特集:筋萎縮性側索硬化症(ALS)のUp to Date
特集にあたって:筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,筋肉を動かす神経が何らかの原因で損傷することで発症する,根本治療法のない難病である.いくつかの薬物が治療に用いられるほか,新薬の臨床試験も進んでいるものの,十分な満足度の得られる医薬品の開発が今後も必要である.最近の研究から,いくつかのタンパク質のリン酸化やミスフォールディングによる凝集体形成が病態に関与すること,興奮性神経伝達物質受容体の活性化が起こっていることなど,ALSの理解と創薬につながる知見が得られつつある.本特集では,ALSの原因,病態から治療に至る最新の知見を,この分野のエキスパートの先生方にご紹介いただく.
表紙の説明:筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,神経を原因とする筋疾患であり,根本治療法のない難病であるが,様々な分野での研究が進められている.
運動神経を傷害する神経変性疾患として知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症メカニズムや病態解明、治療法開発に向けた研究が近年進展している。特に、さまざまな原因遺伝子の同定とその解析、病因タンパク質としてのTDP-43の発見、ALS患者由来iPS細胞や遺伝子改変動物などの病態モデルの開発が、本疾患の研究の発展を支えてきた。本特集では、ALSの発症メカニズム解明、治療法開発に向けたUp to Dateな知見を、我が国のトップランナーによる総説にて紹介いただく。
ピリジンやピリミジンの14Nを同位体15Nへと置き換える新手法,アリル歪みのドラッグデザインへの応用,遠隔操作により自動的に放出制御できるオンデマンド型経皮吸収パッチ,子宮内膜症は細菌感染が誘因となる,長期収載品の保険給付の在り方の見直しについて,入院時持参薬の登録間違いによる院内処方切り替え時の過誤について
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は未だ根本的治療法のない重篤な神経変性疾患であるが、治療法開発は確実に前に進んでいる。本稿では、ALSの中でも特にCu/Zn superoxide dismutase (SOD1)遺伝子変異により引き起こされるALSをターゲットとした治療法開発の最新の知見を概説し、さらなる治療薬開発に有用なデータベースについても紹介する。
脳と脊髄は脳脊髄液(CSF)に浮いた特殊な環境に存在する. CSFの役割として, 衝撃保護液としての働きだけではなく, 脳物流に積極的に関与することが発見され, 「脳のゴミ処理システム」としての重要性が認識されつつある. パラダイムシフトが起こりつつあるCSF循環の新たな概念と, 脳内水環境の制御に重要なアクアポリン4とグリンパティックシステムの関連について, ALSモデルマウスを用いた著者らの解析を含め, 最近の動向を概説する.
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,運動ニューロンが変性し,筋が動かなくなる難病である.病態の進行において,神経細胞に蓄積するTDP-43が神経回路内を伝播する可能性が提唱されている.著者らは,TDP-43の伝播を検証可能なマウスモデルを確立し解析を行った.結果,TDP-43はオリゴデンドロサイト以外,神経回路内を伝播しなかったが,TDP-43が蓄積した運動ニューロンから,脊髄や筋へと,病巣の遠位への病態進行が見出された.この結果は,従来の伝播仮説と異なる病態進行機序を提起している.
抗酸化タンパク質である銅-亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因タンパク質の一つとしても知られている。我々はSOD1の毒性発現機構について、ミスフォールディングによってSOD1が獲得する酸化促進性の観点から研究を行ってきた。最近では、SOD1のオリゴマーが示す強毒性の原因の一つが、SOD1が獲得した酸化促進性であることを提案した。本記事ではSOD1の酸化促進性獲得機構に関するこれまでの研究を解説し、最新のトピックである液-液相分離との関係についても議論する。
タンパク質は様々な生命活動を支える生体高分子で、適切な構造を成すことで生理機能を発揮する。しかし、変異導入などが原因となり、タンパク質が本来とは異なる構造を呈すると、様々な疾患の病態形成に関与する。本稿では、構造異常を呈したタンパク質が関与する疾患のうち、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に焦点を当て、スーパーオキシドジスムターゼ-1(SOD1)の構造異常がALSの病態形成に及ぼす影響を紹介する。
難病中の難病である筋萎縮性側索硬化症の病態解明と治療法開発を目指し、著者らは全く新たな観点=脊髄前角細胞から末梢へ伸びる末梢神経軸索を「導管」に見立て、運ばれてくる異常蛋白の除去機構を疾患モデルを用いて検討した。その結果、マクロファージは確かに異常蛋白のクリアランスに寄与しており、これらのマクロファージ除去により脊髄前角細胞の脱落が促進した。末梢神経軸索輸送を介した異常蛋白の運搬除去に、マクロファージが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は運動神経の変性により歩行障害、呼吸障害、嚥下障害が進行し、日常生活動作に大きく障害を来す神経変性疾患である。iPS細胞由来運動神経を用いた治療薬開発が近年進展しているが、発症メカニズム解明はまだ途上である。病態解明の難しさ、それを克服する研究の現状について紹介する。
アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターを応用した遺伝子治療が急速に発展している. 脊髄性筋萎縮症1型, 両アレル性RPE65遺伝子変異による網膜ジストロフィー症, 芳香族アミノ酸脱炭酸酵素欠損症, 血友病A, 血友病B, Duchenne型筋ジストロフィー症に対するAAVベクター製剤が海外で薬事承認されている. 筋萎縮性側索硬化症に対してはRNA編集酵素を遺伝子導入する遺伝子治療の治験が実施されている.
肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor、HGF)は日本で発見された生理活性物質であり、障害を受けた組織の再生・修復において重要な役割を持つ。クリングルファーマ社では組換えヒトHGFタンパク質を医薬品グレードで製造し、医薬品として開発を進めている。その中で、神経変性疾患である筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis、ALS)の他、中枢神経疾患である脊髄損傷や線維性疾患への臨床応用について、最新の開発状況を報告する。
オレキシンは、睡眠・覚醒状態を制御するキーメディエーターとしての生理的役割が示唆されており、不眠症などに対する新たな創薬ターゲットとして注目されている。エーザイが創製したレンボレキサントは、ユニークな3置換シクロプロパン骨格を有するオレキシン1/2受容体デュアルアンタゴニストであり、世界各国において新規不眠症治療薬として申請・承認が進んでいる。
汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」は, ヒトと同じ二本の腕で機器を巧みに操作し実験を行う. 熟練者のスキルを数値化(可視化)しロボットに置き換えることで, 暗黙知・属人性やバラつきを排除し高い再現性をもたらす. 続いて数値化されたパラメータを最適化(高度化)することで, ヒトを超える成果を安定的に発揮できる. さらに最適化されたパラメータを他の「まほろ」にコピーすることで, 複数の拠点で成果を再現(共有化)できる.
薬用植物指導センターの設置目的は、薬用植物の栽培普及を図り、医薬品メーカーへの優良な和漢薬原料の供給支援と中山間地の振興である。これを達成するための栽培試験圃場では、栽培研究の他、県内農家向けに種苗を生産している。継代栽培している多数のシャクヤク園芸品種の薬用利用を目指し、富山シャクヤクのブランド化推進事業に取り組んだ成果として、協力農家が生産した「富山シャクヤク」はメーカーへの初出荷を果たした。
日本への留学は、文化と生活に対する私の見方を一変する未知の世界への旅でした。言語、交通機関の複雑さ、文化的違いに適応することは、バスとの追いかけっこのようなハプニングを含む様々な試練をもたらしました。通勤時間、コミュニケーションスタイル、食文化への適応は、特筆すべきカルチャーショックでした。家族を持ちながらの日本留学は、彩りと試練を伴い、周囲からの支援により一層豊かなものとなりました。この経験は私の日本文化への理解を深め、生涯に渡る繋がりを育んだ人生において特別な時となりました。
筆者は、学部生時代に体の仕組みに対して、薬をどのように使って疾患をコントロールするのか、興味深いストーリーに魅せられて薬理学研究室に飛び込んだ。行動薬理学実験から始まり、パッチクランプ記録やその応用によって研究の幅を広げている。大学教育や研究を通じて多くの人々と出会えたことに大きな幸福を感じてきた。本稿では主に学生時代からの体験談や、指導する側に立った現在の心境について述べさせて頂いた。
私は大学院で生薬学を専攻し、現在に至るまで国立衛研の職員として天然物を対象としたレギュラトリーサイエンスに取り組んできた。本コラムでは、『場合を尽くす』という考え方が自身の研究においても大切だと感じたきっかけと、今後の抱負について述べる。
脂肪族アミンや含窒素ヘテロ環は天然物や医農薬品に多く見られる重要な構造であり,これまでに多くのC(sp3)-N結合形成反応が開発されてきた.Beckmann転位やCurtius転位は,C-C結合をC-N結合に変換する有用な反応として知られているが,カルボニルを有する基質に限定され,導入できる窒素官能基には限りがあった.一方,アルケンは天然物や工業用化学物質により豊富に存在するため,隣接するC(sp3)-C(sp2)結合をC(sp3)-N結合に変換することができれば,複雑な含窒素化合物の有用な合成法になりうる.しかし,C(sp3)-C(sp2)結合は強力な結合エネルギー(102kcal/mol)を持つため,切断は容易ではない. Heらはアルケンのオゾン分解により生じる過酸化物1に対して銅触媒を作用させるとSETが起こり,弱いO-O結合(ca. 45kcal/mol)が切断され,アルキルラジカル2が生じ,さらにラジカル2が任意のアミンとカップリングして,新たにC(sp3)-N結合が形成されると仮説を立てた.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) He Z. et al., Science, 381, 877–886(2023).
