学は、文化と生活に対する私の見方を一変する未知の世界への旅でした。言語、交通機関の複雑さ、文化的違いに適応することは、バスとの追いかけっこのようなハプニングを含む様々な試練をもたらしました。通勤時間、コミュニケーションスタイル、食文化への適応は、特筆すべきカルチャーショックでした。家族を持ちながらの日本留学は、彩りと試練を伴い、周囲からの支援により一層豊かなものとなりました。この経験は私の日本文化への理解を深め、生涯に渡る繋がりを育んだ人生において特別な時となりました。

期待の若手
期待の若手
トピックス
  • 宮坂 忠親
    2024 年 60 巻 5 号 p. 444
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    脂肪族アミンや含窒素ヘテロ環は天然物や医農薬品に多く見られる重要な構造であり,これまでに多くのC(sp3)-N結合形成反応が開発されてきた.Beckmann転位やCurtius転位は,C-C結合をC-N結合に変換する有用な反応として知られているが,カルボニルを有する基質に限定され,導入できる窒素官能基には限りがあった.一方,アルケンは天然物や工業用化学物質により豊富に存在するため,隣接するC(sp3)-C(sp2)結合をC(sp3)-N結合に変換することができれば,複雑な含窒素化合物の有用な合成法になりうる.しかし,C(sp3)-C(sp2)結合は強力な結合エネルギー(102kcal/mol)を持つため,切断は容易ではない. Heらはアルケンのオゾン分解により生じる過酸化物1に対して銅触媒を作用させるとSETが起こり,弱いO-O結合(ca. 45kcal/mol)が切断され,アルキルラジカル2が生じ,さらにラジカル2が任意のアミンとカップリングして,新たにC(sp3)-N結合が形成されると仮説を立てた.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) He Z. et al., Science, 381, 877–886(2023).

  • 馬 悦
    2024 年 60 巻 5 号 p. 445
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    生体高分子の1つである核酸は,特殊な高次構造に折りたたまれることで多様な生命現象に関わることが知られている.これらの中でグアニン四重鎖(G-quadruplex; G4)構造は,がん関連遺伝子の発現やRNA代謝,各種疾患などを含む様々な細胞プロセスを制御することから,薬剤開発の有望な治療標的として広く研究されている.本稿では,特定のRNAで形成されるG4構造(rG4)に対して特異的に結合するペプチドの同定と,これを用いた目的とするrG4の遺伝子制御について,最新の知見を述べる.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Lyu K. et al., Nucleic Acids Res., 49, 5426–5450(2021).

    2) Liu K. C. et al., J. Am. Chem. Soc., 142, 8367–8373(2020).

    3) Mou X., Kwok C. K., J. Am. Chem. Soc., 145, 18693–18697(2023).

    4) Ngo K. H. et al., Chem. Commun., 56, 1082–1084(2020).

    5) Zheng K. -W. et al., Nucleic Acids Res., 48, 11706–11720(2020).

  • 内倉 崇
    2024 年 60 巻 5 号 p. 446
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    微生物,植物,海洋生物など天然資源を由来とする天然化合物は,医薬品のシード化合物の供給源として重要な役割を担っている.しかし,天然資源から「ものとり」をした後に化合物を同定するという従来の方法では,新規生物活性物質を獲得することが非常に困難になっている.2012年にWatrousらによって紹介された分子ネットワーキングは,ターゲットとした天然化合物を複雑な混合物から合理的に単離することを目的として確立されたデレプリケーション(迅速,かつ効率的な既知化合物の同定)ツールであり,新規化合物探索において効果的なアプローチである.分子ネットワーキングの原理は,分子ネットワークの中で抽出物,純粋な化合物のような生物学的サンプルのタンデム質量分析(MS2)データを調整し,可視化することに基づいている.検出された化合物は点(ノード)として表示され,同じようなMS2スペクトルを有する構造的に関連した化合物は,線によってつながれ,分子ファミリーが形成される.分子ネットワーク中の参照MS2スペクトルデータとの比較により既知化合物の点に注釈がつけられる.近年,生物活性データが分子ネットワーキングに統合された多情報分子ネットワーキングにより,単離する前に生物活性を有する天然化合物を同定できるようになった.これにより生物活性の知られている化合物よりも,新規生物活性物質を優先してターゲットとすることが可能となる.それゆえ,昨今,新規化合物の単離が困難になっている現状においては,多情報分子ネットワーキングが非常に有用なツールとなり得ると考えられる.本稿では,マメ科小高木コウキ(Pterocarpus santalinus L. f.)の心材抽出物の成分探索に対して多情報分子ネットワーキングを適用することで,抗新型コロナウイルス活性を有する天然化合物を見いだしたWasilewiczらによる研究を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Watrous J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 109, E1743–E1752(2012).

