本研究では、日本の亜熱帯林において、林床稚樹の葉の特性と個体の炭素収支との関連を調べ、弱光下で有利な形質について議論した。はじめに、複数の林床サイトにおいて光量子束密度を計測し、潜在的純生産量(NAR)を推定した。次に、閉鎖林冠下の稚樹に対して葉の形質を調査し、著者ら開発の「葉に特化した相対成長率(RGR
leaf)」を用いて個体の炭素収支を推定した。RGR
leafは弱光下における個体の成長可能性を、葉面積当たりの乾燥重量(LMA)、葉寿命(LL)、葉への資源投資比(LP)そしてNARのバランスから推定することができる。RGR
leaf > 0 の場合、その個体は成長を続けていけると判定される。閉鎖林冠下のNAR 推定値は< 50 g glucose m
-2 yr
-1であり、このような光環境ではほぼすべての稚樹でRGR
leaf ≤ 0であると予測された。攪乱履歴のあるやや明るいサイトのNARでは、ほとんどの稚樹が正のRGR
leafを持つと予測された。これらのNARレベルにおいては、LMA、LLともにRGR
leafと相関関係は認められなかった。ただしLMAとLLには正の相関があり、一般に知られている関係に比べてLLに対するLMAの値が小さかった。一方、より明るいサイトのNARでは、小さなLMAおよびLLを持つものほどRGR
leafが大きくなると予測された。これらの結果から、弱光環境の林床における炭素収支の維持には、特定の葉の形質よりも形質間のバランスが重要であるといえた。台風攪乱によりもたらされる適度な暗さは、多様な葉の形質を持つ種の存在を可能にしていると考えられる。
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