生体高分子の1つである核酸は,特殊な高次構造に折りたたまれることで多様な生命現象に関わることが知られている.これらの中でグアニン四重鎖(G-quadruplex; G4)構造は,がん関連遺伝子の発現やRNA代謝,各種疾患などを含む様々な細胞プロセスを制御することから,薬剤開発の有望な治療標的として広く研究されている.本稿では,特定のRNAで形成されるG4構造(rG4)に対して特異的に結合するペプチドの同定と,これを用いた目的とするrG4の遺伝子制御について,最新の知見を述べる.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Lyu K. et al., Nucleic Acids Res., 49, 5426–5450(2021).
2) Liu K. C. et al., J. Am. Chem. Soc., 142, 8367–8373(2020).
3) Mou X., Kwok C. K., J. Am. Chem. Soc., 145, 18693–18697(2023).
4) Ngo K. H. et al., Chem. Commun., 56, 1082–1084(2020).
5) Zheng K. -W. et al., Nucleic Acids Res., 48, 11706–11720(2020).
微生物,植物,海洋生物など天然資源を由来とする天然化合物は,医薬品のシード化合物の供給源として重要な役割を担っている.しかし,天然資源から「ものとり」をした後に化合物を同定するという従来の方法では,新規生物活性物質を獲得することが非常に困難になっている.2012年にWatrousらによって紹介された分子ネットワーキングは,ターゲットとした天然化合物を複雑な混合物から合理的に単離することを目的として確立されたデレプリケーション(迅速,かつ効率的な既知化合物の同定)ツールであり,新規化合物探索において効果的なアプローチである.分子ネットワーキングの原理は,分子ネットワークの中で抽出物,純粋な化合物のような生物学的サンプルのタンデム質量分析(MS2)データを調整し,可視化することに基づいている.検出された化合物は点(ノード)として表示され,同じようなMS2スペクトルを有する構造的に関連した化合物は,線によってつながれ,分子ファミリーが形成される.分子ネットワーク中の参照MS2スペクトルデータとの比較により既知化合物の点に注釈がつけられる.近年,生物活性データが分子ネットワーキングに統合された多情報分子ネットワーキングにより,単離する前に生物活性を有する天然化合物を同定できるようになった.これにより生物活性の知られている化合物よりも,新規生物活性物質を優先してターゲットとすることが可能となる.それゆえ,昨今,新規化合物の単離が困難になっている現状においては,多情報分子ネットワーキングが非常に有用なツールとなり得ると考えられる.本稿では,マメ科小高木コウキ(Pterocarpus santalinus L. f.)の心材抽出物の成分探索に対して多情報分子ネットワーキングを適用することで,抗新型コロナウイルス活性を有する天然化合物を見いだしたWasilewiczらによる研究を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Watrous J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 109, E1743–E1752(2012).
2) Wasilewicz A. et al., Front. Mol. Biosci., 10, 1202394(2023).
3) Ter Ellen B. M. et al., Viruses, 13, 1335(2021).
免疫療法は,近年急速に発展しているがん治療法であり,大きな期待を集めている.しかしながら,エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の発現およびヒト上皮成長因子受容体の過剰発現が見られず,免疫原性に乏しく“cold”ながん細胞であるトリプルネガティブ乳がん細胞(triple negative breast cancer: TNBC)には効果が低いことが課題となっている.また,光線力学療法(photodynamic therapy: PDT)や光温熱療法(photothermal therapy: PTT)はがん細胞の抗原提示細胞の成熟に関連していることが知られ,免疫療法を改善する手法として非常に有望であるが, やはりTNBCに対する効果は低く,これを打破する戦略が求められている.
