森林総合研究所研究報告
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20 巻, 1 号
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  • 宮下 彩奈, 舘野 正樹
    2021 年 20 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では、日本の亜熱帯林において、林床稚樹の葉の特性と個体の炭素収支との関連を調べ、弱光下で有利な形質について議論した。はじめに、複数の林床サイトにおいて光量子束密度を計測し、潜在的純生産量(NAR)を推定した。次に、閉鎖林冠下の稚樹に対して葉の形質を調査し、著者ら開発の「葉に特化した相対成長率(RGRleaf)」を用いて個体の炭素収支を推定した。RGRleafは弱光下における個体の成長可能性を、葉面積当たりの乾燥重量(LMA)、葉寿命(LL)、葉への資源投資比(LP)そしてNARのバランスから推定することができる。RGRleaf > 0 の場合、その個体は成長を続けていけると判定される。閉鎖林冠下のNAR 推定値は< 50 g glucose m-2 yr-1であり、このような光環境ではほぼすべての稚樹でRGRleaf ≤ 0であると予測された。攪乱履歴のあるやや明るいサイトのNARでは、ほとんどの稚樹が正のRGRleafを持つと予測された。これらのNARレベルにおいては、LMA、LLともにRGRleafと相関関係は認められなかった。ただしLMAとLLには正の相関があり、一般に知られている関係に比べてLLに対するLMAの値が小さかった。一方、より明るいサイトのNARでは、小さなLMAおよびLLを持つものほどRGRleafが大きくなると予測された。これらの結果から、弱光環境の林床における炭素収支の維持には、特定の葉の形質よりも形質間のバランスが重要であるといえた。台風攪乱によりもたらされる適度な暗さは、多様な葉の形質を持つ種の存在を可能にしていると考えられる。
  • 井道 裕史, 加藤 英雄, 長尾 博文
    2021 年 20 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    製材の日本農林規格(JAS 1083)に対応した曲げの基準強度を材せいに応じて低減するための寸法調整係数に対する寸法効果パラメータについて、前報の機械等級区分法による検討に引き続き、本報では目視等級区分法による検討を行った。まず、機械等級区分法も含めた樹種・等級ごとの材せいと曲げ強度との関係から、寸法効果パラメータは樹種・等級ごとに設定するのではなく、単一の値とするのが現実的であると考えられた。次いで、目視等級区分法における基準強度に対する寸法調整係数と、5%下限値/基準強度とを比較した結果、目視等級区分法における曲げ強度の寸法効果パラメータも機械等級区分法による結果から得られたそれと同等の0.4~0.5とすることが妥当であると考えられた。ただし、いくつかの課題は依然残されており、今後得られる材せいの大きい製材品からの曲げ強度のデータも積み重ねた上で、寸法効果パラメータの値は再検証を続けていく必要がある。
  • 毛綱 昌弘, 山口 浩和, 鈴木 秀典, 山口 智, 宗岡 寛子, 佐々木 達也, 有水 賢吾, 飯澤 宇雄, 大東 史典, 阿部 慶一, ...
    2021 年 20 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    集材作業の無人化により伐出作業の労働生産性を向上させることを目的として、自動走行フォワーダを試作開発した。試作機は以下に示す3つの特徴を有する。①作業道上の走行だけではなく、土場における荷おろし作業も自動化されているが、先山における積込作業は有人作業で行う。②既存の作業道を利用できるように、スイッチバック走行も可能な電磁誘導方式による自動走行機能を有する。③作業員が搭乗して運転するときと同じ速度で自動走行可能とすることで、作業能率を落とさない。開発した試作機を用いて集材作業試験を行った結果、先山における積込作業等の有人で行わなければならない作業時間は、一日の約3分の1程度となることが分かった。既存作業道の幅員拡幅工事等を必要としない精度で、試作機は作業道上を走行可能であった。しかしながら、一日の集材量を土場に貯めておくには、椪積み作業の行えない荷おろし機構を採用している試作機では広い土場が必要であった。自動走行フォワーダを用いた無人集材作業は出材量が大きく、集材距離が長いほど、労働生産性の向上に貢献できる可能性がある。今後、自動走行に必要な電線の敷設等付帯作業を含めた生産性向上のために、積込作業と造材作業の兼務試験とともに、積込作業の自動化に向けた研究が必要である。
  • 松永 正弘, 小林 正彦, 神林 徹, 石川 敦子
    2021 年 20 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本研究では、試片寸法が100mm (L) × 20mm (R) × 20mm (T) のスギ (Cryptomeria japonica D. Don) 心材試片について、超臨界二酸化炭素を用いてアセチル化処理し、繊維方向における質量増加率(WPG)の分布状態を測定した。アセチル化処理には連結された2つの反応容器を用い、一方の反応容器には垂直に固定された全乾試片と少量の無水酢酸を入れ、もう一方の反応容器に入っている超臨界二酸化炭素と無水酢酸を注入してアセチル化処理を行った。処理条件は120℃・10~12MPa・8時間で、無水酢酸量は様々に変化させて実験を行った。その結果、超臨界二酸化炭素とともに注入された無水酢酸は、主として上部木口面から試片内部へと浸透し、試片上側のアセチル化反応に寄与することが明らかとなった。一方、試片とともに反応容器に入っていた無水酢酸は主として底部木口面から試片内部へと浸透して、試片下側のアセチル化反応に寄与することが示唆された。これは、容器内で気体となっている無水酢酸が、注入された超臨界二酸化炭素によって試片内部へ押し込まれたためと推測される。そして、両方の反応容器に適量の無水酢酸を入れておくことで、試片全体を均一にアセチル化できることが明らかとなった。
  • 佐藤 保, 山川 博美, 野宮 治人, 安部 哲人, 齊藤 哲, 釡 稔, 大寺 義宏
    2021 年 20 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    宮崎県宮崎市(旧東諸県郡高岡町)の照葉樹老齢二次林に設定した、1ha試験地にて1998年から2019年までに21年間の林分構造を継続観測した。合計10回にわたる毎木調査の結果、幹本数は1998年の1532本/haから2019年には1379本/haに減少していたが、生存個体の成長により、胸高断面積合計(BA)の値は45.74 m2/haから2014年時点で50.97m2/ha にまで増加していた。しかし、台風撹乱が多数発生した2015年から2019年の期間に生じた枯死個体によって、優占種の一つであるスダジイで大きな減少が見られ、林分全体のBAは期首(1989年)とほぼ同等の値である46.57m2/ha になっていた。全期間を通じての枯死率は1.51% / 年となり、同期間の加入率(1.01% / 年)を上回っていた。スダジイやウラジロガシでは小径木個体の枯死が見られたことから、今後の更新にも影響があるものと考えられる。
  • 玉井 幸治, 久保田 多余子, 野口 正二, 清水 貴範, 飯田 真一, 澤野 真治, 延廣 竜彦, 荒木 誠, 坪山 良夫
    2021 年 20 巻 1 号 p. 49-67
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/28
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    宝川森林理水試験地 (気象観測露場:東経139°01’、北緯36°51’、標高816-1945m) は、1937年11月より降水量と流出量の観測を開始して以来、精度の高い観測を継続してきた。本報では宝川森林理水試験地で観測した、2011年1月から2016年12月までの日降水量と日流出量を公表する。この期間中には転倒マス式雨量計を更新したので、これについても述べる。
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