ファルマシア
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61 巻, 10 号
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目次
  • 2025 年61 巻10 号 p. 870-871
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー

    ミニ特集 脳デリバリーの最前線

    ミニ特集にあたって 疾患領域別に治療満足度や薬剤貢献度を調べた統計を見ると,精神・神経系疾患については,未だ低いものが多い.その原因の一端として,薬物が血液脳関門を突破して,薬効標的が存在する脳内に十分な量が到達できないといった問題が挙げられる.本ミニ特集では,「脳デリバリーの最前線」と称して,これまでにない斬新な戦略で薬物を脳内へ効率よく送り届ける最先端の研究を展開する先生方にご執筆いただいた.一部のものは既にヒト臨床研究にまで到達しており,近い将来,精神・神経系疾患の薬物治療の飛躍的な進歩を支える基幹技術の1つとなることが期待される.

    表紙の説明 61巻偶数号の表紙を飾るのは,ピクトグラムである.様々な分野で活躍するファルマシア読者の姿をイメージしてデザインした.ご自身の姿と重なるピクトグラムは見つかるだろうか.見つからないという方は,ご自身の姿を表現するピクトグラムを思い浮かべてほしい.表紙のイメージよりも多くの分野の方々にファルマシアが届くことを願っている.

オピニオン
Editor's Eye
ミニ特集 最前線
ミニ特集 最前線
ミニ特集 最前線
ミニ特集 最前線
ミニ特集 最前線
最前線
最前線
  • 斎藤 顕宜, 吉岡 寿倫
    2025 年61 巻10 号 p. 908-913
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    オピオイドδ受容体(DOP)作動薬は、既存薬とは異なる作用機序を有する抗うつ薬候補として注目されている。最近筆者らは、DOP作動薬によるマウスの抗うつ様作用に、内側前頭前野下辺縁皮質におけるGABA作動性介在ニューロンを介した脱抑制、および海馬におけるミクログリアの過剰活性の抑制作用が関与することを報告した。さらに、海馬新生神経の生存の調節機構を介した抗ストレス作用も明らかにしている。近年、ヒトでのDOP作動薬の効果も徐々に裏付けられつつあり、DOPを標的とする抗うつ薬開発への関心は着実に高まっている。

話題
承認薬の一覧
  • 新薬紹介委員会
    2025 年61 巻10 号 p. 919
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    本稿では厚生労働省が新たに承認した新有効成分含有医薬品など新規性の高い医薬品について,資料として掲載します.表1は,当該医薬品について販売名,申請会社名,薬効分類を一覧としました.

    本稿は,厚生労働省医薬局医薬品審査管理課より各都道府県薬務主管課あてに通知される“新医薬品として承認された医薬品について”等を基に作成しています.今回は,令和7年6月24日付分の情報より引用掲載しています.また,次号以降の「承認薬インフォメーション」欄で一般名,有効成分または本質および化学構造,効能・効果などを表示するとともに,「新薬のプロフィル」欄において詳しく解説しますので,そちらも併せて参照して下さい.

    なお,当該医薬品に関する詳細な情報は,医薬品医療機器総合機構のホームページ→「医療用医薬品」→「医療用医薬品 情報検索」(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)より検索できます.

承認薬インフォメーション
新薬のプロフィル
新薬のプロフィル
  • 辻野 俊明
    2025 年61 巻10 号 p. 929-931
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    2018年7月,再発または難治性のイソクエン酸脱水素酵素1(IDH1)遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病(AML)の治療薬として,本剤が米国で承認された.その後,75歳以上または強力な寛解導入療法の適応とならない併存症を有する未治療のIDH1遺伝子変異陽性のAMLに対して,2019年5月に単剤療法,2022年5月にアザシチジン(AZA)との併用療法の適応が追加された.

    国内では,強力な寛解導入療法の適応とならない未治療のIDH1遺伝子変異陽性のAML患者(日本人を含む)を対象に本剤とAZAとの併用療法を検討した国際共同第Ⅲ相試験[AG120-C-009試験(AGILE試験)]1)の結果に基づき,2025年3月に「IDH1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病」を効能又は効果として製造販売承認を取得した.

    2025年5月時点で,本剤はIDH1遺伝子変異陽性のAMLに対して,45か国で承認されている.

