ミニ特集:緊急避妊薬
ミニ特集にあたって:本ミニ特集は昨年の9月頃,読者から「緊急避妊薬についてファルマシアでとりあげないのですか?」という意見をいただいたことがきっかけである.1年弱かかったが,ようやくかたちにすることができた.薬学に関わるすべての人々が,緊急避妊薬についての理解を深めてくれることを期待する.ファルマシアは,これからも読者の声を大切にしていく.本ミニ特集についての意見もお寄せいただければ幸いである.
表紙の説明:62巻偶数号の表紙を飾るのは,ピクトグラムである.様々な分野で活躍するファルマシア読者の姿をイメージしてデザインした.ご自身の姿と重なるピクトグラムは見つかるだろうか.見つからないという方は,ご自身の姿を表現するピクトグラムを思い浮かべてほしい.表紙のイメージよりも多くの分野の方々にファルマシアが届くことを願っている.
日本薬学会第146年会は,2026年3月26日から29日まで関西大学千里山キャンパスにて開催された.「ファーマシンフォニーが奏でる未来 〜やってみぃひん?薬学イノベーション!〜」をテーマに,多様な分野の研究者が一堂に会し,分野横断的な議論と交流が活発に展開された.特別講演や多数のシンポジウム,一般発表に加え,高校生サイエンスフェスタや市民公開講座などを通じて,人材育成および社会との連携の重要性が示された.
エナンチオ選択的「水素原子リレー」による脱ラセミ化,電磁場照射によるin vivoでの遺伝子発現誘導の時空間制御,ナノサイズの「折り紙」で免疫細胞を操る:DNA技術が切り拓く次世代がん免疫療法,膜タンパク質を小胞体で分解するPROTAC,アメリカ合衆国における医療用大麻の規制区分が見直しへ,医療におけるHuman-in-the-loop AIの可能性
緊急避妊薬は、避妊せずに行われた性交、または避妊手段が失敗した可能性がある性交後に緊急的に服用する薬剤である。世界保健機関のエッセンシャルドラッグに指定され、諸外国では約90カ国で処方箋なしで販売可能である。我が国では2011年に処方箋医薬品として承認後、2016年以降OTC化の可否に関して議論を尽くしてきた。当時は様々な課題が指摘されOTC化は見送られたものの、その後議論が再開され、薬局での試行的販売事業を経て、2025年8月にOTC化が了承、2026年2月から要指導医薬品として薬局での販売が開始された。本稿では、これまでの経緯、緊急避妊薬販売にあたっての留意点等について紹介する。
予期せぬ妊娠の背景には、望まない性交すなわち性暴力や、確実な避妊法の選択・使用を阻害するジェンダーギャップなど、一連のジェンダー課題が存在する。
スイッチOTC化による緊急避妊薬へのアクセス向上は、SRHRの1ピースであるが、ゴールではない。先進諸国に大きく後れをとっている日本のSRHRおよびジェンダー課題に、薬剤師が販売を通じて問題意識を持ち、よりよい社会に向けて前進させるエンジンとして関わるきっかけとなることを願っている。
緊急避妊薬は医療用医薬品および要指導医薬品として供給されており、薬剤師には様々な対応が求められている。OTC化の検討が始まった時点で、薬剤師の緊急避妊薬に対する意識および対応状況を明らかにするためのWebアンケート調査を実施した。その結果、薬剤師の緊急避妊薬に関連した知識の自己評価は低く、女性の心理面サポートに不安があることが示唆された。また44.5%の薬剤師は、緊急避妊薬のOTC化に反対であることが明らかになった。
緊急避妊薬の薬局販売が開始された経緯と意義を整理し、薬剤師に求められる役割を考察する。制度化により緊急避妊薬へのアクセスは向上したが、「薬剤師が適切な情報提供と相談支援を行うことで、安全性を確保しつつアクセス向上を図る体制が整備された」とされるように、薬局・薬剤師には専門的説明、妊娠可能性の確認、性暴力被害者支援、医療機関連携など多面的な対応が必要である。地域におけるセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)向上のため、継続的研修と体制整備が重要となる。
2026年2月、薬局において緊急避妊薬の販売が始まった。執筆者らは2022年より緊急避妊薬の市販化を見据え、性に関する全国アンケート調査を経て大学生に対して性教育と緊急避妊薬の適正使用について講義を実施している。本稿においては調査結果の概要とこれまでの取り組みについて概説する。
3位窒素原子上にオルト-置換フェニル基を有するC–N軸不斉キナゾリン-4-オンを基本骨格として,軽水素(H)/重水素(D)および12C/13C識別に基づく同位体アトロプ異性分子を創製した.同位体アトロプ異性は不斉炭素原子を有する(ベンジル基を導入した)ジアステレオマーを合成し,NMRによりジアステレオマーを識別することによって検証した.
