ミニ特集:薬学と医療経済
ミニ特集にあたって:経済は私たちの暮らしを左右する.当然ながら,薬に関わる経済にも私たちは目を配るべきだが,ちょっと縁遠い世界で起こるよくわからない話と思ってしまいがちである.しかし,ドラッグラグ,医薬品不足,高額療養費制度見直し,といったニュースが頻繁に流れる現在,いったい何が起こっているのかしっかりと理解するべきである. 今回のミニ特集「薬学と医療経済」では,医療経済の分野で活躍されている専門の先生方のご執筆に加え,患者の側からの声もとりあげた.これをきっかけにこの分野に関心を持ち,自分なりにできることをしていく読者が増えることを期待する.
表紙の説明:62巻偶数号の表紙を飾るのは,ピクトグラムである.様々な分野で活躍するファルマシア読者の姿をイメージしてデザインした.ご自身の姿と重なるピクトグラムは見つかるだろうか.見つからないという方は,ご自身の姿を表現するピクトグラムを思い浮かべてほしい.表紙のイメージよりも多くの分野の方々にファルマシアが届くことを願っている.
高齢化と医療の高度化により国民医療費は増加を続け、医療の持続可能性が問われている。医薬品分野では、高額な革新的医薬品の登場と、後発医薬品の薬価低下による供給問題が併存する。こうした課題に対応するため、国は医療制度全体の改革や費用対効果評価制度の新規導入など進めている。医薬品の価値を適切に評価し、持続的に患者へ届けるうえで、薬学関係者が医療経済の視点で考える意義は大きい。
Cereblon(CRBN)を選択的に自己分解へ導く分子糊,細菌で合成されるジアゾ化合物の探索,医薬品有効成分の結晶多形解析自動化のための機械学習モデル,痛みの概日リズムに関わる多シナプス回路の同定,医薬品・食品分野でのAmes/QSARの活用について,免疫チェックポイント阻害薬の投与時刻最適化は予後を改善するか?
公的医療制度の持続性確保には、単純な価値引き下げでなく,価値に基づく評価が不可欠である。本稿は費用対効果評価(ICER)の不確実性や限界を指摘し、多面的価値や定量化困難な要素の重要性を論じる。本当の意味でのEBPMとは,数値に依存せず、その前提と限界を踏まえ整合的に意思決定することである。
本稿は、近年の医薬品供給不足の背景について、日本の医療制度の構造的課題から分析した。医療費抑制政策に伴う薬価引き下げ、後発医薬品産業の多品目少量生産構造、ならびに品質管理体制の脆弱性が相互に作用し、不祥事を契機として供給不安が顕在化・長期化したことを示した。医薬品の安定供給と医療費抑制の両立が今後の重要な政策課題である。
2026年診療報酬改定の中医協答申のなかから、後発医薬品とバイオ後続品の現状と改定項目を見ていこう。後発品普及率は数量シェア88.8%、金額シェア68.7%で国の2029年の目標値を前倒しで達成している。バイオ後続品は現在19成分があるが、そのシェア率80%超はまだ3品目(15%)と国の目標60%には届かない。後発医薬品、バイオ後続品の普及には地域フォーミュラリーの作成が必要だ。今回の改定でこの地域フォーミュラリーが地域支援・医薬品供給対応体制加算として初めて導入された。
2024年から始まった高額療養費の改正により、新聞、テレビ、インターネットなどを通じて、多くの国民が日本の国民皆保険制度や社会保障制度、治療方法と医療財政の現状について知る機会を得た。本コラムでは、当時の背景や交わされた議論、そして、患者団体と医療経済、公衆衛生、公共経済学などの専門家がどのようにデータを活用し、政策に関わったのかについて考察したい。
オルガネラ輸送は,細胞内外に物質を配送するシステムとして,すべての細胞の基本的な生命活動を支えるだけでなく,骨吸収やインスリン分泌など細胞の高次機能にも深く関与している.オルガネラが輸送される際には,まず小胞輸送因子である低分子量Gタンパク質(small GTPase)が,オルガネラ膜にリクルートされる必要がある.近年,プロトンポンプである液胞型ATPase(V-ATPase)が,小胞輸送因子のリクルートを介して,様々なオルガネラ輸送に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある.本稿では,その概要について紹介する.