    2) Wasilewicz A. et al., Front. Mol. Biosci., 10, 1202394(2023).

    3) Ter Ellen B. M. et al., Viruses, 13, 1335(2021).

  • 重光 孟
    2024 年 60 巻 5 号 p. 447
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    免疫療法は,近年急速に発展しているがん治療法であり,大きな期待を集めている.しかしながら,エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の発現およびヒト上皮成長因子受容体の過剰発現が見られず,免疫原性に乏しく“cold”ながん細胞であるトリプルネガティブ乳がん細胞(triple negative breast cancer: TNBC)には効果が低いことが課題となっている.また,光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)や光温熱療法(photothermal therapy: PTT)はがん細胞の抗原提示細胞の成熟に関連していることが知られ,免疫療法を改善する手法として非常に有望であるが, やはりTNBCに対する効果は低く,これを打破する戦略が求められている.

    本稿では,光免疫療法の効果を一酸化炭素(CO)と硫化水素(H2S)ガスによって増幅させ,効果的なTNBCの治療に成功した例を紹介する.COおよびH2Sは細胞内でミトコンドリア膜の脱分極などによって機能障害を誘発し,mitochondria DNA(mtDNA)の放出を促進する.これによって,免疫応答において重要なcGAS-STING(cyclic GMP-AMP synthase-stimulator of interferon genes)経路を活性化する.cGASは異物DNAを認識した後,STINGタンパク質を活性化させることで,インターフェロンや他の免疫関連サイトカインの産生を促進する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Riley R. S. et al., Nat. Rev. Drug Discov., 18, 175-196(2019).

    2) Xie Z. et al., Chem. Soc. Rev., 49, 8065-8087(2020).

    3) Wang K. et al., Nat. Commun., 14, 2950(2023).

  • 清野 涼
    2024 年 60 巻 5 号 p. 448
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    アミノ酸の一種であるシステインは,細胞外では二量体であるシスチンとして存在し,シスチントランスポーターxCTにより取り込まれる.細胞内のシスチンは,システインに還元され抗酸化物質グルタチオン(GSH)の原料として細胞内レドックス制御に関与しており,多くのがん細胞ではシスチン取り込みを促進し細胞内GSHを高レベルに保つことで薬剤耐性を獲得している.この生存戦略に対抗するため,xCT阻害剤を用いてがん細胞のレドックスバランスを崩し細胞死の一種であるフェロトーシスを誘導する治療戦略が注目を浴びている.一方で,アミノ酸飢餓は転写因子であるATF4を介した抗酸化ストレス応答を招き,がん細胞のフェロトーシスを抑制してしまう.システインを巡るこのパラドックスの解消が治療最適化への課題となっている.本稿ではライソゾーム内シスチンがATF4を介したストレス応答を制御することを明らかにしたSwandaらの報告を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Lin W. et al., Am. J. Cancer Res., 10, 3106–3126(2020).

    2) Swanda R. V. et al., Mol. Cell, 83, 3347-3359(2023).

    3) Rizzollo F. et al., Trends Biochem. Sci., 46, 960–975(2021).