器官・組織の機能回復を目指す医療(再生医療)において、低分子化合物の活用は、限定的である。筆者らは、化合物スクリーニングに適した再生能力の高い動物があれば、そのような化合物の開発が促進されると考えている。本稿では、再生能力の高いヤマトヒメミミズに関する最新の知見を、筆者らの研究成果を中心に紹介する。そして、ヤマトヒメミミズのin vivo 化合物スクリーニングへの利用可能性について論ずる。
リアルワールドデータ(RWD)研究は, 治験では捉えにくい知見を実臨床のデータから探索する手法として近年急速に普及しており, 自発報告データベース(SRS)研究はその代表的な一形態である. 本稿では, シグナル検出からシグナル理解へというSRS研究の発展の流れを, 過活動膀胱治療薬と心房細動に関する筆者らの研究を例として交えながら概説する. AIの普及により敷居が下がった今こそ, 解釈の難しさと適正な向き合い方を共有したい.
バブル崩壊を機に、勢いで日本を飛び出した─。行き当たりばったりの決断を重ねながら切り抜けきたアメリカでの半生。正解のない社会の中で、次々と押し寄せる想定を超えた出来事に翻弄されつつ、何を見て、何に悩み、何を掴んだのか。価値観が揺らぐ現実の中で問われ続けられたのは、「目の前のパズルをどう解くか」。そしてその先に待っていた、思いがけない帰国までの顛末。
本稿では既に「承認薬の一覧」に掲載された新有効成分含有医薬品など新規性の高い医薬品について,各販売会社から提供していただいた情報を一般名,市販製剤名,販売会社名,有効成分または本質および化学構造,効能・効果を一覧として掲載しています.
今回は,62巻7号「承認薬の一覧」に掲載した当該医薬品について,表解しています.
タファシタマブはCD19を標的とするFc改変ヒト化抗体で、再発・難治性濾胞性リンパ腫に対する新規治療として開発された。inMIND試験ではR2療法(リツキシマブ、レナリドミド併用療法)への追加により無増悪生存期間を有意に延長した。主な作用機序はADCCおよびADCPの増強であり、主な副作用は、好中球減少や感染症である。既存治療抵抗例に対する新たな選択肢として期待される。
2025年3月末、筆者は大阪大学大学院薬学研究科を定年退職した。1998年4月に同大学薬学部に入学して以来、47年の月日が流れた。留学の1年間と静岡県立大学での8年間を除き、38年間を大阪大学で過ごしたことになる。人生とは思い通りにはいかないものだ。それが予期せぬ体験を呼び込み、筆者の人生を色豊かなものに変えてくれたと思う。本稿でいくつかの出来事をご紹介する。皆様にとって何かの参考になれば幸いである。
筆者は,2024年4月から2025年3月までの約1年間をノルウェー・オスロにあるUniversity of Osloにおいて,PharmacoEpidemiology and Drug Safety (PharmaSafe) Research GroupのHedvig Nordeng教授のもとで,Guest Researcherとして研究する機会を得た. 研究留学というと北米の情報を目にすることが多いのではないかと思うが, 本稿では北欧への滞在経験談を共有する. 読者の皆様の選択肢を広げる一助となれば幸いである.
私は長井記念奨励支援事業に採択いただいたことにより,経済面での不安が和らぎ研究に集中できた.その結果,研究に専念でき,2報の公表論文として纏めるにいたったことが,私の研究者としての道に進む紛れもない契機となり,これまで研究者として国内外を問わず様々な場所を転々としながら研究に従事している。最近充実してきている金銭的支援を上手に利用して,経済的不安なく学問を楽しむ博士課程を過ごしてもらいたい.