本稿では,光免疫療法の効果を一酸化炭素(CO)と硫化水素(H2S)ガスによって増幅させ,効果的なTNBCの治療に成功した例を紹介する.COおよびH2Sは細胞内でミトコンドリア膜の脱分極などによって機能障害を誘発し,mitochondria DNA(mtDNA)の放出を促進する.これによって,免疫応答において重要なcGAS-STING(cyclic GMP-AMP synthase-stimulator of interferon genes)経路を活性化する.cGASは異物DNAを認識した後,STINGタンパク質を活性化させることで,インターフェロンや他の免疫関連サイトカインの産生を促進する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Riley R. S. et al., Nat. Rev. Drug Discov., 18, 175-196(2019).
2) Xie Z. et al., Chem. Soc. Rev., 49, 8065-8087(2020).
3) Wang K. et al., Nat. Commun., 14, 2950(2023).
アミノ酸の一種であるシステインは,細胞外では二量体であるシスチンとして存在し,シスチントランスポーターxCTにより取り込まれる.細胞内のシスチンは,システインに還元され抗酸化物質グルタチオン(GSH)の原料として細胞内レドックス制御に関与しており,多くのがん細胞ではシスチン取り込みを促進し細胞内GSHを高レベルに保つことで薬剤耐性を獲得している.この生存戦略に対抗するため,xCT阻害剤を用いてがん細胞のレドックスバランスを崩し細胞死の一種であるフェロトーシスを誘導する治療戦略が注目を浴びている.一方で,アミノ酸飢餓は転写因子であるATF4を介した抗酸化ストレス応答を招き,がん細胞のフェロトーシスを抑制してしまう.システインを巡るこのパラドックスの解消が治療最適化への課題となっている.本稿ではライソゾーム内シスチンがATF4を介したストレス応答を制御することを明らかにしたSwandaらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Lin W. et al., Am. J. Cancer Res., 10, 3106–3126(2020).
2) Swanda R. V. et al., Mol. Cell, 83, 3347-3359(2023).
3) Rizzollo F. et al., Trends Biochem. Sci., 46, 960–975(2021).
児童虐待やネグレクトなど小児期に受けるストレスは,成人期のうつ病や統合失調症などの精神疾患の発症と関連が指摘されている.小児期のストレスはシナプスの減少や神経回路形成異常を引き起こして,その後の精神疾患への易罹患性・発症の原因の1つとして考えられている.今回,幼若期ストレスがシナプス・神経回路形成異常を起こす細胞メカニズムとして,脳のグリア細胞の1種であるアストロサイトが興奮性シナプスを過剰に貪食することが見いだされた. アストロサイトはMEGF10やMERTKといった貪食受容体を介して発達期および成体で不必要な興奮性シナプスを貪食することが示されている.今回,アストロサイトの貪食受容体発現制御メカニズムを明らかにするため,FDA承認済化合物ライブラリを用いてアストロサイト貪食を増加させる物質を探索したところ,32%のものが合成グルココルチコイド関連物質であった.合成グルココルチコイドはグルココルチコイド受容体(GR)の活性化を介して,アストロサイトの貪食受容体のうちMERTKを選択的に発現増加させ,貪食を促進させた.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Byun Y. G. et al., Immunity, 56, 2105-2120(2023).
2) Chung W. S. et al., Nature, 504, 394-400(2013).
3) Lee J. H. et al., Nature, 590, 612-617(2021).
腸内細菌は,食生活や衛生環境の影響を受け,多種多様な代謝産物やタンパク質,ペプチドを産生することで,宿主の生理・病態に関与する.腸内細菌の中には,宿主に存在する酵素と同様の機能を持つアイソザイム(同じ化学反応を触媒するが,タンパク質としての分子構造が異なる)を産生するものがあることも知られている.本稿では,ヒトおよびマウスの腸内細菌叢から宿主の生理機能に影響を与えるアイソザイムを同定し,その機能解析を実施した論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Wang K. et al., Science, 381, eadd5787 (2023).
2) Olivares M. et al., Front. Microbiol., 9, 1900(2018).
ポリファーマシーとは,単に服用する薬剤数が多いことだけではなく,それに関連する薬物有害反応の発生リスクの増加や服薬過誤,服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態を指す.特に高齢者において大きな問題であり,「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年5月,厚生労働省)によると,75歳以上の人口の約40%に5種類以上,約25%に7種類以上の薬剤が処方されている.さらに,6種類以上の薬剤の使用によって薬物有害反応が増加することが報告されている.