  • 繁冨 英治
    2024 年 60 巻 5 号 p. 449
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    児童虐待やネグレクトなど小児期に受けるストレスは,成人期のうつ病や統合失調症などの精神疾患の発症と関連が指摘されている.小児期のストレスはシナプスの減少や神経回路形成異常を引き起こして,その後の精神疾患への易罹患性・発症の原因の1つとして考えられている.今回,幼若期ストレスがシナプス・神経回路形成異常を起こす細胞メカニズムとして,脳のグリア細胞の1種であるアストロサイトが興奮性シナプスを過剰に貪食することが見いだされた. アストロサイトはMEGF10やMERTKといった貪食受容体を介して発達期および成体で不必要な興奮性シナプスを貪食することが示されている.今回,アストロサイトの貪食受容体発現制御メカニズムを明らかにするため,FDA承認済化合物ライブラリを用いてアストロサイト貪食を増加させる物質を探索したところ,32%のものが合成グルココルチコイド関連物質であった.合成グルココルチコイドはグルココルチコイド受容体(GR)の活性化を介して,アストロサイトの貪食受容体のうちMERTKを選択的に発現増加させ,貪食を促進させた.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Byun Y. G. et al., Immunity, 56, 2105-2120(2023).

    2) Chung W. S. et al., Nature, 504, 394-400(2013).

    3) Lee J. H. et al., Nature, 590, 612-617(2021).

  • 濵田 圭佑
    2024 年 60 巻 5 号 p. 450
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    腸内細菌は,食生活や衛生環境の影響を受け,多種多様な代謝産物やタンパク質,ペプチドを産生することで,宿主の生理・病態に関与する.腸内細菌の中には,宿主に存在する酵素と同様の機能を持つアイソザイム(同じ化学反応を触媒するが,タンパク質としての分子構造が異なる)を産生するものがあることも知られている.本稿では,ヒトおよびマウスの腸内細菌叢から宿主の生理機能に影響を与えるアイソザイムを同定し,その機能解析を実施した論文を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Wang K. et al., Science, 381, eadd5787 (2023).

    2) Olivares M. et al., Front. Microbiol., 9, 1900(2018).

  • 松沼 悟
    2024 年 60 巻 5 号 p. 451
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/01
    ジャーナル 認証あり

    ポリファーマシーとは,単に服用する薬剤数が多いことだけではなく,それに関連する薬物有害反応の発生リスクの増加や服薬過誤,服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態を指す.特に高齢者において大きな問題であり,「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月,厚生労働省)によると,75歳以上の人口の約40%に5種類以上,約25%に7種類以上の薬剤が処方されている.さらに,6種類以上の薬剤の使用によって薬物有害反応が増加することが報告されている.

    本稿では,豪州の高齢者施設における常勤薬剤師の配置による減薬効果に関するクラスターランダム化比較試験を紹介する.豪州ではResidential Medication Management Review(RMMR)という仕組みがあり,施設入所者に対して施設外の薬剤師が医師等の依頼を受け,面接や薬学的な臨床評価を不定期に実施している.本試験は,住宅型高齢者介護施設の入居者を対象とし,施設ごとに対照群または介入群のいずれかにランダムに割り当てられた.対照群では従来のRMMRが行われ,介入群では新たに雇用された薬剤師が週に2~2.5日勤務し,各入居者の薬剤管理のほか,カンファレンス参加,薬の相談応需,入居者・家族・スタッフの教育など医療チームにおける薬剤師として総合的に活動した.主要評価項目は,12か月後におけるAmerican Geriatrics Society BeersⓇ 2019 criteriaによって定義された潜在的に不適切な処方(Potentially Inappropriate Medications: PIMs)が含まれる割合の変化とされた.副次的評価項目は,Anticholinergic Cognitive Burden(ACB)スケールの平均値,併用薬剤数などであった.ACBスケールは抗コリン作用の強さを点数化したもので,認知機能障害がある場合は合計スコアを3未満に抑えることが推奨されている.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Kojima T. et al., Geriatr. Gerontol. Int., 12, 761-762(2012).

    2) Haider I. et al., Sci. Rep., 13, 15962(2023).

    3) Boustani M. et al., Aging Health, 4, 311-320(2008).

    4) the 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria® Update Expert Panel., J. Am. Geriatr. Soc., 71, 2052-2081(2023).

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