独立を志す研究者にとって競争的研究費の獲得は不可欠であり、申請経験の蓄積と計画の客観的推敲が採択率向上の鍵となる。長井記念薬学研究奨励支援事業は学部生から挑戦でき、薬学会員を対象とした枠組みの中で助成金申請の基礎を学べる貴重な制度である。研究キャリア初期の貴重な成功体験を与えてくれた本事業に感謝するとともに、今後も若い薬学研究者の挑戦の場として活用されることを期待する。
近年,ペプチドおよびタンパク質の創薬研究が盛んに取り組まれている.これら分子の効率的な化学合成として,複数のフラグメントを段階的に連結するための縮合法の開発が進められてきた.特にKAHA ligationは,非天然構造であるα-ケト酸とヒドロキシルアミン(5-オキサプロリン)間の反応であり,効率的・選択的に進行する.しかし,本反応では非天然アミノ酸のホモセリン残基がタンパク質・ペプチド中に残留するという課題があった.本稿では,この課題を克服する新規基質の設計に加え,一般的には反応点として選択されにくい部位でのライゲーションを達成したHanらの報告について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Pattabiraman V.R. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 51, 5114-5118(2012).
2) Han J. et al., J. Am. Chem. Soc., 147, 34238-34243(2025).
細胞内でのタンパク質間相互作用(protein–protein interaction: PPI)は,シグナル伝達や代謝制御など多くの生命現象を支える基盤であり,その正確な同定と構造的理解は創薬研究や疾患機構の解明において極めて重要である.生細胞環境下でPPIを検出する手法の1つとして,相互作用するタンパク質同士を化学的に共有結合で架橋し捕捉するクロスリンク法が広く用いられている.架橋剤の多くは,分子表面に露出したリシン残基を標的とする二官能性求電子剤や,ジアジリンなどの光反応性カルベン前駆体に基づくものである.しかし,これらの方法は多段階の操作や紫外線照射を必要とするなどの制約を有する.また,リンカー長の増大や生成する反応中間体の半減期が長い場合には,擬陽性なPPI捕捉や信頼性の低いPPI構造モデルの取得につながる懸念がある.このような課題に対し,Bohdanらはシステイン(Cys)残基に選択的に反応するジカチオン性チアントレニウム試薬(TTD)の化学を利用した新規細胞内PPI解析法を開発したので,本稿で紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Belsom A., Rappsilber J., Curr. Opin. Chem. Biol., 60, 39-46(2021).
2) Bohdan K. et al., J. Am. Chem. Soc., 147, 45576-45584(2025).
酵素反応機構の解析は天然物の生合成研究において重要であり,その解析に計算化学を用いることは,いまや一般的である.しかし,誤ったモデルや不適切な初期構造を与えた場合でも,計算プログラムは何らかの結果を出力してしまうため,その妥当性を適切に評価するためにも専門的な知識が不可欠である.とりわけ金属酵素のように多要素が絡み合う系では,多角的な計算から妥当な解釈を導き出す必要がある.本稿では,鉄依存性酵素の反応機構解析において,計算結果の取り扱いに細心の注意が必要であることを示したKalitaらの研究を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Kalita S. et al., J. Am. Chem. Soc., 147, 35576-35586(2025).
膜タンパク質は,細胞における物質輸送や情報伝達など,生命活動において不可欠な様々な機能を担う.また,全医薬品の60%以上は膜タンパク質を標的としており,創薬を指向するうえでその構造解明は重要なミッションである.膜タンパク質の構造決定法では古くから使われているX線結晶構造解析のほかに,近年ではクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)を用いた解析手法が広く使われている.
膜タンパク質の構造解析には,一般的に界面活性剤を使って細胞膜より可溶化・精製した試料が使われることが多い.しかしながら,界面活性剤のスクリーニングには多くの費用や労力がかかるうえ,実際の生体条件と大きくかけ離れた環境での観察になるという問題点がある.この問題に対して,近年,生理的条件に近い状態を再現するための様々な方法が開発されている.例えば,ナノディスクやSaliproナノ粒子といった脂質再構成系を用いる方法が挙げられる.これらは生体膜を模した状態で観測できる有用な方法ではあるが,いったん界面活性剤で可溶化・精製後に脂質二重膜へと再構成される点や市販の脂質が使われるため,ネイティブな膜環境とは厳密には異なる点が課題である.本稿では,これら課題を克服する手段として目的タンパク質が発現した細胞膜から直接作製したベシクルを用いた膜タンパク質構造解析の手法について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Qiu W., Guo Y., Curr. Opin. Struct. Biol., 94, 103130(2025).