本稿では,豪州の高齢者施設における常勤薬剤師の配置による減薬効果に関するクラスターランダム化比較試験を紹介する.豪州ではResidential Medication Management Review(RMMR)という仕組みがあり,施設入所者に対して施設外の薬剤師が医師等の依頼を受け,面接や薬学的な臨床評価を不定期に実施している.本試験は,住宅型高齢者介護施設の入居者を対象とし,施設ごとに対照群または介入群のいずれかにランダムに割り当てられた.対照群では従来のRMMRが行われ,介入群では新たに雇用された薬剤師が週に2~2.5日勤務し,各入居者の薬剤管理のほか,カンファレンス参加,薬の相談応需,入居者・家族・スタッフの教育など医療チームにおける薬剤師として総合的に活動した.主要評価項目は,12か月後におけるAmerican Geriatrics Society BeersⓇ 2019 criteriaによって定義された潜在的に不適切な処方(Potentially Inappropriate Medications: PIMs)が含まれる割合の変化とされた.副次的評価項目は,Anticholinergic Cognitive Burden(ACB)スケールの平均値,併用薬剤数などであった.ACBスケールは抗コリン作用の強さを点数化したもので,認知機能障害がある場合は合計スコアを3未満に抑えることが推奨されている.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Kojima T. et al., Geriatr. Gerontol. Int., 12, 761-762(2012).
2) Haider I. et al., Sci. Rep., 13, 15962(2023).
3) Boustani M. et al., Aging Health, 4, 311-320(2008).
4) the 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria® Update Expert Panel., J. Am. Geriatr. Soc., 71, 2052-2081(2023).
帝京大学薬学部の橘高敦史教授が2024年度日本薬学会学術貢献賞を受賞した。ビタミンDのA環2α位への置換基導入法の開発、極低用量で制がん作用を示すMART-10の開発、ビタミンD受容体アンタゴニストTEI-9647の活性強化、極低用量で骨形成作用を示すAH-1の創製、タキステロールと類縁体の化学合成、脂質生合成を抑制するKK-052の創製、インターロイキン-19誘導を強力に抑制するビタミンD3誘導体フッ素化MART-10の探索研究など、橘高氏の多彩な業績について紹介する。
神戸薬科大学特別教授の小林典裕氏が「高性能抗体の新規創出と生物活性物質の高感度精密計測への展開」に関する業績により2024年度日本薬学会学術貢献賞を受賞された. 同氏は, 先駆的な手法による高性能抗体の創出を基軸とし, 有機化学, 免疫化学, 分子生物学の基盤を活かした学術性, 独自性に優れた研究を展開した. その成果は薬学分析化学分野の発展に大きく貢献するものであり, 学術貢献賞の受賞に相応しいと考える.
慶應義塾大学薬学部有機薬化学講座教授の須貝 威氏が「医薬品合成における官能基・位置・立体選択的反応の開拓」にて,2024 年度日本薬学会学術貢献賞を受賞した.同氏の寄与は微生物・酵素触媒の探索・評価と機能開拓,そして化学反応・生化学反応を相乗的に活用するルートの合理的設計である.酵素触媒反応の価値を遷移金属・錯体・有機分子触媒などと互角,あるいは、それ以上にまで高め,広く薬学領域の学術発展にも大きく貢献した.
千葉大学大学院薬学研究院の石川勇人教授が「バイオインスパイアード反応と有機触媒反応を基軸とした多環性天然物の高効率的全合成」により,2024年度日本薬学会学術振興賞を受賞した.二級アミン型有機分子触媒を用いた実用的不斉反応の開発と連続的に生合成を模倣する反応を組み込む不斉全合成スキームにより、複雑かつ多様な構造をもつ生物活性天然物を効率的かつ集団的に供給する独創的な合成手法を編み出した.
京都大学大学院薬学研究科の土居雅夫教授が「加齢性疾患・生活習慣病治療に向けた時間生物学に基づく時間医薬科学の展開」により,2024年度日本薬学会学術振興賞を受賞した.土居氏は京都大学薬学研究科に16年間所属し, その間, 一貫して, 薬学領域における体内時計の基礎と応用の研究を展開してきた. 本稿では同氏のこれまでの経歴と今回の受賞対象となった研究内容を紹介する.
米澤淳氏は、分子実体が不明であったリボフラビントランスポータRFVTの同定に成功し、リボフラビンの腸管吸収メカニズムを明らかにした。また、国際共同研究チームに参画してBrown-Vialetto-Van Laere Syndromeの原因遺伝子としてRFVTを見出すとともに、自ら遺伝子欠損マウスを作製して病態メカニズムの解析を進めてきた。このように、米澤氏はRFVT研究の基礎と臨床展開において優れた業績をあげ、世界的にも注目されており、将来が期待される正にPharmacist-Scientistである。