本稿は、地方大学薬学部生を対象に理系グローバル人材育成を目的として実施した、語学エクスチェンジを活用した大学英語教育の教育実践を報告する。課外活動としてオンライン国際交流を継続的に実施し、実践的英語コミュニケーション能力の育成を試みた。その結果、海外留学等に依存せず国内学習のみでも主体的発話や異文化理解の顕著な向上が認められた。本実践は、地方大学・理系学生における有効な英語教育の選択肢となり得ることを示唆している。
大塚製薬が創出したaripiprazoleの優れた安全性・忍容性を維持しつつ、賦活系副作用の発現率の高さを克服した新規抗精神病薬brexpiprazoleの創製に成功した。本薬剤は統合失調症・大うつ病補助療法に加え、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションへも適応拡大しブロックバスターに成長した。本研究は、臨床現場からのフィードバックを基にしたリバーストランスレーショナルリサーチの成果である。
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 予防ワクチンは、世界的に様々なモダリティでの研究開発が進められた。次世代型ワクチンとして位置付けられるmRNAワクチンは、病原体遺伝子の配列情報から速やかに治験用ワクチンが製造でき、従来型ワクチン技術と比較し、臨床試験開始および実用化までのスピードアップが期待された。2020年3月、筆者らは、有望な新規モダリティとして研究を推進してきた独自のDS-LNP-mRNA (mRNA-encapsulated lipid nanoparticle) 技術を用いたCOVID-19に対するmRNAワクチンの研究開発に着手した。2023年8月、新型コロナウイルス発生当初の起源株対応ワクチン (コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン) の国内製造販売承認を取得し、続いて流行変異株に対する製造販売承認事項一部変更承認(以下、「一変承認」と略する。)を取得した。今後は、将来の新興・再興感染症に備え、本技術をプラットフォーム化し、予防医療として人々の健康で豊かな生活の維持に貢献したい。
名前の「顕子」は、顕微鏡で見るように物事や人をしっかりと見つめて、優しい子に育つようにと父がつけた。「顕」にはあきらかという意味があり、名をあきらかにし、世のため人のために尽くすという願いもあったと後に聞いた。世のため人のためになる政策を実現するにあたり、「見つめる」ことの意味が単に視覚だけでなく多様な声を聴くことも含めて、人・物事をよく見る、よく知ることの大切さを実感している。本稿では、筆者自身が「いま」に至る大きな節目と思える3つの出来事についてご紹介させていただく。
本稿では厚生労働省が新たに承認した新有効成分含有医薬品など新規性の高い医薬品について,資料として掲載します.表1は,当該医薬品について販売名,申請会社名,薬効分類を一覧としました.
本稿は,厚生労働省医薬局医薬品審査管理課より各都道府県薬務主管課あてに通知される“新医薬品として承認された医薬品について”等を基に作成しています.今回は,令和8年2月19日付分の情報より引用掲載しています.
なお,当該医薬品に関する詳細な情報は,医薬品医療機器総合機構のホームページ→「医療用医薬品」→「医療用医薬品 情報検索」(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/)より検索できます.