最終講義
留学体験記 世界の薬学現場から
長井記念薬学奨励支援事業採用者からのメッセージ
長井記念薬学奨励支援事業採用者からのメッセージ
トピックス
  • 中村 佳代
    2025 年61 巻10 号 p. 940
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    医薬品となる化合物には,三次元的な構造の広がりを持つsp3炭素を多く含む傾向がある.sp3炭素の構築方法の1つに合成容易な多置換ベンゼンを還元する方法があるものの,Birch還元を代表とするベンゼン環の還元は厳しい反応条件のものが多く,基質一般性にも課題が残る.今回Deviらは,有機光触媒を用いた温和な条件下でのベンゼン環の還元反応により,より安定でsp3炭素の多いシクロヘキセン環を合成する新規手法を開発したので,本稿にて紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Lovering F. et al., J. Med. Chem., 52, 6752-6756(2009).

    2) Devi K. et al., J. Am. Chem. Soc., 146, 34304-34310(2024).

  • 川口 祥正
    2025 年61 巻10 号 p. 941
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,AlphaFold2やRoseTTAFoldなどのAI構造予測技術が急速に発展している.この進展により,従来の実験手法では解析が困難だったタンパク質の立体構造が高精度で予測可能となった.こうした技術革新は,分子標的の構造的理解にとどまらず,創薬候補となる分子そのものをゼロから設計する「構造創製型創薬」への転換を促進している.本稿では,こうした背景のもとAI技術を活用し,ヘビ毒中の致死性タンパク質に対する中和バインダーをde novoで設計することに成功したTorresらの報告を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Jumper J. et al., Nature, 596, 583-589(2021).

    2) Baek M. et al., Science, 373, 871-876(2021).

    3) Torres V. et al., Nature, 639, 225-231(2025).

  • 杉山 龍介
    2025 年61 巻10 号 p. 942
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    ベンジルイソキノリンアルカロイドは様々な薬理活性を示す植物特化代謝産物の一群であり,ベルベリンやモルヒネのように医薬品として広く利用されている.生産植物はキンポウゲ目やコショウ目の特定の種が中心だが,異なる系統の植物に広く分布している例も知られる.例えばベルベリンは,キンポウゲ目のオウレンやメギ,ムクロジ目のキハダなどに豊富に含まれる.オウレン属では,ベルベリン生合成に関わる酵素群の多くが同定されている一方,系統的に離れたキハダ属におけるベルベリンの生産機構は不明であった.本稿では,キハダ(Phellodendron amurense)の全ゲノム解読を起点として,ベルベリン生合成における進化を明らかにしたXuらの研究について紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Xu Z. et al., Sci. Adv., 10, eads3596(2024).

    2) Winkler A. et al., J. Biol. Chem., 281, 21276-21285(2006).

    3) Denoeud F. et al., Science, 345, 1181-1184(2014).

  • 宮坂 美行
    2025 年61 巻10 号 p. 943
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    皮膚は,体内と周囲の環境を隔てる強固なバリアである一方で,医薬品有効成分(active pharmaceutical ingredient: API)の適用ルートの1つとして利用される.なかでも皮膚付属器官である毛包の深部は,皮膚の他の部位と比較してバリア能が低いと考えられており,APIの有用な浸透ルートとして注目されている.本浸透ルートでは,APIを溶解した液体は,単独では毛包内部へ浸透しづらく,十分な浸透深度を担保できない.これに対して,1µm未満のサブミクロン粒子(submicron particle: SP)は毛包の深部に浸透しやすい.このSPによる毛包深部への薬物送達の主な推進力は,マッサージのような機械的刺激であることが知られている.これはラチェット効果と呼ばれ,約600nmの最適なサイズのSPが毛幹表面のジグザグ構造に物理的にフィットし,機械的刺激による毛幹の往復運動がSPを毛包深部へ送達する仕組みである.このとき,API溶解液も毛幹表面に存在する場合,SPとともに周囲のAPI溶解液を毛包内部へ引き込む.この特徴を利用した毛包深部への薬物送達技術(粒子支援毛包ターゲティング)が見いだされている.しかしながら,APIの性質やSPの有無および形状などが毛包深部への浸透に及ぼす影響については不明な点が多かった.そこで,本稿では,API溶解液の毛包浸透性を向上させる薬物送達技術として,APIの分子量や親水性,親油性の程度,あるいはSPの形状がAPIの毛包への浸透性に及ぼす影響を調査したKleinらの報告を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Mohd F. et al., Pharmaceutics, 8, 32 (2016).

    2) Klein A. L. et al., Int. J. Pharm., 670, 125200(2025).