2) Liu H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 122, e2423407122(2025).
3) Tao X. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 120, e2302325120(2023).
概日時計機構はCLOCK/BMAL1を転写促進因子,PERIOD(PER)およびCRYPTOCHROME(CRY)を転写抑制因子とする転写・翻訳フィードバックループによって構成され, 様々な生体機能を約24時間の明暗周期に同調させる.また,地軸の傾きに起因する季節変化に伴い,動物は光周期だけでなく栄養環境の変化にも適応する必要があるが,その分子機構は不明であった.本稿では,低温下での膜柔軟性維持のために生物普遍的に変動する不飽和脂肪酸比率(多価不飽和脂肪酸(PUFA):一価不飽和脂肪酸(MUFA)比率)に着目し,この栄養信号が光周期への概日時計の同調を制御することを明らかにしたLevineらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Toh K.L. et al., Science, 291, 1040-1043(2001).
2) Levine D.C. et al., Science, 390, eadp3065(2025).
3) Narasimamurthy R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 115, 5986-5991(2018).
近年のがん研究では,遺伝子変異やシグナル異常に加え,細胞代謝やオルガネラ機能の再構築が腫瘍進展や薬剤耐性を規定する重要因子として注目されている.特にミトコンドリアは,代謝,酸化還元恒常性,細胞死制御を担う細胞機能の中枢であり,その構造・機能変化ががん細胞の生存戦略に関与する.本稿では,ミトコンドリア構造リモデリングと代謝適応に着目した肺がん治療戦略の最近の知見を概説する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Momcilovic M. et al., Nature, 575, 380-384(2019).
2) Han M. et al., Nature, 615, 712-719(2023).
3) Noguchi M. et al., Cell Death Dis., 14, 241(2023).
4) Zheng J. et al., Dev. Cell, 60, 3267-3284(2025).
喫煙は,様々ながんのリスク要因になると考えられている.そのなかでも膀胱がんは喫煙歴と強く相関し,かつ男性の罹患率が女性の約4倍であることが報告されている.膀胱がんは正常細胞に生じた体細胞突然変異を契機として発生するため,がん発症前の正常細胞クローンに生じる体細胞突然変異に何らかの特徴が見られるかを明らかにすることは,将来的な予防法の確立や早期診断を実現するために重要な課題である.また,喫煙が正常な膀胱上皮細胞のクローンの選択性に関与しているかは不明な点が多い.従来の解析法では,変異を有する細胞クローンの割合が低いことから,変異を正確に同定することが困難であった.本稿では,この問題を解決するため非常に低いバックグラウンドエラー率を実現したultradeep duplex DNA sequencing技術を用いて,体細胞突然変異を有する16遺伝子の変異頻度を解析した新たな知見について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Doshi B. et al., Oncogenesis, 12, 44(2023).
2) Jha P., Nat. Rev. Cancer, 9, 655-664(2009).
3) Calvet F. et al., Nature, 647, 436-444(2025).
エンホルツマブ ベドチン(EV)はNectin-4を標的とするIgGモノクローナル抗体に,リンカーを介して微小管阻害剤であるモノメチルアウリスタチン(MMAE)が結合した抗体―薬物複合体(ADC)であり,根治切除不能な尿路上皮がんに適応を持つ.EVの特徴的な副作用として末梢神経障害(PN)がある.このEV誘発PNは,日常生活に大きな影響を与え,さらにEVの減量や中断につながるため,臨床的なマネジメントが求められる.近年,EVの使用拡大に伴い,PNマネジメントの重要性が高まっているが,その臨床実態やリスク因子は依然として不明である.本稿では,EV単剤療法を受けた転移性尿路上皮がん(UC)患者を対象に,EV誘発PNの発生率,リスク因子,臨床経過を評価したSomaらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Challita-Eid P.M. et al., Cancer Res., 76, 3003-3013(2016).
2) Soma T. et al., Int. J. Urol., 33, e70329(2026).
有機化学における構造式の理解・記憶は学生にとって大きな負担となりやすい.本稿では,遊びの要素を取り入れた対話演習型授業の実践例として,構造式UNOカードを用いた教育手法を紹介する.ゲーム性と化学的特徴を融合させることで,主体的学習と知識定着を促進するとともに,対話への抵抗感の軽減にも有効である.学習意欲を高める授業設計の一例として,その有用性を示す.