大学院修了後、製薬企業研究員として主に抗生物質の開発研究に携わった。大学病院薬剤部に異動後、薬物トランスポータの分子・細胞生物学的研究、腎障害時の薬物動態変動並びに尿毒症物質の産生阻害剤の研究開発を展開した。退職後、保険薬局において薬剤師として投薬業務を中心とする薬剤師業務に従事しており、企業・大学病院時代の経験を活かしつつ、医薬品適正使用・安全管理を含む地域医療に貢献すべく尽力している。
大学院で実力不足を痛感し将来に不安を抱えた私は、ふと世界的な薬物動態研究者・杉山雄一教授のモノの考え方が気になった。運命の歯車は私を行ったこともない、ゼロコロナ政策真っ只中の中国・上海へ導いた。飛び込んだ先で得た財産はスキルだけではなかった。生成AIの登場で情報やスキルへのアクセスが容易になった今こそ、五感で感じることの価値はむしろ高まっているに違いない。
長井記念薬学研究奨励支援事業は研究生活への経済的支援に加えて、筆者の一つの業績として心の支えにもなっていた。筆者は本支援事業の助けを借り、博士課程の成果として専門性と人間性を磨くことができた。本稿が進学を迷う方の後押しとなることを願う。
長井記念薬学研究奨励支援事業に採択されたことは、コロナ禍での経済的負担の軽減につながった。また、本事業の申請書作成は、「このまま研究を続けてよいのだろうか」と不安を抱えていた当時の私にとって、自分の研究と進路に真摯に向き合う大きな契機となった。現在、申請時に抱いた「海外で研究を行いたい」という思いが実現し、米国でポスドクとして研究に従事している。本事業は私にとって、研究継続と進路選択の両面を支えた重要な制度であったと実感している。
飽和環状構造は,医薬品・農薬をはじめとする機能性分子や天然物に広く見られる基本構造である.なかでも,飽和四員環化合物であるアゼチジン,チエタン,シクロブタンは,化学的安定性・代謝安定性・標的特異性といったユニークな性質を示すことから,創薬化学の分野で近年注目を集めている.これらの化合物は一般的に,1,3-ジブロモプロパンなどのジハロゲン化合物に対する求核置換反応によって合成される.しかし,置換基を有する四員環を構築する場合には,出発原料であるジハロゲン化合物を多工程で別途調製する必要があり,多大な労力と時間を要する.本稿では,このような課題を解決するアプローチとして,入手容易なオキセタンの酸素原子を炭素・窒素・硫黄原子へと置換する光触媒的原子スワップ反応について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Zhang Y.-Q. et al., Nature, 647, 906-912(2025).
2) Dai C. et al., Nat. Chem., 3, 140-145(2011).
DNAzyme(Dz)は,特定のRNA配列を触媒的に切断可能な人工核酸であり,疾患関連mRNAの抑制を目的として数多く研究されている.また,特定の刺激により活性が制御できるDzの開発も進んでいるが,その多くが化学修飾した核酸ユニットをDzに組み込むものであり,構築に煩雑な工程を必要とする.一方,プロテアーゼはアポトーシスなど多様な生命現象に深く関与しており,その活性異常は多くの疾患と密接に関連していることが報告されている.そのため,プロテアーゼ活性を精密に検出および制御可能なシステムの構築は,診断と治療の両面において重要な課題である.
本稿ではDzにプロテアーゼ応答性を簡単に付与できる分子として,Zhangらが開発したプロテアーゼ応答性カチオン性ペプチド(PP)とその応用について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Wang R. et al., J. Am. Chem. Soc., 145, 17926-17935(2023).
2) Zhang Q. et al., J. Am. Chem. Soc., 147, 34944-34958(2025).
薬学は,「くすり」の学問であるが,薬を使わずによい健康状態を続けられることが第一であると考える.東洋医学では未病を已病にしないという考えがあり,病気になる前の日常生活の過ごし方なども大切である.また,医食同源・薬食同源という言葉があり,食品も日々の積み重ねにより体への影響が大きく,薬膳というかたちで発展してきた.そのなかでもハチミツは古くから食品だけでなく薬膳や東洋医学でも用いられ,調味だけでなく,消化器疾患の緩和や降圧作用などが知られている.近年,Navarro-HerreraらがGC-Orbitrap-High Resolution(HR)MSとHPLCを組み合わせた方法で蜜源が違うハチミツ中の成分について網羅的に解析し,様々な指標成分を同定し,ハチミツの起源植物の同定精度を高めるための新たな分析手法を見いだしたので,紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Aryal M., J. Appl. Toxicol., 45, 2240-2256(2025).