  • 石野 雄己
    2025 年61 巻10 号 p. 944
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    胎児期の大脳において適切な量・種類のニューロンを産生することは,適切に機能する大脳を形成するうえで重要である.ヒトの大脳皮質ではグルタミン酸作動性の興奮性ニューロンが全ニューロンの大半を占めており,これらは脳室帯に存在している神経幹細胞(vRG)や外側脳室帯に存在している神経幹細胞(oRG)から直接的,あるいは中間型前駆細胞(IPC)を介して間接的に産生されている.マウスの大脳では,下層のニューロン(第5,6層)は主にvRGから直接的に産生されている一方で,上層のニューロン(第2~4層)は主にIPCを介して間接的に産生されていることが細胞系譜解析システムによって示されている.しかし,ヒトの大脳においてニューロンがどの様式で産生されているかは不明である.本稿では,ヒト大脳オルガノイドにおいて細胞系譜を追跡できるシステムを開発し,ヒトにおけるニューロン産生様式を明らかにしたBuryらの報告を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Huilgol D. et al., Neuron, 111, 2557-2569(2023).

    2) Bury L. A. D. et al., Cell Rep., 43, 114862(2024).

  • 河合 洋幸
    2025 年61 巻10 号 p. 945
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    刺激に対する感情価の適切な予測および評価は,皮質下神経ネットワークによって調節されている.これは脳の報酬処理や気分調節に重要である.例えば,負の感情価の過小評価は外敵に狙われやすくなるなど致命的であり,過大評価は不安や抑うつ行動につながる.腹側被蓋野(ventral tegmental nucleus: VTA)は,刺激の感情価の評価および予測における重要な脳領域として知られている.特に,VTAから側坐核のドパミン遊離は報酬をポジティブな結果をもたらす行動とリンクさせることで,意思決定や行動適応,記憶形成の促進に役割を果たしている.このVTAは,ネガティブ情報を媒介する外側手綱核(lateral habenula: LHb)によって調節されている.LHb→VTA経路の活動バランスは感情価処理や維持に不可欠であり,情報評価や予測,情動機能に重要であることが示唆される.これまでの研究で,LHbへの神経投射をはじめとする制御機構が検討されてきた.しかし,LHbへの抑制性神経投射に対する理解は,いまだに不完全である.本稿では,脳幹におけるLHb投射性の報酬関連GABA神経群を新たに同定したZichóらの報告を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Berridge K. C., Nat. Rev. Neurosci., 20, 225-234(2019).

    2) Zichó K. et al., Science, 387, eadr2191(2025).

  • 武田 美都里
    2025 年61 巻10 号 p. 946
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    加工食品に広く含まれる乳化剤は,腸内環境に影響を与え,炎症性腸疾患や代謝異常のリスク因子となる可能性が指摘されている.こうした環境因子の影響は,個人の腸内細菌叢の構成により大きく異なる.近年,食事成分への反応性を個別に予測するモデル開発が進められており,腸内細菌の変化を介した疾患リスク評価が現実味を帯びてきた.本稿では,乳化剤に対する腸内細菌の個別反応性をin vitroで再現・予測可能な新たなモデルについて紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Chassaing B. et al., Nature, 519, 92-96(2015).

    2) Naimi S. et al., Microbiome, 9, 66(2021).

    3) Rytter H. et al., Gut, 74, 761-774(2025).

    4) Chassaing B. et al., Gastroenterology, 162, 743-756(2022).

  • 藤田 有美
    2025 年61 巻10 号 p. 947
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    薬物治療を行ううえで,薬物動態学を理解し活用することは必須である.しかし,若手医療従事者において薬物間相互作用や禁忌といった医薬品適正使用上重要な知識の欠如がしばしば散見され,卒業後間もない医療従事者のなかには,臨床上の課題に対して薬物動態学の基本原理を適用することを難しく感じている人もいる.そのため,将来医療現場で働く人材を育成する教育現場において学生の薬物動態学の理解度を正しく評価し,学習効果を高めることは喫緊の課題である.そこで,本稿では,現役学生が薬物動態学をどの程度理解しているのか,さらに現役学生の理解度が低い薬物動態学の基本概念は何かを特定したBabeyらの報告を紹介する.

    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.

    1) Brinkman. D. J. et al., Clin. Pharmacol. Therapeut., 101, 281-289(2017).

    2) Babey A. M. et al., Eur. J. Pharmacol., 990, 177256(2025).

    3) Guilding. C. et al., Br. J. Pharmacol., 181, 375-392(2024).

会議派遣報告
  • 2025 CSPS/CC-CRS/PSJ Symposium
    牧野 利明, 東田 千尋
    2025 年61 巻10 号 p. 936-937
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル 認証あり

    2025年5月27日から29日までの3日間,カナダ・モントリオール市内,モントリオール大学薬学部内で開催されたカナダ薬学会,放出制御学会カナダ支部,日本薬学会とのジョイントシンポジウムに参加した.筆者らは,その中で中国伝統医学 (中医学)・漢方医学・生薬学の交流による薬物療法の発展と題されたセッションで,講演させていただいた.本稿では,主にそのセッションの内容と,シンポジウム全体の概要について報告する。

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