2) Navarro-Herrera A. M. et al., Food Chem., 495, 146418(2025).
3) Karabagias I. K. et al., Microchem. J., 152, 104263(2020).
1970年代後半より開発されてきたDNAの配列解析技術は,1990年に開始したヒトゲノムの全貌を明らかにするプロジェクトにおいて,極めて重要な役割を担った.その後もDNAの配列解析は第一世代の「サンガー法とキャピラリー電気泳動との融合技術」をはじめとして,第二世代の「ブリッジPCR法を利用した次世代シーケンシング(NGS)」,第三世代の「数万塩基程度の長鎖DNAの読み取りを可能にする,PCR増幅が不要な単分子計測」,第四世代の「バイオポアや固体ナノポアを利用するナノポアシーケンシング」へと発展を遂げた. 第一世代から第三世代までは生物学的ツールを駆使し,塩基配列を間接的に読み取る手法であるのに対し,第四世代では電気信号を用いて核酸の化学構造を直接読み取ることを可能にするため,シーケンシング開発の長い歴史において最終段階の技術になると示唆されている.
この第四世代には,「生体膜上のバイオポアと呼ばれるナノサイズの孔(ナノポア)を有するタンパク質を用いた,実用化済みの生物学的手法」と「人工的に形成された固体ナノポアを用いた,開発途中の工学的手法」があり,いずれもナノポアにDNA鎖やRNA鎖が通過する際に生じるイオン電流の違いから塩基配列を明らかにする仕組みを利用している.ナノポアに固体ナノポアを用いる場合,生体膜を用いるバイオポアとは異なり,耐久性に優れているが,配列解析には大きな課題が残っていた.
工学的手法によるナノポアではこれまで48,502塩基対から成るバクテリオファージ由来のλDNAを二本鎖DNAとして検知可能であることが示されてきたが,二本鎖DNAのままでは塩基配列を読み取れないことが問題であった.しかしながら,工学的手法では固体ナノポアにおける電気信号の増強のためにイオン強度を大きくする必要があり,それが意図せず二本鎖DNAを安定化させてしまうため,一本鎖DNAへの解離を困難にしていた.そこで,ナノポアを通過する直前の二本鎖DNAをナノヒーターで局所的に加熱することで,本問題の解決を目指した筒井と川合らの取り組みを紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Shendure J. et al., Nature, 550, 345-353(2017).
2) Tsutsui M. et al., Small Methods, 6, 2200761(2022).
3) Tsutsui M. et al., ACS Nano, 19, 28900-28912(2025).
男性の生殖細胞系列における変異蓄積は,出生児に受け継がれる突然変異の主要な起源である.そのなかでも近年,父親の加齢に伴い,特定の遺伝子変異を持つ精原幹細胞が優先的に増殖することで,小児の発達障害や先天性疾患の発症リスクを高めている可能性が指摘されてきた.しかし,精子の変異頻度が極めて低いことから従来のシーケンス技術では網羅的解析が困難であり,その実態は十分に把握されていなかった.今回紹介する論文では,超低頻度変異を高精度に検出できるNanoSeq(duplex sequencing)を用いて,81例(24~75歳)の精液および対応する血液サンプルを解析し,男性生殖系列における変異蓄積と選択圧を評価した.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Wood K. A., Goriely A., Fertil. Steril., 118, 1001-1012(2022).
2) Neville M. D. C. et al., Nature, 647, 421-428(2025).
難治性の神経障害性疼痛は,手術後や帯状疱疹,糖尿病,がん治療など多岐にわたる患者にみられるにもかかわらず,既存の治療薬の有効性は限られている.NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)は脊髄後角におけるシナプス可塑性に関与し,神経障害性疼痛の病態に重要な役割を果たすと考えられてきた.既存のNMDA受容体拮抗薬は疼痛治療に有効ではあるものの,NMDA受容体は様々な機能に関与しており,眠気やめまい,悪心・嘔吐などの副作用をを引き起こす.そのため,神経障害性疼痛の分子基盤を明らかにし,新規治療標的を提示することは疼痛研究において重要な課題である.
体積調節アニオンチャネル(volume-regulated anion channels: VRACs)は,様々なロイシンリピート含有タンパク質8(leucine-rich repeat-containing protein 8: LRRC8)ファミリーから構成される.なかでも,LRRC8AはVRACの形成に必須のサブユニットであり,脳卒中,糖尿病,がんなどの様々な疾患への関与が報告されている.これまでLRRC8Aは細胞容積調節やアポトーシス,代謝調節など多様な生理学的機能を担うことが報告されていたが,疼痛伝達における役割は明らかにされていなかった.本稿では,LRRC8AがNMDA受容体の活性を抑制し,痛みを減弱する仕組みを明らかにしたDengらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Zhou J. J. et al., Exp. Neurol., 332, 113391(2020).
2) Deng M. et al., Sci. Transl. Med., 17, eadu4879(2025).
レトロエレメント(retroelement)は,RNAを中間体として自身の配列をコピーし,ゲノム内の別の位置に挿入される可動性遺伝因子の総称であり,生物の遺伝的多様性の形成に関与するDNA配列である.これらの遺伝因子の多くは,ゲノム上を移動すること自体が主な特徴である.これに対し,細菌に存在する「多様性生成レトロエレメント(diversity-generating retroelement: DGR)」は,特定の遺伝子配列に集中的に変異を導入することで,標的タンパク質の配列と機能を急速に多様化させる点に特徴がある.大規模ゲノム解析により,DGRは多様な細菌種に広く分布し,水平伝播を介して機能的多様化に寄与していることが示されている.しかしながら,腸内微生物叢のような複雑な生態系において,DGRがどのようにして特定のタンパク質の進化を駆動するのかは,これまで十分に理解されていなかった.この課題に対し,近年,腸内微生物におけるDGRが標的タンパク質の進化を実際に生み出していることを示した報告がなされた.本稿ではこの研究を中心に,DGRによる標的タンパク質進化機構とその衛生薬学的意義について概説する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Benler S. et al., Microbiome, 6, 191(2018).
2) Macadangdang B. R. et al., Science, 390, eadv2111(2025).
3) Wu L. et al., Nucleic Acids Res., 46, 11-24(2018).
4) Sakaguchi T. et al., Int. J. Mol. Sci., 26, 9326(2025).
近年,仮想現実(virtual reality: VR)技術は,教育および医療の分野において急速に応用が進展しており,没入型インターフェースを介して学習者の主体性や実践的スキルの向上が期待されている.特に医療系教育では,VRを活用した手技トレーニングや臨床現場を模したシミュレーション教育が注目されており,実際の医療環境を再現することによって,学習者の理解促進や自己効力感の向上が報告されている.さらに臨床においても,VRを用いた治療介入の有用性が示されつつある.Nikiらは,がん治療における副作用緩和や不安軽減など,患者支援を目的とした介入手段としてVRが有効であることを報告している. これらの知見は,VRが単なる視覚的または娯楽的技術にとどまらず,教育および医療現場において有用なツールと成り得ることを示唆している.このようなVR技術を臨床課題の解決に応用した研究として,Wangらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Coyne L. et al., Am. J. Pharm. Educ., 83, 7456(2019).
2) Niki K. et al., J. Med. Internet Res., 27, e65924(2025).
3) Wang J. et al., Nat. Med., 31, 2255-2268(2025).
京都大学化学研究所の川口祥正博士が,「高分子医薬の細胞内送達基盤設計と展開」に関する一連の研究業績により,2026年度日本薬学会奨励賞を受賞した.今回の受賞を機に,同博士の研究がさらに発展し,次世代創薬モダリティの創出に貢献することが大いに期待される.
静岡県立大学薬学部の岸本真治博士が「病原性糸状菌の多彩な二次代謝機構の解明」により2026 年度日本薬学会奨励賞を受賞した。岸本氏の成果は学術的に意義があるだけでなく、新たに見出した化合物の生産菌にとっての意義やその進化の道筋を明らかにすることができれば、現在患者数が増加しつつあるアスペルギルス症の治療にも活かすことができると期待される。今回の受賞を機に岸本氏の研究の更なる発展と活躍を期待している。
明治薬科大学の木村真也講師が「自己集合性低分子の合理的設計に基づく新規機能性超分子ゲルの創出:医薬への応用と形成メカニズム解明」により,2026年度日本薬学会奨励賞を受賞した.受賞対象となった研究は,分子設計の起点となる構造的にシンプルな低分子ゲル化剤の開発,超分子ゲルの薬物送達システムへの応用研究,および超分子ゲルの形成メカニズムの解明である.本稿では,木村氏の研究経歴とこれらの研究業績の内容について紹介する.
徳島大学大学院薬歯薬学研究部の田良島典子准教授が、「幅広い分子階層を有する核酸モダリティに対する創薬化学的研究」に関する業績により、 2026年度日本薬学会奨励賞を受賞された。心よりお祝い申し上げる。
東北大学大学院生命科学研究科の友重秀介博士が,「生体高分子恒常性への化学介入に基づく次世代創薬化学基盤の創出」により2026年度日本薬学会奨励賞を受賞した.本記事は,友重秀介氏の業績をまとめたものである。
中部大学特任准教授の服部倫弘博士が2026年度日本薬学会奨励賞を受賞した.服部氏はペプチド合成への深い理解と論理的な発想力に基づき,多くのテーマを企画し,成果を挙げてこられた.特に保護基を使用することなく進行する位置選択的な交差縮合反応,環状ペプチドへの位置選択的な官能基化法は前例のない発想が起点となっており,当該分野の「競争に勝つ」結果ではなく当該分野に「競争を起こす」成果として報告し,世界から注目されている.詳細を本稿で紹介する.
和歌山県立医科大学薬学部薬剤学研究室の福田達也博士が, 「生体バリアの克服および中枢疾患治療を目的とした多様なDDSの開発」により, 2026年度日本薬学会奨励賞を受賞した. 福田氏は, リポソームやイオン液体, 細胞といった多様な技術を用いDDS研究に取り組み, それらを用いた中枢疾患治療に成功してきた. 本稿では, 福田氏の経歴に加えて, 主な研究業績について紹介する.
東京大学大学院薬学系研究科の松本信圭博士が「海馬における記憶再生機能の開拓」で2026年度日本薬学会奨励賞を受賞した。松本氏は卓越した実験技術と粘り強さを武器に、一夫一妻制のプレーリーハタネズミを用いた「配偶者を表現する神経細胞」の発見や、死に瀕した際の「走馬灯」現象に迫る神経活動の解明など、独創的な記憶研究を展開している。純粋な好奇心から芽生える科学を志す氏の、真理を探究する姿勢と功績を称えるものである。
教育とは未来への種まきであり、人を育てる営みである。「国は人なり」「医療も人なり」。医療現場では制度や設備とともに人の資質が重要である。だからこそ教育には、知識や技能の習得だけでなく、患者に寄り添う倫理観、対話力、学び続ける謙虚さを育むことが求められる。学生一人ひとりの可能性を信じ、志と倫理観を備えた人材を医療現場に送り出すことこそが、医療教育に携わる者の責任であり願いである。